2013年 FIM 世界選手権第8戦イタリア

2013年7月7日/バーチオ(BARZIO・イタリア)

なんとも、なんとも悔しい3位表彰台

photo久々に、藤波貴久は表彰台に上がった。アンドラ、スペインと表彰台に乗れない戦いが続いていたから、今回はようやくほっと一息をつきたい結果でもある。しかし戦況は、そんなにおめでたい状況ではなかった。あと一歩以上に、ほぼ確実に2位表彰台を獲得していたはずだったからだ。

今回、藤波とトニー・ボウは、モンテッサ久々のニューマシンの発表もあって、それに合わせて新しいパーツをいくつか装備してきた。ニューマシンのシルエットに合わせた燃料タンクや、スリムになったリヤフェンダーがそれだ。中身の基本は、これまで乗っているファクトリーマシンで、変わりはない。燃料タンクの形状が変わったことで、厳密には乗り味も変わっているが、気になるものではないという。

アンドラGPで出てしまったクラッチの問題は、問題の出ていないボウのマシンのクラッチと乗り比べてみたが、やはり藤波はボウのクラッチではうまく乗れなかった。もちろん、通常のライダーにはその差がわからないレベルだが、藤波には大きな問題だ。それで藤波のクラッチをそのまま使った上で、部品を交換して対策を施した。これで、その後問題は出ていないという。

いくつかの問題が解決して、今回は気分もよかった。まず、大きな取りこぼしがない。リザルトを見れば5点もあるが、ボウもラガも、みんなが5点になっているところの5点だから(もちろんいけるに越したことはないが)しかたがないといえる。調子が悪いときには、上位陣がクリーンをしているところで5点になったりしているのだが、今回はそれがない。

1ラップ目をふつうに走って、2ラップ目に入るとき、藤波は珍しくパドックで戦況を確認している。というのも、イタリア大会ではもてぎのように、IT技術を駆使して、オブザーバーのパンチがそのままデータとなって本部に送られるようになっていたのだ。

ボウの好調はデータを見なくてもわかっていたから、優勝争いは無理としても、1ラップ目が終わって3位くらいにいるというのは、このデータから見て取れた。これなら、このままいけば2位にはなれるな、というのが藤波の印象だった。

photo第2セクションは、がらがらした石から、2.5mほどの大岩に上る設定で、軒並み5点。ここをいけたのは、2ラップ目のボウと藤波だけで、ともに2点だった。これはひとつのセクションの結果だが、調子がいいときには、こういう結果も出てくる。2ラップ目の減点は19点。3位であることには変わりはなかったが、19点のラップ減点は、2ラップ目ではトップだった。ボウが20点、ラガが21点で藤波に続いた。もちろん、2ラップ目までのトータルでは、ボウがあいかわらずぶっちぎり。ボウ28点、ラガ39点、そして藤波が41点。2位争いは僅差だ。

3ラップ目。なにやら雲行きが怪しくなってきた。藤波は、ライバルに先手を取って動き始めた。先を走っていたファハルドを抜いて、もしも雨が降ってきた場合でも、雨が降る前に試合を終えてしまおう、あるいは、ひとつでも多くのセクションを走っておこう、という作戦だ。これも、ある程度調子がよくて、自分のペースができているからこそできることでもある。

3ラップ目第6セクション。ここはボウとラガだけが抜けているセクションだった。ただしラガが1点で抜けたのは1ラップ目だけだった。残念ながら、藤波はここは攻略できなかった。3ラップ3回とも5点。しかし3ラップ目の5点は、それ以上に試合に影響を及ぼすことになった。

ここで藤波は、マシンを放り投げてしまった。その結果は、不運だった。左側の、フライホイールケースが割れて、オイルがこぼれるようになってしまった。これは万事休した。

応急修理をして、とりあえず第7セクションを走った。第7セクションはクリーンしたものの、エンジンが動いて圧がかかると、応急修理の壁を突き破って、オイルが吹き出してくる。これでは、ここから先のセクションは走れそうにないし、そもそも次のセクションまで10分ほど山を走っていかなければいけない。その間に、エンジンを壊してしまうかもしれない。

メカニックが、パドックまでパーツをとりにかかることになった。走ればオイルが吹き出るから、動くわけにもいかない。すでに走り終えた第7セクションで、藤波はパーツが届くのをじっと待つことになってしまった。

この時点で、残り時間は25分ほどになっていた。セクションは12セクション。ただし藤波にとってほんの少し幸いだったのは、今回のタイムチェックは山の上の10セクションでおこなわれて、その後の11セクションと12セクションはタイムチェックから20分以内におこなうこと、となっていたことだ。つまり藤波は、残り25分で8セクションから10セクションまでを走ればいいことになる。とはいえ、7セクションから8セクションまでは10分ほどかかる距離ではあった。

photoはらはらドキドキの時間を過ごした後、ようやくパーツが届いた。すぐに修復ができた。8セクションに向かって走り始める。この時点で、残り時間は12分ほどになっていた。ケースカバーは交換したが、オイルを足すことはできなかった。それで、山道もあんまり飛ばすことができない。エンジンも、少しへんな音がし始めている。

第8セクションに到着した。残り時間は6分。クリーンができた。第9セクションは、1ラップ目にボウがクリーンした以外は、全員が5点となっている。ここは申告5点で先に進んだ。すでに、セクションには誰もいない。雨を予想して藤波がペースを早めたので、ライバルもそれを見てペースアップを図っていた。おかげで、セクションに到着した藤波は、待ち時間なしでトライができた。

10セクション。残り4分。4分も残っていた、というのが意外だった。ここもクリーン。そしてタイムチェックを受けて、あとは残り20分でセクションをふたつ走ればいい。

11セクションについたとき、ここはラガが5点を取ったぞ、という情報を知らされた。詳細な点差は教えてもらわなかったが、5点は取っちゃダメだぞ、というのがアドバイスだった。しかし結果、ラガが失敗したのと、まったく同じ失敗をして、5点になった。1ラップ目より2ラップ目より、3ラップ目になって掘れていたのだ。

10セクションでタイムはクリアされているから、時間はそれなりに充分あるはずだった。しかし、どこかに焦りが残っていた。だから下見もそこそこに、11セクションに入ってしまった。時間をいっぱいに使って、ゆっくり下見をしていれば結果はちがったかもしれないが、あとの祭りだし、それは「たら・れば」というやつだ。

5点を取って、藤波も周囲も、一瞬「あちゃー」という雰囲気にのまれたが、しかし大丈夫。まだ勝てる、2位にはなれると励まされた。しかし、どこかにへんなプレッシャーがあったのかもしれない。魔が差した、のかもしれない。

最終12セクション。ここは1ラップ目も2ラップ目も、クリーンしていた。むずかしいところを越えて、最後に三角岩がある。ここを斜めに越えておしまいなのだが、カードを飛ばす心配を考えた。それで1ラップ目より2ラップより、カードのより左側を走ってやろうと思った。むずかしいポイントは越えているし、セクションアウトまではたったの1メートルだった。

photo99.9パーセントの人は、今日は藤波が2位獲得だと思っていたと思う。その2位獲得に向けて、藤波がトライ。2ラップ目よりも左を選んだラインは、そっちのほうが高いところに上ることになる。わずかにフロントを吊れなかった。そして、アンダーガードが岩にあたった。そのまま降りられれば、それはそれで結果オーライだったのだが、その瞬間、藤波とマシンは三角岩から叩き落ちていた。前転だった。なんの対処もできなかった。

周囲も、もちろん本人も、ぼう然という感じだった。ちょうど、もてぎの日本GP、2日目の最終セクションのジェロニ・ファハルドみたいだった。ほとんど確実にしていた勝利を、残り数メートルで失った。しかも自らのミスでだ。藤波が勝利したあのときのシーンの、あのファハルドの気持ちを、今藤波は痛感していた。

久々の3位。しかし今回はほんとうにほんとうに、悔しい3位となったのだった

○藤波貴久のコメント

「3位になれた。このところ表彰台を逃していましたから、今回の3位はポジティブに考えたいところなのですが、どうしてもそういうわけにはいきません。成績が3位から2位に落ちたというより、自分の情けない失敗がくやしいところです。今日は大きな取りこぼしもなく、トラブルがあってもなんとか抑えて走ってきて、最後の2セクションでやってはいけない取りこぼしが出てしまった。たいへん悔しいですが、調子は悪くないので、次回はこんな取りこぼしがないように、しっかり走りたいと思います」

World Championship 2013
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 43
2位 アダム・ラガ ガスガス 67
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 71
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 73
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 86
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 90
7位 マテオ・グラタローラ ガスガス 102
8位 マイケル・ブラウン ガスガス 103
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 146
2位 アダム・ラガ ガスガス 141
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 109
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 105
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 102
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 79
7位 マテオ・グラタローラ ガスガス 57
8位 ロリス・グビアン ガスガス 46