5戦にわたったインドア世界選手権Xトライアルのシーズンも早、終わりを迎えた。最終戦はフランスの観光名所ニース。今回は8名のノミネートライダーだけによる戦いとなった。
第4戦で6位となって、ランキング争いでは上位4人に離されてしまった藤波貴久は、逆に言えばこの最終戦になんのプレッシャーもなく挑めることになった。
クォリファイのくじ運は一番。ちょっとくじ運は悪かったが、クォリファイのセクションを見る限り、最終セクション以外はまず攻略が可能だと考えていた。結果的に最終セクションは全員が5点。上位4名はこの5点の他には5点を取っていない。
藤波は、第3セクションで考えた。ふつうなら、一度降りてジャンプするラインをとるところだが、藤波的に、それではつまらない。それでけっこうな高さを飛び降りた。でも、それが飛びすぎだった。それで5点だ。最終セクションの5点と合わせて、トータル10点でクォリファイを終えた。
それでもクォリファイは余裕で通過できると思っていた。それでクォリファイを通過できなければ、それならそれでしかたないと思っていた。ところが今回は、イタリアのマテオ・グラタローラが妙に調子がいい。第2セクションで2点を取ったあとは、藤波が5点となった第3セクションでもクリーンした。これはちょっと予想外で、もしかしたらほんとうにクォリファイ通過がむずかしいかと思わされてしまった。グラタローラには負けはしたものの、それでも結果、ぎりぎりの6位でクォリファイは通過することができた。
今回はもうひとつ予想外があった。トニー・ボウが第2セクションで5点となって藤波と同じ10点となってしまったことだ。実は今回から、藤波とボウは、新しいエンジンに乗っている。アウトドアシーズンに向けて、HRCが久々に投入した新機構だ。パワー特性も向上し、クラッチフィーリングも変わっている。それはたいへんに可能性があるものなのだが、このときのボウは、まだ新しいエンジンに慣れていなかった。それでクラッチ操作を誤って飛びきれずに5点となってしまった。事情を知る者も知らない者も「あれ?」と思うようなボウの5点だった。
この5点で、藤波はボウと同点になった。タイブレイクを行い、ボウが勝って、藤波はクォリファイを6位で通過することになった。グラタローラは4位でクォリファイ通過していた。
ボウが5位、藤波が6位だから、セミファイナル最初のスピードレースでは、ボウと藤波が競りあうことになった。最大の強敵である。今回のスピードレースは、いつもとちがって二人が同時スタートするものではなかった。ひとりずつ走ってタイムで競り合う。当初は、タイムによって順位を決めて、それぞれに減点を配分するという新ルールが提案されていた。トップはクリーン、2位が1点、3位2点、4位3点……。ところがこれだと、最下位になったライダーはいきなり5点のハンディを背負うことになる。いつもなら、スピードレースの敗退は1点減点で、それ以上にはならない。
いつもとちがうルールを採用するという点では、少しちがいすぎるのではないか。そんな意見があいついで、結果、いつものとおり、二人ずつ3組の組み分けとして、勝ったらクリーン、負けたら1点ということになった。
だから藤波は、ボウの姿を見て走ったわけではない。それぞれ別々に走ったのだが、相手がボウだから、必死で走らなければ行けない。結果、藤波とボウのタイムは、ほかの4人よりもはるかに速いものとなった。ボウが32秒69、藤波が33秒69。3位相当のアダム・ラガは35秒72だから、藤波としてはずいぶんもったいない減点1点となった。
1点のビハインドで始まったセミファイナル。それでも藤波は、なんとか挽回できるだろうと考えていた。セミファイナルは、ひとつのセクションをクォリファイの結果の逆順でトライする。最初のトライは藤波、2番手はボウだ。
第1セクション。なんだかセクションの具合がおかしい。ぐらぐらしていて、どうにも危険だ。藤波は、そのぐらぐらでマシンのバランスを失って、5点となった。次にトライしたボウは、なんとか耐えてクリーンをしたものの、間一髪だった。
なんと、オーガナイザーがそこでセクションの修正をした。ぐらぐらしなくなったセクションは、おまけにきっかけまで手直しされて、とっても簡単になってしまった。グラタローラがタイムオーバーの1点、上位3名は、全員あっさりクリーンだ。
セミファイナルのセクションは3セクションしかない。事実上、藤波のニース大会は、ここで終わった。第2セクションはボウ一人がクリーン。ほかは1点。第3セクションはボウが1点、ラガが3点、他は5点。これにスピードレースの減点が加わって、藤波のファイナル進出の夢はついえた。
もし仮に、藤波が最終セクションをクリーンしていたとしても、同点で4位。クォリファイが6位だった藤波は、ここで敗退する。最終セクションはクォリファイでは全員が5点だった難セクションだから、今回は第1セクションのぐらぐらで5点になった時点で、ファイナル進出は限りなくむずかしくなっていたということだ。
今回からのニューマシン。それはたいへんに素晴らしいできなのだが、今回はその性能を出す以前のところで大会が終わってしまった。インドアトライアルには、こういう運不運がつきまとう。
ともあれ、2013年のインドアシリーズは終わった。次はアウトドアのシーズン、開幕戦は、ニッポンだ。
「なんだか戦う以前に、あっさり終わってしまったという感じです。新しいマシンは今まで以上に走っていく、というフィーリングなのですが、その真価を発揮するところまでは走れませんでした。今回は残念な結果でしたが、次は日本でアウトドアの開幕戦。そちらに全力で乗り込むべく、すでに気持ちは切り替わっています」
Final(決勝)+Semi Final(セミファイナル) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 5 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 6 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 17 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 19 |
5位 | マテオ・グラタローラ | ガスガス | 8 |
6位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 12 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 5 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 5 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 6 |
4位 | マテオ・グラタローラ | ガスガス | 7 |
5位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 10 |
6位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 10 |
7位 | ジャック・チャロナー | ベータ | 12 |
8位 | アレッシャンドレ・フェレール | 15 | |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 100 | |
2位 | アダム・ラガ | 58 | |
3位 | アルベルト・カベスタニー | 51 | |
4位 | ジェロニ・ファハルド | 51 | |
5位 | 藤波貴久 | 39 | |
6位 | マテオ・グラタローラ | 19 | |
7位 | ジェイムス・ダビル | 18 | |
8位 | アレッシャンドレ・フェレール | 17 | |
9位 | ジャック・チャロナー | 15 | |
10位 | フランチェスク・モレット | 4 |