Xトライアル第2戦。開幕戦から1ヶ月のインターバルを置いて、恒例のバルセロナ大会だ。去年のバルセロナ大会はXトライアルのシリーズから外れていたが、世界選手権であってもなくても、バルセロナのインドアは特別な存在だ。バルセロナはトライアルにとって特別な町だし、モンテッサをはじめ、主要なトライアル・ファクトリーはバルセロナを中心に活動している。もちろん藤波も、バルセロナから遠くないところに住んでいる。バルセロナ大会は、トライアルにとっても地元中の地元の大会だ。
チームの大スポンサーであるレプソルのお歴々も、この大会には応援に来てくれる。友人たちもやって来る。加えて藤波は、このシーズンオフに、地元の日本人学校で、ちょっとした講演をやった。その子どもたちが、親ともども応援にやってきてくれることになっていて、バルセロナはなかなかのお祭りになる。もちろんバルセロナが地元のライダーは藤波だけではない。みな、バルセロナには特別な思いがある。
インドア・エンデューロ大会と併催の今回の大会は、お客さんもたくさん。インドア大会の中でも際立って大きな会場に、お客さんもたくさん入っていた。1万、あるいは15,000人近いお客さんが、エンデューロとトライアルの熱戦を期待してつめかけている。
バルセロナといえば、いつもいけるかいけないか、落ちるか上がるかのセクションが用意されているものだが、今回はほんの気持ちだけ、その味付けが抑えられているかのように思えた。いけるかどうかの高いセクションを作れば、某ライダーだけがあがって他はみな落ちるか、あるいは全員が落ちるか、のような結末が見えてしまう。ちょっとしたミスが結果に出るようなセクションもなければ、勝負のおもしろさがなくなってしまうのではないか。
セクション・コーディネーターはフランスシス・タレスがおこなっている(ジョルディの兄で、ポルの父親)。フランシスはこういった藤波らの意見を聞いて、多少の方針変更をしたようだ。ダニエルで岩を飛んでいって向きを変えるセクションなどは、なかなかテクニカル。まず、これまでのバルセロナの大会といえば、セクションはすべてまっすぐだった。今回のようにターンのあるセクションは、藤波の記憶の限り、珍しいことだった。
クォリファイはお昼の12時半から始まった。イベントは夜からなので、クォリファイにはお客さんがいない。関係者以外のギャラリーがいないところで、セミファイナルに参加する6名を選出する。今回の参加者はボウ、カベスタニー、ファハルド、フェレル、藤波、ラガ、チャロナー、グラタローラの8人。スペイン人4人、イギリス人とフランス人、イタリア人、日本人が1名ずつという内わけだ。前回4位に入ったダビルは、ワイルドカードでの参戦のため、今回は出場していない。つまりこの中の二人は、お客さんのいないクォリファイだけ走って、そのまま試合を終えるということになる。
クォリファイは、5つのセクションを一人ずつが一気に走る。持ち時間は8分間。1セクション1分半で30秒おつりが来る計算だ。走る順番は、前回までの結果に準じて、上位4名と下位4名をわけて、それぞれがくじを引いた。藤波とラガは、前回6位と7位で下位の方に属する。藤波はくじ引きで、一番最後を引いた。最初に走るのはチャロナー、続いてラガ、グラタローラと走って藤波。後半の4人は、ボウ、ファハルド、カベスタニー、そしてフェレルの順となった。
藤波は、クォリファイの5セクションのうち、第1とあともう一つくらいを抜けないといけないと考えていた。表彰台を狙ったり上位を目指すのもともかく、まずはクォリファイで6位までに入らないと、応援してくれるみんなの前にも姿を見せることができなくなる。そのためには、まず第1セクションを走破するのが重要だと思った。
第1セクションは石のセクションで、最後がV字になっていて前輪が下がった状態から飛びつかなければいけない設定になっていた。最初には知ったチャロナーは、1点で抜けていた。ここは落とせない。藤波は慎重に走った。そして最後の最後まできっちり走った。しかし最後の最後、V字の岩で、なんと落ちてしまう。慎重に走ったから、ここまでで3分ほどを費やしていた。持ち時間は全部で8分だから、あと5分で残る4セクションを走らなければいけなくなった。しかもこの中でいいスコアを出して、クォリファイをクリアしなければいけない。
焦りはあった。しかし焦りが前面に出てしまうと元も子もない。残る4セクションできっちり結果を出さなければいけない。第2セクションでは5点となった。ラガは第1をクリーン、第2は5点だったが、第3をまたクリーンした。後半の4人が全員セミファイナルに進むとすると、前半の4人の中の二人に残らなければいけない。
第3セクション、今度はうまくいきそうだった。しかしアンダーガードが引っかかった。いつもならがまんして足をつかずにマシンを出すところだが、持ち時間が残り少ないのが気になっていた。それでアンダーガードが引っかかったところで、素早く足を出してマシンを引き出した。これで1点。残る第4、第5は5点となってしまって、スコアは21点。チャロナーと同点となった。同点の場合は、セミファイナルやファイナルで同点の鳴った場合のために、ここでタイブレイクをしておく。しかし今回は、チャロナーに勝たないと、セミファイナル進出の芽も摘まれてしまう可能性さえあった。
幸い、タイブレイクは藤波の勝利となった。第2セクションを二人で走って、スコアのいい方、あるいはタイムがいい方が勝ちとなる。二人ともクリーンで、チャロナーが27秒に対して、藤波は24秒だった。
結局、後から走ったフェレルがオール5点となったため、藤波もチャロナーも、そろってセミファイナルに進出できることになったのだが、スポンサーや仲間や子どもたちの前で走りを披露しなければいけないというプレッシャーは大きかったようだ。これで一安心。
それから夜になってイベントが始まった。6人のライダーに絞られて、最初がセミファイナル。6人を、今度は4人に絞る。今度は1セクションずつ、クォリファイの成績が悪かった方から走る。チャロナーが最初に走り、次が藤波だ。ここで藤波は「おやっ」と思った。クォリファイと一変、乗れている。クォリファイの時にはからだもかたかったし、なんだかおかしかった。今回はマシンを自分が進めている、自分が運んでいるという実感があった。
ぎりぎりだったが、クォリファイ通過は通過、それが、藤波にいい意味で開き直りを与えたのかもしれない。周囲からも、走りが変わった、どうした?と問いかけられた。これはいけるかもしれない。
それでも、第1、第2と、タイムオーバーでそれぞれ1点を失った。クリーンはしているのだが、減点は減点だ。しかし第3セクション、ここは藤波がクォリファイで落ちた第4セクションそのものだった。今度は上がった。ここを上がったのはボウとラガ、そして藤波の3人だけ。これが大きかった。
第4セクションは仲よく全員5点。藤波はタイムオーバーが二つで2点と5点がひとつの7点。これは、ボウの5点、ラガの6点に続く、3位の好スコアとなった。ファイナルへの進出が決まった。4位はファハルド。ファハルドのスコアは、5点が二つの10点だった。
いよいよファイナル。ここまで来たら、表彰台に乗りたい。3位と4位では気分もなにもかも、ぜんぜんちがってくる。幸い、セミファイナルの時点で、ファハルドには3点のリードを作っていた。このままこの3点を維持したまま、ファハルドをマークして戦えば、3位表彰台はむずかしくないと、藤波は考えた。そして気合いを入れた。いつになく、そうとうに気合いを入れた。せっかく勝ち残ったファイナルだ。中途半端な戦いでは終わりたくない。
ファハルドを相手とする藤波の作戦はうまくいった。第1セクションから、ファハルドよりタイム減点を1点減らすことができた。ダブルレーンではファハルドに敗退していたが、それでもこのままいけば、表彰台は現実的だ。第4セクション、ここはクォリファイの第4セクション、セミファイナルでも使われたところだ。ここを藤波は減点1、タイムオーバー2点でクリアした。ファハルドはここで5点となっていたから、きっちり点差をつけて表彰台獲得だ。
ところが藤波の後に走ったラガが最終セクションのインで5点となった。計算すると、2位ラガと藤波の点差は、たったの2点だった。終わってみれば、5点となった第2セクションは惜しかった。あそこは減点1とタイムオーバーの1点、計2点で抜けられるチャンスはあった。もしこれがいけていれば、結果は3位表彰台ではなく、2位表彰台となっていたはずだ。
しかし結果は結果、それがレース。クォリファイでのぎりぎりからすると、今回の結果は充分喜ぶべきものだった。それにしても、セミファイナル以降の走りは、いいできだった。クォリファイではバイクに連れてってもらっている感じがしていたものだが、それが一変、バイクを引き上げている、バイクを自ら運んでいるという走りができた。こういう走りができれば、上位入賞ができるという自信にもなった。そしてやはり、ファンや友人、スポンサーの皆さんの応援から、藤波は大きなエネルギーをもらっている。応援することでエネルギーをもらい、いい走りをすることでみんなに元気を与える。藤波らしい走りができたひと晩だった。
「今年はノーストップの練習ばかりで、あまりインドアの練習はしていません。それでも同じ週にトゥールーズでノンタイトルのインドアがあったので、それに合わせて今週はインドアをやる週と決めて、モンテッサのセクションで練習したりしました。その結果が出たのかもしれません。でもやはり、みんなの応援があってこその3位だったと思います。バルセロナは世界選手権だろうとなかろうと特別の大会なので、テレビでもしばらく繰り返し録画が流れます。だからしばらくいい気分でいられます。インドアは苦手だし、セクションもまったく得意ではないタイプですが、バルセロナの成績を振り返ると、意外とバルセロナは悪くないんです。なんでかはわかりませんが、気分がよくなれるのは素晴らしいです」
Final(決勝)+Semi Final(セミファイナル) | |||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 2+5 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 15+6 |
3位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 16+7 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 18+10 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 11 |
6位 | ジャック・チャロナー | ベータ | 17 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 0 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 2 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 10 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 11 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 21 |
6位 | ジャック・チャロナー | ベータ | 21 |
7位 | アレッシャンドレ・フェレール | シェルコ | 25 |
8位 | マテオ・グラタローラ | ガスガス | 25 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 40 | |
2位 | ジェロニ・ファハルド | 21 | |
3位 | アルベルト・カベスタニー | 21 | |
4位 | アダム・ラガ ガスガス | 19 | |
5位 | 藤波貴久 | 17 | |
6位 | アレッシャンドレ・フェレール | 10 | |
7位 | ジェイムス・ダビル | 9 | |
8位 | ジャック・チャロナー | 7 | |
9位 | マテオ・グラタローラ | 4 | |
10位 | マイケル・ブラウン | 3 |