2012年 FIM 世界選手権第12戦・13戦イギリス

2012年7月28-29日/Carlisle(イギリス)

土曜日2位しかしランキングは5位

photo3年ぶりの会場となったカーライル。土曜日の藤波は2位となった。今シーズン2回目の2位入賞で、ランキング争いへの期待も高まった。しかし翌日、いよいよ最終戦の日曜日、藤波は今シーズンのワースト記録となる6位となり、ランキングは5位のまま、2012年シーズンを終了することになった。

今回のセクションは、特にとりたててむずかしいポイントもないかわりに、ほとんどすべてのセクションがたいへんに長かった。途中、1ヶ所でも引っかかれば、あとはクリーンなどあきらめて、とにかくアウトすることだけを考えなければ時間がなくなってしまうという設定だ。ひとつひとつのポイントを見ればなんということはないのだが、しかしどのセクションでも5点になる可能性のある設定だった。

3年前、藤波はここで生涯唯一のリタイヤを喫している。その絶壁は、まだその場所にそのままの形でそびえ立っていた。今回はそのままセクションにはなっていなかったが、もちろん3年ぶりにここを訪れて、前回のいまいましい記憶を払拭すべく、断崖絶壁はあっさり攻略してきたのは言うまでもない。

■土曜日

スタート順のくじ引きは、一番最後だった。開幕戦が一番最初、そして最終戦を一番最後で締めくくったことになる。一番最初のくじを引いたのがアルベルト・カベスタニーで、トニー・ボウ、アダム・ラガ、ジェロニ・ファハルドといったその他のライバルは、藤波とカベスタニーの中間にひしめき合っていた。

photo作戦は決まっていた。とにかく序盤は早いペースで試合を進めて、早くトニーやアダムのところまで追いついて、彼らといっしょにセクションを回る、というものだ。

彼らとは10分ほどのスタート時間の差があった。しかしそのギャップは、意外にも第1セクションでいきなりなくなってしまった。今回はイギリス勢がジュニアクラスに多くスポット参戦していて、セクションが渋滞していたのだ。おかげで労せずして、藤波はライバルにびったりつくことができた。

からだの調子はまずまず。指もかくかくいわなくなってきたので、骨はくっついてきているのだろうと思う。ライディングの調子は、特にいいわけではないが、特に悪いわけでもない。雨が降ったり止んだりは、イギリスらしい天候ということもできる。シャワーという、霧雨のような降り方だ。スタート時間によって状況は異なるが、藤波の場合、8、9、10セクションで雨に降られている。ここでは雨が降り止むまで待つことになった。

セクションの大半は、3年前のものの逆送となっていた。第1セクションから10セクションまで、斜面に岩を置いたりして作られていた。残りが土の斜面のセクションだった。

藤波は、いつも自分の点数や順位を確かめない。そうやっていい結果が出た覚えがないからだが、今回は珍しく、1ラップを終わったところで点数を聞く気になった。2ラップ目第3セクションで、どうなってる?
と順位や点数を聞いた藤波に、ミゲール・シレラ監督は答えた。「教えないよ」と。ただ、このままいけば2位には入れること、うまくいけば優勝できるということは教えてくれた。監督は、おそらく藤波のことを熟知している。

photo最終戦だという緊張感はなかった。そして2ラップ目は、1ラップ目よりもいい感じで走れていた。2ラップ目の10セクションに来た時、今度はシレラ監督が教えてくれた。トップのトニーと4点差だった。トニーとは前後してトライをしているから、正確な点差はわからずとも、だいたいそんもなのであることは藤波も把握はしていたが。

「今日は勝たせてくれる?」

冗談まじりで、藤波は聞いてみた。トニーはすでにチャンピオンを決めているから、チャンピオンシップの上では優勝でも2位でも、たとえリタイヤでもなにも影響がない。対して藤波は、ランキング5位にいながら、この2日間の戦い次第ではランキング2位のチャンスもあるという状況だ。

トニーはちょっとまじめな顔をして「今日はまだ本当の最終戦じゃないから」と返事をしてきた。譲ってくれる気はないらしい。もちろん藤波も、譲ってもらって優勝したり、トニーにお膳立てしてもらってランキングを上げるのではつまらない。これはリラックスするための、下見中の無駄話だ。

ところがその次の11セクション。トニーはクリーン、藤波は5点となった。その差は9点。これで優勝争いにケリがついたな、と藤波は思った。しかしそこからクリーンが出なくなった。11セクションから13セクションまで、3セクション続けて1点。この4セクションだけで、8点を失った。

優勝争いではなく、2位の座がどれほど安泰なのか、どれほど脅かされているのかが気になり始めた。それで14セクションで、また監督に聞いてみた。監督の答えは「とりあえず行け」だった。

14セクションをクリーンして(トニーはここで5点となって、その差は8点になったが、すでに藤波の優勝はなくなっている)15セクションへ向かうと、ラガが1点をついていた。これで藤波がラガに逆転をされることはなくなった。藤波は余裕を持って最終セクションを1点ついて抜けて、ラガに4点差、トニーに9点差の2位となった。

photo試合が終わってランキングを数えてみると、藤波とランキング2位ファハルドとの間は9点。同点のカベスタニーとラガとの点差は6点だ。藤波がトップに出れば、どうなるか。間にダビルが入ってくれればどうなるか。そんな話をしながら期待に胸を膨らませていたはずが、知らず知らずに、それがプレッシャーとなって藤波を襲っていたかもしれなかった。

■日曜日

プレッシャーはなし、緊張もしていない。コンディションはふつう。そしてふつうに走ったつもりが、第1セクションで5点になった。どうやら、ふつうのつもりがふつうではなかったらしい。

しかし、ふつうでない状況をもとに戻せない。第2セクションに入っても、第3セクションでも、バイクと自分があっていない感じがする。第1セクションでも、5点となった原因は滑ったからなのだが、なんでそんなに滑ったのか、その理由がわからない。

5点になった時だけではない。クリーンをしたとしても、会心のクリーンではない。なんかあぶなっかしいクリーンが続く。第8セクションでまた5点になった。スタートで滑って上がれなかった。

photo雨が降っている時間は、前日より少し長かった。だから土曜日より少し滑ったという理由はある。藤波の印象としては、土曜日よりエンジンのパワーが上がっているような感じだった。セッティングは変更していないから、パワーはいっしょのはずだ。

藤波は気持ちがナーバスになってくると、アクセルを開けてしまう傾向がある。それが滑るコンディションで、さらにマシンを滑らせてしまうことにつながった。

1ラップ目が終わって、状況を確認した。ジャック・チャロナーとカベスタニーが僅差だということを確認した。カベスタニーはともかく、チャロナーは抜かされたくないライダーだ。気持ちを切り替えたが、状況は変わらず。2ラップ目は1ラップ目とまったく同じような状況で進んでいった。

いろんなことを試してみた。怒ってもみた。効果はなかった。笑ってもだめ。気合いを入れてみたり、逆に抜いてみたり。いろんなことをしてみたが、なにをやっても結果は同じだった。

photo結果、今シーズンワースト、6位という結果になった。チャロナーとは同点で、かろうじてクリーン数の差で勝利していた。

今シーズン最後の戦いは、このように成績的には最悪だった。結果が最悪だっただけでなく、ライディングも最悪だったから、納得はできる。今シーズンの悪いところはここだよ、ここをなおさないと来シーズンも同じことになるよと、自らの走りに教えてもらった気がした、そんな最終戦だった。

今シーズンは終幕が早い。今年のトライアル・で・ナシオンには日本チームの参戦はないということなので、藤波にはこれから、来シーズンに向けた、長い準備機関が始まる。

○藤波貴久のコメント

「今シーズンは、指のケガもありましたが、不振の理由は他にあったと思います。開幕戦が5位ですから、指のケガの以前に、すでに原因はありました。このシーズン、最後にラガがランキング2位に浮上して終わりましたが、ラガが2位になるなら、ファハルドが2位となってくれた方が、ぼくの心はやすらいだと思いますが、ランキング5位という結果は、ほんとうにくやしいものになっています。しかし一方で、もうちょっとがんばっていればランキング2位になれたという結果でもあり、ランキング2位にはなれる実力はあるのだという確認ができた結果でもあったと思います。数えてみれば、1999年シーズン以来、ランキングでトップ3から落ちたことがありませんでした。これについてはFIMの役員さんたちからも、みんなにほめてもらったのですが、13年ランキング上位を続けたことで、それはそれほど簡単なものでもなかったのですが、どこかでトップ3があたり前、そのポジションにいて当然という意識ができていたかもしれません。今トップ3から脱落して、あらためてこの13年間、がんばったなぁという思いと、あらためてトップ3を狙う意欲がわいているところです。2012年シーズン、ありがとうございました」

World Championship 2012
土曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 43
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 52
3位 アダム・ラガ ガスガス 56
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 61
5位 ジェイムス・ダビル ベータ 67
6位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 82
7位 ジャェク・チャロナー ベータ 101
8位 アレッシャンドレ・フェレル シェルコ 105
9位 マイケル・ブラウン ガスガス 111
10位 アレックス・ウイグ ガスガス 126
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 12
2位 アダム・ラガ ガスガス 20
3位 ジェイムス・ダビル ベータ 39
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 47
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 52
6位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 58
7位 ジャェク・チャロナー ベータ 58
8位 アレックス・ウイグ ガスガス 86
9位 ダニエル・オリベラス オッサ 96
10位 マイケル・ブラウン ガスガス 99
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 250
2位 アダム・ラガ ガスガス 187
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 186
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 181
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 174
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 135
7位 ジェック・チャロナー ベータ 99
8位 ダニエル・オリベラス オッサ 90