2012年 FIM 世界選手権第9戦・第10戦アンドラ

2012年6月23-24日/Sant Julia de Loria(アンドラ)

指の負傷を押して表彰台、日曜日は5位

■土曜日

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毎年開催されているアンドラでのグランプリ。ただし同じアンドラで、同じ町が開催地といっても、セクションやパドックは毎年微妙にちがっている。今年は標高が1,600メートルほどある、山の上がパドックだった。セクションは、そこから200メートルばかり山を上がる間に点在する。川のセクションがふたつある以外は、すべてが岩のセクションだ。

くじ引きでは、カベスタニーが一番を引いた。藤波は三番。藤波のチームメイトのボウは、最後から5番目くらいのくじを引いた。藤波としては、カベスタニーに離れずに走って、カベスタニーの走りをじっくり観察するのが、とりあえずの作戦だ。

前回負傷した指は、いまのところ手術はしていない。手術をすると2週間ほどは安静になるので、まず今回は欠席となる。これから手術をしても、最終戦イギリス大会に間に合わない可能性がある。試合を休むのだったら、スペイン大会で痛い思いをしながら走った意味がない。指をさわると、砕けた骨が動く感触があるから、放置していいことはないのだろうが、お医者さんによると、治りが遅いことと、なおっても小指が変形してしまう可能性があるということだった。それなら手術はしない。少なくともシーズンが終わるまではこのまま、ということにした。

今の状態では、小指はグローブに入らないので、グローブの指を切って使っている。

下見の感触では、第1から第3まではとても簡単で、勝負所は4、10、11、12、13あたりになると見られていた。

ところが第1セクション、なんとカベスタニーが5点になってしまった。コケがあって滑るとはいえ、カベスタニーが失敗したのは40cmくらいの岩だった。なにが起きたのか、さっぱりわからないが、どうも今日はカベスタニーの目はないなと思わせるハプニングだった。

それでも藤波は、カベスタニーのあとをついて1ラップ目を回る。いつものとおり、藤波はライバルの動向を知ろうとしない。しかも今回は、藤波とボウの間にはずいぶん時間が空いているから、情報も伝わりにくい。第1セクションで5点になったカベスタニーは別にしても、今日の藤波はそんなに悪くないようだ。

photoまわりの雰囲気を見てもそんな感じ、それに、ボウと時間のギャップが大きいのに、シレラ監督がたびたび藤波のところにやって来る。シレラも藤波の戦い方を知ってるから、細かい点数を教えてくれることはないが、このまま崩れずに走れ、と言っているところを見ると、崩れなければ悪くないということなのだろう。シレラさん、試合中はあんまり藤波のところには寄ってこない。彼がやってくるのは、藤波が特に悪い時か、それなりにいいときか、どっちかなのだ。あとでリザルトを見てみると、13セクションまで、藤波はトップだった。12セクションが終わったところで、藤波は4点、ファハルドが6点、ボウが10点、ラガが11点、カベスタニーが13点となっていた。指の感触も、そんなに悪くなかった。スペインの時には飛び降りるたびに絶叫していた藤波だが、今回は飛び降りてもまぁ大丈夫、という感じになっていた。

しかし13セクション、指を守るテープが指を圧迫しすぎたのか、指の先がマヒしてきた。どうも血が通っていないようだ。ここはフロントをつっていかないといけないところがある。そこで、右手が外れてしまった。それで前転、5点になった。これでファハルドとボウに逆転されている。

2ラップ目、血が通わなくなった指のせいか、どうも力が入らない。そのせいだけではないだろうが、1ラップ目ほどのスコアにはまとめられない。12セクションで5点となって、これはやられたかなと思ったが、幸い、後から来たラガもここで5点となって、それで藤波の3位が決まった。

photo結果として大きかったのは第4セクションを2ラップとも5点とならずに抜けたことだった。ここは助走がないところからオーバーハングに登らなければいけないところがあって、思いきりフロントを上げてマシンを立てなければいけない。指は前回よりはだいぶいいものの、一気に力を入れる仕事はまだできない。それでみんなと同じように、正面からのラインは、藤波は最初からあきらめていた。

よく見ると、右に木があった。ここにまずひっかけ、ずり落ちないようにからだをひっかけながら上げていくという苦肉の策。しかしこれが功を奏して、特に2ラップ目には3点覚悟のところが運良く2点で抜けられた。2ラップを通じて、最もスコアがよかったのがファハルドで5点とクリーン。他はみな、2ラップを通じて5点以上とっている。あくまで結果論だが、指の負傷がよいスコアをマークする要因となっていた。

■日曜日

5、6、8、14セクションが少し手を加えられてむずかしくなった日曜日。それでも勝負どころは変わらず、戦い方は機能と同じようなものになると思われた。

土曜日には手が外れて5点になったりしていたが、この日はそんなことはなかったから、指のケガの影響は日曜日の方がなかったといえる。ただ、日曜日は土曜日に比べて、ライバルの動きがよすぎた。

あいかわらず、藤波はライバルの動向を知ろうとしないが、それでもこの日は、自分があまりいいポジションにいないのはわかる。この日、ボウにとっても勝負どころとなっていたのが、14セクションだった。

photo実はボウも、スペイン大会で足に重傷を負っている。ボウも手術などを受けずに走り続けているのだが、状況次第では手術をしなければいけない事態となるようだ。次のイタリア大会で優勝すればチャンピオンは決まるから、最後のイギリスでは安静がとれる。周囲はイタリアを休んで療養することを勧めているが、本人はイタリアでタイトルをとることを望んでいるという。ともあれ、足に爆弾を抱えるボウは、14セクションのラインに悩んでいた。ボウも藤波も、1ラップ目はここを1点で抜けている。

細かい点数は聞かず、藤波は監督に聞いてみた。

「ここでクリーンしても5点になっても、4位にもならず、6位にもならないよね?」

監督の答えはイエスだった。すでにトップ4とは離れすぎていたし、6位のダビルには充分なアドバンテージがあった。それで藤波は、ボウが気になっていた、別のラインから14セクションを攻略することにした。うまくいきそうだったが、ぎりぎりで5点。それを見たボウは、1ラップ目と同じラインで挑戦したが、しかし5点。この日のボウは、第4セクションでカードに触れて5点となるなどしていたが、この5点が決定的となって、4位に転落してしまった。ここをクリーンしていれば、カベスタニーと同点で優勝していたはずだった。

結果、ボウ4位、藤波5位と、あまり楽しくないところで仲がいいところが出て、試合が終わった。

ケガはしているが、毎日練習はしているし、今となってはプレッシャーがない分、残り3戦は気持ちよく戦えそうる予感はある。たいへん苦しいシーズンとなったが、残りの3戦は上位を目指すだけの藤波貴久が見られそうだ。

○藤波貴久のコメント

「土曜日の3位は、いい結果でした。春にガッチ(小川友幸)が来て、高地対策のテストはずいぶんやりました。しっかり準備をしてきたことが結果となったのが、土曜日の3位だったと思います。ガッチにもチームにもテストをしてくれた会社にも、これで恩返しができたのかなと思っています。これで残り3戦。今回カベスタニーが勝ってしまったので、ぼくのランキング争いは非常に厳しくなりました。もうこうなったら、ランキングのことを考えてもしかたがないので、表彰台を目指して、できればより上の表彰台を目指してがんばるしかないです。もうずっと、ゼッケン3番より下になったことがないですから、それを失う気持ちは平気とはいえませんが、今それを気にしたってしょうがないですから」

World Championship 2012
土曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 11
2位 ジェロニ・ファハルド ベータ 14
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 20
4位 アダム・ラガ ガスガス 23
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 32
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 33
7位 マイケル・ブラウン ガスガス 41
8位 ジェック・チャロナー ベータ 47
日曜日
1位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 10
2位 ジェロニ・ファハルド ベータ 13
3位 アダム・ラガ ガスガス 14
4位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 15
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 28
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 45
7位 マイケル・ブラウン ガスガス 53
8位 ダニエル・オリベラス オッサ 64
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 190
2位 ジェロニ・ファハルド ベータ 150
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 145
4位 アダム・ラガ ガスガス 142
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 130
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 98
7位 ジェック・チャロナー ベータ 75
8位 ダニエル・オリベラス オッサ 69