2012年 FIM 世界選手権第1戦・第2戦フランス

2012年4月28-29日/La Bresse(フランス)

ぜんぜんダメで5位4位

photo 2012年の開幕戦は、フランスとスイス、ドイツの国境に誓い、ラ・ブレッセで開催された。ここ数年、世界選手権は日曜日だけの一日制で開催されることが一般化してきていたが、この開幕戦は土曜日曜の二日制。今年は、シーズンを通じて二日制の大会が多く組まれている。大会数が減ってきているここ数年の傾向から、一大会あたりの試合数を増やすことで全体のバランスをはかったのかもしれない。ライダーからすれば、試合数が増えるのは歓迎である。

今回は、スタートの順番が去年までとは大きく変わった。去年は前大会の(開幕戦なら前年のランキングの)順番でスタートしていた。今回なら、第一スタートがトニー・ボウ、二番手がアダム・ラガ、そして三番手が藤波といった順番だ。

しかしFIMが提示してきたのは、なんとも理解できないものだった。ひとつのクラス全員がくじを引いて、スタート順を決めるというものだ。この提案はシーズンオフから話があって、もちろんライダーからは却下の方向で申し入れをしていたのだが、始まってみればそのまま採用になっていた。そしてくじを引いたところ、藤波が引き当てたのは15/15。これは実は、一番スタートを意味するものだった! 一番スタートは何度か経験したことがある。日本GPでも一番スタートで試合を戦ったことがある。今回がこれまでと大きくちがうのは、ボウが1/15のくじを引いているということだ。つまり藤波とボウのスタート時刻には30分の時間差があるということだ。セクションで待っているギャラリーからすると、ジュニアのライダーに次いでやってくるのが藤波で、それから何人かをおいてラガがやってきて、また何人かおいてファファルド、また何人かあとにカベスタニー、最後にボウがくるという、まったく順不同の登場の仕方をする。観戦も、むずかしい。

もちろん、競技の仕組みとしても、大いに疑問がある。ライバルが、それぞれまったくちがう時間帯にセクションにトライする。そこには、ずいぶんのコンディションの差ができてしまう。しかもFIMの提案では、金曜日に引いたこのくじ順は、土曜日にも日曜日にも適用するという。藤波にとっては、絶望的な週末となりかねない。

金曜日の夜、ライダーはまとまってFIMに状況の改善を要望した。しかしまずは土曜日ついては、当初の予定通りにスタートするということになってしまった。

■土曜日

一番スタート、しかも周囲にライバルたるライダーが誰もいない状況。藤波はこのくじ順は、逆境を、いいように考えた。周囲に邪魔されず、自分のライディングができるいい環境なのではないかと。いつもなら、ライバルの動きに多少なりとも左右されながら試合が進んでいくことになるのだが、今回はまったくマイペースで試合を作れる。いつもより念入りに下見をしてトライしていった。下見といっても、セクションの中に入っての下見ができないのは世界選手権共通のルールで、変わらない。

第1はクリーン、第2は1点、第3はクリーン。まず順当に戦っていた藤波の出鼻をくじいたのは、第4セクションだった。斜めに飛びついた岩にあったゲートマーカーに、藤波の足があたってしまった。これまで、世界選手権ではマシン以外でのマーカータッチはセーフとなっていた事例だが、5点となった。前日のミーティングでも、2012年は、ゲートマーカーにはとにかくさわったら5点、と確認がされていた。だからこの場合も5点だ。しかし藤波の心中には釈然としないものだけが残ってしまった。

とにかく波にのれない。そのうち、ラガがぴったり藤波のあとについてきた。藤波とラガの間には、5人くらいのライダーがいたはずだ。ラガは藤波のライディングを見るため、早いペースで追いかけてきたのだろう。第2セクションでは、ラガの影が見え始めていたから、そうとうに急いだのだろう。

かといって藤波は、先へいくこともできなかった。藤波の前にはジュニアのライダーがいっぱいいて、彼らもまた、下見もそこそこに先を急いでいたから、そうそう先へ進めない。

ペースをつかめず、5点もあった。カードを飛ばしたりの、へんな5点も多かった。バランスをとれなくて、ぺたっと足をついたり、そのまま5点になることさえあった。

標高が1200mほどの高地だったから、エンジンのセッティングにも多少の悩みがあった。圧縮は上げずに、セッティングで対処することにしたのだが、結局、1ラップの終盤によりパワーを出す方向でマッピングを変更している。

しかしそれでも、藤波の不調は改善されなかった。減点をとるかどうかではなく、クリーンしていたとしても、どうしてクリーンしたのかが自分でもわからない。バイクとの一体感がぜんぜんないまま、つまらない5点をとり続けていた。

ボウは、藤波の30分ほど後ろを走っている。戦況がどうなっているのかは、まったくわからない。そもそも藤波は、試合中に戦況を知ろうとは思わない。それでも、自分の成績が悪いというのはよくわかる。悪いなりにがんばるしかない。もちろん、がんばってもトップがとれるとは思えない。しかも、藤波は、ライバルの誰よりもゴールが早い。ゴールし、パドックに戻り、しかしモンテッサのパドックにはまだ誰も戻っていなかった。ボウがまだ競技中だったから、出払っている。それで藤波は、ゴール地点に戻ってスコアボードを見ながらみんなの帰りを待つことにした。

1ラップ目はダビルと同点の6位。2ラップ目に少しだけ挽回して5位になっていた。それでも、本人は乗れていたなと思うセクションはひとつもなく、最後の最後まで、わけがわらないままに終わってしまった開幕戦だった。

全体に簡単めで、むずかしいと思えるセクションは11セクションだけだったから、トップ争いをするなら10点までと読んでいたが、ラガとボウのトップ争いについてはまさにその通りの展開だった。ただ藤波が、予定通りに走れなかった。

FIM提案のスタート順システムの初日が終わって、再びライダーとFIMで話し合いが持たれた。その結果、日曜日のスタート順は土曜日の順位の逆順とすることになった。つまり、◯年前の世界選手権と同じシステムだ。ラガが最終スタート、藤波は最後から5番目のスタートとなる。セクションで、お目当てのライダーがいつ来るのかわからなくて悩んでしまったギャラリーも、これなら安心して観戦できるはずだ。

■日曜日

photoこの日は、雨が降るかもしれないという予報があった。なので、マッピングの調整についても、あんまりパワーをあげすぎてもいいことがない。ほどほどに。土曜日は気温25度と暑かったのでサスを締めていったのだが、晴れていてもけっこう滑ったし、あまりいいことはなかったので、少しゆるめて対処することにした。

しかし藤波は吹っ切れていた。土曜日が終わったところで、ここまでダメで5位なら、まだ望みがある。土曜日は開幕戦ということで緊張感もあったが、日曜日にはそんなプレッシャーもなかった。たんたんと走ればまだまだいけるはずという自信さえ生まれていた。ポジティブに戦えるという実感はあった。

スタート順が急きょ変わったので、この日のスタート順は後ろから5番目。トップライダーは藤波の後ろからのスタートだが、それでも走る前に何人ものライダーが走っていることの意味は大きかった。たとえ失敗シーンばかりだとしても、どのライダーがどんな失敗をしたを見ることで、難度の尺度を推し量ることもできる。

第2セクションは、きっかけがなくなっていて土曜日より少しむずかしくなっていた。そこを藤波は、クリーン。今日はいいかもしれないと思った次の第3セクション。ここはけっこう簡単なセクションだった。ついてみると、前を走るダビルはすでにトライを終えていなくなっていた。ダビルを逃がすと状況がこれまでと変わらなくなる。急いでトライしようとすぐにセクションに入った。入ってすぐ、芝生から斜めに三角岩にアプローチするラインと、左に回り込んで上がるラインと。藤波は、後者を選んだ。土曜日にもそれでもクリーンしているからだ。

入ってすぐ、あれ?と思った。斜めのラインに、わだちがたくさん残っていた。みんなが、こっち側からトライしていったのがわかった。でももう間に合わない。自分の選んだラインをいく藤波。しかし後輪が滑って、どうにもならなかった。ライディングの失敗というより、下見をせずにトライした取り組み方の失敗だった。やっちまったなぁと、藤波は思った。

それでも、その後はまたクリーンが続き、第7で1点、そして次の第8。充分注意を払ってのトライだったが、なんとマシンの方向を変えている時に、フロントタイヤがカードを触ってしまった。後輪を軸に回っている時に、一瞬前進してしまったのだった。

「またか」

1日目の悪夢の再来か。落ち込むというより、我を失ってしまった。細心の注意を払っていたのに、ほんの小さなミスひとつで、悪夢のきのうと同じ結果になってしまうかもしれないなんて!

なんとか落ち着きを取り戻し、この日一番の難セクションの11セクションにやってきた。クリーンするにはまっすぐ上がる。でも止まってもいけるかもしれないと、下見のときに藤波はボウと相談をしていた。それで藤波は、今回は、止まっていってみた。1点をついたが、抜けられた。ふたつとってしまった5点だったが、これで少しは挽回ができたかもしれない。

2ラップ目、第2は今度は1点をついた。がまんできたかもしれないが、堪えると5点になるリスクも出てくる。これでいいと納得の1点。3セクションはみんなと同じラインを走り、今度はあっさりクリーンした。

2以降は、ずっとクリーンを続けた。そして11セクション。同じように走ったが、ラインがわずかにずれた。それでのぼれなかった。しかしこれは、自分のミスでもあり、納得の5点ではあった。

5点が二つ。これではトップ争いは厳しいにちがいない。でもダビルよりはいいだろう、などと自分の成績がを考えていたが、結果は、そのとおりになった。

今年から、急逝したディエゴ・ボシスに変わって、ジョルディ・パスケットがセクションコーディネートを担当している。その結果、今回の優勝争いは一桁減点で争われることになった。ひとつのミスが大きくボウが響くから、1位から5位までは、大きく順位変動がある。FIMはこれを狙ったのかもしれないが、結果を見てのとおり、セクションがやさしくなったからといって、下位ライダーが上位に進出するということはない。そしてまた、このセクション設定が1年間続くかどうかも、また確証がないと思っている藤波だった。

スタート順については、日曜日のやり方がいいという判断はFIMにもあるという感触はある。しかし土曜日に藤波が一番スタートで走ってしまっている。次の大会からルールが変われば、藤波だけが割りを食ったことになる。しかし、勝負に重要な影響があるスタート順が、全面的にくじ引きではあんまりだと、ライダーの意見は一致している。藤波は、自分の成績はもういいとして、あるべきルールに変えていこうと提言していくつもりでいる。

○藤波貴久のコメント

「さんざんな開幕戦になってしまいました。カードをさわって5点というのは、最悪の場合、クリーンがいきなり5点になってしまうので、落ち込みも激しい。でも日曜日の2ラップ目には、5点をとったのも含めて、納得できる試合ができたと思います。このペースが作れればと思いますし、これだけさんざんでも5位と4位でいれたというのは、逆にいうと自信にもなっています。オーストラリア、日本と、スペインに戻らない連戦になりますが、ここでいいペースが作れればと思っています。」

World Championship 2012
土曜日
1位 アダム・ラガ ガスガス 8
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 10
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 22
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 22
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 35
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 41
7位 ジャック・チャロナー ベータ 47
8位 マテオ・グラタローラ ガスガス 49
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 7
2位 ジェロニ・ファハルド ベータ 14
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 14
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 18
5位 アダム・ラガ ガスガス 18
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 20
7位 マイケル・ブラウン ガスガス 40
8位 ロリス・グビアン ガスガス 50
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 37
2位 アダム・ラガ ガスガス 31
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 30
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 30
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 24
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 20
7位 マイケル・ブラウン ガスガス 16
8位 ジェック・チャーナー ベータ 16