毎週開催された序盤戦のXトライアル。序盤3連戦の最後は、再びフランスに戻って、港町マルセイユでの戦いとなった。
インドアトライアル世界選手権Xトライアルは、ディナーショーのごとく、夜に開催されるショーも兼ねた選手権。いつもは夕方からクォリファイ(予選)が始まり、9時ごろからお客さんを前にした本番が始まる。今回は変則的に、クォリファイを金曜日に、セミファイナル以降を土曜日に開催の2日間制となった。主催者によると、去年の実績でイベントを観たいのに満席で中には入れなかったお客さんがいる。そんな人たちのために、見るチャンスを増やしたいのだと言う。主催者の弁では、収容人数4,000人のところ、去年は5,500人の観戦希望者がいたということだ。
金曜日、6位までに入ればセミファイナル以降に進出できるこの戦いには、10名の選手が参加した。いつものノミネートライダー8名の他、JTGに乗るジュニアライダー、ポル・タレスと、地元フランス人のアレクサンドレ・フェレーだ。タレスはあの7回の世界チャンピオン、ジョルディ・タレスの甥。マシンもタレスが手がけた新型マシンだ。Xトライアルに、現役のジュニアライダーが参戦してくるのは、これが初めてだ。去年のチャロナー、今年のゴメスと、歴代ジュニアチャンピオンは翌年のXトライアルへの参戦権が与えられるが、タレスは今年ジュニアクラスでチャンピオンを目指す。
金曜日、土曜日の2日間制ということで気合いが入ったのか、今回のセクションはむずかしかった。セクションを走破すると言う意味での難易度もそうとうだが、それ以上に時間がない。クォリファイは通常、5セクションを7分ほどの持ち時間となっている。セミファイナル以降のセクションは1セクションあたり1分半だ。今回はクォリファイが7セクションとなっていて、これを12分で走れという。7セクションあるとなると、一気に走るにはちょっと数が多い。オンタイムで走りきるのは、明らかに無理があった。しかしオーガナイザーはどこ吹く風で、当初のスケジュール通りでショータイムとなったのだった。
ワイルドカードのタレスは、ニューマシンを引っさげての登場で注目されていたが、今回のセクションでは荷が重い様子。それでもクォリファイ不通過組の中ではもっとも好成績の7位となったから、もうちょっとセクション設定がやさしければ、また別の結果が出ていたかもしれない。7セクションを走って、タレスが32点、ゴメス33点、ブラウン35点(オール5点)。フェレーは競技中にのんびりとパンク修理を始めて、タイムオーバーでオール5点を上回る41点でクォリファイを終えた。
セミファイナルに残ったのは、結局いつもの6名。ボウは5点がひとつもなく、第1で1点、第5で2点、第6で1点をついただけだったが、タイムオーバーが2点あった。全部のセクションをきちんと走ると、こういう結果になってしまう。
藤波は5位。第1はセクションを半分くらい走ったところで5点になった。時間は1分ほど使っている。第2は最後のポイントがいけずに5点になった。ほぼ1分半。これでは時間が足りなくなることが明らかだったから、第3はインで5点となった。このセクションはボウだけがクリーンして、他は全員が5点となった難セクションだった。第4は1点でいけるという自信があったので、ていねいに走った。クォリファイ敗退組でも、タレスが2点で抜けている。グビアンとラガが2点、ボウとファハルドがクリーンした。第5も、藤波の目論みではいけていたはずなのだが、半分ほどのところで5点となった。第6と第7は、1点と1点で抜けた。
セミファイナル通過の中では最下位のグビアンと1点差。2位のラガから6位のグビアンまでは5点しかない。ボウは単独、そのうしろ、藤波を含むラガからグビアンまでは、大きくまとめてしまうと全員で2位争いをしているようなものだ。
今回のXトライアルは、ここでいったんおしまい。9時から始まって、ひとり12分が10人だから、それだけで2時間。イベントが終わったらざっと12時だ。宿に帰って、翌朝は寝たいだけ寝て、午後になって選手が会場へ集まってくる。今日は6人によるセミファイナル、そして4人によるファイナルが行われる。
いつもだと、夕方からクォリファイが始まり、いったん休憩をして夜の9時からお客さんを入れてセミファイナルが始まる。身体が温まったり冷えたりと忙しいので、今日のようなスケジュールは、藤波としては悪くないかもしれないと思っている。
翌日のセミファイナル。いつものようにダブルレーンから始まる。藤波は5位でクォリファイを通過したので、6位のグビアンと対戦する。前回、グビアンとの対戦の方がその後が優位に運ぶと作戦を立てて、それが見事に失敗して負けてしまった相手である。
2度続けてグビアンとの対戦。しかし、今度もまた、負けてしまった。ダブルレーンはまっすぐ走ってUターンして帰ってきてゴール。このUターンで、藤波はミスをしてしまった。今年のルールでは、ダブルレーンは足をつこうが転ぼうが、とにかく速くゴールしたほうが勝ちということになった。足つきを気にせず思いきりいけるので、藤波はこのルールを歓迎している。しかしその分、あぶなっかしい。
今回の藤波は、Uターンポイントのヒューム管の上で、フロントを釣ったままマシンの向きを変えようとした。ところがマシンがわずかにいきすぎて、位置の修正をしているうちに、グビアンにはとろとろと先にいかれてしまった。2連敗である。
ダブルレーンでの敗退の1点減点は、セクション数が少ないXトライアルでは勝負に大きな影響を与えるが、今回はセクションがむずかしいから、1点のハンディはもしかしたらそれほど大きくないかもしれないと藤波は考えた。でもファハルドもグビアンもダブルレーンでは減点なしだから、やはりハンディはハンディだ。やっちまったな、という思いはあった。
今日のセクションは、きのうよりはいくらかは修正されていた。第1セクションのケーブルコアは、最後のライダーだったラガが走る頃には、ぐらぐら揺れていたものが変形してしまって、難度さえ変わっていたものだった。ラガはそのポイントではないところで5点になっていたから、結局成績には影響はなかったのだが、もしそれで結果が変わっていたら、ライダーもおだやかではいられないところだった。今日はそのケーブルコアは、しっかりと固定されている。
その他、きのう問題となった時間が足りない件について、セクションのいくらかが短くなって、可能性が高くなっている。
第1セクションは、グビアンが5点になった。藤波は、1点をついて最後まで来て、またちょんと1点をついてしまった。そしてタイムオーバーが2点。つまり減点4。ダブルレーンでの1点減点と合わせて、これでグビアンとは同点になった。
第2セクションでは、ボウとラガがクリーン(タイムオーバーが1点と2点ある)、藤波が1点とタイムオーバーの2点。ほかはみな5点。ここで、藤波とファハルド、カベスタニーが8点で同点となった。ただし、同点ならクォリファイの結果が反映されるから、このままではファイナル進出はできない。
第3セクション。グビアンと藤波、ファハルドが5点となり、藤波とファハルドは13点の同点で最後のセクションを迎えることになった。
第4セクションでは、セクションを最後まで走ったら1点のタイムオーバー減点はいたしかたない。事実、ここを抜けた5人のライダーは、ボウ以外はみな1点か2点のタイムオーバーをとっている。グビアンが2点の足つきと2点のタイムオーバーで走ったあと、藤波は1点の足つきと1点のタイムオーバーでここをクリアした。ファハルドに対して、まずまずのプレッシャーを与えることができたはずだ。ファハルドは藤波と同点ならファイナルに進出できるが、そのためにはこのセクションを2点以内で走らなければいけない。
そしてファハルドは、最初から時間を節約しようと足早な走り。それが焦りとなったか、ヒューム管に斜めに飛びつくところで落ちてしまって5点。これで藤波は3戦連続でファイル進出の権利を得た。
そしてファイナル。開幕戦は4位、第2戦は3位だから、次は……と期待されている空気もわかるのだが……。
最初はダブルレーン。まず藤波とカベスタニーの勝負。これは藤波が勝った。セミファイナルではトップ3人に対して5点以上の差をつけられているから、ダブルレーンで全勝して、その差を少しでも縮めておきたいところだ。ボウ対ラガはボウが勝ち、カベスタニー対ボウもボウが勝ち、藤波対ラガでは藤波は負けた。グビアンとの勝負で失敗した、あのUターンだった。残るはボウとの勝負だ。
ボウはここで勝っても負けても、ファイナル進出にはなんの問題もないし、どちらかというと今回も優勝はボウに決まっているようなものだ。ここはチームメイトで先輩でもある藤波に勝ちを譲ってくれても少しも不思議はない。
ところがボウは、とんでもないスピードで突っ走った。藤波も負けずについていく。2回失敗したUターンで、少し追い上げができた。そして最後の鉄板でできたゴミ箱を飛び越えたところでバランスが崩れ、着地が斜めになっていた。それでも、ここでアクセルを閉じたらボウとの勝負に負けてしまう。まだ勝利の目があるのだ。バランスを崩したまま、アクセルを開けた。
ゴールのスロープにかかるときには、完全にバランスを崩していた。藤波はマシンを放り投げてゴールした。マシンは観客席に向かってまっしぐら。幸い、そこに観客席はなかったが、プレスやライダー、マインダーが戦いを見守っているエリアだった。誰もいなくて、不幸中の幸いだった。
マシンの損傷は、ステップがちぎれ、レバーが曲がった。藤波自身は、以前に痛めた肩を、再び少し痛めてしまった。大きなけがではないが、とりあえず痛い。
ダブルレーンのあと、すぐ藤波がセクションを走るスケジュールだ。マシンの修復は間に合わない。スペアで持ってきている、セカンドバイクを引っ張り出した。このセカンドバイク、もちろんセッティングは藤波仕様にしっかり合わせてあるが、微妙なセッティングや乗り味がちがって、やはり本番車とは微妙にちがう。ファイナルの最初のセクションは、5点となった。
実はこのとき、正直なところ、藤波の勝負は終わっていた。ボウに勝負を挑んで負けてしまったところで、カベスタニーに3点のハンディができている。ボウ、ラガ、カベスタニーを相手に、この差はなかなかひっくり返せるものではない。おまけに肩も痛い。最初のセクションを、本来の自分のマシンでなく走らなければいけない……。藤波の闘争心も、折れることはある。
3セクションを走って、ボウ6点、ラガ3点、カベスタニー5点のところを、藤波は12点で走り終えた。最終結果は、カベスタニーに10点差の4位だった。
しかし、これで3戦連続でファイナル進出。ランキングを見ると、トップのボウは別格の存在として、ラガとカベスタニーが39点で並んでいて、藤波は30点でこれに続いている。ランキング5位はファハルドだが、ファハルドのポイントは17点。これからファハルドの追い上げも急になることだろうが、藤波にすれば、5位までのポイント差より2位へのポイント差の方が小さいわけだから、まずは現在のランキング4位を守るべく、1ヶ月後の第4戦に照準を合わせる気持ちでいる。
「去年のこの大会、やはりボウとのダブルレーンで首を強打してしまう大クラッシュをしました。それで試合前のインタビューでも、地元の報道陣には首の負傷の影響はあるか、なんてピントの外れた質問をされたものですが、またダブルレーンで大クラッシュをして、次はどんな聞き方をされるのか、覚悟を決めています。ここのところ、2位になれそうな4位や2位だったですが、今日は4位以上にはなりようがない4位でした。こんなこともあります。まずファイナル通過の最低目標をクリアして、そこから上は、インドアに関しては無理なくがんばっていきます」
Final Lap(決勝) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 7 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 12 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 19 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 29 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 18 |
6位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 19 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 6 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 19 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 21 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 22 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 23 |
6位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 24 |
7位 | ポル・タレス | JTG | 32 |
8位 | アルフレッド・ゴメス | モンテッサ | 33 |
9位 | マイケル・ブラウン | ガスガス | 35 |
10位 | アレクサンドレ・フェレー | シェルコ | 41 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 60 | |
2位 | アダム・ラガ | 39 | |
3位 | アルベルト・カベスタニー | 39 | |
4位 | 藤波貴久 | 30 |
|
5位 | ジェロニ・ファハルド | 17 | |
6位 | ロリス・グビアン | 16 |