開幕戦から1週間後、Xトライアルの舞台はスイスに移った。スイスのジュネーブは、FIMの事務所のある都市。FIMも、この大会はいわば地元だけあって、ことのほか熱が入っている。
今回は前回のノミネートライダー8名に加えて、ワイルドカードライダーが2名。昨年、ジュニアチャンピオンとしてXトライアルに参戦したチャロナーと、フランス人のダニコールだ。
10名のライダーは、まずひとりずつ5セクションずつのクォリファイラップを走る。順番はくじ引き。上位4名、下位4名、ワイルドカードの2名がそれぞれくじを引く。藤波は前回4位のランキング4位だから、上位4名のくじを引く。スタート順は早くても最後から4番目。藤波が引いたのは、一番最後だった。これはこれでプレッシャーがあるものだ。
ただし藤波としては、クォリファイ通過が第一目標。その点では、標的は明らかだった。ファハルドを含むスペイン4人勢に負けたとしても、グビアンに勝っておけばセミファイナル進出はまちがいない。目標をグビアンに勝つことにおけば、それほどプレッシャーも深刻ではない。
今回のクォリファイは、ラガがオールクリーンでトップとなった。ボウは1点。最後を走った藤波は、第4セクションで転倒して5点ひとつをとってしまった。この点、第1セクションで5点になったファハルドとカベスタニーと同点だ。藤波は第1セクションはクリーンした。カベスタニーはその後に藤波が転倒した第4セクションで1点をついてトータル6点になっている。
この転倒、藤波自身はなんともなかったが、今回はマシンが痛かった。滑って落っこちたマシンは、クラッチカバーの直撃を受けて、クラッチが切れなくなっていた。Xトライアル参加の条件として、スペアマシンを持ってくることとなっているから、マシンはある。すぐにスペアマシンに乗り換えて、次の第5セクションをクリーンして、藤波のクォリファイは終わった。
ただし5分の持ち時間には遅刻して、藤波には1点のタイムオーバー減点がついた。これでトータル6点。カベスタニーと同点となり、同点決勝が行われることになった。この同点決勝は、ファイナルで同点となった場合などに順位を決める材料となる。ただ、セミファイナル進出に関しては、すでに11点のグビアンまでが進出を決めているので、大きな変化にはならない。トライ順が、この同点決勝で勝った方が遅い、というくらいだ。
ここでカベスタニーに勝つと、セミファイナル一発目のダブルレーンでは、ファハルドと当たることになる。ファハルドはけっこう手ごわいから、できたら勝負を避けたいところだ。カベスタニーに負けると、ダブルレーンの相手はグビアンになる。藤波は同点決勝をインするとすぐに5点になって、クォリファイ5位でセミファイナルに進出することになった。
さてセミファイナル。一発目のダブルレーンが、藤波とグビアンと対決になった。ところがこのダブルレーンで、藤波はグビアンに負けてしまった。予定が大きく狂ってしまった。ダブルレーンで負けると1点の減点がつく。たかが1点だが、インドアではクリーンか5点かのようなセクションが多いので、この1点が勝負を左右することも少なくないのだ。
ダブルレーンのコースは、難度はそれほど高くはないが、今回のコースは、真ん中の一本ラインの外が、ひどくぼこぼこしていて走りにくい設定だった。藤波は、そこに入ってしまった。それでうまく走れず、グビアンに先を行かれてしまったのだった。
さて、むずかしいことになった。ダブルレーンで負けたのは3人。藤波とファハルドとラガだった。この3人は1点ハンディを持って、残り4セクションを戦わなければいけない。
1個目は、ものすごくむずかしくて、ボウ以外は全員5点だった。続く第2は、木の丸太のセクションで、皮がぺろりとぬけたりすると、滑りやすい。ここでファハルドが1点を取った。他は全員クリーンだ。第3はインがすごくむずかしかった。カベスタニーだけがここを通過したが、その次のポイントで5点。結局みんな5点となった。
ここまでトップはボウで6点。ところがその次はカベスタニーとグビアンが10点で同点、4位争いが藤波とラガで11点、ファハルドが12点と、たいへん熾烈なものになった。ファイナル進出は4人だけだから、まだ結末はまったくわからない。
最終の第4セクション、パイプで組んだセクションでは、グビアンが1点をついた。他はみなクリーンだ。となると結果は、ボウの6点はともかく、カベスタニーが10点で2位通過、11点が3人いて、ラガが3位、藤波が4位、グビアンが5位。クォリファイの結果に基づいて、グビアンがここで敗退することになった。グビアンとすれば最終セクションをクリーンしていればファイナル通過だったのに、くやしい1点となった。これが、藤波には恵みの1点だった。
そしてファイナル。最初はダブルレーンの総当たり戦。まず藤波対ラガの戦いとなり、藤波が勝利。藤波は次にカベスタニーと走って勝ち、最後にボウと戦って負けた。トータル1点。ボウが減点なし。カベスタニーは全敗で3点、ラガが2点で最後の3セクションを迎えることになった。
ファイナルの第1はボウだけがクリーンで他の3人は5点。第2は、藤波が飛び降りた時にバランスを崩して足をぽんとついてしまった。これでダブルレーンでリードしたカベスタニーに追いつかれてしまった。同点なら、クォリファイで上位につけたカベスタニーが上位に入る。しかし一方、ラガがここで5点になって、カベスタニーと藤波は、ラガに対して5点のアドバンテージを持つことになった。
残る最終セクション。ここはクリーンの可能性はあるセクションだったが、簡単に足もつけるし5点にもなれるところだった。5点にならなければラガには勝てるから、ここは安全策で走る。そしてクリーン。ところが安全に、慎重に走ったおかげで、時間をすぎてしまった。ほんの1秒くらいだったが、1点の減点が追加された。これで藤波のトライは終わり、総減点は19点。
ラガはここはクリーンしたものの、第2での5点が響いて23点。カベスタニーは、なんと入口でばたっと足をついて1点減点になっている。そのまま1点でセクションアウトして、カベスタニーの減点は藤波と同じく19点。しかしこの場合、クォリファイで上位のカベスタニーが上位になるルールで、勝負はついている。最後にボウがクリーンして、ジュネーブの夜は終わった。
あくまで結果論だが、最後のセクションをあと1秒早く走っていれば、藤波はカベスタニーを破って2位に入っていたところだった。しかし2戦続けてファイナルに残り、去年は遠かった表彰台に上った。スイスの藤波は、まず満足だ。
「2位になれたかもしれない結果で、くやしい気持ちもありますが、でも2戦続けてファイナルを走って、表彰台にも乗ることができた。4位、3位と来ていますから次はさらに上位を期待されるとは思いますが、あんまり欲は出さずに、このポジションをキープすることを目標としたいと思います。ファイナル進出が、大きな目標ですから。次のマルセイユまではフランスで使っている部材のセクションで、後半はスペインの部材になります。そうするとスペイン勢にはうんと有利ですから、序盤不調で落ち込んでいるファハルドもあなどれないし、欲は禁物。がんばります」
Final Lap(決勝) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 6 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 19 |
3位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 19 |
4位 | アダム・ラガ | ガスガス | 23 |
5位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 11 |
6位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 12 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | アダム・ラガ | ガスガス | 0 |
2位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 1 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 5 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 6 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 6 |
6位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 11 |
7位 | マイケル・ブラウン | ガスガス | 16 |
8位 | ジャック・チャロナー | ベータ | 16 |
9位 | アルフレッド・ゴメス | モンテッサ | 21 |
10位 | ベノ・ダニコール | ベータ | 23 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 40 | |
2位 | アルベルト・カベスタニー | 27 | |
3位 | アダム・ラガ | 24 | |
4位 | 藤波貴久 | 21 | |
5位 | ジェロニ・ファハルド | 11 | |
6位 | ロリス・グビアン | 11 |