2012年 世界選手権Xトライアル第1戦ストラスブール(フランス)

2012年1月13日/Strasbourg France

ひとまず4位。でも、2位も狙えた――

2012年開幕戦。Xトライアルは、いわゆるシーズンオフに組まれているシリーズだ。なのでその日程は、ほかの世界選手権とちがって、ちょっと不規則だ。2011年の開幕戦は11月に開催された。ライダーの契約など、区切りが1月1日なっている決めごとは多いから、その年のシリーズに、1年前の契約体制で臨むということも起きるのだが、今年のXトライアル開幕戦は、1月13日、年が明けてから開催された。くしくもこの日、藤波貴久は32歳になった。

フジガス・バースデイ・イベントとなった開幕戦だが、スタート前にケーキが現れたりというサプライズはなく、いつものようにXトライアルは始まった。一時、ルールの試行錯誤が繰り返されたが、その動きはおさまったかに見える。

6セクションによるクォリファイ(予選)で、今回は8人だった参加者は6人に絞られる。同点の場合は、ひとつのセクションで同点決勝を行って、順位をつける。この順位は、最終結果まで影響を及ぼす可能性もあるので、優勝争い以外でも順位を決定づけておく必要があるのだ。

クォリファイが終わったところで、お客さんが入場を始める。セミファイナルと呼ばれる戦いは、ダブルレーンと4セクションで争われる。ダブルレーンは予選6位と5位、4位と3位、2位と1位で戦って、負けたほうが1点減点となる。このセミファイナルの結果で、6人だった参加者は4人に絞られてファイナルへと突入する。

ファイナルも、まずダブルレーンから始まる。今回は総当たり戦。一人のライダーが3回ずつ走る。

その後、3セクションによる最後の決勝。勝負は、セミファイナル以降の減点を集計して決められる。リザルトを見ると、4位の減点より5位の減点の方が少ないが、5位のライダーはファイナルに進出できていなくて、そこでの減点がないから、こういう結果評になっている。

Xトライアルに参加するのは、主催者によって決められた者のみ。トニー・ボウ、アダム・ラガを含む4人のスペイン勢、唯一の日本人、藤波貴久。フランスのロリス・グビアン、イギリスのマイケル・ブラウン、そして2011年のジュニアチャンピオンのスペイン人、アルフレッド・ゴメス。8人のうち、5人がスペイン人というXトライアルの顔ぶれだ。

アウトドアのシリーズが終わってから、藤波は乾いたセクションでの練習に比重を置いていた。これまで、どちらかというと藤波の練習は、湿ったところが多かった。藤波の苦手意識のあるところで、それが実を結んで世界チャンピオンにもなったし、その後も世界の上位をキープしているのだが、どうもインドアではまだまだ実力を発揮しているとはいいがたい(それでも世界チャンピオンとなった2004年にはドイツで1勝をあげている。これは忘れないでくださいね)。インドアや乾いたところでの練習は、そういったテーマへの取り組みでもあった。

クォリファイの第1セクションは、比較的簡単だった。とはいえ、ゴメス、グビアンは5点。ブラウンがようやく2点で抜けている。トップ5はみなクリーンだ。トップ5がクォリファイを通過するのは至極当然で、残りの1席を誰が獲得するかが勝負になる、と誰もが思う。

ところが第2セクションで、藤波がクラッシュしてしまった。第2セクションも、トップライダーにとっては大きな問題はないセクションだったが、前輪の吊り方(持ち上げたまま走ることを、吊っていく、という)がわずかに足りなかった。そのまま落下して前転してしまった。5点だ。このセクション、トップ5で減点したのは藤波のほか、カベスタニーの1点のみ。ゴメスはここも5点だったが、ブラウンは1点、グビアンはクリーンと、一転、藤波はグビアンと同点6位、セミファイナル進出の最後の一席を争う仲になってしまった。落ちたときに打ち付けた腕もちょっと痛いし、インドアは毎年毎度、なかなか思うように運ばない。

とはいえ、藤波がクォリファイ敗退という心配はまずない。第3セクションはブラウンとゴメスが5点で、この時点で、この二人が7位と8位に落ち着きそうな感じになってきていた。

結局藤波のクォリファイは11点。第4セクションで1点、最終セクションで5点で、グビアンとまったく同点だった。5位と6位だから、ふたりともセミファイナルに進出する権利はある。しかし順位は決めておかなければいけない。同点決勝は、ひとつのセクションで減点の少なかったほうが勝ちというルールだ。まずグビアンが走った。1点。藤波はまずクリーンはまちがいない。

と思いきや、丸太のセクションで、藤波がタイヤを置いたそこだけ、木の皮がむけていた。つるりと滑って落下した。5点。これで藤波は6位になった。結果的には、ぎりぎりのセミファイナル進出となった。

6人になったセミファイナル。まずグビアンとのダブルレーンは、順当に勝利した。今のXゲームの問題といえば、セクションがどんどん過激になってきているので(ボウしかあがれない)ボウ以外にとってはクリーンか5点かの両極端。すると、ダブルレーンでの1点が大きな意味を持ってくるルールになっていることだ。藤波はグビアンに勝ち、カベスタニーがファハルドに勝ち、ボウがラガに勝った。最初から、グビアン、ファハルド、ラガは1点のハンディを背負うことになる。

セミファイナルは、最下位進出となった藤波が真っ先に走る。第1は全員クリーン、第2はボウとラガだけがクリーンした。他は5点。第3はボウがクリーン、ラガが3点とタイムオーバーの1点で4点(セクションの持ち時間1分をすぎると、30秒ごとに1点の減点となる)。ボウは安泰。ラガ5点。あとは横一線だが、時並とカベスタニーが10点、グビアンとファハルドが11点となっている。

セミファイナルでは、最終セクションが勝負だと藤波と思っていた。この最終セクションは、クォリファイの最終セクションと同じものだ。藤波は5点になっている。ボウとラガがクリーン、ファハルドが1点。工事現場用とおぼしきパイプを組み合わせたもので、壁がない中空の二段になっている。ピタリとピンポイントでパイプにタイヤをあてて登っていかなければ登れない。

ここをいければ藤波のファイナル進出はぐっと現実化する。藤波は思いきって勢いで突っ込んだ。クリーンだ。グビアンが5点、同じくクォリファイでは5点だった
カベスタニーがクリーン、クォリファイで1点で抜けたファハルドが5点。クォリファイでクリーンしたラガが5点。結局、2回ともクリーンしたのはボウだけとなった。

最終セクションをクリーンしたのは、くしくも3人ともダブルレーンの勝者だった。そしてファイナルに進出したのは、ダブルレーンの勝者の3人と、第2セクションをボウとともにクリーンしたラガの4人となった。

ファイナルもまた、ダブルレーンから始まる。藤波はまずカベスタニーとあたり、ラガ、ボウと対戦する。カベスタニーとの勝負には負けたが、ラガとボウには勝った。ダブルレーンの減点は1点。このダブルレーン、一人ラガだけが3敗して、藤波、カベスタニー、ボウが同点の1点。ラガが3点で最後の3セクションの勝負にもつれ込んだ。

最初のセクション(セミファイナルから続いているので第5セクションと呼ぶ)はボウがクリーン、ラガが1点。第2セクションはボウだけがクリーン(タイムオーバー1点)、第3セクションはボウがクリーン、他の3人が皆3点だが、ラガだけタイムオーバーの1点。

そして最終セクション。ここは石をポンポンと越えていく設定だが、谷渡しをしなければいけなかったり、しかもその岩が斜めになっていたり、グリップが悪かったりと手ごわいセクションだった。藤波はむずかしい最初のポイントをクリーンして、後半に入った。岩の上でターンしてあとはもう少しでアウトというところで、バランスを崩した。ホッピングをして修正をして、そのままクリーンで抜けられる感じではあったが、しかし時間がない。タイムアウトになったら、クリーンをしても1点が加算される。

藤波は、自分から足をついて、ここを1点で切り抜けた。これでトータルは21点。ボウはここまで1点で来ているからまったく安泰だが、他の3人に対しては逆転のチャンスがある。彼らのスコア次第だ。

カベスタニーは、藤波がクリーンをしたインのパートで1点をついた。しかしその1点だけで走りきった。ラガも、インで1点。ラガにはタイムオーバーの1点もあった。最後に走ったボウはクリーンだ。

結果。優勝はボウで2点。2位がラガで21点、3位と4位は同点で22点。この場合、クォリファイで上位のライダーが上位を獲得するルールなので、今回はカベスタニーが3位、藤波が4位となった。

最終セクション、あそこでバランスを崩さなければ、修正が一発で決まっていたら、あるいは2位になれたかもしれない、少なくともカベスタニーには勝って3位表彰台に立っていた。そう考えると、くやしい開幕戦となった。しかしまずはファイナルに残ること、そして表彰台争いをすること。インドアに対しての藤波のこの目標は、ひとまず第1戦に関しては合格点が出たようだ。

○藤波貴久のコメント

「インドアでは毎年いいところなく、なんとなく苦手意識も出てきてしまっていたので、今年はそこをなんとかしたいと思っていました。そういう点では、クォリファイの転倒はありましたが、まずいい戦いができたとは思います。転んだときに打った腕は、翌日になってもまだ腫れてるんですけどね。ファイナルに残って、2位にもなれたかもしれない4位ですからよかったです。でも終わってみれば、2位になれたかもしれないというところがくやしかった。次は、といいたいところですが、ラガもカベスタニーも今回はともかく手ごわい相手ですから、まずはファイナルに残ることを考えています。インドアはいい意味で勝たなければいけない緊張感もなく、楽しんでやってますよ」

Indoor Trial WorldChampionship 2012
Strasbourg
Final Lap(決勝)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・ホンダ 2
2位 アダム・ラガ ガスガス 21
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 22
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・ホンダ 22
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 16
6位 ロリス・グビアン ガスガス 16
Qualificarion Lap(予選)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・ホンダ 0
2位 アダム・ラガ ガスガス 0
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 1
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 6
5位 ロリス・グビアン ガスガス 11
6位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・ホンダ 11
7位 マイケル・ブラウン ガスガス 14
8位 アルフレッド・ゴメス モンテッサ 23
PointStandings(ランキング)
1位 トニー・ボウ 25
2位 アダム・ラガ 15
3位 アルベルト・カベスタニー 12
4位 藤波貴久 9
5位 ジェロニ・ファハルド 6
6位 ロリス・グビアン 5