2011年 SPEA FIM 世界選手権第7戦 イギリス

2011年7月31日/フォートウイリアム(イギリス・スコットランド)

勝てたかも。しかし納得の3位表彰台

photo去年と同じ、2年続けてのスコットランド、フォートウイリアムでのイギリスGP。昨年、藤波は2日目にここで優勝している。去年は2日制だったイギリスGPだが、今年は1日だけの大会となっていた。

同じ会場だから、状況は去年とほぼ同様だが、それにしても滑る。岩々は、ひたすら滑る。いつもの世界選手権とはちがって、高さはそれほどでもない。だから一見、むずかしそうには見えないセクションなのだが、そんなことはない。高くなくても、とんでもなく滑るセクションは、とんでもなくむずかしい。

滑るだけじゃない。セクションはとんでもなく長い。去年は1分ルールだったが、今年は1分半になった。その分時間が楽になったかと思いきや、時間が延びた分だけ、さらにセクションが長くなっている。距離が長くなければ、カード規制で右に左に振り回され、結局時間ぎりぎりになってしまう。時間ぎりぎりならまだいい。1分半に間に合わず、5点になってしまう恐れのあるセクションばっかりだった。

第1セクションは川のセクション。第2はインドアで。第3から第7はまた川のセクション。このセクション群が、ことごとくとんでもなく滑る。藤波は、下見の段階から、ここが勝負どころだと思っていた。勝負どころといっても、必ずしもクリーンをたたき出してライバルを突き放すという意味の勝負どころではない。もちろんできるならばそれに越したことがないが、クリーンしなくても、なるべく5点をとらないようにしようと決意した。

photo事実、藤波の前を走るボウとラガは、そここで5点を取っている。いいところまでクリーンしていながら、最後に時間がなくなってあせって足が出たあげく、時間にも間に合わないというパターンだ。第3セクションで、ボウがそんな5点を取った。ラガはここを1点で抜けた。藤波は3点でこのセクションをまとめている。1点や2点の可能性もあったかもしれないが、そこで無理をして5点となるのは避けたいと藤波は考えたのだ。時間がなくなってからではなく、最初から足をついてセクションを素早く抜ける作戦をとったところもある。

藤波の見るところ、この日のトニーはあまり調子がよくないように見えた。トニーの調子がイマイチならば、勝負に出る価値はあるかもしれないと、藤波は思った。もちろんすべてのセクションで足をつきにいったわけではない。第7セクションなどは、1ラップ目に関しては藤波一人だけがクリーンしている。ラガは3点、ボウは5点。流れはいい感じで藤波に風が吹いていた。

第8セクションまでは、藤波は自分のライディングができていた。自分の考えるトライアルがきちんとカタチになっていた。これなら、順位も悪くないところにいるだろうと思った。いつものとおり、チームに点数をきいたりということはしていない。

第9セクションから13までは、去年とまったく同じセクションだった。これなら、下見も必要ないというくらいにまったく同じだった。ここで、カベスタニーとファハルドが藤波を抜いていった。あとから走れば、その分グリップもよくなるので、藤波も抜かれるにまかせていた。

photoそれでも、1ラップ目後半、さすがに時間がなくなってきた。11セクションは、とても長くてむずかしいセクションだった。藤波は、ここで先行者を抜こうと考えた。クリーンしようとは考えない。抜けるだけなら、下見を簡略化してもだいじょうぶだ。しかし賭けは失敗に終わった。タイムオーバーにならないように速く走った結果、滑って5点となった。

その後、14セクションでジュニアのライダーにひっかかってしまった。ジュニアのライダーは2ラップ目に入っている。しかも彼らはイギリスのスポット参戦のライダーで、数分遅れてゴールしてタイムオーバーをくらっても、それで成績に大きな変化が出るようなポジションにいるとは思えなかった。藤波は順番待ちをしているジュニアのライダーに、先を譲ってくれないかとお願いした。しかし彼は頑として首を縦に振らない。すでにボウとラガは先に進んでいるから、藤波だけが行く手を阻まれたかっこうだ。

結局そのままゴール。藤波は4点のタイムオーバーをもらってしまった。この日は誰にとっても時間が厳しかったがボウとラガは1点ずつのタイムオーバーで1ラップ目を終えている。

そして2ラップ目。藤波の作戦は1ラップ目と変わらなかった。同じように、藤波はセクションをこなしていった。減点数や順位を、藤波は把握しない。しかし第2セクションで、遠くにある電光掲示板が目に入った。遠くだったから、細かい点数や名前はわからない。トップには、長い名前が書かれていた。ボウもラガも、名前は短い。名前が長いのは、藤波かカベスタニーだ。どちらかがトップにいるのだということは、それでわかった。

photoしかし2ラップ目、今度はライバルの走りがちょっとちがっていた。ボウもラガも、1ラップ目同様の走り方をしていたが、今度は時間に間に合うことが多い。藤波の気持ちに、動揺が生まれた。

第6セクションは、藤波の予定では最初から3点ねらいだった。ところがボウが1点、1ラップ目に5点を取っていたラガも3点でここを抜けた。藤波も予定通り3点だったが、これまでの作戦でいいのか、少しセクションを攻めていったほうがいいのではないか、疑心暗鬼になってしまった。

次の第7セクション。藤波が1ラップ目に唯一クリーンをたたき出したセクションだ。見ていると、ボウとラガは次々にここをクリーンしていく。藤波は、1ラップ目にクリーンしていたにもかかわらず、足が出てしまった。これがまた、藤波に焦りを生じさせた。1ラップ目にクリーンしていたのに、なんということだと。その結果、足をついてうまくマシンを運ばせることもむずかしくなった。足を出したところ、その足が滑り、5点となった。

第8セクションは、1ラップ目は3点で抜けた。1ラップ目の3点は悪くなかった。しかし2ラップ目、ボウがクリーン、ラガが1点といいスコアをたたき出した。ここは攻めなければいけないと思った。思いはしたが、うまくいかなかった。3点。ここで、カベスタニーが藤波の前に出た。

カベスタニーに抜かれたのはアンラッキーな面もあった。セクション内の岩が落ちかけているので、なんとか処理をしたほうがいいのではないかとオブザーバーと交渉をして、さてトライしようと思ってマシンのところに戻ってみると、すでにカベスタニーがコリドーにはいってトライの準備を完了させていた。結局、2ラップ目も4点のタイムオーバーを記録してしまった。トライを待ったほうがグリップがよくなるという、その読みが甘かったのかもしれない。しかし結果論だ。1ラップ目2ラップ目合わせて8点のタイムオーバーは痛かったが、それでもカベスタニーの上位に出て試合を終えられたのはよかった。

photoカベスタニーと藤波は、ランキング3位を争っている。今回のこの結果で、藤波はカベスタニーに同点に並んだ。カベスタニーは、日本GPにはいかないと公言していて、シェルコもそれを容認しているという。藤波にすれば、ふつうに走っていれば日本GPでランキング争いでカベスタニーをかわせるだが、それではやはり納得いかない。もてぎまでに、自力でランキング3位を獲得したいという願望は、なんとか達成したといえる。

このあと藤波は、イギリスからマシンが帰ってくるのを待たず、セカンドマシンでしばらくトレーニングをし、日本に向けて出発する。日本に到着するのは、8月8日の予定だ。

○藤波貴久のコメント

「勝てる試合だったかなという気もしますが、結果としては、1点差のぎりぎりで3位表彰台に乗れたのがよかったと思います。とにかく、もてぎまでに自力でランキング3位を獲得したいと思いましたから、同点ながらその位置までたどりついたので、その点でもまず満足です。カベスタニーとは、本来ならもちろんガチで勝負してランキング3位を奪いたいところだったのですが、これでランキング3位となって、次はその上を目指していきます。カベスタニーはずいぶん前からもてぎには行かないと言ってましたが、他の選手はだいたい行くみたいです。マシンはぎりぎりまで届かないので日本で練習はできませんが、みんなより早く日本に到着するので、時差ボケの分だけみんなより有利です。久しぶりの日本、楽しみです」

2011 SPEA FIM Trial WorldChampionship
日曜日
1位 アダム・ラガ ガスガス 30
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 31
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 49
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 50
5位 ジェイムス・ダビル ベータ 61
6位 マイケル・ブラウン ガスガス 74
7位 ジェロニ・ファハルド オッサ 79
8位 ドギー・ランプキン ガスガス 83
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 132
2位 アダム・ラガ ガスガス 117
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 99
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 99
5位 ジェロニ・ファハルド オッサ 82
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 69
7位 ロリス・グビアン ガスガス 56
8位 マイケル・ブラウン ガスガス 53