2011年 SPEA FIM 世界選手権第1戦 ドイツ

2011年5月15日/ジェフレス(ドイツ)

ベストラップを記録、3位。

photo 日本ではたいへんなことになっている。アウトドア世界選手権も、6月のもてぎが8月に延期になった。世界トライアルにも、日本の震災は深い憂いをもって受け止められている。そんな中、2011年の世界選手権は、5月中旬になって、ドイツの地で開催された。

この会場での世界選手権は、2005年以来。6年前、藤波はここで世界チャンピオン2連覇の夢を断たれている。しかし同時にドイツは初優勝した国でもあり、また唯一インドア世界選手権で勝利した国でもある。

2011年になって、またまたルールに手直しがあった。まず、1セクションあたり1分となったセクション持ち時間が、今年はまた元通りの1分半になった。それ以外の競技ルールは、今までと同じ。世界チャンピオンのトニー・ボウが真っ先にスタートし、次にランキング2位のアダム・ラガ、藤波はその次にスタートする。

加えて、今年はマシンに最低重量が設けられた。125ccより小さいマシンは65kg。それ以上のマシンは66kg以上の重量がなければいけない。今回は車検の時に計測されただけだったが、シーズンのうちには抜き打ち計測がおこなわれ、その時点で重量オーバーが認められたら失格の予定だという。

ただしこの最低重量制限は、2010年からスペイン選手権では採用されているルールで、すでにモンテッサチームを始め、どこのファクトリーも対処はしてきている。今回、特に大きな変更が要求されることはなかった。

photo土曜日、ヨーロッパ選手権が終わった後、夕方から雨が降った。下見をしていた頃から雨の予感はあって、そのとおりになった。セクションも、雨の予報があったので、いくぶん雨対策が施してあって、晴れている状態ではそれほど難度は高くないたが、それでも雨が降ればかなりむずかしい設定になるだろうという予想はあった。

その雨は、朝には止んでいた。だから日中を通して、徐々に乾いてくるだろうという読みはあったが、木が生い茂り、日の当たるところが少ない会場では、早々簡単に路面が回復するとは思えなかった。

藤波のスタートは3番手。ボウはトップスタートだが、もちろん誰も先頭を切って走りたくはない。しかし今回は、あまり他のライダーに走られてしまった後では、コンディションが激しく悪化する恐れのあるところもあった。それで藤波は、あまりゆっくりしないよう、場所によっては、2番手スタートのラガに先んじてトライすることもあった。

藤波の2011年マシンは、基本的には2010年モデルと同じ。もちろん各部はリフレッシュした新しいパーツになっているが、これまでのように、大きな変更を受けて登場するということではない。それでも、2010年モデルと2011年モデルには、大きな差異があると藤波は言う。エンジンのマッピングの調整とサスペンションセッティング。日常的におこなえるこれらのセッティングの方向性を変え、どちらかというとマシンが走っていく傾向に味つけがされているのだそうだ。2010年モデルが登場したときの設計方針がこういう方向性だったが、その流れをさらに加速させたのが、2011年モデルのセッティングとなっている。

photoシーズンオフの間、藤波は走ろうとするマシンとのコンビネーションを確立することに集中した。そしてその成果は、充分に実を結んだと思われていた。だから藤波は、雨上がりで滑りたがる路面だというのに、この日の1ラップ目にはあえてドライセッティングのマッピングモードを選んでセクションを走っている。滑りやすい挙動には気をつけなければいけないが、マシンを走らせなければいけないパターンが多かったための藤波の選択だった。

ところがこれが判断ミスだった可能性は高し。第2から第4までを連続5点、さらにふたつの5点があって、1ラップ目は35点。これは5位タイのスコアだった。練習ではドライモードで走っていい結果を出していたことが多かったのだが、やはり一発勝負の本番では、そのグリップ具合などをコントロールしきれていない部分があったのではないかと藤波は分析する。どんなにトレーニングを積んでも、やはり本番でなければ出てこない問題点もあるものだ。

とはいえ、藤波は落ち込みもせず、それほどへこみもせずに2ラップ目に入った。走りは悪くないし、大きなミスもしていない。点数が悪いのは確かだが、それはそれ、というわけだ。

唯一後悔があるとすれば、14セクションでの5点だった。ここは2段となるステアケースだったのだが、ここで藤波はゲートマーカーを飛ばして5点になっている。これも、加速で振られてマシンが暴れながら段差に入ってしまったというのが直接の原因だが、ゲートマーカーを飛ばすなどというのは藤波的にはやってはいけないミス。これだけは反省点だった。

2ラップ目。切り換えはうまくいった。5位の藤波貴久ではない。世界チャンピオンとしての走りと試合運びができている。この頃になると、路面も朝とはちがってずいぶん乾いていた。これなら、あるいは追い上げも可能かなと、藤波は考えていた。それでもコンディションがよくなって点数を縮めるのは藤波ばかりではない。ライバルも条件はいっしょだから、どうなるかはわからない。そして藤波は、今度は路面が乾いてきているにもかかわらず、すべてのセクションでセッティングモードをウェットのまま走った。これもまた、藤波らしい選択といえる。

第3セクションでは、1ラップ目同様、またも5点となった。ここはボウも同様に5点となっている。他のライダーも、5点が多い。試合後に復習したら、わりとあっさり走破できてしまったので、致命的な問題があったわけではないのだが、ボウも含めて4つの5点を取ってしまったということは、この地形をマシンが苦手としているのかもしれないし、ふたりそろって苦手意識があったのかもしれない。いずれにしても、ここだけで10点を献上してしまったことになる。

photoその5点以外に、藤波は3ヶ所で1点を取った。欲を言えばきりがないが、まずこれ以上のスコアは望めない点数でもあった。結果的に、2ラップ目の藤波は8点。ボウが11点、カベスタニーが17点がこれに続く結果だから、2ラップ目だけを見れば、堂々たる世界一だ。

藤波のこの日の圧巻は12セクションだった。1ラップ目は全員が5点。岩ばかりがごろごろしているところを駆け上がっていかなければいけないセクションで、そのごろごろにやられてみんな玉砕した。それで2ラップ目は、みな3点覚悟で刻んでいく選択をした。ラガもボウも、3点だ。

このとき藤波は、ラガと競り合っているのだと思っていた。ボウとラガは、だいたい藤波の前を走っていたから、いつものように点数は把握していないまでも、だいたいの調子を推し量ることはできる。ラガとの勝負に決着をつけるには、ここを一気に駆け上がればいい。もし途中で無理だと判断したら、それから刻んで登っても遅くない。

藤波のこの勝負は、見事成功した。残るセクションはきっちり走ればクリーンが可能。藤波は、14セクションを終わったところで、マネージャーのオスカル・ジローさんに戦況を聞いた。戦況を聞くのは、これが初めてだ。

するとジローさんは、カベスタニーが藤波より1点少ないスコアで走っているという戦況を教えてくれた。とすると、ボウがいてラガがいて、自分の前にカベスタニーガいて、4位……。そういう計算をしているとジローさんは、いやいや2位争いをしているのだという。藤波の感触より、ラガはもっと減点をとっていたのだった。いっぽう、カベスタニーガどれほど好調なのかは、藤波の後ろを走っていたから、把握できていなかった。

藤波に残されているのは、15セクションをクリーンすることだけ。これは、そんなにプレッシャーのかかる作業ではない。同時に、カベスタニーももうすぐそこまで来ているから、カベスタニーが大きな失敗をすることもそうそうないはずだ。そのまま、カベスタニーが2位、藤波が3位で試合は終わった。

photo1点差。あと2点、どこかで減点を縮められれば、開幕戦をボウと共にワンツーフィニッシュできたことになる。結果表はくやしい点差を示しているが、しかし藤波自身は、それほどくやしい思いはない。

会心の走りだった2ラップ目の12セクション。ここでの藤波のクリーンを知ったカベスタニーは、藤波との勝負に勝つため、同じようにクリーンねらいの走りをする必要があった。そして一気に駆け上がって、同じようにクリーンをした。結果は負けたけれども、藤波には、カベスタニーと正面から勝負をして、カベスタニーがその勝負にきっちりこたえたという満足感があった。

次回フランス大会は2日制。2日制の1日目は、次の日に一番スタートでも前日のおさらいだから、いつもより一番スタートが苦痛ではない。勝つなら、2日制の1日目がいい。藤波は、そう考えている。

○藤波貴久のコメント

「1ラップ目にあれだけ点数をくらって、けっしていい状況ではない中で3位。ベストラップを出せることも証明できたし、それほど悪くはなかったと思っています。絶好調で走っての3位というわけではないですから。カベスタニーとの1点差で3位はくやしいですが、12セクションでカベスタニーがばたばたの3点で走って、それで2位を奪われたならもっとくやしいと思いますが、同じようにあそこをクリーンしてきたのだから、カベスタニーもよくやったと思います」

2011 SPEA FIM Trial WorldChampionship
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 32
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 42
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 43
4位 アダム・ラガ ガスガス 50
5位 ジェロニ・ファハルド オッサ 58
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 85
7位 マテオ・グラタローラ ガスガス 93
8位 マイケル・ブラウン ガスガス 96
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 20
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 17
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 15
4位 アダム・ラガ ガスガス 13
5位 ジェロニ・ファハルド オッサ 11
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 10
7位 マテオ・グラタローラ ガスガス 9
8位 マイケル・ブラウン ガスガス 8