2011ひとつめの年世界選手権、Xトライアルも早くも4戦目。今回は、11年ぶりのインドアトライアル開催となる、スイスはジュネーブでの決戦となった。ジュネーブは、FIM本部のある町。会場となった体育館も、FIM本部からほんの15分ほどの距離にあり、会場にはFIM会長も姿を見せて、最先端のトライアルを見守った。
藤波貴久は、3週間前のマルセイユでの首の負傷が、まだ完全には癒えていない。トレーナー氏には安静が一番といわれているのだが、毎週のように世界選手権が開催されるこの時期は、安静もしていられない。ただし今回は、バルセロナとちがって高さ一辺倒ではなくテクニカルに組まれていて、藤波の首にも少しやさしい設定ではあった。もともと藤波の強さは、テクニカルな場面で発揮される。
5セクションによって構成されたクォリファイは、接戦だった。今回、この大会に参加したのは、いつものノミネートライダーの8人にグビアンとグラタローラが加わって10人。たった5セクションの勝負だから、ミスをしたらまず挽回はできない。藤波は、ボウ以外の全員が5点となった第3セクションと、ファハルド以外の全員が5点になった第5セクションで5点となったほかは、第4セクションの1点のみでクォリファイをまとめた。これで11点。同じセクションで同じように減点をしたラガが同じく11点。第4セクションをクリーンしたカベスタニーが10点。そして、ただひとり第5セクションを2点で抜けたファハルドがタイムオーバーを含んで9点。ボウは5点でやや間が空いたが、4人はほぼ横一線だった。
しかも、ファハルドの9点には物言いがあった。ボウ以外の全員が5点になった第3セクション。ファハルドはエンストをした。アンダーガードが接地してのエンストだから、5点のはずだ。ところがオブザーバーは5点の宣告をせず、ファハルドもそのままトライを続行した。ファハルド以外のライダーは、これを見ていて「なんで5点じゃないんだろう?」と不思議に思ったが、ファハルドが5セクションを走り終えると、今度はファハルドの目が点になった。その期に及んで、オブザーバーが第3セクションを5点と宣告したのだ。通常のトライアルならそれでもいいかもしれない。しかしXトライアルでは、クォリファイ全体に持ち時間がある。ファハルドには1分、2点のタイムオーバーがあった。ファハルドの計算では8点。しかし第3セクションが5点では10点。カベスタニーと同点になってしまう。もし第3セクションで5点の宣告があったら、ファハルドはそのセクションを最後まで走ることなく、次のセクションに向かって時間を節約したはずだった。
ファハルドとの折衝の末、第3セクションは5点。でもタイムオーバーは1点におまけしてあげようとという結論が導かれた。これで、ファハルドの9点が確定した。採点はちょっと残念だったが、いずれにしても大接戦だったわけだ。
さて、藤波はラガと同点の11点。今回は、ふたりともセミファイナル進出が決まっているが、ルール上、ファイナルで同点の場合はクォリファイの順位で優劣を決めることになっている。なのでここでも順位を決めなければいけない。そしてまたクォリファイの順位で、セミファイナルでのスタート順、ダブルレーンの組み合わせが決まる。
タイブレイクは、セクションをひとつ用意して、一騎打ちをする。両者ともクリーンなら(あるいは同減点なら)、セクションの走破タイムで決着がつく。藤波がラガとのタイブレイクに勝利すると、セミファイナル最初のダブルレーンで、藤波はカベスタニーとダブルレーンで対戦する。一方ラガに負けると、対戦相手はクォリファイ6位の選手になる。カベスタニーとの勝負で勝利できるかどうかは五分五分だが、こちらなら楽ができる。クォリファイでの順位は最終結果が同点のとき以外は考慮されないが、ダブルレーンで負けると1点がつくから、結果への影響は小さくない。
結果、藤波はラガに負けて、クォリファイを5位で通過することにした。
ちなみにセミファイナルに進出する最後の6つめの席は、チャロナーが獲得した。これもまた、グビアンとの同点タイブレイクの結果のセミファイナル進出だった。
セミファイナル最初のダブルレーン。藤波の相手はチャロナー。カベスタニー相手の対戦より楽ができるといっても、前回藤波はチャロナーとの対戦で5点となっている。けっして油断ができる相手ではない。今回も、藤波は序盤にはチャロナーにリードされていた。最後は逆転して勝利したが、Xトライアル1年目にしては、落ち着いたライディングをするライダーだと、藤波は観察している。
ダブルレーンはボウとカベスタニーと藤波が勝利。セミファイナルになると、チャロナーにはちょっと難度が高かったか、5点3つで17点。いっぽうボウは、ダブルレーンを含めて全部クリーンで減点ゼロ。ふたたび、藤波を含む4人の接戦となった。第1セクションは4人全員がクリーン。第2セクションは(ボウを除く)全員が5点。第3セクションでは、藤波のみがタイムオーバーで1点。最終、第4セクションではカベスタニーがクリーン、ラガとファハルドが1点。藤波は1点とタイムオーバーの1点を献上してしまった。
結果、藤波の減点は8点。ファハルドとラガが7点で3位争いだったから、タイムオーバーがなければ、藤波が3位につけていた可能性は小さくなかった。しかしチャロナーに続くトライ順の藤波には、チャロナーのトライを参考に時間を読むしかない。そのチャロナーが5点の連続で最後まで走らないから、藤波は時間を読む術がなかったのだった。事実、藤波以降の4人は、藤波のトライを見て、誰もタイムオーバーになっていない。
1点差で、セミファイナル4位を逃し、ファイナルに進出できなかった藤波。結果は5位。あまりうれしくない結果だが、しかし今回の走りの評価は悪くなかった。セクションをきちんと走って、2位争いをしての結果の5位。監督からも、ねぎらいのことばをもらい、藤波も、ひとまず満足だ。しかしやはり、ファイナルを走りたかった。残り少ないXトライアルシーズン、次は、必ず。
「結果は、惜しかったと思います。内容的には、シレラ監督からもよくやったといってもらえたし、納得はしています。これでファイナルを走れていたらよかったんですけども。ダブルレーンの相手をカベスタニーでなくチャロナーを選んだのは、前回チャロナーに負けているので、ここでやり返したかったというのもありました。負けっぱなしではくやしいので。首の状態は、まだそんなによくなっていません。でも次のマドリッドまで1ヶ月ありますから、次の大会では首のことは忘れていられるようになっていたいと思います」
Final Lap(決勝) | |||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 10+0+0=10 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 15+2+5=22 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | オッサ | 13+5+7=25 |
4位 | アダム・ラガ | ガスガス | 15+3+7=25 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 8 |
6位 | ジャック・チャロナー | ベータ | 17 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 5+0=5 |
2位 | ジェロニ・ファハルド | オッサ | 8+1=9 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 10+0=10 |
4位 | アダム・ラガ | ガスガス | 11+0=11 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 11+0=11 |
6位 | ジャック・チャロナー | ベータ | 14+0=14 |
7位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 14+0=14 |
8位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 15+0=15 |
9位 | マテオ・グラタローラ | ガスガス | 17+0=17 |
10位 | マイケル・ブラウン | ガスガス | 20+0=20 |
*4位と5位、6位と7位はタイブレークで順位を決した | |||
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 80 | |
2位 | アルベルト・カベスタニー | 57 | |
3位 | アダム・ラガ | 48 | |
4位 | ジェロニ・ファハルド | 36 | |
5位 | 藤波貴久 | 26 | |
6位 | ジャック・チャロナー | 16 |