2011年のシーズンは、暦よりも一足早く、11月に幕を開けた。これまでのインドアトライアル世界選手権は、このシーズンからXトライアルと呼び方を変えて開催される。試合の流れなどは、おおむね去年を踏襲している。
開幕戦は、地中海に面したジェノバでの開催となった。インドアトライアルといえば、人工的な素材で組まれたものが多いが、この大会では石や材木が多用されていて、通常よりは自然な印象。どちらかといえば、藤波には有利なセクション環境だ。
Xトライアルに参加するのは、スペインの4人、ボウ、カベスタニー、ラガ、ファハルドに藤波、去年好成績を残したダビル、同じくイギリス人のブラウン、そして同じくイギリス人で、ジュニアクラスチャンピオンのチャロナーの8人。今回は、ワイルドカードで地元イタリアのイオリタが加わって9名の顔ぶれ。最初に、これを6名に絞るクォリファイがおこなわれた。去年同様の試合のシステムだ。
ここでは、7位以下のクォリファイ敗退組は、きれいに順位がついた。しかしトップの5人は、全員がオールクリーンで勝負つかず。ファイナルが始まったらクォリファイ成績はほぼ関係なくなるので大きな問題ではない。レギュレーション上は、セミファイナルで同点だった場合はクォリファイの成績を持って順位をつけるということになっている。4人がオールクリーンではここも順位がつかないが、実は最後のセクションの走破タイムによって、順位はつけられている。複雑なルールで、ライダー側も最初からそのルールを見越して走っていることなど、ほとんどない。
ともかく、クォリファイでブラウン、チャロナー、イオリタの3人は敗退して、スペイン勢の4人と藤波、ダビルの6人によって、テレビ中継のあるセミファイナルが始まった。
去年のバルセロナ大会もそうだったが、今回も、インドアエンデューロがいっしょに組まれている。スピードと何台ものマシンが一度に走る迫力を演出するインドアエンデューロと、よりトリッキーなテクニックが堪能できるXトライアル。二つのショーが一度に見られるのだから、お客さんは大喜びだ。バルセロナのときには、エンデューロの走った後は、セクションがホコリまみれになって、滑りやすくなっているのが気になったものだったが、今回は自然の素材が多く使われているから、特にエンデューロの影響は感じられない。エンデューロには、ランプキンをはじめ、ブラズシアク、ジャービス、ゴメスと、藤波も仲のよいトライアルライダーが何人も出ている。ブラズシアクは総合で3位、ジャービスが5位、ゴメスが6位と、トライアル仲間もなかなかがんばっている。ランプキンはクォリファイでマシントラブルにあい、敗者復活戦ともいえるナイトレースに参加していた。場内のライトが消えた中のレース。しかし今回のランプキンは、あまりいい調子ではなかったようだ。
藤波は、しかしもちろん彼らを応援しているヒマはない。ただしランプキンが飛べなかった3連ジャンプは、クォリファイが終わったあとに、モンテッサ・コタでしっかり飛んできた。エンデューロライダーが飛びあぐねている連続ジャンプを、トライアルライダーがトライアルマシンで飛んだとあって、お客さんは大喜びだった。さて、間もなく、セミファイナルが、始まる。
セミファイナルは、まずスピードレースから始まる。スピードレースは、またレギュレーションが小変更になって、勝てば減点ゼロ、負けると減点1となることになった。6人いるから、レースは3回。クォリファイトップのボウはクォリファイ6位のダビルとあたり、クォリファイ4位の藤波は3位のカベスタニーとの勝負。2位のラガと5位のファハルドがあたることになった。スピードレースはトライアルセクションとしてはごく簡単なので、スピーディにマシンを運べるかどうかが鍵になるが、さすがにボウはダビルを相手に楽勝。ラガとファハルドの勝負はファハルドのものとなり、そしてカベスタニーと勝負した藤波は……、残念、カベスタニーに負けてしまって、減点1を背負うことになった。
ファハルドはクォリファイでは6点の減点をとっているが、セミファイナルにきた時点でこのハンディはほぼ帳消し。気持ちも新たに、スピードレースで勝って幸先がいい。
続いて、オブザーブドセクションが4つ。セクションは、事前にライダーが意見を言って、いささか難度を高められていた。助走を短くしたりきっかけが取り除かれたり。セクションをむずかしくしようという意見は、これなら自分以外はだれもいけないだろうという自信から生まれるものだが、さて、そんなにうまくいくものだろうか。
第1セクション、全員が5点になった。やはりむずかしかったようだ。第2セクション、藤波はいけると思ったが、しかし5点。ラガもファハルドもカベスタニーも5点。ここは唯一、ボウだけがクリーンで抜けている。第3セクションは全員がクリーンだった。これでは、なかなか勝負がつかない。
この時点でトップは6点のボウ。2位はふたり。カベスタニーとファハルドで、減点10。4位がやはりふたり。藤波とラガで、減点11。ダビルは第3セクションでも減点をして、12点。ボウとダビル以外は、最初のスピードレースで優劣がついている状態だ。残るは最終セクションのみ。
ファイナルに残れるのは4人のみだ。ここへきて、藤波がファイナルに残るには、まず第4セクションをクリーンすることが必須。それでもラガがクリーンすれば両者は同点。その場合は、クォリファイでのセクション走破タイムで決着がつけられる。藤波は、これでラガに後れを取っていたから、ラガにはぜひ足をついてもらって、藤波がクリーンする。それがファイナル進出の唯一の道だった。
ダビルが足をつき、ファハルドがクリーンして藤波。藤波も、あと数メートルのところまでクリーンできた。とりあえず、自分がクリーンするという課題はクリアできそうだ。と思った矢先、ハンドルががさっと動いた。前方向にずれてしまって、万事休す。幸い、転んだり足を出したりすることはなかったが、しかしもはや、ブレーキもクラッチも握れないマシンになってしまった。セクション走破時間の残りも少ない。しかたない、足をつきながらマシンを運ぶ以外になかった。2点。
ラガは最終セクションをクリーン。これで、藤波のファイナル進出の望みは断たれた。というより、この時点で藤波は、ダビルの減点を正確に把握していなかったので、ダビルに負けて6位になったと思い込んでいて、それがなにより藤波をイライラさせる原因になった。イライラしたまま後片づけをし、1時間後くらいにリザルトを見て、ダビルが6位で藤波が5位だったのを知った次第だった。
その後、決勝はスピードレースと3セクションのオブザーブドセクション。決勝でのスピードレースは総当たり制で、全部で6回レースが行われる。スピードレースばかりで、セクションが少ないというのが、強い印象。これについては、シーズンオフの間にライダーの総意としてFIMについてもルールの是正を提言してきたが、結局なにも変わらなかった。
しかしルールはルールとして、ライダーはその仲で本領を発揮することを求められている。スペイン勢のライバルは手ごわい相手だが、ルールに翻弄されて成績を落としていく試合は、これでもうおしまいにしたい。
「セミファイナルが終わった直後は、6位になってしまったと思い、くやしいやらなさけないやらでイライラしていたのですが、結果は5位。といっても、5位と6位では、ランキングポイントでも1点しか変わらないんですが……。今年も、セクションが少なくスピードレースに重きが置かれているインドアのルールにてこずっていますが、もう1年たったし、そうもいっていられないので、なんとかしていかないといけません。今年は、これでトライアルの試合はおしまい。来年早々に、イギリスのシェフィールドで、世界選手権ではないですがインドアのレースがあるので、それに出ます。年が明けて、新しいマシンで出場してくるライダーもいるので、ちょっと楽しみです。今年1年、応援ありがとうございました」
Final Lap(決勝) | |||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 9 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 12 |
3位 | アダム・ラガ | ガスガス | 14 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 28 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 13 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 14 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 0 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 0 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 0 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 0 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 6 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 7 |
7位 | マイケル・ブラウン | シェルコ | 8 |
8位 | ジャック・チャロナー | ベータ | 10 |
9位 | フランチェスコ・イオリタ | ベータ | 11 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 20 | |
2位 | アルベルト・カベスタニー | 15 | |
3位 | アダム・ラガ | 12 | |
4位 | ジェロニ・ファハルド | 9 | |
5位 | 藤波貴久 | 6 | |
6位 | ジェイムス・ダビル | 5 |