2010年 SPEA FIM 世界選手権第10戦イタリア

2010年7月25日/フォッポロ

夏休み前、表彰台獲得

photoトライアルの世界選手権も、8月は夏休みだ。夏休みを前の、最後の1戦。今回は、イタリアのスキーリゾート、フォッポロ。北イタリアの都市ベルガモからアルプスに向かって1時間くらい走ったところにある。アルプスのスキーリゾートだけあって、標高は高い。

前回サンマリノ大会では、足の負傷もあって本領発揮とはほど遠い走りっぷりだった藤波貴久。負傷から2週間経って、足の具合はどうなっているのか。そして、ラガに同点に並ばれたランキングの争いはどうなるのか。藤波自身も、期待と不安をおりまぜてのイタリア入りとなった。

もちろん、足はまだ完治とはいいがたい。ただ、だいぶよくなってはいる。負傷してからの1週間は、まったくトライアル練習はしないでいたが、サンマリノの後は、練習もした。なんとかなりそうな感触はあった。会場へはいってから、再びテーピングのセッティングに時間を割いた。しかしテーピングは、川に入ったりして水に濡れると、はがれたりもする。それで土曜日の下見は、テーピングはなしで、ブーツのバックルをきつめにするだけで走ってみた。これで覚悟ができた。日曜日は、テーピングはなし。バランスをとるときなどの痛みは残っているが、飛び降りなども、予期してその瞬間に力を入れられれば問題がないところまできていた。

結局、足の負傷については、今回の試合に大きな影響はなかったといっていい。たった一度だけ、不意にジャンプしてしてしまったときがあった。想定外だから、力を入れていなかった。その時はさすがに痛みが走った。足の痛みに表情がゆがんだのは、このときだけだ。

さてしかし、今回の藤波はいい走りができたとはいいがたかった。特に前半がいただけない。標高があったので、エンジンのセッティングには悩みがあった。しかし結論は出ず、そのままスタートとなった。それがまず、藤波の走りから精彩を奪っていた。

第1セクションで1点、第2セクションでクリーンの後、第3セクションで不運は起こった。ファハルドやカベスタニーも5点になっている難セクションではあったが、ボウ、ラガ、そしてダビルがクリーンのセクションだ。藤波はまず一つ目のポイントで1点、登って降りて、そして二つ目へ。時間もぎりぎりだったので、降りたまま、ふたつめへの加速体制に入った。ところが、藤波の走るライン上に、マインダーがいた! 立ち位置を完全にまちがえたのだ。ポイントにアプローチする前に一瞬の確認ができればよかったのだが、その時間も惜しい設定のセクションだった。気がついたときには、マインダーと衝突していた。これで5点。

その後、7セクションで5点、8セクションで5点と、なかなか調子に乗れない。逆に、調子に乗ろうというときに5点の失敗があるから、それでまた調子に乗れず、試合が進んでしまうという悪循環。走りも固いままだ。

第7は、ライディングの失敗だった。ああすればよかったという欲を言えばきりがないが、2ラップ目も5点だったし、これはいたしかたなしの5点だったと思われる。ちょっと悔やまれるのが、第8だ。ここはラインが二つあって、カードぎりぎりを1回の足つき覚悟で抜けるラインと、正面から立ち向かうライン。藤波には、正面からのラインが走破可能に見えた。5点を二つ取っているから、ここで挽回しないとという気持ちもあった。藤波の前には、カードぎりぎりの1点で抜けているライダーもいたのだが、藤波は正面突破を選んだ。そして5点となった。

セクションは、1から3までが水のある川セクション。4から9までが土の登り斜面に岩が点在している設定。10から14までが再び川。最後の15セクションはパドックに設定されたインドア風というバリエーションだった。

8セクションでの失敗の後の9セクションで1点。しかしこのあたりから、藤波の走りからかたさがとれた。リラックスできてきて、からだもやわらかくなった。10セクション以降、15セクションまでを、藤波は全部クリーンで走り抜けた。この6セクションを、ボウ、ラガ共に6点、ファハルドが20点減点しているのを見ても、藤波の好調ぶりがわかる。

藤波以外のライダーが共通して失敗しているのが、14セクションだった。この大岩は、2001年の世界選手権にも使われていて、藤波にはそんなにむずかしいという印象はなかった。しかし藤波が14セクションに到着したときは、まだ誰もそこを登れていなかった。自信を持って大岩にジャンプ。そしてクリーン。これで、藤波は1ラップ目3位のポジションを確実なものにした。

実は藤波が前半でてこずったのは、高地用にセットアップしたエンジンのパワーフィーリングだった。結果的には、パワーが出すぎていた。それで藤波は、2ラップ目に入るときに、マッピングを変更して、少しパワーを落とすよう、セッティング変更を提案した。

ところがこれは、監督の反対にあった。満足のいく仕様ではないかもしれないが、1ラップを終えて、仕様にも慣れてきている頃だ。それに10セクション以降は素晴らしい走りができている。ここでセッティングを変更したら、せっかく乗り始めた波を振出しに戻すことにならないか――。

藤波はその提案を受けて、ちょっとパワーがありすぎの仕様で、そのまま2ラップ目に向かった。

2ラップ目、大きな減点は、やはり7セクションだった。木の根と岩が点在するポイントを、ガサガサと抜けて頂点を狙う。マシンが通るかどうか、ぎりぎりのポイントだった。うまく通り抜けたと思ったのだが、引っかかってしまった。5点にならずに抜けているライダーもいるから、攻略法はあるのだろうが、それは言ってもしかたがない。ここは、自身のライディングの失敗と、素直に受け止めている。

それ以外は、3セクションでの1点と、第8セクションでの2、合計8点だけで、2ラップ目を終えた。3セクションはマインダーと衝突したどころ、8セクションは正面突破を試みて失敗したセクションだ。ふつうにやっていれば、べてとでなくてもこの二つのセクションだけで7点減点を減らせていた可能性があるわけだが、もちろんこれも言ってもしかたがないことだ。

この日の藤波は、自分のペースを守ってゆっくり走ろうと思っていた。1ラップ目にファハルドに抜かれ、2ラップ目にはランプキンにも抜かれた。一番スタートのボウに至っては、1ラップ目の第3セクションで走りを見て以来、一度も出会っていない。そんなペースで走っていた。

photoだからセクションに到着すると、先に走ったライダーの減点がボードに記されている。それを見るでもなく見れば、自分の状態も、なんとなくわかる。「ファハルドに勝てれば、3位にはなれるのかな」と、藤波は思った。そして事実、そのとおりだった。ただ、終わってみて結果表を確認すれば、ファハルドの減点は、藤波が思っていたよりずっと多かった。こんなに点差をつけての3位とは、思っていなかった。

もちろん、試合途中の戦況は、チームが集計してデータを持っているが、藤波の戦い方の常で、そういう情報はシャットアウトしている。

2位にはなれなかった。そして2位には、ラガが入った。藤波と同点でランキング2位争いをしている相手だから、ここで2位に入られるのはよろしくない。ただ、この日の走りっぷりからして、ラガが2位に入るのは、これも予想通りだった。

3位。走りについては不満もあるが、しかし夏休みを前に、なんとかこらえきったという結果になった。悪くは、ない。

まずは今日のどころは、チームメイトであるトニー・ボウが、2010年のチャンピオンを決めたことがうれしい。それから、1ヶ月の夏休みをおいて、今度は藤波のランキング2位をかけての戦いとなる。残りは1戦。藤波の4年ぶりのランキング2位は、なるか!?

○藤波貴久のコメント

「あまり調子がいいとはいえない一日でしたが、最低限のラインには入ったと思います。前回、いい気分で夏休みに入りたいから、それだけの結果を残したいと言いましたが、そういう意味では、いい夏休みをすごすための、ぎりぎりの結果でした。でもポイントは2点差ですから、これで最終戦はラガとの一騎打ちです。トニーもチャンピオンになったので、最終戦はおまえのために走るから、と言ってくれています。いっしょに走って、攻略法の相談などの相手にはなってくれるはず。それだけでずいぶんと心強いですから、しっかり休んで、決戦に挑みたいと思います。とりあえず、生まれたばかりの娘の顔を見に、日本に帰ります」

2010 SPEA FIM Trial WorldChampionship
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 12
2位 アダム・ラガ ガスガス 18
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 26
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 43
5位 ジェイムス・ダビル ガスガス 43
6位 ドギー・ランプキン ベータ 44
7位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 49
8位 マテオ・グラタローラ シェルコ 53
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 185
2位 アダム・ラガ ガスガス 152
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 150
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 129
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 126
6位 ジェイムス・ダビル ガスガス 99
7位 ドギー・ランプキン ベータ 88
8位 ロリス・グビアン ガスガス 60