2010年 SPEA FIM 世界選手権第4戦・第5戦日本

2010年6月5〜6日/ツインリンクもてぎ(栃木県)

ぎりぎりで逃したふたつの表彰台

苦しい戦いだった。日本のファンのみんなの前で。大きな声援を受けて、1年で一番力を出せる本拠地。そして、一番力を発揮しなければいけない戦い。藤波貴久は全力で日本GPを戦った。しかし、土曜日はアダム・ラガと同点、クリーン数も同じ。1点の数の差で、表彰台争いが決した。日曜日は、ジェロニ・ファハルドが相手だった。今度は1点差。どちらも僅差での負け。藤波が表彰台を逃したのは、甲状腺疾患の影響をもろに受けた2006年以来。くやしい、母国での戦いだった。

【1日目土曜日・第4戦】

photoポルトガルで勝利していた藤波のスタートは一番。ラインのないところが多いもてぎのセクション群を走るには、一番スタートはたいへんな不利だ。第1セクションのような、乾いた岩のセクションなら、コンディションがしっかりしているし、スタート順の不利はそれほど大きくない。スペイン、ポルトガルの計3戦は、いずれもこんなしっかりしたコンディションの大会だった。もてぎは、切り開いたばかりの土の斜面が多くある。誰も走らない状態と、誰かが走った後では、トライアルのラインとしてのコンディションは、大きく変化する可能性がある。

もちろん、一番スタートの不利は、コンディションの問題だけではない。真っ先に走るから、その前には誰もいない。ジュニアの選手が前を走っていることもあるが、走るラインが異なるし、そのジュニアの選手も下位のグループだから、残念ながら藤波が参考にできることはほとんどない。対して藤波の後ろには、藤波の走りを最大限に盗み取って、自分の結果を優位につなごうというライバルがひしめいている。後ろに誰かがいれば、自分のラインは見られてしまうのだが、しかし二番手スタートのライダーは、三番手以降に走りを見られることはあるが、藤波の走りを見ることはできる。藤波は、まったくライバルから情報を得ることなく、戦いを進めていかなければいけない。

最初の失敗は第3セクションだった。藤波の失敗を見て、後続は1回足をついて着実にマシンを進めていった。第4セクションは、藤波の失敗を参考にしつつも、登れたのはファハルド一人だったから、こちらは不幸中の幸いだった。

実はここで、藤波はマシンを傷めてしまった。第4セクションで失敗して納得のいかない藤波は、ここを克服して次へ進もうと1分の持ち時間のあるうちにもう一度岩に挑戦。しかしここで同じように失敗して、しかも今度はマシンがもんどりうって下まで落ちてしまった。第5セクションで修理を始めるが、その修理に20分ほど費やしてしまった。

ふつうなら、ここで後続が藤波を抜いて先行するものだが、誰もトップを走りたくない。ボウやラガはもちろん、日本勢を含めても、誰も藤波を抜いていかない。結局マシントラブルから復帰しても、藤波はトップバッターでセクションインすることになった。5セクションから7セクションまで3連続クリーンは、そんな藤波の意地でもあった。このラップ、3連続クリーンをしたのは、藤波とボウだけだ。

続いて第8セクションは、去年は滑る泥が表面を覆って、難セクションだったところ。ここを藤波は手堅く3点で抜けていったが、ファハルドが2点、ボウが1点、ラガ、黒山とクリーン。ここも、藤波が一番でトライしたゆえの結果だったといえるかもしれない。

photo藤波の1ラップ目は、31点で3位だった。トップのボウは17点。ボウにはやや点差が開いた。2位のファハルドには5点差。4位のダビルには4点差。2位は狙える位置だ。

2ラップ目、連続5点となった第3、第4は1点と2点で切り抜けた。第8セクションも、今度は美しくクリーンして見せた。藤波の追い上げは、順調に進んでいるように見えた。

鬼門は、後半の岩盤ゾーンだった。12セクションの最後の絶壁を登れずに5点、続く14も3点。勝てなかったときの藤波は、ここで失敗することが多い。今回もまた、そのジンクスがあたってしまった。

最終セクション、藤波はチームから戦況を聞いた。ボウとファハルドはまだゴールしていなかったが、彼らには届かないことが、この時点でわかっていた。雨を予測してか、藤波を抜いて先にトライしたラガは、2ラップ目に絶好調で、藤波に5点差まで迫っていた。藤波にすれば、5点を取らなければラガの上位に出られることもわかっていた。

photoそして最終セクションにトライ。水の流れる最後の壁へは、右のラインからトライした。これは、1ラップ目に選んで1点で抜けたラインだが、これがうまくなかった。ちょうど、藤波が最後のポイントにさしかかったところで、猛烈な雨が降ってきた。水の流れるセクションだから、この雨はそんなに影響はなかったと思えるが、それでもライダーの気持ちを多少は揺さぶってくれたかもしれない。ここにはもう一本別のラインがあって、ここを抜けたライダーのほとんどは、そちらのラインからセクションを攻略していったのだった。藤波、5点。

5点となったところで、藤波は表彰台を失ったのを実感した。ラガとは同点なので、もしかしたらの可能性もあったが、結果はクリーン数も同じ、1点の数の勝負で、3位表彰台はラガの手に渡っていった。

【2日目日曜日・第5戦】

くやしい戦いから一夜明け、しかしいつまでもくやしがってもいられない。マシンを完璧に仕上げ、気持ちを完全に入れ替えて、4番手スタートの利点を最大限に生かして、今日の日を戦わなければいけない。

photo土曜日、試合の後、ボウとの雑談の中で、藤波はボウにほめられたという。いわく、今年3戦連続でボウはトップバッターで走ってきた。今回初めて4番手スタートをして、トップスタートがこんなにたいへんなものだとは思わなかった。しかもトップスタートが特にハンディとなるだろうもてぎで、あれだけの走りをしたのは脱帽だ、というわけだ。確かに、藤波の直後でスタートしたカベスタニーは、土曜日に7位に低迷している。

ボウは、この日一番スタート。ボウは土曜日の試合後の記者会見で、セクションは中盤クリーンしやすかった、と語っている。第6セクション、ハローウッズの庭ゾーンから、第9セクション、ハローウッズの森ゾーンにかけてだ。しかしこの日、ボウはここで2連続5点を取ってしまった。

この日、朝から乗れていたのは、ラガだった。1ラップ目、藤波には全部で5つの5点があった。ちょっととりすぎだが、ファハルド、カベスタニーも5つの5点を取っている。土曜日とちがって、雲ひとつないいいお天気だったが、それでもセクションの難度はそれほど変わらなかった。ワイルドカードで参加の日本勢は、全部で30のセクションのうち、ひとつ抜けられたかふたつ抜けられたか、という戦いを繰り広げている。

1ラップ目の藤波は、第6セクションで5点となった。ラガは1点をついたが、ボウ、ファハルドとクリーンしているセクションである。藤波も、予定通り、マインダーのジョセップのライン指示通りにマシンを進めた。しかし登れず。ここと信じたラインの岩が、がらがらと崩れたがための失敗だった。すべて完璧に進め、指示の通りにマシンを走らせ、それで5点になったのだから、藤波のくやしさは爆発した。第7セクションに到着したとき、ジョセップは藤波に平常心を取り戻させるのに必死。しかし藤波も、そのへんは充分にわかっている。ひとしきりくやしさを発散させたあとは、確実に第7セクションをクリーンしていった。

photo藤波の1ラップ目の減点は32点。これはラガの12点、ボウの21点、ファハルド、カベスタニーの31点に続く、5位にあたる。このままでは、終われない。そして少なくとも、表彰台の一角を獲得する必要がある。

2ラップ目の藤波は、とても集中力よく戦っていた。11セクションは、誰も彼もが登れなかった難所だから、ここの5点はそれほど大きな痛手でもなかったはずだが、しかしそこを、ラガとファハルドは登っていった。特に2ラップ目、ファハルドに1点で登られたのは、藤波には痛かった。

ゴール近くになって、すでにラガとボウには手が届かないことはわかっていた。表彰台争いのライバルは、ファハルドとカベスタニーだった。2日間の仕上げの15セクション。1ラップ目は、ここで失敗して5点となっている。最後の最後にここをクリーンして、藤波の2日間の戦いは終わった。

藤波の減点47点。カベスタニーは49点だったが、ファハルドは46点。僅差の戦いの末、ファハルドが表彰台を獲得、藤波は2日間続けて4位ということになった。

5戦終わって、優勝が1回、4位が4回。今年はむずかしい戦いを余儀なくされている藤波である。

次の戦いはイギリス。6月26日・27日、スコティッシュ6日間トライアルが開催されているフォートウィリアムでの開催となる。

○藤波貴久のコメント

「ほんとうに、ほんとうにくやしい戦いとなってしまいました。日本のファンの皆さんに、もうしわけない。たくさん応援を受けて、力をいっぱいもらったのに、こんな結果です。今年はスタート順が変わって、前回勝利したライダーにはものすごく不利な状況になっています。採点の解釈もちょっと厳しくなって、ぼくにすれば、過去いちばん厳しい採点を受けたという印象もあります。採点は厳正なものですが、それでこちらの集中力にも影響があったような気がします。でも、とにもかくにも、なさけないです。1日目の最終セクションはラインミスでした。岩盤での失敗は、あそこはちょっと苦手意識もあるのですが、そういったちょっとしたマイナス要素が、すべて悪いほうの結果につながっています。今回はほんとうにプレッシャーも大きかった。このくやしさ、そのまま次の戦いにもちこみます」

2010 SPEA FIM Trial WorldChampionship
土曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 31
2位 ジェロニ・ファハルド ベータ 44
3位 アダム・ラガ ガスガス 56 (1点6)
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 56 (1点4)
5位 黒山健一 ヤマハ 72
6位 ジェイムス・ダビル ガスガス 74
7位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 81
8位 小川友幸 ホンダ 98
日曜日
1位 アダム・ラガ ガスガス 31
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 35
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 46
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 47
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 49
6位 ジェイムス・ダビル ガスガス 58
7位 黒山健一 ヤマハ 60
8位 ロリス・グビアン ガスガス 74
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 90
2位 アダム・ラガ ガスガス 82
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 72
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 66
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 65
6位 ジェイムス・ダビル ガスガス 50
7位 ロリス・グビアン ガスガス 32
8位 ドギー・ランプキン ベータ 30