2010年 SPEA FIM 世界選手権第2戦ポルトガル

2010年4月24〜25日/パコス・デ・フェレイラ

2年ぶり!! 優勝の日曜日!

photo勝った。勝てた。今シーズン初めての表彰台に立った。ただの表彰台ではない。ど真ん中だ。

ポルトガル大会のセクションは、全体的に簡単な設定だった。金曜日に下見をした時点で、強烈な神経戦になることは明らかだったから、ライダーはみなセクションの設定変更を申し入れた。同時に、長すぎて1分では走れないセクション長の見直しも提言。2戦続けて、主催者が用意したセクションは誰にとっても不可能、という申し入れをしなければいけなかった。こんなセクションならポルトガル大会はボイコットする、今後に改善が見られないなら、日本に行くのはやめよう、というライダーの声もあり、しばらくはFIMとの間で話し合いが続きそうだ。

今年のルールでは、トライ前には下見ができない(正確には、セクションに入ることができない)。金曜日の夜にセクションが変更になっているから、朝8時半から下見が許されることになった。そしてこの下見で、ライダーもこれならなんとか試合になるだろうと認めるところになった。

一番スタートは、スペイン大会で勝利したボウ。続いてラガ、ファハルド、そして藤波と続いていく。ボウは再び、誰も走っていないセクションに挑む苦労を背負い込むことになったが、ただボウにとって幸いだったのは、ポルトガルのこの会場は完璧に乾いた岩場ばかりで、ラインができていないから走りにくいというような状況ではなかったことだ。

ボウは第1セクションから、クリーンの山を築いていく。ラガは、しかし藤波の前で、2セクションから4セクションまでで、続けて1回ずつ足が出ている。セクションは全体的には簡単だが、簡単とはいえ、時間がなくなれば5点になってしまうし、細かいミスを完璧に消し去ることはできない。

藤波は第4セクションで1点をとると、次の第5セクションで3点を失った。この第5セクションは、最後に大岩が控えていた。あとからスタートした多くのライダーは、この岩を迂回して回り込むラインをとっていたのだが、藤波にはこの岩は大きな障害には見えなかった。ボウもクリーンしていったし、ラガもクリーンした。それで藤波も迷うことなく、まっすぐ向かっていった。手前の部分で1点ついてしまっていたが、その1点のみで抜けられるはずだったが、登ったところで引っかかってしまった。それで両足をついて、引き上げた。

その後の藤波は、好調を維持した。11セクションで1点を失ったが、この1点はそれほど大きなミスとは言えない。ボウがクリーンを続けている以上、その上を狙うには足を出してはいけないのだが、30セクションもトライアルをしている以上、防ぎようのない足つきはあるものだ。

1ラップ目、トータルで藤波の減点は5点。ボウは、結局15セクション全部をクリーンしてしまったから、0点。このセクション難度で5点差は大きいが、それでも藤波は2位につけていた。3位は藤波と同点のファハルド(クリーンがひとつ少ない)。4位はダビルで6点。カベスタニーが7点、ラガが9点と続いている。1点を争う展開なのはまちがいないが、ボウとて、ひとつの5点が命取りになる可能性はある。神経戦の2ラップ目が始まった。

ボウは、開幕戦に続いて、ライバルに自分の走りを見せないように、早いペースで試合を進めていた。開幕戦ではボウを追いかけてペースを上げていった藤波だが、今回はボウが急ぐまま、自分のペースで淡々と走った。むずかしいところと簡単なところがはっきりしているセクション設定だったから、ボウを先に行かせても、むずかしいところでは攻略法を考えてしばらく待ちにはいるので、追いつくことができた。

そして第5セクション。1ラップ目にクリーンはできなかったが、藤波には大岩への正面突破以外の策は、まったく見えていなかった。大岩を迂回するラインは時間がかかりそうだったし、いくつかの岩をぽこんぽこんと越えていくパターンは、どちらかというと藤波の苦手パターンで、それで敬遠したという心理も働いた。

ところがこれが大失敗。まったく登れずに、叩き落ちた。ジョセップが最後までマシンを押さえてくれたから、被害は最小限ですんだのだが、それでもハンドルを曲げレバーも曲がった。ちょっと、とんでもない事態になってしまった。

あとから結果表を見れば、このセクション、5点になっているライダーがいないではないが、それでもけっこう下位のライダーまで、クリーンや1点で抜けているではないか。藤波が敬遠した迂回ラインも、走ってみればなんということはないラインだったようだ。スタートオーダーの罠にはまった。これが、今大会の藤波の、敗因となった。

このあと、11セクションでも藤波は足を出した。ここも大きなステアがあって、ここを登りきれずに足を出して引き上げたのだ。あまりにもドライのコンディションの中、クラッチのタッチが、藤波が本来望む状態と少しちがってきていた。それが、大岩に挑むタイミングに、微妙なずれを生じさせているようだった。コンディションが、もっと湿った状態だったら、あるいは気にならなかった程度のものかもしれない。ここまではっきりしたドライコンディションだから、明らかになってきたマシンセッティングでもあった。この点は、試合後に徹底的に調整をした。2日制の大会は、ひきずると被害が大きいが、こういった対策ができるという点で、いいところもある。

12セクション以降は、セクションはいたって簡単だった。上位7人のリザルトを見ると、ここで足をついているライダーは誰もいない。すべては、11セクションまでで決着がついてしまっていた。藤波がゴールすると、そこにはオールクリーンを達成したボウがいたし、2ラップ目に1点の好スコアをマークしたラガがいた。そして間もなく、これまた1点で2ラップ目を終えてきたカベスタニーがゴールしてきた。これで、藤波は4位となった。1ラップ目の2位から後退、そして再び、表彰台圏外への脱落だ。

しかし藤波には、それなりの満足感があった。もちろん4位はちっともうれしくない。2位になれた大会でもあったから、この結果は深刻に受け止めなければいけない。しかし同時に、第5セクションの5点のあと、これまたそこそこ難度の高い第6セクションを冷静に走って、きちんとクリーンができたのは、5点を引きずらずに走れたという自信につながっていた。ファハルドの結果表を見ると、第5で5点となったあと、続いて第6でも5点となっている。これが、ファハルドを1ラップ目の3位から7位まで転落させた。

結果的には、2位から4位に転落したという展開は開幕戦とまったく同じだったが、焦ってしまって自分からミスを誘い込んだ開幕戦とちがって、今回は自分のトライアルをして、その結果の失敗だった。結果は同じでも、内容的には大きくちがう。そういう点では、藤波は翌日の試合を、楽しみにしてるところがあった。

【日曜日】

photoスタート順は、前日オールクリーンで優勝したボウが一番。次にカベスタニー、ラガ、四番目に藤波。セクションは、5つほどで手直しがおこなわれていて、全体的に難度を増していた。といっても、カードの位置が少し移動していたり、助走距離が短くなっていたり、きっかけがなくなっていたりという変更がほとんどで、セクションががらりと変わったのは第9セクション、ひとつだけだった。この日の朝も、土曜日と同様、朝の1時間ちょっとの間、下見が許された。下見をして、ウォーミングアップをして、スターにに出向く。スタート前のライダーも、なかなか忙しい。

藤波は、第3セクションで、ボウが1点つくのを確認した。ここは、ダム型ステアがポイントで、その助走が短くなっていた。ボウと同じところで、藤波も1点。第4セクションは、斜めから飛ぶポイントがある。その飛距離を、この日は前日よりもう30cmから40cm、延ばさなければ届かなくなっていた。ここでは、カベスタニーが1点をついた。

1点を争う、もしかしたらオールクリーンが出てしまうかもしれない神経戦であることは、きのうと変わらない。今日はしかし、この時点でオーククリーンを続けているのは、ラガだけになった。

第5セクションは、少し長くなっていた。けれど藤波は、きのうの失敗を繰り返したりはしない。正面突破ではなく、回り込むラインでクリーンした。続く第6で、ラガが5点になった。これでオールクリーンはいなくなった。

下見をした時点では、それなりにむずかしくなっているという判断ができた。オールクリーンは不可能ではないが、オールクリーンなどというものは、実際にはそうそう簡単ではない。いろんな不運やミスがあって、それで勝負が決まるのがトライアルだ。きのうはオールクリーンをしたボウだったが、そうそう2日ともうまくいくわけがない。今日の優勝スコアは何点か、あるいは10点くらいになるのかと、藤波は考えていた。

大きく変わっていたのは第9セクション。ここはラインやゲートの移動ではなく、がらりと変わっていて、むずかしくなっていた。ここでボウが、斜めから岩に飛びついてエンジンをあてて叩き落ちた。藤波は確実に1点をつきにいって、1点で抜け出した。ラガやカベスタニーも、同じように1点で抜けた。確実に足をつくといっても、それでも、1点でここを抜けられたのは「やったー!」と声を出してしまうくらいの達成感があった。あとで結果表を見て、けっこう下位のライダーまでが、みな1点でここを抜けていたのを見て、ちょっと拍子抜けしたのだが、それは試合が終わった後の話だ。

ボウが5点になって、5点のないのは藤波とカベスタニーだけになった。カベスタニーは第9で予定通り1点を取った他、第4で1点を取っている。ここまでは、藤波と同点だ。その後藤波は、11セクションで1点を失った。これはささいなミスだった。セクションの最後に、きのう減点を喫したむずかしいポイントが用意されているのだが、藤波が足をついたのそのはるか手前の、ジュニアクラスも通過しているところだった。これで藤波は3点、カベスタニーは2点。1ラップが終わったところで、3位はラガとボウの6点。わずかな点差、しかし大差。優勝争いは、藤波とカベスタニーに絞られてきた。

パドックで急ぎマシンの調整して第1セクションに向かうと、カベスタニーがいた。すでにボウやラガは先行している。藤波は、ここでカベスタニーに先行しようと考えた。今日の展開だと、同点で競技時間を競うことになる可能性も大だ。そうなったら、ライバルより少しでも早くゴールする必要がある。

カベスタニーを抜き、第1セクションをクリーン。この頃は、まだラガやボウの姿も追えていたのだが、第5セクションあたりで、完全に見えなくなった。カベスタニーも、追いかけてくる気配がない。前後に誰もいない状態でのトライとなった。淡々と、自分のトライアルを続けていく。

情報がはいった。カベスタニーが第3セクションで1点をついたという。これで藤波と同点になった。第9セクションは、1ラップ目と同じく1点をついた。カベスタニーも1点をついて、確実な線を狙うだろう。同点なら、先行している藤波が勝ちを握る。9セクションで1点をついたあと、11セクションまでをクリーンしたところで、藤波には勝利の確信があった。勝負は最後の最後まで分からないとは言いつつ、この日の12セクション以降は、絶対の自信を持ってトライできるほどに、簡単なものだったのだ。

藤波の集中力は、完璧だったといっていい。ときおり冗談を交わしながら、試合中のオンとオフをきちんと使い分けて、セクションを進んでいた。藤波自身は落ち着いて試合を進められていたが、しかしマインダーのジョセップは、どうも2年ぶりの優勝を目前にして、いささかナーバスになっていたようだ。藤波には、そんなジョセップの顔色をうかがう余裕もあった。

12からの4セクションをぽんぽんとクリーンして、藤波のゴール時間は3時間16分。ボウが3時間6分、ラガが3時間8分でゴールしていたが、彼らはそれぞれ8点と11点の減点があり、今日の藤波の敵ではなかった。先にスタートしたカベスタニーは、藤波のゴールしたときにまだ帰っていなかったから、これで藤波の勝利は確定した。カベスタニーが10セクションでもう1点ついて、時間とは関係なく藤波の勝利を決定づけていたというのは、カベスタニーがゴールしてから、初めて知った。

photo2年ぶりの勝利。しかし同時に、今回の勝利は、次のもてぎで第一ライダーとしてスタートすることを意味する。「おめでとう」と声をかけてきたボウも、その後次々に祝福に来るライバルたちも二言目には「もてぎでは一番スタートだね」と付け加えるのを忘れなかった。ふかふかの大地が多いもてぎでは、先にスタートするハンディは大きい。優勝して、一番スタートにならなくてよかった、というのは、ライバルたちの、共通する負け惜しみだ。

今回の優勝で、藤波はランキング3位に浮上。藤波自身はまだポイントランキングのことはまったく考えていないが、藤波はランキング2位のラガに1点差、4位のカベスタニーとも1点差。そしてトップのボウとは7点差。シーズンはまだまだ始まったばかりだが、おもしろい展開が期待できそうだ。

photo次は日本。真っ先にスタートするフジガスに、乞うご期待!

○藤波貴久のコメント

「勝ちました! 土曜日は4位でしたけど、自分のペースで、周囲を見ながらトライができていたという点では、2日間を通じていい戦いが出来ていたと思います。もてぎまでに1勝しておきたいというのが目標だったので、これで目標をひとつクリアできました。あとはもてぎで。ふたつ勝ちたいと、大きなことは言いません。どっちかひとつで勝ちたいと思います。今回のようなコンディションとちがって、もてぎの一番スタートは本当に不利になります。最後のセクションで、1回足ついておこうかなと思ったくらい。でも、日本での2戦、それからイギリスの2戦と、これから大事な戦いが続きます。ポルトガルは単身ででかけたので、夢奈を表彰台にあげられませんでした。それは、日本で実現させます!」

2010 SPEA FIM Trial WorldChampionship
土曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 0
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 8
3位 アダム・ラガ ガスガス 10
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 11
5位 ジェイムス・ダビル ガスガス 14
6位 ドギー・ランプキン ベータ 16
7位 ジェロニ・ファハルド ベータ 16
8位 ロリス・グビアン ガスガス 23
日曜日
1位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 4
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 5
3位 アダム・ラガ ガスガス 10
4位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 11
5位 ドギー・ランプキン ベータ 11
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 14
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 19
8位 ロリス・グビアン ガスガス 25
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 53
2位 アダム・ラガ ガスガス 47
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 46
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 45
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 34
6位 ドギー・ランプキン ベータ 30
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 30
8位 ダニエル・オリベラス シェルコ 23