2010年 インドア世界選手権第5戦マヨルカ(スペイン)

2010年3月27日/Palma de Mallorca

痛みと怒り。不運はこれで封印だ

photo3戦続くスペインでの世界選手権。最終戦は、地中海の観光島マヨルカでの一戦となった。今回はいつものメンバーの8人のみが参加している。

前回負傷してしまったマインダーのジョセップは、ひじの靭帯を損傷してしまったので今回はお休み。今回のマインダーはセカンドマインダーのカルロスが務めることになった。

クォリファイは、まずいつものように、順調にこなしていった。4つのセクションを走って、ボウがオールクリーン、カベスタニーが1点、ラガが2点。そこを5点で走り終えた。ダビルが同点となったので、同点決勝をおこない、藤波がクリーン、ダビルが5点。藤波のセミファイナル進出が決まった。

しかしここで、藤波はちょっとした負傷を負った。唯一の減点が第2セクションでの5点だったが、このクラッシュの際、左手の中指を強く打ってしまった。クラッチを操作するのは人さし指だが、中指はいつもハンドルを握っている。なのでハンドルとクラッチレバーに挟まれるかたちとなることがけっこう多い。このところ、3週連続でそういうアクシデントがあって、中指もたいがい悲鳴を上げていたところだったのだが、これにとどめをさしてしまったという感じだ。

photoクォリファイからセミファイナルまでは2時間ほどのインターバルがある。その間患部をじっくり氷で冷やしたのだが、しかし痛みも腫れも引かない。そればかりか、腫れはますますひどくなってくる。乗れないことはないが、かなり我慢のライディングとなってしまう予感はあった。

痛みに耐えてのセミファイナル。ここは3セクションとダブルレーン。ラストチャンスでは、予定通りファハルドとダビルがあがってきた。

最初のセクションで、藤波とラガとカベスタニーが1点をついた。次の第2セクションではカベスタニーとボウがクリーンした以外は、全員5点。3セクション目は、ファハルドがタイムオーバーの1点、ラガが足つき減点の1点を取った以外は全員クリーン。ということで、ボウが0点、カベスタニー1点、ダビルが5点、ファハルドと藤波が6点で、ラガが7点というオーダーになった。ファイナルに進めるのは4人だから、ボウとカベスタニーのファイナル進出は確実。残る二つの席は、4人の誰にもチャンスがあった。最後のダブルレーンが勝負だ。

ダブルレーンは、ボウと藤波、カベスタニーとダビル、ラガとファハルドの組み合わせとなった。最初にボウと藤波の勝負、2番目がカベスタニー立ち、最後がラガとファハルドの勝負という順番だ。

photo藤波がボウとの勝負に勝てば、ボウはこの日初めての減点をとることになるが、それでもファイナルには進出できる。そしてボウは、ライバルのカベスタニーが優勝したとしても、4位以内に入ればタイトルが決まる計算だった。つまりファイナルに進出が決まった時点で、チャンピオンは決まるのだ。逆に藤波にすれば、ここでボウに勝てば藤波のセミファイナルでの減点は6点。ファハルドがラガとの勝負に勝ったとしても6点で同点。その場合はクォリファイ上位の者が優位なので、藤波のファイナル進出が決まる。逆にラガがファハルドに勝利すれば、二人のポイントは7点で同点。藤波はこのふたりに1点差をつけてファイナルに進むことになる。

ボウはボウで、このダブルレーンで藤波と勝負しようとは思っていなかったようだ。勝負をして5点になったら、その5点は成績に加算される。負けても、確実にクリーンで走れば減点1だけですむ。ところが。

監督が、ボウを行かせろ、と言ってきた。なぜ? ボウはここで5点になってもファイナルには進出できる。タイトル獲得にはなんの問題もない。5点を取ったらこの日の勝利がどうなるかわからないが、藤波にダブルレーンの勝ちを譲ったくらいでは、ボウの優位は揺るぎないはずだ。逆に藤波は、ここでボウに勝たなければ、ファイナル進出はあり得ないのだ。

photoそれでもボウを先に行かせろと、監督は言い張る。意味が分からない。監督がこんなことを言うのだとボウに相談してみる。ボウは「かまわない。いつものようにやろう」と言う。それが二人のやり方だった。

今まで、藤波はチームから指示があって自分の成績を左右されるという場面に遭遇したことがない。チームメイトのタイトルが決まる大事な大会だから、そっちを優先させるぞ、というチーム内の確認があることはあったが、だからといって、藤波に具体的な指示が出ることはなかったし、それで藤波の成績が動くこともなかった。しかし今回は、この指示で藤波はファイナル進出を逃すのだ。

もやもやしたままダブルレーンをスタート。ボウが遅い。藤波が折り返し地点についたとき、ボウはまだコースの半分も走っていなかった。藤波は急いで走っているわけでもなかったが、ボウが慎重にゆっくり走っているのだ。無線を通して「どうすりゃいいのだ?」と問いかける。無線を通して監督から「ボウを勝たせろ」の返事が返ってくる。

そんなことをしているうちに、藤波はゴールラインに迫ってしまっていた。しかたないので、ゴールラインを目前に藤波は止まった。そしてボウが不思議そうに抜いていくのを確認して、ゴールした。

photoこれで藤波の減点はトータルで7点。その後、ファハルドとラガの勝負はファハルドが勝った。ここでラガが勝てば、藤波とラガ、ファハルドが7点の同点で並ぶことになるが、その場合はクォリファイの成績が上位のラガがファイナルに進出する。いずれにしても、ボウに勝ちを譲ったところで、藤波のファイナル進出はなかった。

ボウはファイナルで減点6。2位のカベスタニーに6点差をつけて勝利して、4回目のインドア世界チャンピオンを獲得した。藤波は5位。そしてランキングは6位となった。もし藤波がファイナルを走っていれば、ライバルはボウとカベスタニーとダビル。このうちの一人を破れば表彰台に上れたのだから、その可能性は少なくなかったはずだ。そんなことを考えているうち、痛いはずの指のことは、すっかり忘れていた。

○藤波貴久のコメント

「なんとももやもやした、怒りのおさまらない、納得がいかない幕切れとなりました。ボウのタイトル獲得が至上命令だったのだけど、ダブルレーンでぼくがボウに勝って、万が一にもボウのタイトルに赤信号がついてはいけないという思いだったようですが、どう計算してもそうはならない。終わってから、まちがえた、と言われたんですが、今ごろ言われても……という感じです。このインドアシーズンは本当に不運続きでしたが、この不運も3月でおしまい、今年のアンラッキー、よくないことは、ここまでで全部出尽くしたと思って、アウトドアのシーズンを迎えたいと思います」

Indoor Trial WorldChampionship 2010
Mallorca
Final Lap
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 6
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 12
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 15
4位 ジェイムス・ダビル ガスガス 20
Semi Final(準決勝)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 0
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 2
3位 ジェイムス・ダビル ガスガス 5
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 6
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 7
6位 アダム・ラガ ガスガス 8
Qualificarion Lap(予選)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 0
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 1
3位 アダム・ラガ ガスガス 2
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 5
5位 ジェイムス・ダビル ガスガス 5
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 10
7位 アレックス・ウイグ ベータ 11
8位 ロリス・グビアン ガスガス 15
PointStandings(ランキング)
1位 トニー・ボウ 95
2位 アルベルト・カベスタニー 77
3位 アダム・ラガ 45
4位 ジェイムス・ダビル 44
5位 ジェロニ・ファハルド 42
6位 藤波貴久 29