バルセロナ大会に続いてスペインでのインドア世界選手権。今回はシリーズ4戦目だが、残りはマヨルカ大会の最終戦のみとなった。マヨルカもまたスペイン国内だから、終盤3戦はいずれもスペインでの戦いとなっている。
今回はまた、不思議な運用での試合形態となった。テレビ中継のないクォリファイ(日本語では予選と訳されることが多い。藤波は1ラップ目と呼ぶ)は5つのセクションが用意されていた。しかしこのうち、3つはお客さんが入場する前に行われていて、残る2つを、お客さんがはいった会場でおこなわれるタイムスケジュール。お客さんとしては、会場にはいった時点で、すでに各ライダーに減点が加えられたスコアボードを見ることになった。そして最初の3つをトライしてから次の2セクションまで、2時間ほどのインターバルがあった。ライダーとしては、ちょっとやりにくいスケジュールだ。
この、お客さんがいない3つのセクションで、藤波の減点は7。ボウがオールクリーン、ラガが1点、カベスタニー5点、ファハルド6点で、セミファイナル通過の4つの席は、カベスタニーとファハルド、そして藤波の3人によって争われることになった。
お客さんがはいっての残りの二つ、藤波は二つともクリーンして、残るライダーのトライを待った。藤波の次、ファハルドは最後のセクションで減点1。残るカベスタニー、ラガ、ボウは二つともクリーンして、この3人のセミファイナル進出は決定。残るひとつの席は、7点で同点のファハルドと藤波の間で決定戦が行われた。
同点決定戦は、ひとつのセクションを二人で走って勝敗を決する。このセクションが、ふつうに走ったらクリーンするレベルの設定だった。二人ともクリーンしたら、勝負はタイム競争になる。藤波はタイムでファハルドに勝つべく、スピーディにトライしていった。ところがこの結果、藤波は最後のポイントで5点になってしまった。藤波の5点を見てからトライしたファハルドは、順当に足をついて2点でこのセクションを走りきり、セミファイナル進出の切符を手に入れた。同点決定戦を走るくじ運も、インドアでは大いに勝負に影響を与えることになる。
ラストチャンスを走ることになった藤波は、ここでは順当に勝ち残ってセミファイナルに進む。点数を見ると、ラストチャンスの1位はダビルで5点。藤波はゴメスと同点の8点となっている。同点の場合はクォリファイの成績順で結果が出るから、同点で藤波のセミファイナル進出が決まることになっていた。ラストチャンスはダブルレーンひとつとオブザーブドセクションがふたつ。ゴメスはダブルレーンでダビルに勝利。オブザーブドセクションの一つ目で減点2、タイムオーバー1点。藤波は減点1、タイムオーバー2点で同点。そしてふたつめでゴメスが5点となったので、この時点で藤波は二つ目のセクションを5点となってもセミファイナルは決定することになった。
藤波は二つ目のセクションで5点となったが、実はこれは、5点覚悟のお客さんへのアピールだった。藤波のアクションに、ギャラリーは大喜び。そして藤波は、6位でセミファイナルに進出することになった。
6位だから、セミファイナルを走るのは一番先頭だ。最初のセクションでは、飛び降りで1回足をついた。ここはダビルが5点となった他は、4人のスペイン勢は全員クリーンだった。続くセクションはボウが1点となった以外全員5点。3つ目のセクション。ここはオンタイムで走るのがむずかしいセクションだった。オンタイムでクリーンしたのはボウのみ。スペイン勢の他3人はタイムオーバー1点ずつ。ダビルは5点。藤波は、2点のタイムオーバーとなった。
このタイムオーバーには、わけがあった。実はクォリファイの時、藤波のパートナーであるジョセップが、藤波のマシンをつかむ際にひじを伸ばしてしまってサポートができなくなってしまった。インドアでは、セカンドマインダーのカルロスは来ていない。そこで藤波は、ボウのセカンドマインダーであるジョアン・マリンを急きょマインダーに起用した。ジョアンはボウのセカンドマインダーであると同時に、モンテッサのトラックの運転手さんなので、インドアではマインダー業はしないけれど、会場には来ていたのだった。
しかしジョアンは、アウトドアではボウのマインダーをやっているが、インドアでのマインダーはやったことがない。お助けは(多少呼吸の取り方がちがうにしても)、マシンをつかむというところではボウも藤波も同じだが、アウトドアとインドアでは、タイムの読み方にもちがいがある。
アウトドアは(昨年までは)ひとつのセクションの持ち時間が1分半だ。1分半を過ぎると、問答無用で5点となる。ところがインドアでは、1分の持ち時間を過ぎると、30秒おきに1点の減点が加えられる。ちなみに藤波は、1分35秒でタイムペナルティ2点を課せられたのだった。
急いで走っての1分35秒ではなかった。ジョアンがタイムを読めなくなってしまったのだ。というのも、アウトドアでは、持ち時間を使い果たしてしまったら、それ以上タイムを読む必要はない。5点になってしまうからだ。インドアでは、1分を過ぎたら、次は1分半以内に走ることを目標にすべきなのだが、インドアのサポートに慣れていない彼は、1分を過ぎたところでどうしていいかわからなくなってしまったようだ。
タイムがよく分からないままに、藤波は1分35秒かけてクリーンをして、トータル減点は8点。このあとダブルレーンでカベスタニーとファハルドが1点ずつ減点を増やし、カベスタニー、ファハルドの減点は7。あと5秒セクション走破タイムが速くて藤波の減点が7点だったら、3人が減点7で並ぶことになり、タイブレイクがおこなわれていたはずだった。そうしたらまた、結果はまたちがったものになっていたかもしれないのだ。
しかし事実は、1ポイントの差で、藤波はダブルレーンを前に、ファイナル進出の道が断たれていた。藤波の仕事は、もはや成績をあげることではなく、お客さんを喜ばせることだった。ダブルレーンのスピードレースで、藤波は誰も飛ぼうとしなかったテーブルトップ状のポイントをただ一人飛んで、やんやの喝采を受けた。この喝采が、藤波のライディングへの表彰だった。
「ライディングの調子は決して悪くはないのですが、成績は悪かったですね。今年のインドアのルールには本当に翻弄されてしまっています。そういうたら・ればは禁句なのですが、こう毎回だと、さすがにくやしい。トライ順が逆だったら、あと5秒早く走っていればと思ってしまいます。でもラストチャンスとセミファイナルで、お客さんに喜んでもらえたので、それが今回の大きな収穫です。次回、最終戦はぜひ成績の方で、ぼく自身が喜びたいです」
Final Lap | |||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 4 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 7 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 9 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 14 |
Semi Final(準決勝) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 2 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 6 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 7 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 7 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 8 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 15 |
Last Chance(敗者復活戦) | |||
1位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 5 |
2位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 8 |
3位 | アルフレッド・ゴメス | モンテッサ | 8 |
4位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 11 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 0 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 1 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 5 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 7 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 7 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 10 |
7位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 18 |
8位 | アルフレッド・ゴメス | モンテッサ | 20 |
9位 | アレックス・ウイグ | ベータ | 25 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 75 | |
2位 | アルベルト・カベスタニー | 62 | |
3位 | アダム・ラガ | 40 | |
4位 | ジェイムス・ダビル | 35 | |
5位 | ジェロニ・ファハルド | 30 | |
6位 | 藤波貴久 | 23 |