2009年 SPEA FIM 世界選手権第10戦 スペインGP

2009年9月6日/Tona

楽しいトライアル復活で2位をゲット

photo 前回アンドラでは、本当に苦しい戦いを強いられた藤波貴久。長い夏休みの間にマシンも気持ちもリフレッシュして、スペイン大会を迎えた。とにもかくにも、今回は前回果たせなかった「楽しく乗ること、楽しいトライアルを心がけること」を実現させるのが、目標だ。

前回が4位だったから、今回のスタート順は、トップライダーの中では最も早い。藤波の後ろにボウ、ラガ、ファハルドと続き、藤波の前にはカベスタニーがいるくらいだ。しかもこの日のカベスタニーは、なぜかペースがとても早かった。なのでカベスタニーのトライをみることもなく、藤波の前にはダビルやランプキンがトライすることになった。正直なところ、藤波にとっては、彼らのトライはあまり参考にならない。といって、スタートの遅いぼうやラガのトライを待っているわけにもいかない。

こういった状況では、戦況を把握して戦うのも、あまり意味がない。○セクションで誰それが何点だった、と報告を受けても、その時点では藤波はそのセクションを走り終えているから、結果がよくても悪くてもどうしようもない。藤波よりあとを走るライダーにとっては、藤波が5点だったから、ここは手堅く足をついていこうとか、藤波がクリーンしたから、ここはせめて1点で抜けなければ……、などと作戦が立てられる。スタート順で、戦い方も変わってくる。

もともと藤波は、戦況を把握して戦うタイプではない。チームもそれをわかっていて、藤波が聞かない限り、点数を教えてくることはない。今回は特に、意識して途中の経過をまったく聞かずに試合を進めた。だからチームも、そんな藤波の戦い方と気持ちを理解して、点数は教えてこない。

途中、第9セクション(結局このセクションは全員が5点になったのだが、藤波が最初にトライした時点では、もちろんそんなことはわからない)で5点となったときも、シレラ監督は「ここでの5点は大きな影響になっていない、まだ大丈夫だから、落ち込むことなくがんばれ」というようなアドバイスを送ってきた。ボウが何点だから、ラガが何点だからという情報は胸にしまったままのアドバイスだ。

photo情報がなくても、藤波は自分のコンディションが、悪くないことは感じていた。ライバルの動向にあわせなくても、自分の調子がよければ優勝はついてくるという実感はあった。そしてなにかミスをすれば、優勝のチャンスはその分だけ遠のいていく。自分がミスなく実力を発揮できれば、それがもっともいい結果を生むのだと、最近の藤波は悟っている。だから藤波のトライアルは、自然体で楽しげだ。

今回のセクションは、たったひとつだけ小川の流れる湿ったものがあったが、あとはすべてきれいにドライばかり。いかにもスペインというタイプのセクション設定だった。トップライダーの中では、誰よりも先にトライするのが藤波だから、今回の藤波は「誰も抜けられていないセクションを最初にクリーンしたライダー」になることも少なくなかった。

「ひょっとすると1位を走っているのかな?」

途中、そんなふうに考えたこともある。というのも、下見をしている藤波に追いついてくるボウが、そこここで走り方を聞いてくる。ここはどっちから行くのか、ギヤは何速を使うのか? 等々。聞かれたことは素直に答えながら、藤波は思った。

「今日のボウは、もしかすると調子が悪いのか?」

実際には、ボウはいつもの通りの調子を保っていたのだが、そんなふうに考えが及ぶくらいに、藤波は楽しくトライアルができていた。1ラップの後半、時間が厳しくなって、それが原因で減点を少し増やしてしまったが、集中もできたし、まずいい感じで試合は進んだ。

実は、この日のような登って登って、また登るというセクション設定は、藤波のライディングが最も光るシチュエーションでもある。登りの途中の段差を飛んでいくのかなめていくのか、ギヤの選択やスピード、ラインなど、抜きん出た走りを見せる藤波の走りは、トップライダーの間でも気になる存在なのだ。

2ラップ目は、1ラップ目よりからだも動いていた。第8セクションまでオールクリーン。点数もいい。1ラップ目に全員が5点だった第9セクションは、わき水が出ているような感じで真ん中が濡れていて、それを挟んで登ったり降りたりする設定だった。1ラップ目の5点はインしてすぐの失敗だった。2ラップ目、今度は最後まで走りきれそうだった。しかし最後がいけなかった。後輪がわずかに滑ってしまい、マシンが真上にあがって上れずの5点。ここがあがれていたら、その後の展開もちがったかもしれないとは思うも、残念。ただし結果的には、このセクションは2ラップ目も全員が5点だった。

12セクションは、1ラップ目に誰も抜けていないという状況で、藤波がはじめて3点で抜け出した。滑るところからの登りが難所だった。2ラップ目、藤波は今度はここで5点となってしまった。あとから結果を見ると、ボウはここを1点で抜け出ている。ここでの点差も、結果的には小さくなかった。

photo2ラップ目14セクション。残り2セクションにして、藤波はこの日はじめて、戦況を聞いた。ボウがトップで、藤波は8点差。3位のファハルドには大差がついているという。そこへちょうど13セクションをトライし終えたボウが追いついてきた。移動中にガッツポーズも出ている。それを見て、藤波もボウの勝利を確信した。残る2セクションはクリーン、クリーン。もちろんボウも両方ともクリーンで、点差は変わらず。

今回は、2位という結果の是非より、試合に集中ができて、楽しいトライアルができたという点で、なにより大きな収穫があった。前回ファハルドが優勝して藤波が4位となったことで、ランキング3位の座も脅かされかけていたが、今回少し突き放して、最終戦を前にポイント差を9点とした。こちらも少し落ち着いたといっていい。チームとしても、今回はタイトル獲得はならなかったが、ボウがタイトル決定まであと1ポイントに迫っていた。

さぁ、いよいよ今シーズンも最終戦だ。

○藤波貴久のコメント

「前回、アンドラでほんとうに苦しいトライアルをやってしまったので、今回はとにかく楽しくトライアルがしたかった。その目標にそって走って、集中もできてトライができたので、今回はいい戦いができました。いくつかのセクションがうまくいっていれば、あるいはということもあったかもしれませんが、自分の望むトライアルができたことが、今回はよかったと思います。最終戦も、楽しいトライアル、がんばります」

2009 SPEA FIM Trial WorldChampionship
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 21
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 29
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 42
4位 アダム・ラガ ガスガス 43
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 59
6位 マルク・フレイシャ ガスガス 72
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 81
8位 ダニエル・オリベラス ガスガス 89
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 187
2位 アダム・ラガ ガスガス 168
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 130
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 121
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 117
6位 ドギー・ランプキン ベータ 109
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 95
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 86