2009年 SPEA FIM 世界選手権第8戦 イタリアGP

2009年6月21日/BARZIO

2位! ランキング3位復活

photo日本で復活を果たし、しかし惜しいところで勝利を逃し、安堵といっしょにくやしさもヨーロッパに持ち帰った藤波貴久。今回のイタリア大会は、今年の藤波にとって、仕切り直しの事実上のヨーロッパ開幕戦のようなものだ。

特に調子がよいという実感はなかった。調子がいいときに勝てるのが当然。調子がそれほどでもないとき、調子が悪いときにどこまで表彰台圏内で踏ん張れるかがホンモノかどうかなのだと、以前から藤波はよく語っている。5位や6位に落ちている藤波は、どう考えても、ホンモノであるわけがない。日本大会で、ホンモノを取り戻した藤波は、その、特に調子がいいわけではないコンディションで、淡々と、しかしきちんと勝利を目指して戦っていた。

第7セクションまでは、いつものようにトニー・ボウがリードしていた。トニーは第6で1点をついたのみ。藤波は第3、第6、第7と1点ずつ減点があって3点、アダム・ラガは第3で2点、第6と第7で1点ずつで4点。僅差だが、日本GPと同じく、これが定位置として戦いが続いていくのかと思われたが。

第8セクションでトニーが5点になった。ゲートにさわって落としてしまったというよくある無念の5点だが、トニーはこれで平静を失ったようだ。そんなトニーの戦いぶりは、藤波にもちらちらと伝わっていたから、今日のトニーはあんまりよろしくないなというのは把握していた。ただ、特に1ラップ目、トニーがここまでひどい点数になってしまっていたとは思わなかったという。いずれにしても、この日の勝利争いか藤波とラガの間でおこなわれるということは、本人たちには1ラップ目中盤の時点で覚悟が決まったということだ。

セクションは、どこもむずかしかった。イタリア大会は、毎年険しい地形が会場となることが多い。しかも今回は、大会前にけっこう激しく雨が降った。なんとも走りごたえのあるコンディションだ。

藤波とラガは、そんな中でもよく点数をまとめて走り進んでいた。ところがここに、思わぬ問題が生じた。ジュニアとユースの選手たちだ。彼らは、藤波ら世界選手権のライダーと、基本的には同じセクションとコースを走る。スタート時間がちがうから、大きくかち合うことはなく同じ土俵でも違う次元で勝負を繰り広げているのがふつうだ。ところが今回、イタリア人を中心に、参加ライダーが多かった。韓国やマレーシアのライダーもいた。さらに、全日の土曜日にはヨーロッパ選手権もあった。ジュニアやユースの選手は、ほとんどがヨーロッパ選手権に参加した。そしてこのクラスに関しては、ヨーロッパ選手権と世界選手権で、セクションにほとんど変化がない。

かつて、二日制の大会がふつうだったときには、土曜日の試合が終わって日曜日になると、また新たな試合が始まるような緊張感があったが、今のライダーは学習能力が高く、二日目のセクションは下見なしでも走ってしまう。それで、ジュニアやユースの選手は、うんと早いペースでセクションをこなしていった。その結果、世界選手権のライダーはジュニアやユースの面々に、すっかり取り囲まれたまま戦いを進めなければいけなくなった。

特に長い下見をしたとか、駆け引きのために間合いをとったとかではない。先に進めたくても進めない状況で試合が停滞した。1ラップ目中盤から、その恐れはあったのが、いよいよ時間との勝負が深刻になってきたのが、1ラップ目後半だった。

前回日本大会で藤波は2位になったから、今回のスタート順は、ラガ、藤波、ボウの順となっている。ふつうなら、藤波はラガの後ろを走っていれば順序通りなのだが、今回はそれではうまくいきそうになかった。それで途中から、藤波はラガの前に出てトライをしていった。11セクションではラガにクリーンされたところを藤波が5点になっているが、しかし先行したことで、タイムオーバーはラガより減らすことができた。本当はタイムオーバーなしで1ラップ目のゴールを迎えるつもりだったのだが、それはかなわず。1ラップのタイムオーバーは4分。ラガは8分ものタイムオーバーを食らっていた。減点そのものは、ラガが藤波に2点差でトップだが、タイムオーバーを加えると藤波が2点差でトップに立った。

photo勝負の2ラップ目に入った。藤波の真骨頂は10セクションだった。ここは全ライダー中、藤波だけがクリーンをたたき出している。9セクションから11セクションあたりは、特に難セクションぞろいだった。ここを、2ラップ目のラガは最小減点で抜けていっている。これが後半の勝負どころだった。藤波がくやしいのは、13セクションでの3点だと言う。1ラップ目は、1分半の時間制限に焦らされてしまって、最後の岩にアンダーガードをひっかけてしまって5点となった。2ラップ目は1ラップ目の教訓をふまえて走ったが、前半のうちにばたばたと3点となってしまった。

続く14セクションは今回の最難関セクションだった。抜けられたのはボウだけで、それも2回とも3点だ。川から2段3段と連なる岩盤を登っていくセクションだったが、これもあと少しだった。これをあがっていれば、戦況はまた変わっていただろう。

結局、2ラップ目はラガがうまく点数をまとめて、藤波は8点の遅れをとることになった。トータルでは、6点差で2位に甘んじた。1ラップ目はトップだったし、勝てそうと言えば勝てそうな戦いだったと藤波は言う。特に2ラップ目後半は、ラガとの点数をしっかり把握していたことで、ここでいいスコアを出せば勝てるという緊張感が裏目に出て5点になったりもした。勝負していって、その結果自分が崩れて負けた試合。もちろんくやしいが、きちんと勝負をしたという点で、そして次のステップに向かう足がかりとして、一応の満足を感じている藤波だった。

次はすぐ翌週にアンドラ大会。ヨーロッパのトライアルは、休む間がない。

○藤波貴久のコメント

「2ラップ目の13セクションで3点になってしまったときには“やってしまったなぁ”という思いがありました。2ラップ目のここは、ほとんどみんなクリーンだから、そういう意味でも大失敗でした。でも今回は、もてぎにひきつづき楽しく走れました。イタリアのお客さんはのりもいいし、ぼくらに大きな声援を送ってくれるので、もしかすると、日本以上に楽しい気分で走れたかもしれません。この楽しい気持ちを大事に、アンドラでもきっちり走ってきたいと思います。ランキングも、一時はカベスタニーに20点差もあったのが逆転できました。シーズン後半、気持ちは充実してきています。いきますよ」

2009 SPEA FIM Trial WorldChampionship
日曜日
1位 アダム・ラガ ガスガス 34
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 40
3位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 48
4位 ドギー・ランプキン ベータ 50
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 51
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 55
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 72
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 76
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 152
2位 アダム・ラガ ガスガス 138
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 100
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 97
5位 ドギー・ランプキン ベータ 93
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 86
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 76
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 68