2009年 SPEA FIM 世界選手権第1戦&第2戦 アイルランドGP

2009年4月4日-5日/ニューキャッスル

■1日目・土曜日

開けてみればいまだ本調子でなく

photo新しいシーズンが始まった。ゼッケン3をつけての2シーズンめとなる2009年。開幕戦はアイルランド。2004年、世界チャンピオンを獲得した時の開幕戦も、やはりアイルランドだった。そしてこの開幕戦は、最近では珍しくなった2日制の大会でもある。今回の会場は、これまで開催されていたバンゴールではなく、ニューキャッスルという観光の町。有名なゴルフ場、広々とした森林公園などがあり、セクションはその森林公園に点在してつくられていた。セクションのバリエーションもあり、またコースも長く、なかなか過酷な2日間となりそうだった。

藤波とボウの乗るマシンは、2009年型のワークスマシン。これまでのマシンとは、エンジン性格などが一変していて、戦闘力がますます向上していることが確認できている。その結果が、スペイン選手権で藤波優勝、ボウが2位という結果にも現れている。幸先もいいし、それだけの実績もある。

ところが世界選手権はまた別物だった。というより、アイルランドのセクションがスペイン選手権とはまた別物で、とてつもなく滑るシチュエーションだった。こういう状況では、また別の課題が生まれてくる。

藤波の持ち味は、アクセルを開けていく乗り方だ。今度のポテンシャルあるニューマシンは、よりマシンが進む傾向にあるという。つまり、アクセルを開けていくと、どんどんマシンが進んでいきすぎてしまう。滑るところでは、タイヤが空転するばかりで進まない。

これが、高度なライディングの中で発生する。土曜日の1ラップめ、藤波のライディングは悩みに満ちあふれていた。とにかく5点が多い。自分の感覚でアクセルを開け、フロントをあげようとするとリヤタイヤが空転するばかりでひとつもフロントが浮かない。そしてそのまま岩に激突していく。第3セクションで、みなが足をつきながらもぬけていく中、難所に激突して5点。見る者も本人も、これがフジガスの実力だとは信じがたい。しかしそれもまた、事実だった。

同じマシンに乗るトニー・ボウも似たような症状をかかえていた。開発段階からニューマシンを駆り、トレーニングも積んだ状態で、しかし最後は、やはり実戦経験を積まないと仕上がらない。

2ラップめ、新しいマシンに少し慣れてきた。1ラップめの順位はなんと5位だった。ラガ、ボウのトップ争いに続いて、ジェロニ・ファハルド、アルベルト・カベスタニーが間に入って、藤波。ファハルドとは7点差がついていた。この7点を、2ラップめにつめていかなければいけない。

photo1ラップめに失敗したところを、その経験から修正して、2ラップめに生かす。ひとつひとつのセクションをこう心がけてていねいに走っていく。その結果、トップのふたりに匹敵する、23点のスコアをマークした。まだまだニューマシンに適した乗り方ではなく、もっとよいスコアをマークできる可能性もあるが、まずは悪くない結果が出た。そしてこの2ラップめの成績で、藤波は3位表彰台を獲得できた。

1ラップめはマシンに慣れるのに費やした。2ラップめはニューマシンにあったライディングを実践した。さて日曜日は、いよいよ勝負のとき。試合後、藤波は少しセッティングを変更して、ニューマシンのポテンシャルを存分に発揮すべく思いを胸に、日曜日を迎えたのだった。

■2日目・日曜日

かつてない、最悪の試合

セクションは、全体的にやややさしく修正されていた。土曜日は、1分半の持ち時間で走りきれないセクションがそこここにあった。全体的に、この部分が修正箇所となっていたようだ。

しかし藤波は、セクションに余裕が出た中で、土曜日と同じような失敗を繰り返してしまった。土曜日一日走って、新しいマシンの戦闘力には慣れてきたはずなのだが、まだまだ完全に自分のものにするまでにはいたっていなかったようだ。

しかもこの日は、全体に減点が少なめだ。土曜日なら、3点や5点が少なくなかったので、藤波の失敗も、それほど致命傷にはならなかった。ところが日曜日は、みんながクリーンに近いスコアで回っている中、藤波だけが5点となっては、大きな差になってしまう。たとえば第5セクション。マシンの要求するアクセレーションができず、マシンが藤波の思うような進み方をせず、結果登りきれずに5点になった。ここは5点の少ないセクションだった。ここでの5点は試合の流れを決定づけるほどの印象があった。

1ラップめ、トップはラガの10点。対して藤波は25点。トップとの15点差も大きいが、3位のファハルドとの11点差もまた大きい。2ラップめの追い上げがどこまで届くか、気になるところだ。

2ラップめ、土曜日と同じく、藤波のスコアは復調した。5点はひとつあるものの、12点はラガやカベスタニーをもしのぐ、2ラップめだけで見れば2位の結果。しかし、1ラップめの減点はあまりにも大きく、このスコアを持ってしても、ランプキンとのポジションを入れ替えるのが精一杯。5位という結果は、ケガや病気に悩んだとき以来の、久々のバッドリザルトとなった。

実は2ラップめの12点は、数字的には調子を取り戻した結果に見えるが、藤波本人はまったく納得していない。土曜日には2ラップめに、走り方を会得しかけてそのとおりにマシンを進められたのだが、日曜日はそれもなかった。1ラップめは納得できないままに5点になり、2ラップめは納得できないままに、しかし5点にはならずにクリーンしたり1点で抜けられたりした。その結果が12点だった。

photo5位という結果より悪かったときもあるにはあるが、その納得できない感覚は、今までにないほどだという。実力的には、この日の15セクションはボウと同じく、3点でまとめろといわれればできないものではないという確信がある。しかし今のこの状態のまま、もう一度15セクションの旅に出たとしても、とても3点では回ってこれないという確証もあった。

今はただ、ニューマシンとの感覚のずれを、一刻も早く埋めなければいけない。それさえ埋まれば、新しいマシンのポテンシャルは、藤波に大きな力を与えてくれるにちがいないのだ。

○藤波貴久のコメント

「日曜日は、試合のあと、久々に大泣きしました。ゴールした直後から、とにかく泣く場所を探していたような感じ。チームのミーティングルームにこもって、しばらく誰も近寄ってこなかった。それほど、今日は最悪です。自分の思う感覚とマシンの動きがまったくあっていない。それができないから、気持ちもますますナーバスになっていって、そうなると切り替えなければいけない乗り方が元に戻って、昔の乗り方になってまた悪い結果が出る。それでも、新しいマシンに乗ってから、去年のものに乗り換えると、今まではこんなに苦労していたのかと思うほどなので、元に戻したいとは思いません。今は、この仕様に慣れて、この仕様で新しいフジガスを作り上げたいと思っています。今日は、たとえ1位から4位が全員失格になって優勝だよといわれても、ぜんぜんうれしいと思わないでしょうね。本能的に乗れるようになるまで、しばらく乗り込みに専念します。もてぎまでには、新しいフジガススタイルを確立しておきます。結果は最悪ですが、気持ちは後ろ向きになっていないので、期待してくれていいです。がんばります」

2009 SPEA FIM Trial WorldChampionship
土曜日
1位 アダム・ラガ ガスガス 48
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 50
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 70
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 70
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 81
6位 ドギー・ランプキン ベータ 91
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 100
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 103
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 15
2位 アダム・ラガ ガスガス 23
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 31
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 33
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 37
6位 ドギー・ランプキン ベータ 54
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 61
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 70
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 37
2位 アダム・ラガ ガスガス 37
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 28
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 26
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 24
6位 ドギー・ランプキン ベータ 20
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 18
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 16