藤波のトライアル活動は、現在世界選手権に限定されている。藤波がもっともメインに考えているのが、アウトドアの世界選手権、そしてインドア世界選手権とトライアル・デ・ナシオン、ふたつの世界選手権が藤波貴久の公式参戦種目となっている。
スペイン選手権は、現在海外のライダーの参戦も認めているが、選手権のポイントは与えられない(つまり、チャンピオンにはなれない)など、海外選手に対してまったくオープンに開かれているわけではない。かつてはチームから参戦を打診されたこともあったが、現在は藤波のコンディションなどにあわせて、参戦したりしなかったりのスケジュールとなっている。スペイン人ライダーにとっては、世界選手権での勝利と同様に、自国での名誉は重要だが、藤波にとっては、ここは世界選手権と同じような顔ぶれと戦うことができる、とても有意義な実戦トレーニングとなる。
スペイン選手権は、昨年からちょっと変わったルールを採用している。下見は土曜日のみ。試合当日は、ライダーは下見のためにセクションに入ることができない。コースを1周するうちに3カ所ほどのタイムコントロールがあり、ひとつのセクションで長々と下見をしているわけにはいかない。そしてひとつのセクションを2回ずつ走る。リザルト上、15セクション2ラップとなっているが、実は15セクションを2回ずつ走って1ラップというのが正しい。
スタート順は、前年の実績に応じて3人ずつのグループを作り、成績上位の組が先にスタートし、実績のない組が最後にスタート、3人ずつの中では、成績下位のものから先にトライするというフォーメーションとなった。今回、このクラス(TR1)に参戦したのは9名。つまりスタート順は、カベスタニー、ラガ、ボウ、フレイシャ、オリベラス、ファハルド、ペイド、ゴメス、藤波となった。
これまで、スペイン選手権での実績のない藤波は、常に一番早いスタート順を与えられ、それが大きなハンディとなっていた。今回は一番最後のスタートだが、トップグループと遠い位置でのスタートとなるのは変わりない。誰かの走りを参考にしようにも、藤波といっしょにスタートした二人は「ありえないほど走れない」ので意味がない。藤波は、じょじょにペースをあげ、先頭グループを追いかけることにした。藤波らのグループの前を走るファハルドたちとの間には、スタート時間にして10分、ボウたちとの間には30分の時間差がある。追いつくのは、一仕事だ。
第4セクションでファハルドたちのトライに追いついた。さらにペースをあげてトライを続け、ボウたちの組には、13セクションあたりで追いついた。持ち時間は15セクション×2で3時間30分。1ラップではあるが、通常の世界選手権と比べると、持ち時間は圧倒的に短い。そこを藤波は、3時間を切って帰ってきた。
持ち時間が短く、休むひまがない。しかも今回のセクションは、海岸の岩々が舞台で、グリップがめっぽういい。走らせてハンドルを切っても曲がっていかないので、向きを変えるときにはすべてホッピングする必要があった。とてもつらいトライアルだ。藤波もつらいが、みなつらい。腕をつってしまうなんていうのは、誰にでも当たり前のハプニングになった。
特に藤波は、いまだひじのトラブルをかかえたままだ。症状は回復に向かっているが、アウトドアの戦いはインドアに比べると長丁場だし、今回は厳しさ倍増のシチュエーションでもある。これもまた、藤波にはつらい戦いとなった。
こんな中、藤波はがんばった。結果表を見ると、オールクリーンができるセクション設定だったと思えるが、クリーンもできるが、簡単に5点にもなれる厳しい設定だった。けっして簡単な大会ではなかったのだ。
藤波の減点は、第6セクションの大岩を勢いよくせめて、上がりすぎてついた足つきと、もう1回はホッピングで向きを変えているときに、後輪が岩にあたってしまってバランスを崩してしまった1点。ボウやラガには、むずかしい岩を上がりそこねて無理矢理持ち上げたという減点があって、同じ数点の減点でも、内容はちょっと異なる。今回は藤波の完全な勝利だった。
年に1度か2度ほどしかスペイン選手権に出ない藤波だが、これまでに一度だけスペイン選手権に勝利したことがある。2003年、マヨルカ島でオールクリーンで勝利した。ただしこの時は、オールクリーンではあったが、そのとき、スペインのトップライダーはスペイン協会とトラブルを起こして、ほとんど全員が不参加だった。モンテッサチームだけが参加をし、モンテッサチームのワンツースリーとなったこのとき以来の藤波の勝利となった。
「スペイン選手権のルールは、ぼくはいいと思うし、将来的には世界選手権にも採用されるかもしれないと思うんですか、ただ、時間が厳しくて、ぼくらにはものすごくつらいトライアルです。セクションもすごく長くて、たいへんでした。結果は接戦でしたが、減点の内容かちがうので、トニーやアダムに対しても、自信を持って世界選手権に入れます。アイルランドが楽しみですね」
CLASIFICACION TR1 | |||
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1位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 2 |
2位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 3 |
3位 | アダム・ラガ | ガスガス | 4 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 11 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 29 |
6位 | マルク・フレイシャ | ガスガス | 53 |
7位 | アルフレッド・ゴメス | モンテッサ | 68 |
8位 | ダニエル・オリベラス | ガスガス | 73 |
R | イバン・ペイド | ガスガス |