2009年 インドア世界選手権第5戦マドリッド(スペイン)

2009年3月14日/マドリッドスポーツパレス/観客数:8,000人

最終戦4位でランキング4位

photoいつにもまして短いシーズン。5戦めにして、インドアトライアル世界選手権は最終戦を迎えることになった。最終戦は、例年通り、スペインの首都マドリッドだ。同じスペインだが、藤波を始め多くのトライアルライダーが活動の中心とするバルセロナとは距離もあって、ちょっと雰囲気もちがう。

すでに今年のチャンピオンはトニー・ボウで決定している。ランキング2位以下はまだ決定はしていないが、1位と2位のポイント差は2点だが、それ以降は順位ごとに1点差しかつかない。最終戦でランキング順を入れ替えるのは、なかなか至難だ。藤波の場合、最終戦を前にしたランキングは4位。なんとかトップ3に入りたいところではあるが、テキはカベスタニーでその得点差は2点。藤波が優勝するか、カベスタニーより上位につけて、さらに間にひとり誰かに入ってもらわなければいけない。なかなかむずかしいシチュエーションなのだ。

逆に、ランキング5位のファハルドとは6点の点差があるから、ファハルドにランキングをひっくり返される心配はまずない。もちろん藤波自身がそんな心配をしているわけもなく、といってランキングをあげることも特に考えず、目標としているのはいつものとおり、最低でも表彰台に上がって、さらにひとつでも上位のポジションを得るというものだった。

クォリファイは、悪くないペースでトライが進められた。トップはトニー・ボウの3点で、藤波はそれに続く15点で2位でファイナル進出だ。ただし、クォリファイでいいポジションを得るのが、必ずしもいい結果を生むとは限らない。今回はまさにそれが実証される結果となってしまうのだが、藤波自身、それをある程度予期していて、クォリファイでは3位か4位になりたいと考えていた。しかしそれがかなわず、2位になってしまったのだった。

photoなぜ、2位を獲得したのではなく2位になってしまったのかといえば、1位と2位はファイナルの最初のメニューであるダブルレーンでの対戦相手となるからだ。クォリファイを1位で通過するのは、まずまちがいなくトニー・ボウである。そしてトニー・ボウは、ダブルレーンを走らせると、ありえないくらいに速い。ダブルレーンの速さは、藤波もけっして自信がないわけではない。しかしその藤波が、ありえないくらいに速いとシャッポを脱ぐのがトニー・ボウのスピードである。つまり2位になってしまった時点で、ダブルレーンでの2点減点は覚悟しなければ行けない。

しかし、ダブルレーンで2点を失うからといって、藤波が勝負をあきらめたわけではない。オブザベーションセクションをきちんとまとめていけば、2点のビハインドはどこかで取り返せるはずだ。そして実際に、この日の藤波はいい勝負ができていた。第2セクション、第3セクションと藤波はクリーンを叩いた。ラガは第2セクションで2点をとって、ダブルレーンでカベスタニーに勝ったアドバンテージを速くも帳消しにしている。

4セクションにして、藤波は減点1、タイムオーバー1点で2点。ダブルレーンとあわせて、ここまでの小計4点となった。藤波としては、ファイナルでの優勝争いは6点くらいになるはずだったのだが、この日のトップ5は、みな調子がよかった。ノミネートライダーのうち、ブラウンはクォリファイで敗退していて、かわってダニエル・オリベラスがファイナルに参加していたのだが、さすがにオリベラスは別格の減点を重ねている。

5セクション以降、いつものとおりスターティングオーダーを変えてトライ。この時点で5位の藤波は、オリベラスに次ぐ2番手トライとなる。第5セクションは、オリベラス以外はみなクリーン。第6で、ラガが1点を減点した。これで藤波とラガが4点で同点となった。その他のライダーはクリーン合戦を続けていて、ダブルレーンでラガに負けたカベスタニーが減点3、ファハルドはタイムオーバーの1点が2回のみで減点2と、今回は5点以下の攻防となった。一見、難度が低いように思えるが、一発で5点となるような設定ではないものの、ミスは確実に減点を誘い、しかもタイムオーバーのリスクはそこここにあった。まったく減点のないボウはともかく、足つき減点のないファハルドがタイムオーバーを2回喫していることでもわかる。

迎えた最終セクション。今年のルールでは、同点の場合は最終セクションでのタイム競走になる。オリベラスは、1分9秒かかって3点で通過した。制限時間は1分なので、3点+タイムオーバーの1点が加算された。次が藤波の番だ。藤波は最初から突っ走る気でいる。そして見事クリーンしながら、そのタイムは33秒だった。

3番手を走ったのがカベスタニー。ラガとランキング2位争いをしているカベスタニーだが、ラガより上位に入るだけでは目的は達せられない。そのためには、カベスタニーはせめて2位に入って、しかもラガが4位以下に落ちてほしいという、ありえないシナリオを完成させなければいけなかった。カベスタニーもまた、最終セクションはクリーンした。タイムは41秒だった。

photo次がラガの番だった。ここをクリーンすると、藤波とラガは同点となる。となると、最終セクションでのタイムが勝負だ。藤波の33秒を破るタイムをマークしなければ行けない。ラガにプレッシャーがかかった。と、このプレッシャーが、ラガに動揺を誘った。ラガはセクションアウトすらできずに5点となった。これでラガと藤波の勝負は、藤波のものになった。カベスタニー、ファハルド、ボウ(は別格だが)の3人が最終セクションをきれいにクリーンした今、藤波の4位が決まって、ラガは5位となった。ちなみにファハルドは59秒、ボウは53秒と、誰も藤波の38秒には遠く及ばなかった。4位は、藤波のスピードが勝ち取ったものだった。

4位は、けっして満足ができるものではない。しかし今回、2009年のアウトドアシーズン用のマシンで参加ができた藤波とボウは、新しいマシンの戦力が充分に仕上がっていることも確認できた。成績的にはいまひとつだったが、走りの内容的には悪いものではなかった。もし、最初のダブルレーンで藤波が勝利していたら、藤波の減点は2点で、ファハルドと同点、最終セクションでのタイム競争で藤波が勝って、2位を得ていたかもしれないのだ。こんなたとえ話は藤波の好むところではないが、それくらいには藤波の走りは充実していたということだ。インドアでは、その走りを成績に結びつけられるだけのアドバンテージを、藤波はいまだに持てていないということだ。

さて、あと半月後に迫ったアウトドアの世界選手権。すべて全力疾走でぶつかる藤波の真剣勝負の舞台のスタートは、もう間もなくだ。

○藤波貴久のコメント

「4位というのは、ぜんぜんうれしい結果ではなかったのですが、終わったら、カベスタニーにありがとうありがとうと言われてちょっ戸惑いました。ぼくはカベスタニーをランキング2位にするために走っていたんじゃないし、そういうつもりじゃなかったんですが、こういうのは狙っても狙えるものじゃない。カベスタニーも、宝くじにあたったようなもんだって言ってましたね。4位は残念ですか、調子はいいんです。09モデルのフィーリングもとてもいいですし。ひじの具合もよくなっています。開幕戦のアイルランドは、楽しみです」

Indoor Trial WorldChampionship 2009
Madrid
Final Lap(決勝)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 0
2位 ジェロニ・ファハルド ベータ 2
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 3
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 4
5位 アダム・ラガ ガスガス 9
6位 ダニエル・オリベラス ガスガス 25
Qualificarion Lap(予選)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 3
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 15
3位 アダム・ラガ ガスガス 16
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 17
5位 ダニエル・オリベラス ガスガス 20
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 20
7位 アルフレッド・ゴメス モンテッサ 22
8位 マイケル・ブラウン シェルコ 22
PointStandings(ランキング)
1位 トニー・ボウ 38
2位 アルベルト・カベスタニー 25
3位 アダム・ラガ 25
4位 藤波貴久 22
5位 ジェロニ・ファハルド 18
6位 マイケル・ブラウン 8
7位 ドギー・ランプキン 4
8位 ダニエル・オリベラス 2
9位 アルフレッド・ゴメス 1
マテオ・グラタローラ 1
ロリス・グビアン 1