2008年 トライアル・デ・ナシオン

2008年9月28日

日本チーム2位

photo1年の締めくくり、トライアル・デ・ナシオンの開催の日がやってきた。世界選手権個人戦の最終ラウンドから1週間後、去年と同じメンバーである黒山健一、小川友幸、野崎史高の3人を日本から迎えて、1年ぶりの日本チームの復活だ。

藤波は、大きなモーターホームを自ら運転して会場に現れた。いつもはモーターホームの運転は、スタッフにお任せして、からだに負担のない飛行機などを使って移動するのだが、アンドラは近いし、デ・ナシオンの雰囲気がいつもとは少しちがうのが、藤波にハンドルを握らせている。もちろん、お国同士の威信をかけた戦いという点では、個人戦に勝るとも劣らない緊張感があるのだが、個人戦と団体戦では、やはりちがった空気が流れている。

日本人ライダー4人の中では、藤波は会場入り一番乗り。去年に続いて、小川は藤波と同仕様のマシンに乗ることになっている。藤波と小川は大の仲良しだが、マシンのセッティングはまったくちがう。しかし今回ばかりは、小川は藤波マシンに自分をあわせてデ・ナシオンを戦うことになる。

セクションは、なかなか厳しいものだった。特に1ラップめ序盤の第5セクションは難関だった。その前の第4セクションでは、野崎がいいラインを見つけて、チームの失点を5点に抑え、スペインと同点に並んだところだったが、高い高い大岩が最後に控えていて、これが鬼門となった。

ここでは藤波もラインを乱してうまく走れず。5点になってしまった。しかし5点の理由がわからない。ラインを乱してカードを通過できなかったように見えたかもしれないが、事実はきちんと通過した。ラインを乱したので着地したときにマインダーのジョセップと接触してしまったが、マインダーの助けを借りたわけでもない。オブザーバーはタイムオーバーだというが、なんだかこじつけみたいな5点だった。アンドラは、スペインの庭みたいなところで、オブザーバーにもスペイン人は多い。そして彼らは、意識してなのか無意識なのか、スペインに対するひいきが大きい。この日は、こんなオブザーバーとの戦いでもあった。

photoとはいえ、スペインの実力の高さは明らかだ。第5セクションまではスペインともいい勝負をしていた日本だったが、これ以後、少しずつ点差が開いていって、スペインの独走を許すことになった。代表メンバーの4人がそろって世界ランキングの5位以内に入っているのだから、これはいかんともしがたい。

ライバルは、やはりイギリスとなった。イギリスとは、去年、完全なアウェーで戦って勝利している。しかし敵の顔もなかなか。主将のドギー・ランプキンはご存知のトライアル・キングだし、ジェイムス・ダビル、マイケル・ブラウンも世界選手権のトップランカーに育ちつつある。さらに世界の第一戦から離れたとはいえ、いぶし銀のグラハム・ジャービスを加え、手強いチームであることに変わりはない。さらにイギリスは、一番最後のスタート順を与えられている。日本はイギリスの前、さらにその前をスペインが走っている。一般的にはあとからスタートするほうが優位。走れば走るほどコンディションが悪化するポイントもあるが、イギリスは、今回のスタート順を最大限に利用して、スペインと日本のラインを参考にしてトライに入った。ダビルやブラウンにとっては、貴重かつ珍しい体験でもある。

藤波は、前半は最後を走り、誰かが取りこぼしたときにフォローする役回りを演じた。デ・ナシオンでは、4人が同じセクションを走り、そのうちのいいほうから3人分のスコアを足してチームの成績とする。3人がクリーンしてしまえば、4人目のスコアは関係なくなる(ただし同点の場合は、4人全部のクリーン数を算出するから、そのときには関係あり)。時間がなければ、セクショントライをせずにエスケープしてしまう作戦もある。その後藤波は、先頭を走ってほかのメンバーをひと安心させて、さらにセクションに戻ってほかのメンバーのサポートにも加わった。うまくマシンを進めているときには藤波の出番もそんなにないが、苦境に陥ったとき、藤波の声が聞こえれば、ライダーも心強いというものだ。

さらに藤波には、情報収集の仕事もあった。ほかのチームは、誰かがスコアの集計に回っていて、ライバルとの点差はかなり正確に把握している。日本には、こういったスタッフがいない。藤波は、モンテッサのシレラ監督(今回はモンテッサチームとしての活動はないから、監督は中立的に試合を見守っている)や顔なじみのスペインチームのスタッフに戦況を聞いて、作戦を組み立てる参謀役も掛け持つことになった。

スペインチームは、ひとりひとりが淡々とセクションをこなしているだけで、いかにもチームプレーというシーンは見られない。イギリスは、やはりランプキンがほかメンバーに指示を与え、激励を飛ばしている。日本も、藤波を軸にして戦いを挑んでいく。

photoいつもより多い18セクション2ラップを終えて、藤波の感触としては1点か2点差で勝ったのではないかということだった。2ラップめは、鬼門の第5セクションで10点(3人が5点をとってしまった)、ほかは10セクションと18セクションで1点があるだけという好結果だった。

そして結果が出た。1ラップめ、日本はイギリスにたった2点だけリードをとった。藤波は2ラップめに追いつかれたと思っていたのだが、実は2ラップめも日本のほうが好調だった。8点差。2007年に続けて、日本チームが世界第2位の座を獲得した。スペインとは21点差。日本が40点だから、ほぼ倍に近い点差となるが、デ・ナシオンでは、それぞれのライダーの失敗より、チームとして失敗をどれだけフォローできるかが勝敗を左右する。今のスペインチームは限りなく手強いが、しかしもしかしたら、手が届かない相手ではないかもしれない。

日本にとって2位は大きな快挙だが、次の目標も見え始めた2008年トライアル・デ・ナシオンだった。

○藤波貴久のコメント

「試合序盤は、スペインにも勝負を挑めていましたから、中盤以降、ちょっと残念でしたけど、でも、誰かの失敗を、ほかの誰かがうまくフォローするという戦いはうまくできていたと思います。結果的には、3人が5点になってしまった第5セクションなど、そのフォローができなかったセクションで、スペインとの差が開いてしまったということになります。あのへんをもうちょっとつめていけば、スペインにももう少しプレッシャーをかけられたろうし、そうしたら結果もちがってくるかもしれない。優勝は絶対に無理、2位を目標にがんばるとしていましたけど、今回の2ラップめのような戦いができれば、優勝の可能性もないわけではない。そろそろ目標を高く持たなければいけないのかなとも思いました。個人的には、2ラップめにオールクリーンをして、トータルでは6点でした。トニー(ボウ)もアダム(ラガ)も5点をとっていて、7点とか8点とかということだったので、今日はぼくが一番ではないかということでした。でも、日本2位が、まずは大きな喜びです。日本の皆さん、応援、ありがとうございます」

Trial Des Nations World Championship 2008
Pos. Nat. T 1L T 2L T Tot. Cl.
1位 スペイン 0 15 0 4 0 19 123
トニー・ボウ(モンテッサ)・アルベルト・カベスタニー(シェルコ)・ジェロニ・ファハルド(ベータ)・アダム・ラガ(ガスガス)
2位 日本 0 28 0 12 0 40 94
藤波貴久(モンテッサ)・黒山健一(ヤマハ)・野崎史高(ヤマハ)・小川友幸(モンテッサ)
3位 イギリス 0 30 0 18 0 48 93
マイケル・ブラウン(ベータ)・ジェイムス・ダビル(モンテッサ)・グラハム・ジャービス(シェルコ)・ドギー・ランプキン(ベータ)
4位 イタリア 0 86 0 48 0 134 49
マテオ・グラッタローラ(シェルコ)・ファビオ・レンツィ(モンテッサ)・ダニエレ・マウリノ(ガスガス)・ミケレー・オリツィオ(スコルパ)
5位 フランス 0 79 0 65 0 144 54
クリストフ・ブルオン(スコルパ)・ブルーノ・カモッジ(ガスガス)・ニコラス・ゴンタール(ガスガス)ロリス・グビアン(シェルコ)
6位 スウェーデン 0 170 0 143 0 313 15
7位 アメリカ 0 171 0 156 0 328 13
8位 ドイツ 0 210 0 199 0 409 5