2008 FIM SPEA 世界選手権トライアル第11戦ポルトガルGP

2008年9月14日/観客:4,000人(日)

試合後に4位の宣告。摩訶不思議

photoスウェーデンGPの1週間後、藤波はスペイン選手権に参加した。スペイン選手権に全戦参加していない藤波は、スタートが一番先頭だ。不利は否めないが、それでも優勝したアダム・ラガに3点差(2位のトニー・ボウとは同点だった)、トータル9点で3位となった。4位のジェロニ・ファハルドが23点だったから、一番先のスタートというハンディを考えると、上々の結果だ。

このスペイン大会の会場は、今回のポルトガルGPの会場ともごく近かった。そこで藤波は、練習をしながらポルトガル大会まで、西スペインに滞在して、試合に向けての調整をおこなった。感触は万全だった。満を持して、ポルトガルGPの会場へ向かった藤波だった。

ところでスペイン選手権では、藤波のチームメイト、トニー・ボウが苦戦している。今回の大会でも同点ながらラガに負けを喫して、ランキングポイントでは8点差を付けられている。藤波は実戦調整というつもりでスペイン選手権に参戦したわけだが、世間的にはこれまでスペイン選手権にでていない藤波が参戦してきたのだから、ボウのスペイン選手権制覇のフォローと見たかもしれない。トライアルは個人スポーツだから、藤波がボウのタイトル争いを助けようと思っても、そうそう簡単ではないのだが、しかし藤波が意外な好スコアで2ラップを終えてゴールしようとしたときには、さすがに「待った」が入った。すでに全セクションを終えている藤波にはこれ以上やることはないが、カードを提出しなければゴールではなく、その間、時間はどんどん刻まれている。もしもボウが藤波以上の減点をとってしまうようなことがあったら、藤波がカード提出を遅らせてタイムオーバー減点をとることによって、ボウの順位をひとつあげることができる。

結果的に、藤波はボウより3点減点が多かったから、藤波がわざわざタイムオーバーをとるまでもなく試合は終わった。藤波は3位。表彰台に乗れると思っていたジェロニ・ファハルドが、藤波が3位で表彰台に乗っている姿を、うらめしそうに見つめていたというのが、1週間前のできごとだった。

調子よくセットアップを続けていた藤波に暗雲がたちこめたのは、ポルトガルGPの会場に入ってからだった。マシンにトラブルが発生した。トラブルはよくなったり悪くなったり、なかなか回復に向かわず、そのまま試合のスタートを迎えることになった。マシンを手足のように扱うのが仕事の藤波らにすれば、マシンの調子が完調ではないというのは、なによりも大きなハンディになる。

シビアなコントロールができない。それが結果、細かい足付きにつながったりした。けっして、満足のいく戦いではない。1ラップめ、全員が5点だった13セクションでの5点を含め、5点一つ、3点一つ、1点ふたつでトータル10点。トップはボウの5点(13セクションでの5点のみ)で、2位にファハルドの9点、そして藤波と続く1ラップめの結果だった。世界選手権2戦とスペイン選手権、合わせて3戦連続で勝利から遠ざかっているボウのことだから、今回は勝利がほしいにちがいないし、チームももちろんそれを望んでいる。しかし藤波は、2位はもちろん、ボウも標的に入れて、2ラップめを考えていた。

2ラップめ、第2セクションに変化があった。1ラップめに存在した大きなきっかけ石が、きれいさっぱりなくなっていた。きっかけ石があった1ラップめは、おおかたのライダーはクリーンしている。しかしきっかけ石がなくなった2ラップめには、ほとんど全員がエスケープしていった。2位で折り返したファハルドもトライはしたが、問題の箇所にさしかかると、トライをあきらめて5点をもらった。

そこは大きな大きな岩に駆け上がるポイントだった。きっかけ石があれば飛びつくことができたが、いまやきっかけ石がなく、ここに直接登るのは不可能だ。もうひとつラインがある。別の岩に登って、岩から岩に飛び移るラインだ。しかしそれには、3メートル近いギャップを一気に飛びつかなければいけない。もしも失敗したらたいへんなことが起きる。ファハルドがマシンを止めたのは、まさにここのポイントだった。やはりリスクが大きく恐怖心には勝てなかったということだ。

残るライダーは3人。スタート順からして、先に入るべきは、藤波だった。失敗したときのリスクはもちろん高いが、藤波に迷いはなかった。3メートル近いジャンプを見事に決めて、問題の岩に飛び乗った。むしろ飛びすぎてしまったくらいだった。これで、ラガとボウはこのセクションが克服可能だということを確認して、次々にトライした。ラガは1点だった。ボウは自分のトライ前に、藤波にこのポイントの克服法を聞いてきた。ギヤは何速か、ラインはどうか、スピードはどうか……。藤波のアドバイス通り飛んだボウは、ここをクリーンした。

その後、藤波は第8セクションで5点をとった。登れるか登れないかという大岩を華麗に登った藤波だったが、しかしフロントタイヤがわずかにテープから出てしまった。1点2点を争うゲームで、こういう5点は痛かった。藤波の勝利は、この5点で事実上可能性がなくなった。しかしまだ、2位は勝ち取れる。

先にゴールしていたファハルドは19点。藤波は最後の5セクションをクリーンして、トータル17点だった。ラガが19点でゴール。ファハルドとは同点だが、クリーン数差でファハルドが上位につけることになった。最後にゴールしたボウは15点。この勝利で、ボウは最終戦で6位に入ればタイトルを決定できることになった。事実上、タイトル獲得は決定的ということだ。

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仮表彰では2位でシャンペンを振った藤波だが…

1位ボウ、2位藤波、3位ファハルドで表彰式が終わった頃、理解できないことが起きた。リザルトが訂正されて、ファハルドが2位、ラガが3位、藤波は4位ということだ。藤波が初めて飛んだ第2セクションでのスコアが、ラガやファハルドの抗議によって修正されたということだ。ライダーから抗議で、ほかのライダーのスコアが修正されることなんかあるのだろうか。しかもそのセクション(リザルトでは第2セクションとなっているが、事実は第3セクション。リザルトの修正の際、リザルト係がまちがえたようだ)では、藤波はジャンプを飛びすぎた際の1回の足付きは覚えているが、2回ついた覚えはなかった。藤波は判定をしたオブザーバーと話し合うチャンスもなく、4位を宣告されて納得のいかないポルトガル大会を終えることになった。聞けば、オブザーバーは岩から岩にジャンプして、両足をついたといっているということだ。両足つきと片足着地では、一目瞭然にちがうのだが、表彰式の最中にどんな話し合いがおこなわれたかは、藤波の知るところではなかった。表彰式の最中も、リザルトのことでもめているという話は耳にしたが、それがまさか自分のスコアについてのことだとは、まったく想像だにしなかった藤波だった。

今年初めて、3位以下に落ちた藤波。しかし仮表彰ではちゃんと2位の表彰台に乗っているし、本人も2位となった実感がある。なんとも釈然としないポルトガル大会となった。

○藤波貴久のコメント

「最悪です。勝てる試合でもあったし、2位にはなれた試合でした。というより、2位だったのですから、なんとも納得がいきません。ぼくが減点するところをラガが見ていて、それで試合後にクレームをつけたということですが、当人のいないところで、スコアが変わってしまったということで、FIMに対しても憤りがあります。今は試合が終わったばかりで、チームとしても正式なプロテストができる段階ではないのですが、なんとも後味が悪い試合となりました。ぼくとしては、オブザーバーが2点なら2点でいいのですが、試合が終わってから、表彰式も終わったあと、こういうふうにポジション争いをされるのはどんなものだろうかと思ってしまいます。今回2位でも4位でも、ランキング争いでは大きなちがいはないではないかと言って慰めてくれる人もいるのですが、ぼくとしては、やはりそういう問題ではないと思います。今回は本当にくやしい思いをしましたが、今回の結果が最終的にどうなったとしても、最終戦では思い切りガチンコでいきます。トニーも、もうぼくの助けなど必要としていないでしょうから」

FIM SPEA Trial WorldChampionship
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 5+10+0 15 27
2位 ジェロニ・ファハルド ベータ 9+10+0 19 25
3位 アダム・ラガ ガスガス 13+6+0 19 24
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 10+9+0 19 22
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 11+9+0 20 24
6位 ドギー・ランプキン ベータ 12+12+0 24 23
7位 ジェイムス・ダビル モンテッサ 27+18+0 45 15
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 27+30+0 57 14
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 205
2位 アダム・ラガ ガスガス 191
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 170
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 127
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 122
6位 ドギー・ランプキン ベータ 120