2008 FIM SPEA 世界選手権トライアル第10戦スウェーデンGP

2008年8月31日/観客:3,000人(日)

よい感触ながら、3位……

photo北欧で開催される久しぶりの世界選手権。多くの選手権ランカーにとっては負担の多い遠征となるが、藤波らトップライダーにとって、開催地のロケーションは問題ではない。そこでどんな戦いをするか、どんな結果を残せるかが、ただひとつの課題だ。

結果表を見れば、今回のセクションはオールクリーンも可能な簡単なものと見受けられそうだが、しかし世界選手権のセクションに“簡単なセクション”などない。第1セクションから第6セクションまではハーフドライで、岩盤が中心。雨は降っていなかったが、曇っていたので、岩にのった土が乾くことなくて、少し滑りやすい状態だった。第7以降のセクションは、本格的に滑るセクション。その元凶は黒土で、走れば走るほど滑りやすくなっていった。特に、9セクションや10セクションは、大きな難関となっていた。

序盤から、トップ3の力量の差は明らかだった。カベスタニーは試合直前にマシンが壊れて、セカンドバイクで出走。これがやはり原因か、序盤にして5番手争いに甘んじた。第5セクションまでをクリーンし続けたのはトップ3とファハルドのみ。ファハルドが第6セクションで1点をついて、オールクリーン合戦をしているのはいつもの3人のみとなった。

そんな中でも、藤波は好調だった。第7セクション、ラガが1点、ボウが2点減点。ここを藤波はクリーン。さらに第8セクションでもボウが1点。藤波はここもクリーンして、連続8クリーン。第9はラガと藤波が3点に対し、ボウが2点と気を吐くも、続く第10セクションではラガが2点、藤波とボウが1点。これで10セクションを終えたところで、藤波が4点、ラガとボウが6点と、わずかではあるが藤波のリードで試合は進んでいった。

ところが11セクション。インの登りが2段3段と連なっているポイントで、藤波が滑った。スタート順はトップ3では藤波が先頭、続いてボウ、ラガという、前回チェコでのリザルトに基づいて決まっている。セクショントライもこの順で進んでいったから、藤波はボウとラガのトライを見ることはできない。逆にボウとラガは、藤波の失敗を糧に自分のトライを組み立てることができる。成績のいいものほど優位たてるという、トライアルの宿命である。この後トライしたボウは、藤波の失敗を参考にはしたが、同じようにひっかかった。しかしボウの場合は、フロントタイヤが段差の上に届いていたから、かろうじて引っ張りあげて3点で切り抜けた。一方ラガは二人の失敗を最大限に教訓としてトライ。1ラップめ、このセクション唯一のクリーンを出した。これで藤波はボウと同点の9点、ラガは6点で一気にリーダーの座を獲得した。

1ラップ後半になって、滑るセクションが多く、どうしても下見が長くなる傾向。セクションもむずかしいが、次第に時間がなくなっていった。こんな中、今日はボウに失点が多い。13セクションは3人とも仲良く1点を失ったが、最終セクションでも2点。藤波とラガは、13セクション以外はすべてクリーンして、減点数はラガ7点、藤波10点、ボウ12点。しかし藤波とボウには、タイムオーバーがあった。1ラップ3時間半に、藤波は30秒ほど間に合わず、1点のタイムオーバー減点。続くボウは、わずか2秒ではあったが間に合わず、1点減点。ボウの最終セクションでの減点2は、このタイムオーバーへの不安が影響したものかもしれない。そしてボウに対して2分のアドバンテージがあるラガはオンタイム。ここでも、ラガはリードを広げることになった。ラガからボウまでわずか6点、5点一つで事態はがらりと変わる可能性を持っているが、しかしこの日のセクションの様子だと、5点をとりそうな気配でもない。

2ラップめ、今度はボウが猛チャージを開始する。第9セクションまでオールクリーン。藤波は第8と第9で1点ずつを失った。ラガは第4セクションで1点を失っている。しかし全体に、トップ3はよいコンセントレーションを維持して試合を進めている。10セクション、ボウが2ラップめにはいって初めての減点。2点だ。藤波とラガは1点。これで藤波はボウに1点リードをとった。ラガはこの時点で8点だから、14点の藤波が勝つのは少し苦しい。もちろんラガがこの先失敗しないという保証もないのだが、この日のトップ3はそんな失敗の気配もなく、トライを続けている。

photo運命の失敗は、藤波の13セクションで起きた。1ラップめ1点で抜けたところで、今度は2点。このセクションだけ見れば、大きな失敗ともいえないのだが、試合の流れからすれば、それは決定的だった。ラガとボウはここをクリーンして、ラガは優勝に、ボウは2位をキープしてゴールに向かっている。藤波は、がまんを重ねて残りの2セクションを走ることだけが使命だった。

最終セクション、トライ直前の藤波に、監督が駆け寄ってきた。しかし何も指示はなく、そのまま藤波はトライ。2ラップめの減点が5点、トータルで16点。あとからトライしたボウはここをクリーンして、2ラップめの減点はたったの2点、トータルで15点。わずか1点差で、藤波はボウに破れることになった。

このあとトライしたラガは1点を失っていたが、最終セクションを前にして優勝は決まっていたから、問題にもならず。ラガが2連勝、ボウ2位、藤波はくやしいけれど、またしても3位という結果となった。

残りは2戦。ラガの連勝によって、ボウのチャンピオン獲得作戦にちょっと黄信号がともっているが(しかしそれでもボウは9点のリード。ラガが残り2戦を勝利しても、ふつうに考えると9点を縮めるのは至難だ。ちなみに、藤波とラガのポイントさも、同じく9点となっている)、今のところ藤波に対してのチームオーダーは出ていない。モンテッサでは、過去にもチームオーダーが出たこともない。もちろん藤波は、最後までガチンコ勝負で世界選手権を戦うつもりだ。

○藤波貴久のコメント

「今回の戦いは、けっこう手応えがありました。フィーリングもよく、いい感じだったのだけど、結果的にはやはり3位。それも1点差ですから、結果に対してはとても残念だしくやしいです。くやしいけれど、自分としては、後ろを走るトニーやアダムにプレッシャーをかけることもできたと思うし、悪くなかったと思います。ただ、結果が残念です。アダムが2連勝して、状況によってはぼくがトニーに順位を譲るという指示も出るのかもしれませんが、今のところそんな指示が出る感じはなく、ぼくもトニーを助けようと思って世界選手権を走っているわけではありません。それより今は、優勝がしたいです」

FIM SPEA Trial WorldChampionship
日曜日/Sunday
1位 アダム・ラガ ガスガス 7+3+0 10 23
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 12+2+1 15 22
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 10+5+1 16 22
4位 ドギー・ランプキン ベータ 17+8+0 25 18
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 21+9+0 30 15
6位 マルク・フレイシャ ガスガス 35+16+0 51 13
7位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 37+29+0 66 10
8位 マイケル・ブラウン ベータ 38+30+0 68 7
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 185
2位 アダム・ラガ ガスガス 176
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 157
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 111
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 110
6位 ドギー・ランプキン ベータ 110