2008 FIM SPEA 世界選手権トライアル第8戦イタリアGP

2008年6月29日/観客:10,000人(日)

4連続の3位……

photoイタリア北東部、ベネチア近くのトルメッゾで開催されたイタリアGP。3週連続で開催されるヨーロッパ戦線も中盤を迎えた。

フランス大会で調子が悪いながらも3位表彰台をキープして自身のトライアルにあらためて自信を深めた藤波貴久だったが、それにしても3位ばかりが続くリザルトをなんとかしたい。イタリアは、藤波のジャンプボードになるのか、それとも……?

この大会は、イタリア大会には珍しく、川がまったくない設定だった。朝方まで降り続いた雨は、土ばかりのセクション難度をさらに高めていて、第1セクションはどのライダーも苦戦を強いられた。しかし天候の回復で2ラップ目は急速にコンディションが好転した。なにせ、気温30度を超える暑い暑いヨーロッパのことである。濡れた土は、見る見る乾いていった。

スタート順は、前回のフランス大会の順位の逆順だから、藤波が最後から3番目、次にボウ、最後に前回優勝のラガとなっている。ライダーは、できるだけ多くの情報を得て自分のトライに臨みたいと思っている。だからスタート順が遅いライダーは、自分よりスタートの早いライダーを先にトライさせて、セクションの状況を観察することが多い。これが試合の流れだから、前のライダーが長い下見をしていようとも、あとのライダーはそうそう先を急がない。藤波のトライを待ってボウが、ボウのトライを待ってラガが。3人のフォーメーションは、今回も崩れない。

しかし藤波は、またもトラブルに見舞われた。今度はブレーキトラブルだった。第5セクションを終わったところで、リヤブレーキが使えなくなっていた。現場での修理も試みたが、このセクションはパドックに戻るのも容易だったので、いったんパドックへ戻って修理、ライバルを追いかけるという作戦をとった。日本GPの土曜日に見られたようなシーンが、イタリアの1ラップ目に再現してしまったわけだ。

藤波が戦列を離れてから戻るまで、だいたい30分が経過した。さすがにこの間は、ボウとラガがただ待っているということはなく、藤波はひとり戦列からおいていかれることになった。しかしそれでも、ボウとラガが藤波を先に走らせたいのは変わらず、藤波が第8セクションまでくると、そこには藤波を待っているかのようなふたりがいた。ここで、また藤波、ボウ、ラガのフォーメーションが再開する。

減点を誘うセクションはたくさんあったが、この日の勝負どころはラップ後半の13セクションと14セクションだった。どちらも土の登りだ。1ラップ目の13セクション、藤波がくるまでは、カベスタニーが唯一3点。藤波も5点をとってしまった。ボウが3点、そしてラガが5点。続く14セクションは、藤波以前は全員が5点。ここを藤波は1点で抜けてみせた。お客さんは大喜びだ。しかし藤波のトライを見守っていたボウがクリーン、ラガも1点でここを抜けると、1ラップ目のトップは12点のボウ、藤波は21点で2位につけていた。ラガは藤波に同点で3位。

トラブルもあった。それで、時間的にも苦しいものがあった。そんな背景が、藤波に落ち着いたトライをさせないまま試合を進めさせていた。1ラップ目、ボウの12点に対して9点差は、かなり致命的な差とも思えるものだった。

2ラップ目、ボウが第6セクションで5点となった。これで試合に変化が生まれた。藤波が2ラップ目の第1セクションから6セクション連続でクリーンする。ラガも、この6セクションを1点で押さえる。ボウは5点の他にも減点があって、2ラップ目のこの時点で減点7。ボウ19点、藤波21点、ラガ22点。勝負はおもしろくなってきた。

7セクション、8セクションと、藤波が連続して1点をとる。7セクションでは、ラガが7点、ボウが1点。8セクションは二人ともクリーン。これでここまでのトータルはボウ20点、藤波23点、ラガ24点。9セクションでは、ボウが2点、ラガが1点、藤波はクリーン! トータルでボウ22点、藤波23点、ラガ25点と、いよいよ優勝争いが熾烈になってきた。

10セクションを3人ともクリーンしたあと、11セクションでボウが1点。藤波がクリーンしていたので、これで藤波とボウは23点で同点。クリーン数で、藤波はボウにふたつ勝っていたから、藤波がトップに立った。

しかしこの日も、藤波は試合の細かい戦況を知らずにいる。自分の走りに集中したいという意味もあったし、この頃になると、藤波が二人に先行して走っていたから、点数の把握がむずかしかったというのもある。だから藤波は同点でトップに立っているということは知らなかったが、そういう戦い方をしているのだという認識は持っていた。でも、勝利を得るには、さらに一発だめ押しがほしい。

photo12セクション、ボウが1点、ラガが3点、藤波が2点。これでボウ24点、藤波25点、ラガ28点。残るは3人にとってはクリーンセクションの最終セクションを含む、3セクション。勝負どころは、やはり13セクションと14セクションとなった。

藤波は、ここで勝負に出た。足をついて、確実にマシンを運ぶこともできる。おそらく3点を狙うなら、確実に3点をマークできたはず。しかしそれでは、勝利の女神は笑ってくれない。そしてこれが、結果的に裏目に出てしまった。

ふたつの勝負どころで、どちらも藤波は5点となった。ふたつのセクションで、一気に10点を加算してしまった。ボウは3点と1点、ラガも同じく3点と1点だ。勝負は決まった。藤波は、残る3セクションにして、勝利を逃したばかりか、2位の座まで失うことになった。

1ラップ目の結果を思えば、ボウと優勝争いをするところまで、よく追い上げたというべきかもしれない。しかし結果は、あくまで3位。4戦連続の3位入賞だが、今の藤波には表彰台獲得を祝う気持ちには、とうていなれない。

○藤波貴久のコメント

「勝負をしにいって、きちんと勝負ができているのに、それなのに結果が3位。そんな戦いが続いています。充分戦っている実感もあるのですが、それが結果に現れないので、本人も、なんとも歯がゆい思いをしています。とても残念な結果ですが、残念ばかりではすまされない。それにしても最後の最後までトップにいたのですから、とてもくやしい戦いになってしまいました」

FIM SPEA Trial WorldChampionship
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 12+16+0 28 16
2位 アダム・ラガ ガスガス 21+11+0 32 16
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 21+14+0 35 18
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 24+20+0 44 14
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 32+30+0 62 10
6位 ジェームス・ダビル モンテッサ 44+21+0 65 10
7位 ドギー・ランプキン ベータ 39+30+0 69 9
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 36+45+0 81 7
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 151
2位 アダム・ラガ ガスガス 136
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 127
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 89
5位 ドギー・ランプキン ベータ 89
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 88