2008 FIM SPEA 世界選手権トライアル第7戦フランスGP

2008年6月22日/観客:--人(日)

不調ゆえに3位、不調なのに3位

photo日本大会から3週間後、フランスGPはパリから50km南の小さな村で開催された。セクションは、土曜日にライダーが下見をした時点では「まぁまぁむずかしい」という感触だった。

土曜日の晩、雨が降った。しかし日曜日の朝には雨は上がり、トップライダーがウォーミングアップを終える頃には地面もおおむね乾いていた。なんせ、気温は30度。暑い暑いヨーロッパの夏が始まろうとしている。

藤波貴久は、毎度第1セクションでのからだの切れが悪い。試合への緊張もあるのだろうが、しかしこれは、タイトルを獲得した2004年のときにもあった、藤波の習性で、程度の差はあっても毎度のことだ。しかし今日は、それが第1セクションではとどまらない。第1から第3まで、ちょんちょんちょっと足をついて3点を失った。

「今日こそ勝たなければいけない」

本人はそんな意識は持っていなかったというが、潜在意識の仲に、どこかそういう気持ちがあったのかもしれない。そして緊張から、からだがなかなかほぐれない。第1セクションでの緊張はあきらめの境地だったが、それが第3セクションまで続くと、心中穏やかではない。

第4セクションは、結局すべてのライダーが5点になった。そして藤波らが第4セクションをトライした直後、滝の中にいるような大雨となった。せっかく乾いた地面は、またすべてウェットにまみれて、難度は極端に上がってしまった。これが、藤波には幸いした。

難度の低いセクションでは、ちょっとしたミスが大きく勝負に影響してくる。そう思うと、ますますからだが堅くなる。そんな状態だと、ほんの少しバランスを崩したときに、からだが柔軟に反応してくれず、つい不用意な足を出すことになる。そしてそういう失敗をしまいと、また緊張してからだがかたくなる。

ところが難度がうんと増した今、そんな細かいミスを気にしている状況ではなくなった。体当たりで勝負ができるセクションに、藤波はいつしかリラックスして試合を進められるようになっていた。

1ラップ目、藤波は点数を把握することなく、試合を進めた。もちろんチームは情報収集に余念なく、ライバルとの点差も把握している。

「点数を知りたいか?」

監督が聞いてくる。藤波は点数は教えてもらわず、いいところにつけているのかどうか、それだけを聞いた。

「ごくふつうに、勝てるポジションで試合を進めている。だからがんばれ」

本人の感触では、今日はとても優勝争いなどしている感じではなかったから、この答は意外だった。そしてそのまま、詳細情報は知らないままに先へ進んだ。

今シーズン、藤波はライバルの動向に気を取られることなく、自分のトライに集中することだけを心がけている。アメリカGPの結果を見るまでもなく、藤波には確信がある。自分が納得できる、調子のいいトライアルをすれば、勝利はついてくる。それがアメリカでの結果であり、その他の試合で勝ちを逃しているのは、自分がこれだと思うトライアルができていないからだ。もてぎでは日本語で試合状況が放送されていたから、藤波のこんな思いとは関係なく勝負展開を知ってしまったが、ここは藤波の思いのまま、ライバル動きを気にすることなく自分の走りに専念できる。

2ラップ目第5セクション、しかし藤波のマシンに異常が発生した。トライ中にエンジンが止まってしまった。藤波の乗るマシンは、不慮のエンストなど起こすはずがないから、これはどこかでトラブルが発生した可能性があった。2ラップ目に入って、雨は止んで、またまた地面は急速に乾いてはいたのだが、第5セクションはやはり難度が高いセクションだった。結局ここを走破したのはトニー・ボウだけ(クリーン)。藤波はエンストがなければクリーンをしたかもしれないし、エンストがなくても5点だったかもしれない。しかしみんなが5点になっているポイントは通過していたから、やはりここでの5点は惜しかったといえる。

この日、スタート順はもてぎの2日目の順位に準じていた。最後がボウ、その前にラガ、そして藤波。このフォーメーションは、最初から最後まで変わらなかった。藤波のマシンが変調して、メカニックが修復を試みている間も、ラガは先にトライしようとせずに、藤波がトライするのを待っていた。自分の走りをあくまで見せたくないようだ。もちろん、それができるくらい、持ち時間には余裕があったということでもある(といっても、トップ3はみな、持ち時間の残りは1分ほどしかなかった)。

photoエンストに加えて、藤波の失敗もあった。2ラップ目は乾いていたから、順調に走れば1ラップ目より10点はスコアをアップできるはずだった。しかし結局、藤波の2ラップ目は1ラップ目の33点から5点アップの27点だった。それでも、2ラップ目は1ラップ目とはちがい、自分の走りができた中での戦いだった。

最終セクション、藤波が2点、ラガが1点だったところをボウが5点となり、ラガの優勝が決まった。藤波は、最後の最後まで、自分のポジションを把握しないまま試合を進めた。結果は、ボウに5点差の3位だった。

1ラップ目、2位につけていたのは意外だった。自分の感触としては、これほどトップ2についていけているとはついぞ思っていなかった。反面、2ラップ目に追い上げができなかったのは、課題として残ることになった。

3週連続のヨーロッパ戦線、藤波はメンタル面での弱点を対策すべく、新たなトレーニングメニューに励んでいる。

○藤波貴久のコメント

「うーん、今回は残念です。本人は意識はしていないつもりだったのですが、どこかで意識していたのでしょう。1ラップ目中盤まで、からだが堅くて自分のライディングができませんでした。逆に言えば、こんな状態で3位に入れた、しかも1ラップ目には2位につけていたというのは、ポジティブに評価しようと思っています。しかしこうなってくると、残る試合は全戦優勝のつもりでいかなければいけませんが、もちろんそんなに簡単に勝たせてくれる相手ではありません。まずは、メンタルトレーナーについて、今回の問題点の対策を練って、これからの2戦を戦いたいと思います」

FIM SPEA Trial WorldChampionship
日曜日/Sunday
1位 アダム・ラガ ガスガス 31+21+0 52 12
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 34+21+0 55 15
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 33+27+0 60 9
4位 ドギー・ランプキン ベータ 48+41+0 89 4
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 40+43+7 90 6
6位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 47+51+0 98 7
7位 ジェームス・ダビル モンテッサ 52+44+4 110 3
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 60+54+0 114 1
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 131
2位 アダム・ラガ ガスガス 119
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 112
4位 ドギー・ランプキン ベータ 79
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 77
6位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 76