2008 FIM SPEA 世界選手権トライアル第5-6戦日本GP

2008年5月31-6月1日/観客:5,000人(土)-10,000人(日)

2連続、勝ちそこねて3位表彰台

■1日目・土曜日

photoアメリカ大会で1勝をあげて、好調をキープして日本に帰ってきた藤波貴久。今回の日本大会は、久々に厳しい設定となっていたのに加えて、土曜日は雨が降った。雨量はそれほど多くないものの、降り続く雨に泥はたっぷり水を含み、誰もアウトできないのではないかというセクションがそこここに出現した。

いつものように、美しく演出された第1セクションをクリーンしたあと、最初の難関は第2セクションだった。見上げる先まで、ひたすらまっすぐ登っていく設定。セクションをアウトすることはおろか、途中まで登ることも許してもらえないライダーが圧倒的。アダム・ラガもトニー・ボウも、ここを登れず5点になった。

唯一最後まで登り切って、セクションをアウトし、3点のパンチをもらったのが、藤波だった。ライバルは5点。2点ではあるが、貴重なリードだ。

続く第3セクション。濡れた泥が表面を覆う大岩は、ライダーの走破をかたくなに拒む。ここでは今度は藤波が5点になった。ラガも5点。ここでボウが3点をマーク。第2セクションの借りを返されて、藤波とボウが同点となる。ラガは連続5点だが、しかしこの時点ではまだ2点差。

第4セクションは、このふたつに比べると、少し走破の可能性があった。かつて世界選手権をいっしょに戦った黒山健一や野崎史高もクリーンしている。ジェロニ・ファハルドとアルベルト・カベスタニーは2点で通過した。藤波、ラガ、ボウのトップライダー3人は、他のみんなより少し遅れてセクションに到着し、3人だけの世界を形成して試合を進めていく。走る順番は、藤波が先頭を切り、次にラガ、ボウ。藤波が先にクリーンして、ラガは2点。ボウが最後にクリーンをして、ボウと藤波は同点でトップ。ラガとは4点差で、この時点でのラガはジェロニ・ファハルドやドギー・ランプキンにも負けをとっていた。

1ラップ目は全員が5点となった垂直のブロックがそそり立つ第5セクションを抜けて、ハローウッズの入り口に設けられた第6セクションはつるつる滑る丸太の置かれ方が複雑で、ライダーを悩ませる設定となっていた。トップ3が到着したとき、誰も走破できていなかった。そこで藤波が登場。走破するばかりか、2点の好スコアで通過していった。発射台のようになっている丸太は、この日のコンディションでは発射台としては使えない。前転を覚悟で発射台の真下にマシンを降ろしていくのだが、前輪を地面につきさしながら、なんとか2点でこらえた藤波のトライは、ハローウッズに集まったファンの大拍手に包まれた。このあと、ラガとボウが次々に5点。藤波はボウに3点差、ラガに7点差で初めてこの試合の単独リーダーとなった。

photoところがハローウッズの庭に設けられた滝登りのセクションで、藤波は痛恨の5点をとった。ランプキンも5点となったが、黒山もクリーンしているし、ファハルドやアルベルト・カベスタニーも1点で抜けていたセクションだから、藤波がいけないわけはない。藤波のあと、ボウとラガは揃ってクリーンして、試合のリーダーの座は返上することになった。トップはボウ、2点差で藤波、さらに2点差でラガ。大勝負になってきた。

第8セクションは、オーバーハングになっているのではないかと思われるような岩盤の壁登りがポイント。藤波とラガがここを失敗。ボウは1回の足つきでここを通過した。トップのボウと藤波の差、7点。

第9セクションは、新設されたハローウッズの森の中に設けられた。リズミカルに岩を越えていく設定だが、雨模様のコンディションでは、岩々がことごとく滑ってテクニック自慢のトップライダーも、なかなか本領を発揮できない。トップ3が到着するまでには、唯一、カベスタニーが3点でここを通過していた。

藤波は、しかしこのセクションをアウトできなかった。5点。ラガは3点でアウトして、最後にトライするのがボウ。ボウはなんとこの難セクションをクリーン。ボウと藤波の差は11点に広がって、藤波とラガは同点となった。

実はこのとき、藤波はトラブルをかかえていた。第8セクションの岩盤で失敗したときに、クランクケースを打ちつけてしまった。外傷はないのだが、クラッチが切れないというトラブルが発生。山の中でパーツもない状況でそのままトライした第9セクションは、5点となって当然だった。

10セクション。状況は変わらない。そのままトライして5点。しかしここはラガも5点で、ラガとは同点のまま。ボウはここを1点で、その差は15点に広がった。

11セクションについたとき、ここでパーツが手に入った。藤波が下見をしている間に、メカニックがパーツを交換する。しかし状況は変わらない。藤波は隣の12セクションの下見をしつつ、マシンの修復を待つことになった。

ところがトラブルの原因がつかめず、クラッチは藤波の望むコンディションを取り戻さなかった。1ラップ目の持ち時間3時間半はもうすぐ消化してしまう。気持ちを切り替えて、本調子でないマシンとともに、残るセクションを戦うことになった。

11セクションはずるずるの登りで、押し上げられるかどうかが鍵。こういうところでは、微妙なクラッチ操作は出番が少ない。藤波はここを3点で通過した。すでに先行していたボウは5点、ラガは3点。ラガとは同点のまま、ボウとの点差は13点だ。

12セクションは3人とも5点で、舞台は名物セクションである岩盤へ移った。13セクションは、ここも超難関。雨で滑りやすくなったポイントから少し角の落ちた大岩に登る設定。みな、岩盤に登るまでもなく、加速段階で踏破を断念している状態だ。ここは、唯一ボウが1点で通過していった。ラガは5点で、藤波も絶妙なスタート操作がままならず5点。ラガとの同点は変わらずだが、ボウとの点差は17点に広がった。

14セクションは、高い岩がトリッキーに組み合わされている。最後に藤波が到着したとき、ここをアウトしていたのは4人。黒山、ランプキン、ラガ。この3人が3点でここを抜けていて、ボウはクリーン。藤波が本来の実力を発揮すれば、少なくともここの走破は問題ないはずだったが、手負いのマシンでは5点もやむなし。この時点で、ラガに2点差をつけられたばかりか、ポジションでは黒山とランプキンにも先をいかれて、藤波は5位に転落していた。万事休すだ。

最終15セクションは、これもいつものごとく、厳しい設定の人工セクション。この状況ではアウトするのはむずかしいかとも思われたが、トラブルの発生以降、藤波もそのコンディションを学習した。最終セクションをクリーン。マシントラブルの影響は最小限に食い止めたが、ボウとの点差は、22点に開いていた。ラガとは2点差。トラブルの対処に時間をかけただけ、タイムオーバーの1点を加えてのこの点差だ。

1ラップが終わったあと、藤波のマシンはピットで本格的な修復作業を受けた。その間、藤波には待つしかない。20分、あるいは30分を要しただろうか。それでも、藤波のマシンは完調にはならなかった。今日は、このマシンで戦うしか手がない。せめて藤波に幸いしたのは、ツインリンクは会場内の情報伝達が発達していて、ピットにいながらにして、ライバルの動向をチェックすることができたことだった。

ライバルに遅れて2ラップ目をスタートした藤波は、完璧でないマシンで、1ラップ目と同じくらいか、それを上回るほどの好調ぶりを見せてセクションを回っていく。ボウとラガが落ちていた第5セクションもただひとり3点で通過し、ついにクリーンが出ないかと思われた第8セクションを、これもただひとりクリーン。要所要所では、無敵藤波を見せつけた。

しかし9セクション以降、1ラップと同じく、思うように好スコアがマークできない。この山の中のゾーンは、ボウやラガにとっても5点の山を築く難関ぞろいだったのだが、ここで追撃の勢いもストップ、1ラップ目にクリーンしていた最終セクションで5点となり、ラガには6点差の3位となった。

■2日目・日曜日

photoトラブルで苦しい戦いとなった土曜日に対し、日曜日にはマシンのコンディションはまずまず絶好となった。あのマシンであの成績だから、この日の成績には期待がかかる。

セクションは、多くのセクションが手直しされて、全体にやや難易度を下げられていた。雨は上がって、美しい太陽が顔を出していたが、だから走りやすくなっているとは限らない。水を含んだ泥が生乾きの状態となって、重たくなって行く手を阻む。

それでも、土曜日には藤波とラガだけが通過していた第2セクションを、この日は多くのライダーが抜け出したから、設定の変更も含め、コンディションはややよくなっているといっていい。藤波は、ボウとともに第2セクションをクリーン。ラガは1回の足つきをした。続く第3セクションでは、ラガと藤波が5点、ボウは3点で強引に抜けていった。ボウが2点リード、藤波とラガの点差は1点というきわどい勝負のはじまりだ。

第6セクション、土曜日は藤波だけが通過できたこのセクションを、ラガが1点で通過、ボウと藤波は5点。これでラガが7点でトップに出る。ボウは8点。藤波は10点。第8セクションは、前日のトップ3のみがいけるセクションから、この日はトップ5にとっては可能性のあるセクションになっていた。トップ3はクリーンするのが前提になる。藤波とボウはクリーン。ラガが1点。ボウとラガが8点で同点で、藤波は10点。

photo第9セクション。ここは前日同様難度が高い。ランプキンが無理やり運んで3点というのが、トップ3が到着するまでの成績だった。真っ先にトライしたのは藤波。わずかなミスがあって1点を失った。これで藤波の減点は11点。しかしその後トライしたラガは、そこここでミスが出て3点。これで藤波と同点になった。さらにボウも、フロントタイヤを岩から落としてあやうく5点になる寸前の3点で抜け出した。3人が11点で並ぶという壮絶な戦いとなった。

10セクション、ラガが5点、藤波とボウが3点で、藤波はボウと同点でトップ。12セクション、藤波だけがクリーン、ラガが2点でボウが5点。ここで藤波は、ラガに4点差のトップに立った。

13セクション、ここも前日より可能性が高そうだ。藤波は1点、ボウとラガはクリーン。その差は3点。そして運命の14セクション。ここはトップ3以外にもクリーンが多く出ているセクションだった。藤波のクリーンは当然かと思われたが、新たなラインをトライして失敗。5点。ボウはクリーン。ラガは最後の最後で5点となり、ラガが単独3位に。トップは藤波とボウが同店で並んだ。

photo折り返して2ラップ目、第3セクションでボウが5点となった。これで藤波が3点差のトップ。しかし藤波は、第6セクションで5点。ボウに並ばれ、さらに第7セクションで失敗。ボウに5点差で3位に転落した。

試合の流れは、結局ここで決着がつき、以後藤波はひとつひとつのセクションをていねいに攻めていくが、ボウとラガを逆転するところまではいたらず、ラガに8点差、ボウには11点差で、前日同様、再び3位に甘んじることになった。

○藤波貴久のコメント

「土曜日は、ラップの前半はいい感じで走れていたし、マシントラブルがとにかく残念でした。マシンを完璧に修復できなかったことについては、チームがすまないとあやまってくれました。土曜日の時点では原因不明だったのですが、日曜日はほぼ完璧に修復ができていました。それで前日と同じ結果ですから、今度はぼくがチームにあやまらなければいけませんでした。失敗だったのは、第7セクションと14セクションの5点です。2ラップ目の7セクションではラインがふたつあって、黒山選手やドギーがいったところから行けば、1点はつくけど1点ではいける。ぼくが選んだのは、ちょっとリスクはあるけどクリーンができる方でした。トニーやアダムはクリーンしているから、絶対いけるラインですが、前日にも失敗しているし、ちょっと苦手意識があったのかもしれません。そんな状況でクリーンを狙っていった選択は、今後に課題のあるところです。14セクションは、少々下見不足で、マシンが思ったより立ってしまった。それで失敗です。それでも、そんな失敗のあと、メンタル面でへこむことなく、次のセクションに集中で
きたのは、今回の収穫でもあります。いろいろ課題はありますが、ひとつひとつの課題を解決させて、このくやしさを次のヨーロッパラウンドにぶつけたいと思います。状況は厳しいですが、ぼくはまだチャンピオンになれると信じているし、チャンピオンにならなければいけないと思っています。日本大会は、いつもファンのみなさんに勇気と感動をもらっているのに、申し分けない思いです」

Trial WorldChampionship 2008
土曜日/Saturday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 31+39+1 71 11
2位 アダム・ラガ ガスガス 52+45+0 97 6
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 53+49+1 103 7
4位 ドギー・ランプキン ベータ 57+52+0 109 5
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 63+52+0 115 4
6位 黒山健一 ヤマハ 56+62+0 118 4
7位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 61+59+0 120 3
8位 小川友幸 ホンダ 64+57+0 121 2
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 23+17+0 40 17
2位 アダム・ラガ ガスガス 29+13+0 42 16
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 23+28+0 51 14
4位 ドギー・ランプキン ベータ 32+25+0 57 9
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 35+46+0 81 7
6位 野崎史高 ヤマハ 54+36+0 90 10
7位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 47+47+0 94 7
8位 ジェームス・ダビル モンテッサ 59+36+0 95 7
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 114
2位 アダム・ラガ ガスガス 99
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 97
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 66
5位 ドギー・ランプキン ベータ 66
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 66