2008 FIM SPEA 世界選手権トライアル第3-4戦アメリカGP

2008年4月26-27日/観客:3,000人(日)

久々の勝利!

photo■1日目・土曜日

アイルランドから3週間後、アメリカはテネシー州セクアッチでの世界選手権アメリカ大会。セクションは自然のままのものが多く、バリエーションもあって、トライアルらしいコンディションを持っていた。そして、そういう場所でこそ本領を発揮するライダーがいた。

金曜日、アメリカ入りをした藤波は、チームメイトのトニー・ボウと下見をして「ラップ20点くらいでまとめられたら勝てるね」と予想しあった。ふたりとも、20点以内で帰ってくる自信もあり、一方、試合ではなにがあるかわからないから、思わぬ失点に苦しめられることもある。翌日の大会で、どちらが20点以内で帰ってくることになるのかは、神のみぞ知るところだ。

第1セクションは斜面のセクション、第2セクションから13セクションまでは、すべて川沿いに設けられていた。水あり、岩あり、泥あり。これぞトライアルという地形が勢ぞろいだ。金曜日の夜、雨が降った。これで土曜日は難しいトライアルになるかと思われたのだが、幸いにも、雨は土曜日には止んで、試合中はまずドライの条件で走ることができた。

第1セクションから第3セクションまで、3つをすべてクリーンしたライダーは5人いた。トニー・ボウ、アダム・ラガ、マルク・フレイシャ、ジェイムス・ダビル、そして藤波貴久だ。トップライダーにとって、最初といってもいい鬼門は、第4セクションだった。ここは、多くのライダーが5点になっている。ラガも、5点になった。藤波とボウは、ここを1点で通過した。個人として、またチームとして最大のライバルであるガスガスのラガに、ここでちょっとアドバンテージをとったふたりは、今度はふたりだけのトップ争いに突入していく。5点をとったラガが先行を始めたので、藤波はボウと二人、もっともあとから試合を進めることになっていた。

その後、10セクションで1点、11セクションで2点と、ボウが失点する。藤波は、それを確認してからトライする。そして、この両方とも、クリーンした。結局、1ラップを終えたとき、藤波の減点は第4セクションでの1点のみ。ボウの4点にリードをとって、2ラップ目にはいることになった。

「1点で帰ってこれるなんて、思ってもみなかった」

藤波自身にとっても、この日の快調ぶりは驚きだった。「20点で帰ってこれれば」という予測は大幅に上方修正することになった。とはいえ、ボウとの点差はわずか3点。3位のアルベルト・カベスタニーには13点のリードをとっているが、まだまだ油断ができるものではない。

photo藤波は、2ラップ目も好調を維持した。1ラップ目に1点で抜けた第4セクションは、今度は2点だった。しかしボウは、ここで5点をとっている。2ラップ目に関しては、ここを通過したのは藤波とファハルドだけだった。失点をして、集中力が切れそうになる場面もなくはなかったが、それをうまくカバーして気持ちを崩さずにトライが続けられている。まず、パーフェクトといっていい。

この日、唯一の5点は、2ラップ目の11セクションだった。けっこうむずかしいポイントではあったのだが、1ラップ目はクリーンをしていた。しかしこのときは、時間制限にひっかかった。セクション終盤まで1点でこら えていたものの、あと2〜3秒足りなかった。マインダーからのカウントダウンが「5、4、3」と刻んでいるときに、2段のステアケースでちょっとひっかかった。それが時間を消耗させてしまった。

これで、2ラップ目はちょっと減点を増やして8点。ボウは、ふたつの5点があって12点。ボウ以外は、1ラップの減点だけで藤波のトータル減点にかなわないのだから、勝負はあった。藤波貴久、久々の世界選手権勝利だった。2006年7月30日イギリス大会以来の勝利だった。

この勝利で、ランキングポイントもボウに4点差に迫り、この試合で4位となったラガと並ぶことになった。

■2日目・日曜日

久々の勝利で気持ちは上昇気流。日曜日も、ふつうにいけば勝てるはずという信念を持ってのスタートだった。この日は朝から雨。前日、藤波が1点でラップを終えたことで、主催者はセクションの難易度をちょっと高めてきた。そのうえに雨だから、この日のトライアルは、むずかしかった。減点数が一気に増えているのは、そんな背景があった。

第1セクションはトップライダーはみなクリーン。この日は、早くも第2セクションが鬼門となった。川から岩に飛びつくポイントで、みんなが悩んでいる。下位ライダーは、早々に不可能と察してエスケープしている。そしてなんと、ラガまでもここをエスケープしてしまった。残されたのは藤波とボウ。ふたりには、ここを走破できる自信があった。まずボウがトライ。クリーンだ。そして藤波は、1点だった。クリーンできなかったのはちょっとくやしいが、ほかはみな5点だから、まずまずの滑り出しだ。

するとその次、第3セクションでボウが5点になった。ここで、試合のペースは藤波のものになった。藤波のみが5点なしの2点、ボウ、ラガ、ファハルド、ダビルはみな5点一つで横並びに並んでいる。

この日も、勝負の肝は第4セクションだった。前日は1点と2点だったが、今日は3点だった。しかしボウも5点。他、全員が5点となった。これで、藤波のリードは決定的になった。

第9セクションで、トップライダーがまたひっかかった。ここは結局、全員が5点ということになったが、トライしたのは藤波とボウだけで、あとの面々はみなエスケープしてしまっている。

この日、藤波がつまずきを見せたのは13セクションだった。インでいきなり5点になった。これが絶好調の藤波のペースを、わずかに乱した。それでも、この時点でボウに6点、ラガに15点もの差をつけていたから、まだまだ藤波のリードは揺るぎなかった。勝てる感触も持っていた。

ところが、13セクションでの5点が影響したのか、14セクションでまた5点となった。ここはヒルクライムのセクションで、ひとつめのこぶではねすぎてしまって2個目にいけなかった。雨が降って、グリップが悪くなっていたということもあるのだが、ボウはクリーンしているし、2ラップ目は藤波もクリーンしている。足が出るようなセクションではなかったはずだが、これがトライアルのむずかしさだ。

photoこの2連続5点で、藤波とボウの点差は一気に1点まで縮まった。これが、ボウを調子づかせてしまう結果となった。一番最後からトライすることで、勝負の流れはすべて把握していた藤波だったか、1点リードで折り返した2ラップ目、藤波はボウとのハイレベルな神経戦を戦うことになった。

しかし2ラップ目、藤波のライディングは、1ラップ目ほどうまくはいかなくなった。鬼門の第4セクションでは、藤波はボウが落ちると思っていた。だからボウがここを2点で通過したのは、ちょっと想定外のショックもあった。そして第7セクションでは、タイムオーバーで5点もとった。歯車が、微妙に狂った。

それでも1ラップ目より6点減らして16点は、ラガよりも5点よいスコアだ。ただ、ボウにだけはかなわず。ボウはこのラップ、10点のベストスコアをマークして、トータルで藤波を5点上回った。

結果的には、1位と2位。悪い結果ではない。ラガを追い落として、ランキング2位も確保した。しかしチャンピオンシップをリードするには、ボウをターゲットに定めた、これからが本当の勝負だ。

○藤波貴久のコメント

「土曜日はパーフェクトに近い感じで、自分の納得できる戦いができました。でも日曜日に勝てなかったので、アメリカ大会をトータルでみると、とってもくやしいという感想です。日曜日も、問題なく勝てる予定でしたから。日曜日の敗因は、1ラップ目後半のふたつの5点。ここで一気に10点近くリードを失ってしまった。これが致命的でした。やはり、自分が納得できるライディングができれば勝利はついてくるし、日曜日のように、納得できない部分が残ってしまうと、勝利にはつながらないなということを再認識しました。この日のボウの勝利も、ぼくがミスをしたから得たものともいえますから、日本には、自信を持って帰りたいと思います。アメリカ大会は、もてぎに向けて、いい感触をつかんだと思います」

Trial WorldChampionship 2008
土曜日/Saturday
1位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 1+8+0 9 26
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 4+12+0 16 23
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 14+14+0 28 18
4位 アダム・ラガ ガスガス 22+8+0 30 22
5位 マルク・フレイシャ ガスガス 23+13+1 37 16
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 26+12+0 38 17
7位 ドギー・ランプキン ベータ 26+19+0 45 14
8位 ジェームス・ダビル モンテッサ 39+32+2 73 13
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 23+10+0 33 19
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 22+16+0 38 16
3位 アダム・ラガ ガスガス 33+21+0 54 17
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 39+35+0 74 10
5位 マルク・フレイシャ ガスガス 41+33+0 74 6
6位 ジェームス・ダビル モンテッサ 36+37+3 76 7
7位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 41+38+0 79 8
8位 ドギー・ランプキン ベータ 48+36+0 84 8
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 74
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 67
3位 アダム・ラガ ガスガス 65
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 48
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 44
6位 ドギー・ランプキン ベータ 40