2008 FIM SPEA 世界選手権トライアル第2戦アイルランドGP

2008年4月6日/観客:10,000人(日)

4つの5点が勝利を阻む……

photoアイルランドは、寒かった。天気予報の通り、ときおり雪まで降ってくるというさんざんな天候だった。風も強かった。港町であるバンゴールの会場は、海に面した岩場にも、いくつかのセクションが設けられている。風が強いから、波も高い。空からは雪、海からは波。自然の攻撃は、容赦なかった。

この会場は、2003年と2004年以来、3度目の開催会場。当時は世界選手権は2日間制でおこなわれていて、どちらの年も、藤波貴久は土曜日に勝利している。そしてもちろん、2004年は藤波が世界チャンピオンになった年である。

前回、試合終盤に腕をつってしまうというフィジカルトラブルに見舞われた藤波は、トレーナーの助言も加えて、食事メニューなどをもう一度見直してトレーニングに励んだ。コンディションは万全だ。トレーナーのダニは、前回に引き続き今回も現場に同行してきている。

さて厳しいコンディションの中、試合は始まった。前回3位だった藤波は、ドギー・ランプキンに続いて、最後から3番目のスタートとなる。第2セクションでアダム・ラガとランプキンが1点、第3セクションでは、トニー・ボウが5点となる。藤波はアルベルト・カベスタニーと並んで、3セクションまでをきれいにクリーン。試合の滑り出しは、上々だった。感触も、悪くない。

第4セクション、藤波は5点となってしまった。しかしここは難度が高い。カベスタニーも5点、ラガも5点だ。唯一ボウが1点でここを上がったが、この時点では、ボウもまだおそるるにいたらない。第5セクション、ボウがクリーンし、ラガが1点。藤波も1点を失った。カベスタニーは2点減点となっている。これで藤波はボウとトップ争い。1点差でカベスタニーとラガが並ぶ展開となった。日本人とスペイン人3人による、いつもの四強の対決だ。

大失敗は、第7セクションだった。川の中から斜面を登っていく設定。ライバルを見るまでもなく、それまでのライダーの動向を見ていても、ここはクリーンセクションだった。しかし藤波が川の中から加速すると、砂っぽい川底はあっという間にリヤタイヤをのみこんでしまい、マシンが進まない。なんと、そのまま藤波は5点となってしまったのだ。

クリーンセクションでのこの失敗は、痛手が大きかった。0点のはずが5点というのも大きいが、それ以上に藤波の気持ちに影が生じた。次の第8セクション。ここはそれなりに難度は高かったが、かつてのチームメイトたち、マルク・フレイシャが2点、ランプキンが1点と、みなアウトしている。藤波は、冷静にこのセクションに対峙することができなかった。

はたしてこの動揺が、時間不足を誘発し、1分半の間にセクションを走破できなかった。三度の5点。ここはボウも5点になっていて、トップはカベスタニーの7点。同点でラガ。ボウは11点、藤波が16点という展開になった。さらに藤波は、次の第9セクションでも1点を加えている。

最後に、本部前の人工セクションに戻ってくると、そこには出口付近に大きな木が横たわっていて、オーバーハングにこれを超えるように設定されていた。ジェロニ・ファハルドが3点でここを抜けたが、それ以外は5点が多い。藤波もまた、ここを超えることはできなかった。最後のこのポイントまではクリーンだったから、くやしさもひとしおである。しかしそれ以上に、ラップを通して、思った以上に減点を積み重ねてしまったのが痛恨だ。1ラップ目の減点は23点でカベスタニーと4点差の4位。5位のファハルドとわずか1点差だった。トップはラガの10点。ボウがそれに続いて14点で2位。しかし藤波は、周囲の点数を知ることなく、気持ちだけ入れ替えて、2ラップ目に臨んだ。結果がよくないのはわかっているから、ひとつひとつのセクションをていねいに走りあげていく以外にない。

1ラップ目に5点となった第4セクションは、今度は1点で通過した。今度はボウも5点。このセクションは、藤波とボウだけが走破できたということになる。しかし反面、第3セクションで3点をとってしまった。第4セクションを1点で抜けた快挙が、逆転への起爆剤とはならなかった。

1ラップ目の鬼門だった第7は、今度は当然クリーンした。第8セクションも1点。ボウも同様だった。しかしラガはここをクリーンしていて、トップを守っている。藤波は、ラガには10点以上の差をつけられてしまっている計算となるが、もちろん藤波自身はそんな情報を必要としてはいない。

photoその後、11、13セクションと藤波はふたつの減点2をとってしまうが、5点がひとつもない2ラップ目は、まだベストスコアの可能性を残していた。ラガは12セクションで5点をとっていたし、ボウには第4での5点があった。しかしこの頃、藤波には試合の終盤に向けて、情報が届けられる。カベスタニーと競り合っているから、油断をせずに、きちんとセクションを攻めあげろ――。表彰台に向けての、チームからの指示だった。

最終15セクション。オーバーハングは、やはり鬼門だった。1ラップ目はまったく歯が立たなかったので、2ラップ目はセクションインの前に、マッピングを変更してオーバーハングスペシャルとした。しかし5点。2ラップ目の減点を14点として、トータル36点。カベスタニーは1ラップ目に1点のタイムオーバー減点があって、トータル39点。3点差で、3位表彰台を獲得した藤波だった。優勝したラガは21点と15点差。2位のボウとも13点差だった。

勝利には、2回とも登れなかったオーバーハングの最終セクションの攻略が不可欠だった。2位の座を逃したのは、1ラップ目中盤のクリーンセクションを失敗し、その失敗を引きずって次のセクションも5点としてしまったのが大きかった。

2戦連続で3位。表彰台は最低ラインという認識だから、なんとか最低ラインを保ったことになる。チームとしてはうれしくはないが、ボウが今回2位となって、上位二人が2戦で1位2位を分け合ったことで、2戦を終えて藤波はランキングトップと7点差につけている。これは不幸中の幸いでもある。

最低ラインはキープしている。あとは、ここからどうジャンプするかだ。次はアメリカ大会。そして日本。この2大会でチャンピオンへと大きく飛躍をした2004年、この2大会の不調がタイトルへの道を阻んだ2006年、ヨーロッパ大陸以外での4戦分は、藤波の未来を大きく左右する。もちろん、藤波はこの2大会を、ラッキー大会と確信して、遠征に旅立つのだ。

○藤波貴久のコメント

「クリーンセクションで5点になってしまった第7セクションは、ほんとうになさけない。それを引きずって次のセクションに影響が出てしまったのも、大きな問題です。前回も、自分に納得のできない戦い方をすると、それに見合う結果しかついてこないということを実感しましたが、またもそれを実証してしまった結果です。最終セクションについては、トニーとアダムは上がっているので、これはライダーが克服しないといけないところです。しかしその前に、今日は7セクションと8セクションが痛かった。今回は体調は万全でした。だから結果を出したかった。アメリカではどんと活躍して、はずみをつけて日本に帰ります」

FIM SPEA Trial WorldChampionship
日曜日/Sunday
1位 アダム・ラガ ガスガス 10+11+0 21 21
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 14+9+0 23 20
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 22+14+0 36 18
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 18+20+1 39 20
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 23+18+0 41 18
6位 ドギー・ランプキン ベータ 28+19+0 47 13
7位 マルク・フレイシャ ガスガス 34+13+0 47 11
8位 ジェームス・ダビル モンテッサ 38+24+0 62 10
世界選手権ランキング
1位 アダム・ラガ ガスガス 37
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 37
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 30
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 24
5位 ドギー・ランプキン ベータ 23
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 21