2008 FIM SPEA 世界選手権トライアル第1戦ルクセンブルグGP

2008年3月30日/Ettelbruck

最低ラインの3位をキープ!

photo2008年のアウトドア世界選手権シリーズが始まった。チームメイトだったドギー・ランプキンがベータへ移籍して、チームは昨年世界チャンピオンのトニー・ボウと藤波のふたりだけがこのクラスへ参戦する。2007年は、成績もさることながら、その戦いぶりも課題が多かった藤波。2008年は、勝っても負けても、納得できる戦い方をしたいところだ。

開幕戦はルクセンブルグ。ベルギーとドイツ、フランスに挟まれた小さな国で、広がる農場に岩を入れてトライアルセクションを仕立て上げている。いわばもてぎに似ているセクション構成ともいえるが、土が湿ると、どうにも対処しようがないほどに滑る。乾けばなんということのない岩場も、雨が降ったり、朝のうちの湿ったうちは最悪のコンディションを提供してくれる。

スタートは、ゼッケンの若い者があとに。藤波は、ボウとアダム・ラガを残してラスト3人目でスタートした。路面は湿っていて滑りやすいので、他のライダーを待ったほうがコンディションがよくなるというケースもある。もちろん、他のライダーを待てば、走り方やラインを参考にできるというメリットもある。

しかし藤波は、あえて他のライダーより先陣を切ってトライをすることにした。先にトライをするといっても、全体に早めのペースだったから、それほど先行しているわけではない。ただ、藤波がラガやボウのトライを見て参考にすることはなかった、ということだ。藤波の直前を走るのは、ダニエル・オリベラス(スペイン・シェルコ・ゼッケン9)やジェイムス・ダビル(イギリス・モンテッサ・ゼッケン8)で、ジェロニ・ファハルド(スペイン・ベータ・ゼッケン6)やドギー・ランプキン(イギリス・ベータ・ゼッケン5)が藤波の直後を走ることが多かった。

photoまず、自分の思ったラインが先に先に見えていたので、他人のトライを参考にすることはないという信念があった。昨年は、ボウの動向を気にしすぎて、自分のライディングをも見失うという傾向があった。本来トライアルは自分との戦いだから、これでは具合が悪いのだ。今回自分の走りに専念した藤波は、その結果に納得できていた。5点をとったりクリーンをとったりしながら、悔いのないトライアルができたなら、最終的な結果も、きっとついてくるにちがいない。

1ラップ目は、そんな感じでトライを重ねた。その結果、ボウに1点差、ランプキンと同点の2位につけた。悪くない結果だ。そして、2ラップ目に期待の持てる戦況でもある。

2ラップ目、路面は急速に乾いてきていたから、さらに乾くのを待ってトライするという作戦もあったが、藤波にはペースができていたので、そのままの2ラップ目も少し早めのトライをすることにした。納得できる試合運びをすることが、今日の藤波のテーマでもあった。

しかし2ラップ目、うまく回っていた試合運びに、少し異変があった。

第3セクションを、藤波は3点で抜けた。ボウは、ここで5点となっている。これで、藤波がトップに立った。1ラップ目、ボウは24点で藤波が25点だったが、早まわりをしていた藤波に対して、ボウは1点のタイムオーバーがあった。藤波のリードは2点ということだ。しかし同時に、ここをラガはわずか1点で通過していた。ラガはボウに1点差に迫っている。

そして第6セクション。藤波は痛恨のミスをした。5点。アクセルをちょっと開けすぎてマシンを滑らせてしまった。純粋なライディングの失敗だった。ボウもラガもここをクリーン。藤波はトップの座を明け渡さなければいけなくなった。

photoさらにいけなかったのが、第8セクションだ。ここでは、インしてすぐに、チェーンがはずれた。トライ中に、なんとかチェーンをもう一度セットしてトライを続行しようとする。もちろんマシンを降りて整備するわけにはいかないから、外れたチェーンラインをうまく合わせて、ほんの少し前進してみる。うまく入ればOKだが、なかなかうまくいかない。結局チェーンが入ったときには、残り20秒になっていた。万事休す。ここは1ラップ目には藤波だけがクリーンしていたところで、2ラップ目にはボウが1点、ラガが2点と減点をまとめてきていたから、このアクシデントは痛かった。練習中も含めて、チェーンがはずれるなどというトラブルはずっと縁がなかったことなのに!

その後、10セクションでボウが5点。藤波も、減点を抑えていけば、まだチャンスはあった。試合は、最後まで粘り強く戦っていく必要がある。10セクション、11セクションと1点ずつに減点を抑えて、勝負は後半戦に入った。ラガがずいぶんと調子を上げてきているのが、チームの情報から伝わってきた。

12セクションで3点となった藤波は、1ラップ目にラガ以外はみな5点となった13セクションにやってきた。1ラップ目はセクション中盤でひっかかったが、今回は抜ける自信はあった。しかし今度は、意外なところに落とし穴があった。腕に疲れが出たか、筋肉がつってしまった。どうにもコントロールができなくなって、マシンを止める間もなく5点となった。

不幸中の幸い、13セクションはボウもラガも5点だった。ここで挽回できなかったのは悔やまれるが、まだ可能性はあった。腕のマッサージをして、残る2セクションに挑む。ところが14セクションで、またも同じアクシデントが藤波を襲った。またも5点。今度は、ボウもラガも、それどころか全体の半数近くがクリーンしているセクションだ。ここでの5点で、上位に挽回するチャンスは失われてしまった。

photo不幸中の幸いは、早まわりを実践していたため、残り時間に余裕があったことだ。試合終盤、時間がなくなって先を急ぐファハルドやランプキンに、藤波は先を譲っている。藤波は、それでもまだ、時間に多少の余裕があった。早く回るのが、いつでも結果につながるわけではないが、今回は功を奏したようだ。

残るは、ここもクリーンするライダーの多かった人工セクション。学校の表の庭に、流れる滝とプールが設けられている。リズムに乗せて走る必要があるが、それほど難度は高くない。ところが藤波は、ここでもまた同じトラブルに見舞われた。ここで5点になるわけにはいかない。トライ中に、回復を試みる藤波。しかし症状は変わらない。予定通りにトライを続けると、クラッチ操作ができなくなって、3連続5点となってしまう恐れも大いにあった。ラインを変えて、なるべくクラッチ操作をしなくても済むように、走らせながら岩を超えていく戦法をとって、なんとかこのセクションを乗りきった。結果を見ると、ここで万一5点をとっていたら、3位の座をランプキンに奪われていたところだった。

終わってみれば、ボウに10点差、ラガに9点差。いつものことながら「たら・れば」は禁物だが、2ラップ目の第6でのライディングミス、第8のチェーンはずれ、そして13セクション以降の腕のトラブル。これらがすっかりなければ、あと10点減点を減らすのは簡単だった。チェーンはずれとクリーンセクションだった14セクションでの5点がないだけでも、上位2名にそうとう詰め寄ることができる。

結果としては心残りもあったが、しかし自分の思い描くトライアルを組み立てることができて、感触は悪くなかった。シーズンのスタートとしては、最善ではないにしろ、まずまず悪くない滑り出しができた2008年の藤波貴久だった。

○藤波貴久のコメント

「3位表彰台は、最低線ですね。最低ラインが維持できたという点で、よかったという思いです。ただ、去年は3位でも上の二人に離されての3位が多かったから、今回、2ラップ目序盤までトップにつけていたというのは大きな自信です。自分の思うトライアルができれば、結果はおのずとついてくるのだということも確認ができたし、2ラップ目後半のように、これじゃいけないというトライアルをしていると、結果もそういう結果になるのだということもあらためて確認しました。今日は、ライバルの動きを気にすることなくトライができたので、それも去年とは大きなちがいです。今シーズンを戦うイメージはできた、と思います」

FIM SPEA Trial WorldChampionship
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 24+18+1 43 16
2位 アダム・ラガ ガスガス 30+14+0 44 11
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 25+28+0 53 13
4位 ドギー・ランプキン ベータ 25+32+0 57 10
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 36+22+1 59 8
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 45+31+2 78 7
7位 マルク・フレイシャ ガスガス 44+38+0 82 10
8位 ジェームス・ダビル モンテッサ 46+55+0 101 4
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 20
2位 アダム・ラガ ガスガス 17
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 15
4位 ドギー・ランプキン ベータ 13
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 11
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 10