全5戦。あっという間にインドア世界選手権も最終戦となった。後半、連続して表彰台に登っている藤波は、あとひとつ表彰台に乗って、3位以内入賞率を5割以上にしておきたいとところ。
そんな藤波に逆風となったのが、スタート順だ。しかしこれは、全員のローテーションだから、文句は言いっこなし。前回、クォリファイを一番最後からスタートして試合展開がたっぷり読めた藤波は、今回はダニエル・オリベラスとジェロニ・ファハルドの二人のワイルドカードライダーに次いで、ノミネートライダー最初のスタートとなった。
今回世界選手権初参加のオリベラスは、いつも参加しているジェイムス・ダビルがイタリア選手権に参戦でこちらを欠場。その代役として抜擢されたものだ。
藤波は、ウォーミングアップをしつつも、オリベラスとファハルドの走りに注目する。しかし初参加のオリベラスはやはり5点が多い。第3セクションでクリーンした以外は、8つのオブザーブドセクションをすべて5点。今回のセクションは、時間を食いそうなものが多かった。だから藤波は、度の程度の走りをするとどの程度時間がかかるのか、前走者の走りから、そこを参考にしようと思っていた。しかしオリベラスの5点は、セクションの入り口で5点となるケースが多かった。これでは、時間配分の参考にはならない。続くファハルドは、1点がふたつ、クリーンがひとつで、オリベラスよりはだいぶいいが、それでも藤波が参考とするには、5点ばかりだった。
結局藤波は、なんのデータも持たないまま、カベスタニー以降のライダーにデータを与えるような役回りを演じることになった。
最初のセクションは1点。これはまずまずだった。次の第2セクションは、もちろんオリベラスもファハルドも5点となっていたもの。ここを藤波は、最後のポイントまで順調にマシンを進めた。しかし最後の最後が登れず、5点。5点になるのがわかっていれば、もっと早くトライをあきらめて、他のセクションに時間を回すこともできるのだが、5点になるつもりでトライしているわけではない。結果的に、ここで時間をちょっと使いすぎたのが、その後の展開に影響を及ぼすことになる。
それ以後、最終のひとつ手前、7セクションまでの藤波は悪くなかった。カベスタニーが5点となった第5セクションも1点で通過し、3回目のファイナル進出はまずまちがいないという試合展開となった。第7セクションはエスケープしてタイムを温存、第8セクションをクリーンして、8つのセクショントライが終わった。藤波のここまでの減点は、5点がふたつ、1点がふたつ、そしてタイムオーバーが2点あって、小計15点。
次はダブルレーン。藤波の相手は、カベスタニーだった。カベスタニーのここまでの減点は17点。ここで負けても、足さえつかなければまだ1点のアドバンテージがあるわけだが、ダブルレーンは藤波のお得意だ。カベスタニーをくだして、15対18。3点のリードを奪って、クォリファイ最後のセクションとなった。
これが、ハイジャンプだった。ハイジャンプは、高く高く置かれたバーを飛び越えるという単純明解競技。走り高跳びというわけだが、バーは4本用意されている。1本も落とさなかったらクリーン、1本落とせば1点、2本で2点、3本で3点、全部落としてしまったら5点という勘定だ。かつてはインドアのたびに設置されていたハイジャンプだが、今年はこれが初めて。なんでも主催者が「そういえば今年はハイジャンプを1回もやってない。じゃ、最後にハイジャンプをやってやろう」と準備の土壇場になって加えたメニューだったという。
藤波は、去年から(07年インドアシーズン)から今年にかけて、マシンの仕様をいろいろ変更している。つまり、今の仕様のマシンでハイジャンプを飛ぶのは、これが初めてだった。まず不安だったのが、ギヤの選定だ。
インドアスペイン選手権でハイジャンプを飛んでいるトニー・ボウに、何足で飛んでいるのか聞いてみた。
「そりゃー、3速でしょう」
ボウのお返事は明解だった。でも藤波は悩んだ。今までのハイジャンプの感触だと、3速で飛ぼうものなら、どこまで飛んでいってしまうものか、わからない。今まではずっと2速で飛んで、バーを落としたことなどない。しかしトニーは3速だというし……。
結局藤波は、今まで通り2速を選んだ。そしてバーに向かって加速したのだが、なんと、ぜんぜんスピードが足りない。バーにはまるで届かず、4本のうち3本を落として、減点3である。なんと、余裕だと思ってたカベスタニーと同点になってしまった。
同点になると、規則ではオブザーブドセクションの走破タイムの短い方が上位となる。藤波は2点(30秒ごとに1点)のタイムオーバーがあって11分42秒。対してカベスタニーはタイムオーバーなし、10分42秒。走破タイム1分の差で、藤波の3度目の表彰台は消えてなくなってしまった。
全員のハイジャンプが終わり、ボウ、ラガ、カベスタニーの3人がファイナルに進むことになり、一度ライダーがパドックへ引きあげるとき、藤波はもう一度ハイジャンプを飛んでみた。今度は3速を選んだ。
余裕で軽々と、バーの上を通過した。バーにマシンが当たるなんて、ありえないほどの余裕だった。トニーのアドバイスをそのまま聞いていれば、と悔やんでも後の祭りだった。ハイジャンプを土壇場で設営したという主催者は「おれがハイジャンプを思いついちゃったから、フジが落っこちちゃったなぁ」と試合後にあやまってくれた。もちろん、あやまってもらっても、3点がクリーンになるわけではない。
しかし今シーズンのインドアは、結果はともかく、なかなか手応えのあるものだった。惜しいところでファイナル進出を逃した試合もいくつかあるが(今回も、そのひとつだが)、感触としては、ファイナル進出が無理だったという試合はバルセロナ大会の1回だけだった。ほかは、ファイナル進出はほぼ手中に収めていたものだから、昨シーズンよりは、だいぶ好感触のインドアシーズンとなった。
さてこれで、インドアのシリーズはおしまい。次は、月末のルクセンブルグ大会でのアウトドア開幕戦だ。マシンも、いよいよ2008年モデルがデビューする。スペイン選手権でも悪くない結果が残っている。この好感触を、アウトドアシーズンで思いきりぶつけていきたい藤波である。
「もう、くやしいというより、なさけないです。第2セクションで時間を使いながら5点になったのも失敗は失敗ですが、それより今回はハイジャンプにつきるでしょう。終わってから飛んでみたら、どうやったらバーにさわれるの?というくらいのものでしたから。まぁでも、今年のインドアはまんざら悪いシーズンではなかったです。この感じをふくらませて、アウトドアのシーズンに突入します。あとは、風邪などひかずにシーズンを迎えることですね!」
Final Lap(決勝) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 6 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 8 |
3位 | アダム・ラガ | ガスガス | 10 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 5 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 13 |
3位 | アルベルト・カベスタニ | ー シェルコ | 18 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 18 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 27 |
6位 | ドギー・ランプキン | ベータ | 33 |
7位 | ダニエル・オリベラス | シェルコ | 38 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 48 | |
2位 | アダム・ラガ | 35 | |
3位 | アルベルト・カベスタニー | 35 | |
4位 | 藤波貴久 | 27 | |
5位 | ジェロニ・ファハルド | 20 | |
6位 | ドギー・ランプキン | 14 | |
7位 | ジェイムス・ダビル | 9 | |
8位 | ダニエル・オリベラス | 2 | |
9位 | ジェローム・ベシュン | 1 |