2007年 世界選手権第11戦アンドラGP

2007年9月2日/観客:7,000人(日)

シーズン最悪の5位で07年を終える

photo最終戦ベルギーGPが突然中止になって、残り1戦の時点のアンドラGPが2007年の最終戦となった。ベルギーGPの中止が決定した時点で、タイトルは藤波のチームメイト、トニー・ボウの獲得が決定。さらにランキング2位のアダム・ラガもポジションを決定し、藤波もまた、ランキング3位が決定してしまった。藤波はアンドラで優勝してもランキング2位に躍り出ることはできないし、仮に出場しなかったとしても、ランキング4位に落ちることはない。選手権を語るうえでは、アンドラ大会はいわば消化戦となった。

しかし、今シーズン一度も勝利をしていない藤波にとっては、残された最後のチャンスでもある。最後の勝利をめざして、藤波はスタートを切った。アンドラ大会は、山の中の小さな国、アンドラで開催される。パドックは標高1000メートルほど、ピレネー山脈を登ったところにあり、もっとも高いセクションは標高1500メートルにも達する。

試合の出だしは、悪くなかった。カベスタニーや、ボウまでが1点減点となった第1セクションをクリーンし、第3セクションでは3点となってしまったものの、なんセクションの第5も3点で抜け、6、7とまたクリーンした。ここまで6点。ボウの3点、ラガの4点に続くランプキンと同点の3位。もともと試合の序盤は本調子に慣れない藤波のこと、ここから巻き返すチャンスはあった。すでにランキングも決定して、試合に対するプレッシャーはない。あとは勝ちたいという熱望のままにマシンをコントロールしていくだけだ。

第8セクション。コースは徐々に標高を上げてきて、標高1400メートルほどのポイントにやってきた。ここまであがると、エンジン性格など、標高が低い地点とはずいぶんと異なったものになってくる。藤波の走らせるモンテッサ4RTのフィーエル・インジェクションは、ちょっとした標高差などはコンピュータが調整してベストの燃料を噴射するように設定されているが、藤波の研ぎ澄まされたライディングを100%発揮するには、高地では高地用のセッティングをほどこす必要があった。しかし、このセッティングに、やや苦労があった。岩を越えるという単純なアクションでは問題はない。しかし斜めの岩盤を走らせていくような設定のところで、思わぬ症状が出た。アクセルを開ければフロントがあがってくる。戻せば進まない。ぎりぎりのアクセルワークを要求される世界選手権のセクションでは、わずかなセッティングの失敗が致命傷となる。高地対策で、エンジンパワーをあげすぎてしまった結果ではないかと、藤波は分析する。セクション出口までクリーンをしていながら、最後の最後の岩場でマシンを滑らせて5点となるシーンが、たびたび
藤波を襲った。8セクション以降、藤波は急速に減点を増やしていく。

さらに、持ち時間の問題が追い討ちをかけた。10セクションから11セクションは、ふつうに走ると20分もかかるほどに距離があった。その時間を、どのライダーも計算しないまま、試合を進めていた。それで、トップライダーは一様に時間に追われるようになった。そのうえ、難関の第5セクションを3点で抜けたのも、今となっては時間的に苦戦を強いられる要因となっていた。ボウとラガと藤波の3人は、ここを攻略可能だと踏んで下見をし、トライをした。それ以外のライダーは、さっさと申告5点をもらって先へ進んでしまったのだ。それで、その他のライダーとはすっかり離れてしまったまま、藤波の試合は進んでいくことになった。

さらに、こんな状況下にあって、10セクションで大クラッシュをした。ハンドルがわずかに曲がり、レバーはぐにゃり、アクセルホルダーはばらばらという状況だった。11セクションで修理をしている間に、ラガが先にトライした。ここで、ラガに先行を許してしまった。

12セクションも、悪夢だった。すでに下見をしている時間はなかった。下見なしでセクションに飛び込んだところ、土曜日に下見をしたのとはセクションが変わっていた。厳しいラインを設定していたゲートがなくなっていて、ライバルは難度の低いところを走っていた。それを知らない藤波は、土曜日の下見のまま、むずかしいラインにつっこんで、もがいて3点となった。

1ラップめ、藤波のタイムオーバー減点は7点にもなった。ボウも5点のタイムオーバーを食っているが、トップ10の中では藤波の7点は群を抜いて減点が多い(全体を見ると、17位の小川毅士が16点のタイムオーバー減点をとっている)。

2ラップめ、1ラップめよりマッピングでエンジンパワーを落として走り出したが、それでも根本的な解決にはなっていなかった。そのうえ、時間が足りないのは依然として変わらなかった。なんと11セクションの時点で、残り時間はたったの5分となっていた。そこからは、トライアルというよりエンデューロだった。コースだけでなく、セクションもエンデューロ並の勢いで駆け抜けた。それでも、ゴールの時点では3点のタイムオーバー減点をとっていた。3分49秒遅れである(全日本などでは3分49秒遅れは4点減点となるが、世界選手権では減点は3点)。

結果は5位。今シーズン、一度も落ちたことがないポジションだ。しかも4位のカベスタニーとも11点の差がある。タイムオーバー減点の計11点がなかったとしても、今回は4位にはなれなかったという計算になる。

パドックに帰った藤波は、チームメイトのランプキンにねじふせられていじめられることになった。ランプキンは、カベスタニーとのランキング4位争いをしていた。戦況が固まったトップグループの戦いの中にあっては、唯一僅差で争っているのがこの二人だった。ランプキンはここぞというときには抜群の集中を見せる。今回も、カベスタニーを逆転すべき大事な局面に対して、堂々3位入賞をはたした。しかしカベスタニーが4位に入ったので、ランキングは変わらず。カベスタニーが4位、ランプキンは1点差で5位という結末となった。もし藤波がカベスタニーを下して4位に入っていれば、ランキングは逆に1点差でランプキンが逆転4位を獲得できていたのだ。ランプキンのくやしさも、想像に難くない。

photoしかしやはり、もっともくやしいのは藤波だ。今シーズン、藤波らしい戦いを見せる機会なく、はじめてランキング3位というポジションに甘んじることになった。今年、ボウの強さは圧倒的で、その強さに圧倒されたまま、シーズンを終えることになってしまったのは、なんとも痛恨の極みだった。さらには、ボウの強さに、ついていくこともできなかったのもまた、藤波がくやしい一因だ。今、世界選手権のライダーはどんどん若返っている。藤波も、すっかりベテランライダーの域に入った。そんな中、藤波がさらに好成績を出そうと思えば、彼らに増して努力を怠ることはできない。今シーズンは、課題だらけの1年ということになった。

しかしまた、ボウがタイトルを獲得したことで、これまで2年間藤波らが開発してきたマシンが、世界チャンピオンを獲得できるポテンシャルを持っていることは証明できた。このマシンで勝てることはわかった。あとはライダーの問題だ。今はまず、来年のバネにすべく、今のくやしさをひたすら噛みしめている藤波だった。

○藤波貴久のコメント

「ある意味、今年はスランプだったのかもしれません。上をめざそうにも、すべてバタバタしているだけで、ちっとも上に行くことができなかった。いつも下のレベルでバタバタしていた。本当に、本当にとってもくやしい。こんな内容で、よくランキング3位にとどまったなというのが、自分の今年のライディングに対しての正直な感想です。それにしても、今はとにかく、最後のこのアンドラ大会のふがいなさが、もっともくやしい印象として頭の中に広がっています」

Trial WorldChampionship 2007
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 8+6+5 19 25
2位 アダム・ラガ ガスガス 12+12+1 25 20
3位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 21+21+0 42 19
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 23+23+2 48 15
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 35+14+10 59 14
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 24+22+14 60 16
7位 マルク・フレイシャ スコルパ 43+40+5 88 5
8位 ダニエル・ジベール モンテッサ 53+47+4 104 4
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ モンテッサ 214
2位 アダム・ラガ ガスガス 191
3位 藤波 貴久 モンテッサ 155
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 135
5位 ドギー・ランプキン モンテッサ 134
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 104