2007年 世界選手権第10戦イギリスGP

2007年7月29日/観客:7,000人(日)

表彰台復活。しかし失敗=5点が痛い

photo 2戦連続で4位と表彰台を逃した藤波貴久は、今年まだ一度も手にしていない優勝のポジションを得るために、イギリスはホークストンパークへやってきた。ホークストンパークはモトクロスなどをメインとするオフロード競技場で、ここ数年、トライアル世界選手権の定番となっている。

イギリスは雨が多い。世界選手権の週末に向けても、雨はずっと降り続いていた。藤波ら、世界選手権の選手面々が会場入りをした金曜日も、雨は降ったりやんだり。土曜日には晴れたものの、夜にはやっぱり雨。セクションは、おのずと雨対策をほどこしたものとなった。

ところが日曜日、試合当日は朝から晴れ。濡れた大地はどんどん乾いていって、簡単なセクション設定になることは容易に想像できた。オールクリーンも不可能ではない(しかし現実には、それはたいへんにむずかしい)セクション設定は、このところの世界選手権では、これも定番となっている。

ホークストンパークのセクションは、モトクロス場だけに土がメインだ。土の中に、いくらかの石や岩が顔を出している。この地形も、世界選手権に参戦し続けたライダーにとっては、すっかりおなじみのものだ。

今回藤波は、自分のペースを守って試合を運ぶことにした。セクションに入り、ラインが見えたら、他のライダーの動向は気にせずにトライ。それで、序盤の3セクションをクリーンしたし、ペースは悪くなかった。この3セクション、リザルトをみればラガとカベスタニーが1点、ランプキンは5点をとっているのだ。結果、藤波のペースは早まわりとなって、ボウやラガの姿は見えなくなった。彼らは、おそらくいつものとおり、お互いに牽制しながら試合を進めているのだろう。かろうじて、チームメイトのランプキンが、藤波とペースを合わせていた。早まわりをしている藤波のところには、他の選手の動向は伝わってこない。しかし、走っている本人はそれほど悪い感触はなかった。だから自分のペースを守って、藤波はセクションをこなしていった。

そして10セクションにやってきた。ここは、まっすぐ登るラインの他に、左から逃げて確実に登りきるラインが見えた。それで藤波は、左から逃げるラインを整備し、ラインが固まったところでトライした。

ところが、ここでみんなに先駆けて早くトライしたデメリットが出た。藤波が作ったラインは、藤波ひとりを通過させるのにも力不足で、藤波のトライ中に崩れ落ちてしまった。走っている藤波を巻き添えにして!

ミス。そしてそのミスが5点につながってしまう。この数戦、藤波にはこのパターンが多い。今回もまた、この失敗が出てしまった。

1ラップ目を終えて、監督には「もうちょっとゆっくり走ってもいいんじゃないか?」とアドバイスを受けた。もうちょっとゆっくり走るのが、ふつうのペースでもある。ライバルの動向もわかる。しかし藤波は、2ラップめも自分のペースを守って走ることにした。自分のペースを作ること、自分が調子よく走れることは、なかなか得難いことだからだ。

2ラップめの第1セクション。ここはたいへんに簡単なセクションだった。おおざっぱにいえば、斜面をななめに横切る設定。ところがこの斜面で、後輪が滑ってしまった。その修正をするのに、斜面の壁にハンドルがあたった。

「あー、1点をとってしまったか」

藤波は多少がっかりしながらセクションをアウトしたのだが、なんとオブザーバーは5点だという。二人いたオブザーバーのうち、ひとりは1点を示していた。しかしメインのオブザーバーが“ハンドルが接地した”という解釈で5点としていたのだった。

ハンドルが接地すれば5点という解釈は、平地では転倒を定義したものだが、斜面ではとても難解になる。どこからどこまでが地面で、どこからが壁なのか。地面がゴロゴロの岩だったらどうなるのか。

藤波にすれば、なかなか納得しにくい判定ではあったが、オブザーバーのひとりは1点を示していたこともあり、抗議をして話が通れば採点が覆る可能性は大きいと、藤波は次のセクションに向かった。

この第1以外は、2ラップめの藤波は悪くなかった。1ラップめに失敗した10セクションも(みなと同じように)クリーンした。2ラップめのトータル減点は8点。第1が1点だったら、このラップは4点で、またも2ラップめのベストとなっているところだった。

2ラップめの14セクション、もう試合を終えようというときになって、藤波ははじめて点数を聞いた。ボウとは10点以上の差をつけられている。ラガとは5〜6点、さらに、4位のカベスタニーには7点ほどの差をつけていた。つまり、すでにほとんど試合が動くことがない状況になっていた。逆転のチャンスもまずないし、逆転されることもないだろう。それで、そのあとの2セクションを淡々とこなして、3位を得た。

photo今回は、ふたつの5点があった。どちらかひとつがなくなったとしても、藤波の順位は変わらない。しかし、こういったミスを出していることが、勝てない理由のひとつになっているのは明らかだ。簡単とはいえ、世界選手権のセクションは甘くないから、失敗しても脱出できるところはそんなに多くない。予定通りにふつうに走れば足つき減点、ものすごくうまく走ればクリーン、そして失敗したら5点というのが、今の世界選手権のパターンとなっている。

残り2戦、チームメイトのランプキンは100勝記念まであとひとつと迫ったところで足踏みをしているが、藤波もまた、この未勝利続きをなんとか脱出したいものだ。

○藤波貴久のコメント

「失敗イコール5点のくせをなおしていかないといけないですね。もっともっと慎重にいかないと。それにしても、このところ、オブザーバーの採点などでアンラッキーなことが多い。こういう不運は、もちろん不運なんですが、自分がまぎらわしい走りをしているということでもありますから、対策するところはあると思います。今回は表彰台に帰ってきましたから、それはよかったのだけど、それで喜んではいられませんね」

Trial WorldChampionship 2007
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 5+6+0 11 25
2位 アダム・ラガ ガスガス 6+11+0 17 21
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 15+8+0 23 20
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 13+17+0 30 18
5位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 19+11+0 30 18
6位 マルク・フレイシャ スコルパ 16+15+0 31 15
7位 ジェロニ・ファハルド ベータ 25+11+3 39 17
8位 グラハム・ジャービス シェルコ 21+19+0 40 12
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ モンテッサ 194
2位 アダム・ラガ ガスガス 174
3位 藤波 貴久 モンテッサ 144
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 122
5位 ドギー・ランプキン モンテッサ 119
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 94