2007年 世界選手権第9戦チェコGP

2007年7月15日/観客:1,500人(日)

巡り合わせ悪く表彰台逃す

photoセクションは、ありえないほどに簡単だった。チェコ大会での世界選手権は、2002年に開催されて以来。藤波の記憶によると、2002年の時のほうが世界選手権らしいセクションが用意されていたという。2003年にヨーロッパ選手権でチェコの同じ会場にきて試合を戦ったトニー・ボウが言うには、そのときのセクションとまったく同じものがいくつかあったという。ヨーロッパ選手権は世界選手権のランキング15位以内に入ったライダーには参加の資格がないクラスだから、そのセクションの設定レベルがわかる。

はたして、トップクラスは誰がオールクリーンするかが勝負の鍵になった。もちろん世界選手権だから、多少難度の高いところはある。たとえば多くの選手がたたき落ちてしまった第6セクションの大岩の飛びつきがそれだ。ただそれ以外は、第8セクションが少々むずかしい他は、ちょろちょろと足が出るかどうかという勝負になってしまった。

グリップも、よかった。木曜日のお昼までは雨が降っていたから、それでセクション設定を簡単にしたということもあったのかもしれないが、それ以降試合にいたるまで雨は降らず、条件はぐんぐんよくなっていった。前日に下見した際から「これは簡単すぎるね」とライダー同士の会話はあったのだが、当日に向けて大きく設定を変えることはできなかった。

1ラップ目、問題の第6セクションまでは、おおむねみなクリーンを続けた。ここまで減点0できていたのはランプキン、ファハルド、カベスタニー、そして藤波貴久。ラガとボウは、第5セクションでそろって減点1をとっている。減点1は、ほかにモンテッサに乗るジェイムス・ダビルがいた。フレイシャが2点、それ以下のライダーは、5つのセクションを終えてひとつかふたつの5点を献上してしまっている。

藤波は、第6セクションを正面からあがってクリアする自信があった。しかしもちろん、失敗すれば5点となる。そのラインを規制するゲートマーカーは、木の枝にぶら下がっていた。ゲートマーカーがぶら下がる木の枝を回り込んで抜けることで、正面から飛びつきをしなくても抜けられる。トップライダーが下見をしている段階で、このラインが発見された。そしてランプキンが3点でここを抜けた。ここまで、すべてのライダーがたたき落ちていたから、この3点は貴重なポイントに見えた。

カベスタニーは、ここで5点をとっている。藤波には正面突破の自信もあったが、しかしここ以外はクリーンが当然のようなセクションばかりだから、もしも5点をとったら取り返しがつかない。それで、藤波もランプキンをならって確実なラインを選ぶことになった。ランプキンが3点のところ、藤波は2点でここを抜けた。この時点ではベストの走りだった。

しかしどうやら、ボウとラガはここを正面から飛びつくラインを選んでクリーンしてきたようだ。彼らはともに第6セクションをクリーンし、そして第8セクションで1点ずつ失点して、1ラップ目を2点でまとめた。

藤波は、第6で2点、第8でやはり1点、さらに11セクションでちょい足があって、トータルでは4点。ボウとラガに2点差、もちろん抜群とは言えないが、そんなに悪くない折り返しといえた。ぴったりマークしていけば、相手もミスする可能性はある。そうすれば、優勝もけっして夢ではなかった。しかしミスをしたのはライバルではなく、藤波のほうだった。

2ラップ目、藤波の失敗は第3セクションで起こった。1ラップ目は当然のようにクリーンして、2ラップ目も問題なくクリーンする予定だった。3段を一気にだだだとあがっていくポイントで、もちろん藤波にはなんの問題もなかった。しかしこのとき、リヤがわずかに滑ったのか、一番上の岩でアンダーガードがひっかかった。ここまでは、まだそんなに問題ではなかった。ひっかかったアンダーガードを抜いて、そのままクリーンした藤波を待っていたのは、5点の宣告だった。なんと、アンダーガードを抜いたときに、バックをとられたのだった。ボディアクションを使ってマシンをゆすっていたのがバックをとられた根拠というが、これは採点にも無理がある。藤波はオブザーバーにその判定を質すも、オブザーバーは頑として譲らず。クリーンセクションでの5点は、かなり痛い。藤波には「今日はもう勝てない」という宣告のようなものだった。そしてここから、藤波の集中力は失われていく。

この頃から、ラガが早まわりを始めた。1ラップ目ボウと同点の2点。2ラップ目に双方ともオールクリーンが可能だと見てとったラガは、勝負が持ち時間の早いほうが勝ちとなる公算が高いと読んだのだ。藤波がちょっとしたマシンの修復作業を行っている間に、ボウがラガを追いかけて先行していく。ラガがその気なら、ボウもいっしょに追い上げないと勝ち目はない。

1ラップ目、ゲートマーカーを抜けて2点となった第6セクション。ここで藤波はものすごい光景を見てしまった。1ラップ目にあった抜け道は、なくなっていた。ゲートマーカーの設営方法が変わっていて、正面突破が唯一のラインとなっていた。藤波はもちろん正面突破に自信があったから、最後まで下見をして、クリーンを狙った。この間、ライバルたちが次々にトライしていく。カベスタニーが、最後の最後で登りそこねて、マインダーにぐいとひっぱられて墜落を逃れた。ところがオブザーバーの判定は1点。もうひとりいるオブザーバーは5点としているが、1点と判定したほうがメインオブザーバーだった。事態の収拾に困ったメインオブザーバーは、あろうことか観客に向いて「今のは1点か、5点か」と問いはじめた。お客さんは常にライダーの味方だ。みんなが「1点!」とコールする。そしてカベスタニーは5点が1点になった。そして、こんな判定を受けたのは、カベスタニーだけではなかった。

正々堂々とここを走ってクリーンした藤波は、しかしクリーンしても気が晴れない。第3セクションでは微妙な判定で5点となった。しかし第6セクションでは、どこからどう見ても5点が1点やクリーンになっている。この不公平はいったいどうなっているのか。しかもその判定は、お客さんが決めたものだ。藤波のイライラはいっそうつのってしまった。

このあと、藤波は第8セクションで5点となった。もう少し落ち着いて走ったら、たとえ失敗があっても1点か2点で抜けられたはずだったのだが、藤波の気持ちにはその余裕がなかった。この日二つ目の5点となった。そしてさらに、13セクションでもう1点を加えて、2ラップ目11点。藤波のトータルは15点だった。

ラガとボウの早いもの勝ち競争は、ボウが根負けして5点をとって決着していた。ラガは2ラップ目オールクリーンでトータル2点。ボウが7点。そして3位には、2ラップ目を1点3個でまとめてトータル8点としたカベスタニーが入った。

藤波が目撃した第6セクションについては、目撃者も多数いたから、正式抗議をすれば訴えが認められるだろうことは想像できたが、たとえこれでカベスタニーの第6セクションが1点から5点となっても、藤波との7点差は埋まらない。なんともおさまらないが、抗議はしないで4位を甘んじて受けることになった。

藤波の走り自体は、このところの連戦を通じて、そんなに悪いものではなかった。しかし結果は、またしてもくやしいものになった。残りはイギリス、アンドラ、そして最終戦ベルギー。3連勝すればランキングポイントは60点が手に入る。しかし2位を3回続ければ51点。ここから先の逆転は、たいへんにむずかしい。ランキングトップのボウとラガは17点、ボウと藤波の点差は45点、ラガと藤波の点差は28点となっている。

○藤波貴久のコメント

「ここまでくると、なんと言うべきか、という感じですが、2ラップ目はぼくには納得できない判定があって、ライバルには異常ともいえる有利な判定があって、そんなことがあって集中を失ってしまいました。正直、チャンピオン獲得は苦しい状況になってきてしまっていますが、ランキングがどうこうというより、今年はまだ一度も勝てていないですから、トニーとアダムの優勝争いにとにかく加わって、一勝をあげたい。残り3戦ありますが、とにかく1勝してから、それから2勝目3勝目と考えたいと思います」

Trial WorldChampionship 2007
日曜日/Sunday
1位 アダム・ラガ ガスガス 2+0+0 2 28
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 2+5+0 7 27
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 5+3+0 8 26
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 4+11+0 15 24
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 7+10+0 17 25
6位 ジェームス・ダビル モンテッサ 15+10+0 25 21
7位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 16+19+0 35 19
8位 マルク・フレイシャ スコルパ 21+20+0 41 14
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ モンテッサ 174
2位 アダム・ラガ ガスガス 157
3位 藤波 貴久 モンテッサ 129
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 109
5位 ドギー・ランプキン モンテッサ 108
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 84