2007年 世界選手権第7戦イタリアGP

2007年7月1日/観客:12,000人

痛恨の1ラップ目。痛恨のラウンド

photo北イタリア、アルプスの麓のエブラで開催された。コモ湖のすぐ近く、ミラノの北40kmになる。パドックの標高は約300メートル、一番高い13セクションのあたりは標高900〜1,000メートルと標高差もかなりあるマウンテントライアルとなった。

この大会、藤波貴久は三度三位となった。2ラップ目にはこの大会のベストラップとなる10点をマークして追い上げたものの、トニー・ボウ、アダム・ラガには届かず。2ラップ目が好調だっただけに、1ラップ目に減点がかさんだのがくやしい結果となった。1ラップ目に2ラップ目の走りができていたらぶっちぎりだったし、それでなくても、それに近い走りができていれば優勝は遠くなかった。

1ラップ目、藤波はまちがいなく10点は減らせたはずだったと試合を振り返る。結果は結果。失った結果を「たられば」で語るのを好まない藤波だが、この日はよほどくやしかったのだ。

まちがいなく減らせた10点のうちの一つ目は、第9セクションだった。ここは難セクションで、ランプキンが5点、ダビルが3点など減点をマークしている。藤波ラガここに到着したのは、ランプキンたちにはるか送れていた。というのも、第3セクションでカベスタニーが大クラッシュ。試合の流れが中断し、カベスタニーのあとにいた藤波、ボウ、ラガがみな遅れをとってしまった。そこまでも、トップライダーは下見に時間をかけていた。第2セクションを終えたところで、1時間40分を消化していた。1ラップ目中盤にして、時間がないという展開になってしまったのだった。

ここでカベスタニーが、意表をつくラインでクリーンした。岩をまっすぐ登らず、置いてあるゲートマーカーをたくみにすりよけながら抜けていく。カベスタニーの次が、藤波のトライ順だった。日本GPから使っているインカムで、マインダーのジョセップから藤波に打診が入る。
「カベスタニーがとっても簡単なラインでクリーンした。どうする?」

といっても、藤波はそのラインを下見していないし、カベスタニーの走りを見てもいない。すっかり、まっすぐ登りきるつもりでいたのだった。しかし、とっても簡単でなにも障害がない、ゲートマーカーの間を抜けていくのがややこしいだけだという解説に、藤波もこのラインにトライすることにした。

セクションの最後に位置するその難所までは、もちろんクリーンで進んだ。その難所のラインは、ジョセップが指示する。藤波はぶっつけ本番で、簡単ではあるが、少しややこしいラインに突入した。そこは、本当にややこしかった。世界選手権クラスは赤いゲートマーカーを通過しなければいけない、ジュニアは青、ユースは緑だ。さらに、各々のクラスは、他のクラスのゲートマーカーを通過してはいけない。いろんな色が乱立しているセクションでは、自分のクラスのマーカーの間を確実に抜け、そのうえ他の色のマーカーの間を通らないようにしなければいけない。もちろんゲートを飛ばしてしまったら5点となる。

1分半のセクション持ち時間は、そろそろ少なくなっている。トライ中に、じっくりセクションを確認する時間はない。ジョセップの指示のまま、出口に向かう藤波。そのとき、ジョセップの叫び声が聞こえた。時間がない中、藤波には持ち時間が残り少ないことを告げているのかと思ったのだが、実は「左、左」と方向を告げていたのだ。出口で藤波が聞いたのは、減点5の宣告。藤波は、赤いゲートを一つ見落としてしまったのだった。

もうひとつは、14セクションだった。13セクションで持ち時間をチェックし、そこから先は5時間半(1ラップ目は3時間半)の持ち時間とは別にカウントされ、ゴール付近のふたつのインドアセクションをこなす。そのひとつめ。これでもかというほどに真四角のコンクリートブロックで作られたセクションだった。アウトドア主体の世界選手権にはなじめない。

ここには、むずかしい3段があった。ここから飛び降りるのが、またむずかしい。藤波はアンダーガードをかけて飛び降りることにした。アンダーガードをコンクリートの角に引っかけたとたん、5点をとられた。バックしたということだった。バックなどしていないし、万一したとしても、この判定は病的に厳しい判定だった。藤波はもちろんオブザーバーにその根拠を問いただしたし、ちょうど現場にいたFIMの役員も、この判定の厳しさを口にした。しかし、判定は覆らなかった。試合後に出した抗議書も、功を奏さなかった。

それ以外にもあった。第6セクションだった。ここは非常にあぶないセクションで、ライダーのマインダーの他に、主催者が用意したお助け部隊がいた。マインダーひとりではライダーの安全が確保できないということだった。

ここは、藤波がトライするまで全員が5点となっていた。藤波のトライも、完璧ではなかった。フロントタイヤが頂点にかかり、そこから押し上げるかたちとなった。しかし即席のお助け部隊には、その時点で「落ちる」と思われてしまった。藤波がマシンを押し上げようとしたとき、主催者側お助けは藤波のフロントフォークをがっちりつかんでいたのだった。藤波は「さわるな」と声をあげたが、ライダーの命を守っている自負のあるお助け部隊には届かず。フロントフォークをつかんでしまったお助けさんにも同情されながら、やはりここも5点の宣告は変わらなかった。つかまれなかったら、2点では抜けられていたところだった。

1ラップ目の成績は、ボウ、ラガ、フレイシャに続いて4位。フレイシャには3点差、ラガとは8点、ボウとは22点の大差がついてしまっていた。さらに藤波にはタイムオーバーが1点、ボウとラガには2点ずつのタイムオーバー減点があった。

photoしかし気を取り直して、2ラップ目はふつうに自分の走りができた。絶好調ではなかったものの、大きなミスがなかった。2ラップ目に、5点が一つもない結果表も、それを物語っている。走る順も、ボウやラガのことは気にせずに走った。いっしょに走っているのはオリベラスやベシュンたちだった。彼らよりも、藤波のほうがさっさとトライする。けれども彼らは難セクションの第7、第8あたりをエスケープしていくので、そこでまた追い越されるという試合展開だった。

2ラップ目の減点は10点。1ラップ目のボウが12点、2ラップ目のラガが14点。まちがいなく、この日のベストパフォーマンスだった。しかし勝利するには、1ラップ目の減点が多すぎた。1ラップ目34点、2ラップ目10点、タイム減点が1点で、トータル45点。ラガとはたった3点差だった。ボウとはきっちり10点差。もし藤波の言う通り、1ラップ目に10点減点が減らせたとしたら、同点となっていたところだった。

今シーズン、まだ一度も勝利がない藤波。勝利はすぐそこにある。しかしそれがまた、遠い先にあるようだ。

○藤波貴久のコメント

「2ラップ目がよかっただけに、とてもとてもくやしい結果でした。1ラップ目の不運がもう少しだけなかったら、ボウと同点で戦えたかもしれないし、少なくとも、ラガには勝っていたのはまちがいないと思います。ボウも2ラップ目に崩れているし、勝てない相手ではなかった。不運やたら・ればを言いたくないんですが、今回は本当についていなかったと思います」

Trial WorldChampionship 2007
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 12+21+2 35 21
2位 アダム・ラガ ガスガス 26+14+2 42 17
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 34+10+1 45 13
4位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 40+28+0 68 14
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 42+27+0 69 12
6位 マルク・フレイシャ スコルパ 31+43+0 74 10
7位 ジェームス・ダビル モンテッサ 36+47+0 83 10
8位 ジェロニ・ファハルド ベータ 51+57+0 88 10
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ モンテッサ 137
2位 アダム・ラガ ガスガス 120
3位 藤波 貴久 モンテッサ 103
4位 ドギー・ランプキン モンテッサ 88
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 79
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 65