2007年 世界選手権第5戦-第6戦日本GP

2007年6月2日〜3日/ツインリンクもてぎ/観客:6,000人(土)/10,000人(日)

表彰台は獲得。痛い2日間

photo■1日目・土曜日

開幕4戦を、4位2回を含んでいまだ未勝利の藤波貴久。日本は多くのファンに後押しされて、実力が存分に発揮できる藤波のラッキー大会。ここでしっかり勝利して、反撃ののろしを上げたいところである。

セクションはほぼ例年と同じ配置だったが、難易度をあげられて過酷な戦いが予想された。最初の難関はぬたぬたの助走から急坂を駆け上がる第2セクション。藤波はここを3点で抜けるも、ライバルのラガとカベスタニーはともに2点、さらに絶好調で波に乗るチームメイト、トニー・ボウはクリーンでここを抜けていった。

コンクリートブロックの並ぶ第4セクションでは、のこぎりの歯状になった最後の一段を滑り落ちて5点。序盤の4セクションにして8点と、ラッキー大会である日本GPで、藤波の滑り出しは好調とはいえなかった。というより、ボウと、これを追うラガが絶好調すぎるといってもいい。ラガの減点は第2セクションで2点だけ、ボウはそれもなくオールクリーンで試合を進めていく。

藤波には、その後も細かい減点が続いた。今年新しく設定された7、8、そして難セクションの岩盤登りの11と1点減点。トータル11点はこの時点で3位だが、トップのボウはオールクリーン、ラガは2点のままで、勝利はややむずかしくなりかけていた。さらに、高い高い、ややオーバーハング気味の3メートル岩に飛びつく13セクション、藤波はこれを登れず5点。最終15セクションの滝登りでも5点となって、トップ二人との差は決定的になってしまった。前日から腰にはりがあって、それがゆえにからだの動きがいまひとつ本来の調子ではないという背景もあった。

トップのふたりは、ラガが13セクションと15セクションで1回ずつ足をつき足しただけでトータル4点。これも驚異的だが、ボウにいたっては最終15セクションで1回足をついただけのたったの1点である。ちょっと手がつけられない。

2ラップ目、なんとか追い上げをはかりたい藤波だったが、同時に表彰台の一角も死守しなければいけない。1ラップ目は3位だったが、ランプキンに1点差、以下ファハルドに2点差、カベスタニーに4点差と、3位争いは激戦だ。6位のダビルは33点で10点近く差が開いているから、藤波をリーダーとする3位争いが、いつものトップ争いともいえる。藤浪の上にいるふたりは、どう考えてもでき過ぎで、異常だ。

2ラップ目、藤波は難所第2セクションで5点。しかしここは、ラガを含めてライバルもことごとく5点になった。唯一ボウだけがここをクリーンして、ラガとの勝負にも決着をつけはじめた感じ。1ラップ目に失敗した第4セクション、藤波は今度は1点であがるも、カベスタニーはクリーン。その差が3点となった。

3位争いを形成していたファハルドは第4セクションで5点、その前後にも減点があって、徐々に後退。ランプキンは1ラップ目の12セクションで失敗した際にリヤホイールのスポークを折損してしまい、その修理で7点のタイムオーバー減点を加え、さらに最終15セクションで墜落した際に右手親指を脱臼してしまった。試合は気迫で続行しているが、3位争いからは脱落している。

photo藤波の3位争いの相手は、カベスタニーひとりとなった。カベスタニーは、ハローウッズの入り口に設けられた岩盤の10セクションで1点をついた他は、第3セクション以降クリーンで試合を進めている。ここは藤波も1点減点して、その差は3点のまま。しかし次の岩盤ゾーンの12セクションで、藤波は痛恨の5点。この5点はみんなが苦戦したセクション最後にある2段ではなく、入り口のガタガタ登りの区間でのものだった。カベスタニーはここを難なくクリーンして、さぁ万事休すだ。3位はカベスタニー。いまや藤波は、カベスタニーに2点差の4位となった。

その頃、ボウはようやく今日初めての5点減点をもらっていたが、優勝争いとしても、もはやこの減点は大きな影響を与えない。まして、藤波の戦いとはすでに別の次元となっている。藤波は、カベスタニーとの勝負に勝って、なんとしてでも表彰台を獲得しなければいけない。

14セクション、カベスタニーが1点減点。藤波はクリーン。これでその差はたったの1点。最終セクションに先にやってきたのはカベスタニーだ。カベスタニーのスタートは、藤波より4分早いから、カベスタニーのトライは藤波より早い。藤波は、ライバルの動向を見てから戦いを考える。そしてカベスタニースの最終セクションのトライが始まった。ここは最後の滝登りが最大の難所だ。ランプキンが指を痛めたのもここだし、なにせ1ラップ目は、ボウとラガ以外は、すべてのライダーがここで5点となっているのだ。そして2ラップ目のカベスタニーも、健闘むなしく最後の難関で5点となった。

最終セクションを残した藤波の減点は39点、試合を終えたカベスタニーの減点は43点。藤波に与えられたマージンは4点。クリーンすればもちろんOKだが、5点では1点負け。3点なら表彰台獲得だ。藤波は前半部分を足をついて進め、確実にマシンを運んできた。気持ちを集中させるのは、最後の難関ひとつ。ここにすべてを集中させて、宙に飛びだした。

登った。クリーンはできなかったが、このセクション、3人目の制覇者となった藤波は、カベスタニーにわずか1点差ながら、3位表彰台を獲得した。

■2日目・日曜日

土曜日に引き続き、少し暑いくらいの快晴。今日こそ、がんばらないといけない。土曜日は、優勝できなかったことももちろんだが、トップの二人と大差が着いてしまったことが大きな課題となった。日本のファンの前で走れる数少ないチャンスの一日、今日はこれぞフジガスという走りを披露したい。

photoセクションは、ほとんど変更がないまま日曜日を迎えた。ボウはほぼオールクリーンで15のセクションを走ったが、これはけっしてセクションがやさしいという理由ではないからだ。最初の難関は、前日同様第2セクション。トップライダーが到着するまで、唯一ここを走破したのは、藤波がよく兄貴分として慕っている小川友幸だけだった。小川が1点、ほかはすべて5点だ。ファハルドも、ランプキンも、カベスタニーもここを登れなかった。そんな中、藤波が美しくここをクリーン。藤波のあとからトライしたラガとボウは、ここを攻略できずに5点。藤波が、序盤から大きなアドバンテージを作った。

しかし、なぜか藤波の鬼門となったコンクリートブロックの第4セクション。藤波はまたしても5点。せっかくのアドバンテージを帳消しにしてしまった。これで、トップ4人が横並び。ものすごく高レベルの神経戦となった。ラガには細かい足つきがあるが、い譴眈〕?垢襪燭瓩良?廚並?弔??椒Δ蓮2点減点を2回喫している。前日の完璧すぎる走りに比べるとミスが多くなったが、それでも充分以上に驚異的な走りだ。

1ラップ目12セクションまでで、藤波はボウと7点の同点でトップ。1点差でラガ、さらに1点差でカベスタニーと続いている。しかしその直後の13セクション。藤波は高い岩に乗りきるも、ここで3点を失った。ボウとカベスタニーはクリーン、ラガは1点。ラガが7点で単独トップにでて、ラガとカベスタニーが9点で同列2位。藤波は10点で4位に。

さらに14セクションで1点を加えて最終セクションに戻ってきた藤波。ペースを乱したまま、この難関にトライするわけにはいかない。カベスタニーが1点で通過。そして藤波も1点。ボウは2点、ラガはクリーンだった。順位は4位のまま変わらずだが、トップと3点差で2ラップ目に入るのは、試合展開としては悪くない。

photo第2セクション、1ラップ目に唯一クリーンをしたところだが、2ラップ目は確実に1点で走破。ここはボウもカベスタニーも1点をついた。唯一ラガだけがクリーンで通過する。トップのラガと藤波とは4点差、ボウは第3セクションでも1点をついてカベスタニーが同点の11点。藤波とは2点差だ。

試合は、そのままクリーン合戦の神経戦となる。神経戦という場合は、セクションの難易度が低いことが多いのだが、今回は難度が高いうえでの神経戦。トップレベル4人の技術の高さが如実に表れている。藤波は、第2セクションで1点をついて以来、2ラップ目はオールクリーンで試合を進める。ラガが9点、ボウが11点、藤波が13点。第4セクション以降は、3人はひとつとして足を出さない。

緊張がこぼれてこの争いから脱落したのはカベスタニーだった。第5セクションで1点をつき、第9セクションの滝セクションで失敗。痛恨の5点だ。これで藤波に4点差。トップ争いからは一歩後退してしまった。

藤波は、ついに第2セクション以降オールクリーンのまま最終セクションにやってきた。これだけの走りをしていれば、ライバルがどこかでミスをして試合は混とんとするものだが、しかし今年のライバルは以上にレベルが高い。ボウもラガも、足を出さない。ましてラガは、2ラップ目は1回とて足つきがない。

4人の中ではカベスタニーが最初に最終セクションにトライ。5点となってトータル22点。この時点で、藤波の表彰台は獲得だ。さらに、2位、そして優勝を狙いたい。ラガとボウはまだトライをしていないから、藤波がここをクリーンし、彼らがともに5点をとれば、藤波に優勝が巡ってくる。ねらうは、クリーンのみだった。

そして大岩に飛びつく。乗ったと思った瞬間、わずかに飛距離が足りなかったか、池までたたき落ちる藤波。最後の最後に来ての5点はくやしいが、photoそれ以上に指の痛みが気になる。まずゴールをして、それから医務室に直行。最初の診断は骨折だったが、医務室で脱臼とわかり、固定して表彰台に戻ってきた藤波だった。骨折でなかったのは、不幸中の幸いだった。

2日間ともに表彰台獲得。しかし2日間とも勝てなかった。それでも、優勝争いに遠く離れた3位だった土曜日に比して、日曜日は優勝争いの一角を形成した。日本GPをジャンプボードにしたかった当初の目的には足りなかったが、小さくない収穫と、小指の痛みをみやげに、つかの間の母国を離れて、2007年シーズンはヨーロッパでの中盤戦に突入する。

○藤波貴久のコメント

「土曜日は、序盤のうちにトップ二人とは離れてしまったので、途中から表彰台を死守しようと戦いました。ライバルの点数は逐一報告を受けていたので、それで走り方を考えていくという感じです。最後にカベスタニーが5点になったので、なんとしてもここを抜けて、3位の表彰台を獲得したかった。日本のファンのみなさんの応援にも後押しされて、最後の大岩に登ることができた。表彰台獲得がはたせてよかったけれど、トップの二人にはあまりにも離されたので、またしても、さらにがんばらないといけないと思いました。日曜日は、第2セクションでリードをとったのを第4セクションで失敗して帳消しにしてしまったり、そのあとのいくつかのミスが敗因でしたけど、トップには離れずついていたので、勝てる感触は持っています。今回はトップに離されなかっただけで逆転はできなかったけど、中盤戦以降、このままでは終わりません。指は、もう一度きちんと検査をしたいけど、次の試合には問題ないと思います。久々に日本のファンのみなさんの前で走れて、みなさんの応援を受けて、ぼくも元気が出ました。優勝できなかったのはくやしいです
が、去年はもっとくやしい思いをしてしまいましたから、表彰台獲得は悪くは無かったかなと思います。シーズンはまだ続きますから、フジガスの暴れっぷりを、見ていてください」

Trial WorldChampionship 2007
土曜日/Saturday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 1+5+0 6 28
2位 アダム・ラガ ガスガス 4+7+0 11 24
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 22+20+0 42 16
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 26+17+0 43 16
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 24+30+0 54 13
6位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 23+33+7 63 14
7位 ジェームス・ダビル モンテッサ 33+36+0 69 7
8位 小川友幸 ホンダ 38+34+0 72 8
日曜日/Sunday
1位 アダム・ラガ ガスガス 9+0+0 9 25
2位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 9+2+0 11 25
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 12+6+0 18 22
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 10+12+0 22 20
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 28+24+0 52 11
6位 黒山健一 ヤマハ 27+26+0 53 10
7位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 32+22+0 54 12
8位 ジェームス・ダビル モンテッサ 33+26+0 59 15
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ モンテッサ 117
2位 アダム・ラガ ガスガス 103
3位 藤波 貴久 モンテッサ 88
4位 ドギー・ランプキン モンテッサ 75
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 68
6位 ジェロニ・ファハルド ベータ 58