2007年 世界選手権第2戦&第3戦グアテマラGP

2007年4月1日/La Antigua/観客:4,500人(土)+12,000人(日)

出だしは好調。2位と3位で表彰台獲得

photo■1日目・土曜日

2007年の世界選手権第2戦は、はじめて中央アメリカ大陸で開催された。グアテマラの選手も1名ジュニアクラスにゲスト参加しているが、世界選手権の運営などは初めての経験で、そんな中では主催はよい雰囲気でおこなわれていた。セクションは、藤波の好む、いかにもアウトドアといったタイプのもので、インドア的な設定は皆無だった。

今年から、スタート順の選定方法が変わっている。去年は一定の順番をローテーションして回していくやり方をとったが、今年は「前の大会の成績順」となった。ローテーションの以前は、前の大会の成績ごとにグループを作り、さらにくじ引きをしていたのだが、今回からは単純明解に前回の成績順でスタートが決まる。今回の藤波のスタート順は、前回スペイン大会で4位だったので、最後から4番目ということになる。

セクションは、情報によると簡単な設定ということだったが、下見を終えて帰ってきたライダーの印象は、一様に「ハードな感じ」というものだった。砂状の大地に作られたセクションには、ラインがまったくできていない。世界選手権級のセクションを走れるライダーが一人もいないのだから、それは無理もない。ただし、ラインのないところにアクセルを開けてつっこんでいくのは、藤波の得意パターンでもある。近年、相性の由来であるフジガスらしい全開走法が影を潜めてきているが、このセクションなら、それも活用できるかもしれない。

セクションがハードなのは、世界選手権クラスだけではなかった。藤波たちがセクションに到着すると、いまだ125ccのライダーが残っている。彼らにとっても、今日のセクションはハードで、下見に長い時間が必要だったようだ。スタート直後から、この日は持ち時間が苦しくなることが予想された。

それでも藤波は、たとえタイムオーバーがあっても、納得のいく走りをするようにしたいと思った。前回のスペイン大会が体調の不調で不本意だったから、自分の走りを取り戻したい。自分の走りができることを証明したいし、自分自身でも確認したいと思った。

1ラップ目は、いい調子でセクションにトライができた。スタート時、藤波の後ろにはランプキン、ラガ、ボウがいたが、トライ中はほぼ一番最後を走っていた。さすがに最後になって、ランプキンらを抜いてタイムを稼いだが、意外にもこの日はジェームス・ダビルなどがトップグループといっしょに走っていて、思うように先を急げない。それで藤波は、1ラップ目に5分のタイムオーバーをとってしまった。7点のスコアはトップだったが、5点を加えると12点。ボウは8点の減点に2点のタイムオーバーで10点で1ラップを終えていた。

この時点では、2点の差は充分に挽回できる範囲だし、藤波の勝利への確信は揺らいでいなかった。ところが、1ラップ目にひとつもとらなかった5点が、2ラップ目にはふたつもでてしまう。斜面で失敗したのと、川のセクションで前転してしまったのの、ふたつだ。セクションはむずかしかったが、それでもトップライダーに5点は数少ない。こんな中で、ふたつの5点はかなり致命的だった。

結局、ボウには6点差をつけられて、藤波は2位となった。ボウのスコアがトータル20点だから、6点差での2位は大差のようにも感じられるが、藤波の気持ちの上では、ボウと真っ向から勝負して、優勝を争っての結果である。それだけに、敗北はくやしかった。特に、クリーン数ではボウの18に対して、藤波は21にもなっている。20以上のクリーンを残したのは、藤波だけだ。

photo■2日目・日曜日

土曜日、夜半に雨が降った。天気予報では、日曜日の雨を伝えている。セクションは、前日のスコアを見ながら、少し難度を増すことで合意していたが、雨が降ればそのままでも難度は増すしで、結局当日の朝になって、少し難度を増したりして試合が始まった。雨は降っていない。

それにしても、さすがに暑い。気温は30度を超えて、日曜日には33度にもなった。しかも風がまったく吹いていない。こんな中でのトライアルだから、トレーニングをさぼっていたら、ひとたまりもない。お客さんは、土曜日にもそこそこ多かったが、日曜日には驚くほどの数が入っていた。グアテマラはスペイン語圏だが、特にスペイン人を応援するということもないようで、藤波がスペイン語を離しているのを見て「日本人なのにスペイン語を話すのか」と大喜びして、即席藤波応援団ができあがることもあった。アメリカ大陸は、英語圏でもスペイン語圏でも、藤波シンパが多いようだ。藤波のひとを引きつける力が、アメリカの人には通じやすいのかもしれない。

しかし日曜日の藤波は、1ラップ目の第6セクションで5点をとって、それで復活不可能な遅れをとってしまった。1ラップ目の成績が、ボウが4点、ラガが6点のところを11点だから、ちょっと差が大きい。ランプキンは8点で3位につけているが、せめてこのあたりまでは浮上したいところだ。

2ラップ目は、土曜日とちがって時間に余裕があった。だからひとつひとつのセクションをじっくり攻めることができた。細かいミスが2回あったが、10セクションまで2点。このあたりで、ランプキンと競り合っているという情報を聞かされる。11セクションで、先に走ったランプキンに1点差で勝っていることを知った。クリーンは、藤波のほうが多い。12セクション以降は、1ラップ目に減点をしていないから、ランプキンも残りはクリーンすると考えて、ここで勝負を決しておきたい。1ラップ目は3点だった。ランプキンは、1ラップ2ラップともに3点となっている。

クリーンすれば、余裕を持って勝利ができる。しかしクリーンに失敗してバタバタと足をついてしまうと、表彰台を逃すことになる。藤波は確実に表彰台を得るために、三角岩の頂点でアンダーガードをひっかけて向きを変えていくところで自分から1回の足つきをし、そのかわり他の部分を完璧に走った。1点。このセクションは、土曜日・日曜日を通じて、ここまでの3回、5点と3点しかなかったから、最後に1点で抜けられたのは、かなり満足度が高かった。この1点がきいて、藤波はランプキンをクリーン差で破って、表彰台を獲得したのだった。スペイン大会では同じ状況で表彰台を奪われているから、これでおあいこだ。

photoなんとか表彰台は獲得したものの、チームメイトのボウは調子づいてしまっていて、そろそろこのままではまずい状況になりつつある。試合後の記者会見で藤波は「次のレースでトニーの連勝を止めるのはぼくだ」と力強く宣言した。

強力なライバルがチームメイトとなって、これまで以上に本領を発揮しなければいけなくなった藤波貴久。今のところ、藤波の調子はいまだ完璧な本調子ともいえないようだ。フランス大会では、ほんものの藤波貴久の走りをぜひ見たい。

○藤波貴久のコメント

「日曜日は、点差も離れたのでなんとか3位になれたという感想でしかないですが、土曜日は、優勝争いをした実感があっての2位だから、本当にくやしかった。そのくやしさが、日曜日に発揮できなかったのは残念です。今年は、去年よりみんながレベルアップしている。試合が終わってからドギーと“去年までなら、このスコアなら優勝しているね”と話したんですが、今年は本当にがんばらないと勝てません。トニーをこれ以上調子づかせないためにも、フランス大会はぜひ勝ちたい。もてぎで一番最後からスタートするためにも、フランスで勝っておかないといけませんしね」

Trial WorldChampionship 2007
土曜日/Saturday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 8+11+2 21 18
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 7+15+5 27 21
3位 アダム・ラガ ガスガス 20+12+2 34 14
4位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 24+18+0 42 14
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 23+23+0 46 12
6位 マルク・フレイシャ スコルパ 26+21+4 51 11
7位 ジェロニ・ファハルド ベータ 36+20+1 57 13
8位 ジェームス・ダビル モンテッサ 33+44+0 85 4
日曜日/Sunday
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 4+1+0 5 27
2位 アダム・ラガ ガスガス 6+2+0 8 25
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 11+3+0 14 23
4位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 8+6+0 14 22
5位 マルク・フレイシャ スコルパ 17+18+0 35 17
6位 ジェームス・ダビル モンテッサ 26+11+0 37 15
7位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 17+21+0 38 19
8位 ジェロニ・ファハルド ベータ 29+23+0 52 14
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ モンテッサ 60
2位 アダム・ラガ ガスガス 49
3位 藤波 貴久 モンテッサ 45
4位 ドギー・ランプキン モンテッサ 41
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 31
6位 ジェイムス・ダビル モンテッサ 28