トニー・ボウがチーム入りして、いきなりインドア世界チャンピオンとなった。ボウとはチームメイトながらライバルの藤波としては、もちろんくやしくもあるが、抜群のチームワークがレプソル・モンテッサ・HRCの強み。インドアはボウ、アウトドアは藤波。藤波自身はもちろん、チーム内でもそう確信しているスタッフは多い。もちろん、ボウも、ドギー・ランプキンも、目標は世界チャンピオン。チームメイトが、最大のライバルだ。
そんな2007年。開幕戦はスペイン大会。モンテッサの本拠地バルセロナからは1000kmほど離れた、マドリッドの南、スペインの南西部に位置するマンチャ・レアルが会場となった。オリーブ畑が広がる山あいの斜面に13のセクション、スタートエリアに戻ってふたつのスタジアムセクション。山あいのセクションは前日の雨の影響もあって、とっても滑りやすくむずかしい設定となっていた。
今回、藤波の懸案は、この週になってからひいてしまった風邪だった。去年以来、指の骨折、甲状腺の不調による体調不良、そして足首のクラックと、なかなか万全の体制でトライアルをさせてもらっていない藤波だが、今回の風邪は、それら長期的な問題ではなく、単なる一過性のものだった。それでも、大事な開幕戦を、万全の体調で望めないという点では変わりない。
試合は、ボウとアダム・ラガ(ガスガス)が好調だった。これを藤波やランプキン、アルベルト・カベスタニー(シェルコ)が追う展開だったが、6セクション以降、藤波には大きなハンディが待っていた。前日の土曜日、風邪がもっともひどくなっていて、定例のセクションの下見にでかけていなかったのだ。つまりこの日、藤波は初めて見るセクションと対峙したことになる。さらに奥のほうのセクションは、場所さえも定かではない。セクションがどこにあるのかをさがしながら、どんなセクションかを一瞬で把握し、攻略法を考え、トライする。ところが試合が進むに従って、持ち時間が足りない。今回の藤波のスタートは、昨年のランキング順にそって最後から2番目。ラガに次いで、持ち時間には余裕のあるスタート時間だったが、セクションの下見をゼロから始めなければいけない状況では、余裕などありはしない。
こんな中、アクシデントも発生した。第3セクションで藤波は5点となっているが、このときマインダーのジョセップが、マシンと岩の間に手を挟んでしまい、以後、マシンの掴み役を続けることができなくなった。それで、今シーズンから新たにチームに加わったカルロスが急きょメインマインダーに。どたばたは続いていく。
こうして、1ラップ目後半は5点が並んでしまった。これで1ラップ目の成績は5位。インドア世界選手権を戦った5強の最下位ということになる。
2ラップ目、風邪の影響で力が入らないトライのまま、それでも一度走ったセクションだから、ようやくいつもの藤波に近い状況で走れそうな気配となってきた。2ラップ目は、少しペースをあげて回ることをチーム全体で申し合わせたという。それでも厳しいセクションが揃っているだけに、時間は刻々とすぎていく。
2ラップ目の藤波は、減点を一気に減らしてきた。調子はよくないながらも、セクションの様子がわからなかった1ラップ目とは状況は一変している。減点32は、ボウとラガには届かなかったが、このラップは3位相当の好結果だ。
しかし、結果はランプキンと同点。クリーン数は藤波が6、対してランプキンは8。これで、ランプキンの3位、藤波の4位が決まった。ランプキンの試合時間は5時間30分17秒。あと43秒遅かったら、タイムオーバー減点が1点追加され、藤波が3位となっているところだった。みんな、ぎりぎりの勝負をしていたのだ。
タイトル奪還にかける2007年開幕戦。4位となった藤波は、ボウに7点差、ラガに5点差をつけられて選手権をスタートすることになった。しかし2005年の開幕戦は5位、2006年が6位ということを考えれば、今回の不本意な結果も、最悪とはいいきれない。
「くやしい結果になりました。体調が万全ではなかったので、優勝はともかく、表彰台には乗ろうと誓って試合に臨んだのですが、同点クリーン差でかなわなかった。あと何点か減点をつめるのは、いくらでもチャンスがあっただけに、本当にくやしい。しかしそれも、レースの当日に体調を崩してしまうという、プロとしてあるまじき状況を作ってしまったからで、誰のせいでもありません。この状況での4位は上出来とチームのみんなにも励まされましたが、そう思ってしまうと甘えてしまうので、自分に厳しく戦っていきます」
日曜日/Sunday | |||||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 34+24+2 | 60 | 6 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 35+30+0 | 65 | 6 |
3位 | ドギー・ランプキン | レプソル・モンテッサ・HRC | 38+39+0 | 77 | 8 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 45+32+0 | 77 | 6 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 40+44+0 | 89 | 3 |
6位 | ジェームス・ダビル | モンテッサ | 58+50+0 | 108 | 3 |
7位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 56+52+3 | 111 | 3 |
8位 | マルク・フレイシャ | スコルパ | 51+61+0 | 112 | 3 |
世界選手権ランキング | |||||
1位 | トニー・ボウ | モンテッサ | 20 | ||
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 17 | ||
3位 | ドギー・ランプキン | モンテッサ | 15 | ||
4位 | 藤波 貴久 | モンテッサ | 13 | ||
5位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 11 | ||
6位 | ジェイムス・ダビル | モンテッサ | 10 |