今回の藤波は、不運もあって、3位争いには及ばずの4位となった。ここへきて、ランキング4位はほぼ確定。足のほうは、よくはなってきているが、さんざん痛めつけたほうの足でもあり、回復には、ちょっと時間がかかっている。
1ラップ目(クォリファイラップ)の第1セクションと第2セクション、藤波はちょっとミスを犯して5点となった。今回のセクションは、どちらかといえば簡単な部類で、5点はかなり致命的な減点となる。
いつものようにワイルドカード枠として藤波らの前に走ったジェロニ・ファハルド(ベータ)の減点が10点。同じく第1と第2で10点をとってしまった藤波は、ちょっとやばいなと苦戦を感じていた。
その後、第3、第4とクリーンをして、波に乗れたかに思えた第5セクション。藤波に不運が襲った。
難所のビッグステップは越えて、あとは下って降りるだけ。アンダーガードを引っかけてひょいと降りればよいというところで、なんとエンジンが止まってしまった。
インドアトライアルでも、アンダーガードでバランスを支えた状態でのエンストは5点だ。これで藤波の減点は15点になった。その後、トニー・ボウ(モンテッサ)がオールクリーン、アルベルト・カベスタニー(シェルコ)が1点、アダム・ラガ(ガスガス)が1点とゴールして、藤波のファイナル進出はなくなった。さらに、いつもの4位の座もむずかしくなっている。7つのセクションを終えて、残るはダブルレーン・レースだけ。
久々にうまくいかなかった試合内容に、藤波のイライラはつのった。特に、エンジンがほんのちょっとうまく動いてくれなかっただけで5点となってしまった第5セクションは納得できない。いらだちながら試合の進行を見守っていた藤波だったが、ダブルレーンを前に、異変が起こった。
レースの組み分けは、7セクションの上位2名ずつで構成される。ボウとカベスタニー、ラガとファハルド、藤波とドギー・ランプキン(モンテッサ)。タデウス・ブラズシアク(ベータ)は戦う相手がいないまま、試合を終えることになるはずだった。
ところがダブルレーンを前に、ファハルドがこのレースを辞退するという。第7セクションをクリーンでアウトした際、強引にアンダーガードから飛び降りていって、見守るライバルたちを驚かせたのだが、なんとこのときに、左手首を骨折していたという。
レースに出ないから、ファハルドには5点の減点が加算された。これで、ダブルレーンでラガの相手をするのは、ファハルドではなく、藤波ということになった。
ラガは1点、対して藤波は15点だから、なにが起こっても藤波の逆転ファイナル進出はない。つまり藤波個人にとっては、ダブルレーンでラガに負けても、さらに足をついてしまっても、たいして影響はない。しかし藤波とラガの一騎打ちは、大事な意味を持っていた。
ファイナルラップは、クォリファイの成績が悪いものから、セクションを走っていく。今回は、藤波のチームメイトであるトニー・ボウ(モンテッサ)が世界チャンピオンになるかもしれない一戦だった。チームといえど、ライダー同士はあくまでも個人対個人だが、協力ができることでは支援を惜しまないのがチームメイトだ。ボウのタイトルを確実なものにするためには、ラガの出鼻をくじいておく必要もあるし、藤波とラガの勝負のあとに控えているボウとカベスタニーの勝負の結果次第では、ラガがクォリファイをトップ通過することもあり得る。モンテッサ陣営としては、ラガにはできるだけ早い順でセクションにトライしていただきたいから、藤波がここでラガに勝てば、ボウのファイナルでの試合展開がずいぶん楽になるはず、というわけだ。
「勝ってこいよ」とハッパをかけられダブルレーンに望んだ藤波。ラガも考えることは同じで、今回踏ん張らなければボウのタイトル獲得劇を見守ることになってしまうから、必死である。結果は、ボウのためにいった藤波の勝利。これで藤波の総減点は15点。ファハルドとは同点ながら、4位の座を獲得することができたのだった。
ファイナルラップ、ボウは優勝こそのがしたが2位に入った。この大会、ラガより上位に入れば、それでタイトルが決まる算段だったボウは、そのとおり、初めての世界タイトルを得た。ボウのタイトルは、もちろんボウのライディングがたいへんにテクニカルだからというのもあるが、この2年間、マシンの熟成に腐心してきた藤波らチームの面々の功績でもある。それを重々承知のボウは、チームに最大限の感謝の意を表した。レプソル・モンテッサ・HRCチームの、チームワークの勝利、といえるかもしれない。
リスボンで負った足の負傷は、徐々に回復に向かっている。ミラノのあと、今大会までには2日間ほど練習ができた。テーピングをがっちりほどこしての練習となったが、今は無理をすることなく、セーブしながらマシンと体のコンディションを整えている。
「今回は、不運な5点もあって、ずいぶんいらいらしてしまいましたが、結果は、いつもと同じ4位でした。トニーのタイトル獲得は、ぼくも本当にうれしかった。トニーもぼくたちにありがとうと何度も言ってた。今年のチームは、いいチームだと思います。今年1年、こういうチームで戦えるのは、ぼくもうれしいし、楽しみです」
Final Lap(決勝) | |||
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1位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 23 |
2位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 25 |
3位 | アダム・ラガ | ガスガス | 26 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 1 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 1 |
3位 | アダム・ラガ | ガスガス | 2 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 15 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 15 |
6位 | ドギー・ランプキン | レプソル・モンテッサ・HRC | 21 |
7位 | タデウス・ブラズシアク | ベータ | 29 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 59 | |
2位 | アルベルト・カベスタニー | 49 | |
3位 | アダム・ラガ | 47 | |
4位 | 藤波貴久 | 37 | |
5位 | ドギー・ランプキン | 30 | |
6位 | ジェロニ・ファハルド | 30 | |
7位 | タデウス・ブラズシアク | 8 |