バルセロナのインドアトライアルは、いろんな意味で特別な意味がある。
まず、バルセロナという土地柄だ。スペイン東部カタルニア地方は、スペインの中でも特にトライアル熱が高い地域。そのカタルニアの首府がバルセロナ。両国の国技館で相撲のワールドカップを開催するようなものだ。今、世界のトップを走っているライダーの大半は、カタルニア出身のライダーでもある。トライアルの聖地であり、多くのライダーの地元。そのウェイトは大きい。
しかも今回は、バルセロナインドアトライアル30回記念大会だった。事前のセレモニーも盛大におこなわれ、ライダーはこの週はあちこちのイベントにかりだされて忙しかった。バルセロナ全体が、インドアトライアルを盛りあげている、そんな雰囲気を醸しだしていた。
もちろん、トライアルの本場だけあって、各種メディアやスポンサーの注目も大きい。誰にとってもはずしたくない、はずせない大勝負だ。そしてまたモンテッサにとっても、バルセロナは地元である。ガスガスもシェルコもこの地方に本拠地を置いているが、バルセロナ市内にワークショップを持つのはモンテッサだけだ。
しかしまた、バルセロナのインドアは、スペインインドアの典型でもある。セクションはまっすぐ、登れるか登れないかが勝負。そしてむずかしい。スペイン勢にとっては、逆にお得意中のお得意を集めてある。まさにアウェー。4ストロークモンテッサは、ここまでバルセロナでいい結果を残せていない。それが、4ストロークは高いステアに弱い、という風評を呼んだりもした。
しかし成績が悪いのは事実。30回記念のパンフレットをみると、過去のリザルトが並んでいる。藤波は、毎年ほとんど最下位に並んでいる自分の名前を見て苦笑した。これまで藤波はバルセロナのインドアに7回出場しているが、最下位が3回か4回ある。原因はその都度いろいろだが、相性が悪いのは確かだ。ただし中で、ただ1回表彰台に登ったことがある。それは2004年。アウトドアで、世界チャンピオンになった年だ。
セクションは、毎年ほぼ同じ。今回藤波がラッキーだったのは、スタート順が一番最後だったことだ。もっともこれは、シーズンの最初からローテーションで決まっていたことだから、ラッキーとアンラッキーは公平にやってくる。
ワイルドカードをのぞいて、もっとも早いスタートだったのが、藤波のチームメイトにしてインドアタイトルを争うトニー・ボウ(スペイン・モンテッサ)だった。ボウは第3戦ロシアでマシントラブルを発生させてアダム・ラガ(スペイン・ガスガス)にランキングトップの座を奪われていた。今回、勝利を目指すのは当然として、できればライバルが表彰台圏外に滑り落ちてほしいと願っている。それには、チームメイトの力が必要だ。
ワイルドカードのシャウン・モリス(イギリス・ガスガス)、ジェロニ・ファハルド(スペイン・ベータ)に続いてボウが走ったとき、木材セクションで異変が起こった。ボウがクリーンした直後、セクションの大きな材木が崩れ落ちて、セクションが壊れてしまったのだ。これでこのセクションはキャンセルとなった。これが、この日の勝負の前哨だった。
ボウが8点でオブザーブドセクションを抜けたのを確認して、藤波はウォーミングアップに入った。その間、ラガやアルベルト・カベスタニー(スペイン・シェルコ)がトライ。ウォーミングアップから戻ってきた藤波に届いた情報は、彼らが5点をいくつもとっているというものだった。得意中の得意のバルセロナのセクションだというのに、30回記念大会をどうしても勝ってやるという気負いは、彼らのライディングに大きな狂いを生じさせたようだ。
これはきちんと走ればチャンスだ。「絶対に落とすなよ」とシレラ監督にハッパをかけられ、すでにファイナル進出を確実にしているボウからもセクション攻略のアドバイスを受け、最後のライダーとしてトライにかかった。
今年、藤波のインドアライディングはけっして悪くなかった。しかし最後の詰めが足りずに、いつもファイナル進出を逃している。あとちょっとの詰めが決まれば、望むべき結果はある程度ついてくるはず。
今回、藤波の走りは完璧に近かった。第4セクション(ふたつめ)では登りきれずに5点となったが、それ以外はほぼ完璧。結局、ボウより1点だけ多い、9点でオブザーブドセクションを走り終えた。ファハルドが13点、他の面々は20点台だから、この時点でファイナル進出は決定だ。4戦目にして、ようやく発のファイナル進出が決まった。
その後、ボウとふたりのダブルレーン。今回のダブルレーンは、競走の中にハイジャンプを含むという新機軸が盛り込まれていた。バーを落とすのに集中できたこれまでのハイジャンプとちがい、ある程度早さを加味しながら高く飛ばなければいけない。そのまま飛んだのではバーをクリアすることはできないから、ハイジャンプを前にはいったん体制を整えることになるが、そのタイミングが短いライダーほど有利なダブルレーンとなった。藤波は、今回はボウに負けた。されどこの勝負はファイナル通過には影響がないし、チームメイト同士の、プレッシャーのない真剣勝負だった。お客さんも、大喜びだ。
ファイナル進出はボウと藤波とファハルド。ドギー・ランプキン(イギリス・モンテッサ)はファイナル進出はならなかったが、ラガとのダブルレーン勝負に勝って4位。チームからはチームオーダーのようなものが出たことはないが、今回のモンテッサチームは、ボウをランキングトップに返り咲かせ、さらに今後の展開を優位に持っていくため、一丸となって戦う図式となった。ランプキンも、よい仕事をした。
そしてファイナル。クォリファイで走ったセクションを逆走し、さらに難易度が高くなっている。こうなると、藤波がボウに対抗するのは苦しくなってくる。そこここで叩き落ちた。しかし中盤、ファハルドとの点差も開いてきて、勝敗的には2位独走。お客さんを盛りあげ、そして藤波自身も楽しいインドアトライアルを走ることができた。
今回、6位に沈んだラガと、3勝目を挙げたボウの間には、6点のポイント差が生まれた。間に藤波とランプキンが入ったのが大きい。ボウは藤波に、何度も何度も「ありがとう」と言ってきた。もちろんチームとしても大きな戦果を得た一晩になった。
2004年、アウトドア世界チャンピオンになった年、藤波はバルセロナのインドア大会で3位になった。今回は、それを上回るリザルトである。
「やりましたよ。ようやく。いろんな意味で、バルセロナのインドアはぼくたちにとってもっとも大切な大会。地元だし、知名度もあるし、スポンサーも注目している。ここでいい成績を上げるのは、特別な意味合いがあります。今回の2位表彰台は、だからとってもうれしい。しかもバルセロナは、毎度いい結果が残らないですから、そういう意味でもうれしかった。さらにトニーがランキングトップに戻って、リードもとった。ぼくもうれしいし、チームもうれしい。4戦目になっちゃったけど、今日は最高のインドアでした。やっと調子をつかんだから、よーし、この感じで、がんがんいきますよ」
Final Lap(決勝) | |||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 12 |
2位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 36 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 59 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 8 |
2位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 10 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 13 |
4位 | ドギー・ランプキン | レプソル・モンテッサ・HRC | 22 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 22 |
6位 | アダム・ラガ | ガスガス | 23 |
7位 | シャウン・モリス | ガスガス | 35 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 33 | |
2位 | アダム・ラガ | 27 | |
3位 | アルベルト・カベスタニー | 23 | |
4位 | 藤波貴久 | 22 | |
5位 | ドギー・ランプキン | 20 | |
6位 | ジェロニ・ファハルド | 19 | |
7位 | タデウス・ブラズシアク | 4 |