2007年 インドア世界選手権第1戦グラナダ(スペイン)

2007年1月14日/Palacio Deportes Granada/観客数:--人

開幕戦は不本意、くやしい5位

今シーズンのインドアトライアル世界選手権は、ここ1〜2年のシーズンとはちがうものになるというこころづもりが、藤波にはあった。

photo大きな要因は、トニー・ボウのチーム入りだ。これまでインドアでは弱点を露呈していたかのモンテッサ4RTに、新たな視点から性能要求をしてくれる期待があった。

レプソル・モンテッサ・HRC所属の二人の世界チャンピオン、藤波貴久とドギー・ランプキンは、日本人とイギリス人。技術も経験も豊富だが、唯一、インドアの場慣れに関しては、スペイン人に遅れをとっている。ひとえに、スペインではいやというほどのインドアイベントがあり、ライダーは休む間なくこれらのイベントに参加し、経験をより豊富なものにしていく。しかも彼らにとって幸いなことに、インドアのセクションは移動可能だから、開催地がちがえど、素材は走り慣れたいつものやつ、ということになる。インドアトライアルに関しては、スペイン人以外はかなりのアウェイ状態だ。そのふたりがチームを構成しているところに、モンテッサの弱みがあった。ボウの参入は、チームにとって大きなメリットであり、藤波とランプキンにとっても、恩恵は大だ。

ボウと4ストロークのモンテッサとの出会いは、意外に違和感なくスムーズだったようだ。新開発のマシンを走らせた藤波とランプキンはたいへんな苦労をしたが、いわば現在の4RTは彼らの犠牲の上に、よりまとまった状態となっている。ボウはいいときにチーム入りを果たしたともいえる。そしてボウとモンテッサは、想像以上のパワーを発揮した。ボウによると重量的にも走破力についても、あらゆる点でベータを凌いでいて、驚いたということだった。今まで、弱点だと思っていたインドアのビッグステップが、ボウは軽々と走破していく。4ストロークはインドアには弱いという定説は、どうやら誤解だったようだ。

photo実はボウの参入と前後して、藤波はマシンのセッティング変更に挑戦していた。マシンは自分の乗りやすいように仕上げていくのが大前提だが、ときには、より高い次元を求めて、今までの常識から離れてみる必要もある。藤波がトライしたのは、これまでグリップが悪くなるということで採用を見送っていた、サスペンションの仕様だった。これが、じっくり乗りこんでみると、意外にグリップは問題なく、ほかにメリットが多かった。

ライダーのマシンへの慣れ、マシン自体の性能向上、そして新しいセッティングの発見、さまざまな要素が絡み合って、トライアルの成績が現れる。インドアの世界選手権については、マシンは06年型ワークスマシンを使うが、その他さまざまな面で、07年型藤波貴久はちがっていた。

そんな中、シェフィールドやトゥールーズで、藤波貴久は表彰台に上がった。これらの大会は世界選手権ではないが、主だったライダーはみんな参加して、プレ世界選手権のようなものだ。インドア百戦錬磨のスペイン勢に混ざって、勝利を得るのは並大抵ではないが、安定して表彰台を獲得できればかなりの成果があったと実感できる。これらのざいりょうをひっさげて、藤波は07年の世界選手権開幕戦にのぞんだのだった。

ところが結果は5位。カベスタニーがマシントラブルで途中から走っていないので(06年まではマシントラブルを回避するためのスペアマシンの用意が義務づけられていたが、今年は逆にスペアマシンを使ってはいけないことになった)序盤ふたつのセクションをクリーンしたカベスタニーがそのまま走り続けていたとすると、6位だった可能性すらある。たいへんに不本意な結果となった。スコアを見れば、表彰台のファハルドまで2点差、4位のランプキンとは1点差だから、上位進出の可能性はどこにでもあったといえるのだが、それがトライアルでもある。

今回、スタート淳はワイルドカードのタデウス・ブラズシアクから。2番手がファハルド、3番手がランプキンで、その次が藤波。以下、ボウ、カベスタニーと続いて、ラガが最後のスタート。今シーズンには期するものがある藤波は、下見の段階からボウと、セクションの攻略について相談を交わしていた。そして藤波の前を走るファハルドがそのとおりのいきいかたでセクションを走破するのを見て、確証を深めたのだった。ところが。

藤波のトライアルパターンは、いざ走り始めたらよけいなことは考えずに、感覚で走りきるというものだ。ところが今回、ボウと相談し、ファハルドの走りを観察して、インドアの走りを意識しすぎてしまった。好成績を出したこのところのノンタイトル戦では、こんなことはやっていなかったのに、やはり欲が出たというところだろうか。第4セクション、インしていきなりで5点になったのはくやしかった。結果論では、ここをクリーンといわず3点で抜けていたら、表彰台に登っていた可能性はがぜん高くなる。いつものとおりでやっていればという思いが、藤波自身にもあった。「いつものように、思いきりいっていれば、たとえ失敗しても悔いは残らない。今回は、人の走りをまねした結果がこうだから、くやしい」。

ボウやファハルドが足を出したダニエルで飛んでいくセクションを、ランプキンとともにクリーンするなど、見せるべきところは見せながら、今回の藤波はひとまず大敗というところ。いけるはずの根拠があり、自身があったうえでこの結果だから、失望も大きいのだ。

ちなみにボウは、1ラップ目は緊張して、なにをどう走ったのか覚えていないという。しかし2ラップ目は、常勝のチャンピオンを相手に落ち着き払ったライディングを見せ、ぶっちぎりで勝ってしまった。もともとインドアはピカイチにうまいボウだが、この吸収の早さには舌を巻くしかない。

チームには「インドアはボウ、おまえはアウトドアでがんばれ』と釘をさされている藤波。もちろん、昨年の指骨折のアクシデントがあったからだ。藤波も、ケガだけは気をつけようと念じて大会に挑んでいる。しかしそうはいっても、やるからには少しでもいい成績がほしいし、アウトドアに向けてはずみをつけるためにも、インドアでもある程度の実績を残しておく必要がある。可能性は大きいだけに、今回は裏目裏目の最悪の結果ということで、次戦ロシア大会以降に乞うご期待だ。

○藤波貴久のコメント

「ボウがきて、今までネガティブに考えていたことが、がらりと変わりました。マシンの仕様もがらりと変えて、いけなかったところがぽんとあがるようになった。手応えはあったんですが、思った以上に成績が悪くて、今回はなさけない限りです。ボウについては、4ストロークに乗って間もないライダーにぼくらがいろいろ教えてもらっているわけで、ちょっとくやしいところもあるのですが、でも確実な進化です。今回はボウが4ストロークの可能性を示してくれたというのが大きな収穫ですね。次回ロシアは、スペイン製のセクションではないので、ある意味公平で、ぼくらにもチャンスがあります。ロシアは、ちょっとがんばりますよ。がんばらないとね」

Indoor Trial WorldChampionship 2007
Granada
Final Lap(決勝)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 5
2位 アダム・ラガ ガスガス 15
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 28
Qualificarion Lap(予選)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 12
2位 アダム・ラガ ガスガス 12
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 19
4位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 20
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 21
6位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 30(25+5)
7位 タデウス・ブラズシアク ベータ 36
PointStandings(ランキング)
1位 トニー・ボウ 10
2位 アダム・ラガ 8
3位 ジェロニ・ファハルド 6
4位 ドギー・ランプキン 5
5位 藤波貴久 4
6位 アルベルト・カベスタニー 3
7位 タデウス・ブラズシアク 2

*結果表ではカベスタニーの減点は25点となっているが、これにダブルレーンに出走していない5点が加えられてトータル30点が正式結果のようだ。いずれにしても、順位は変わらない。