2006年 世界選手権第10戦イギリスGP

2006年7月30日/Hawkstone Park/観客数:8000人

辛勝ながら3連勝。無敵

3週間を置いて、世界選手権はイギリス中心に位置する伝統的モトクロスコース、ホークストンパークへやってきた。モトクロスコースだが、コースの周囲に岩盤などが点在していて、トライアルフィールドとしても魅力的な環境にある。

ホークストンパークでは、大会前夜に雨が降った。雨はこれだけにとどまらず、大会中も降ったり止んだりというむずかしいコンディションを演出した。セクション自体は去年と大きな変化はなく、難度はそんなに高いものではなかったというが、雨は状況をよりドラマチックに演出することになった。

大会の日程に合わせて雨に見舞われたが、このところのこの地方は、雨にはとんとごぶさただった。おかげで岩の表面や地面はかさかさに乾いていて、岩に乗った砂状のほこりがグリップをスポイルする。降れば滑るし乾いても滑る。なかなか選手泣かせの一戦となっていた。

今回、藤波は参加者の中でもっともあとからスタートした。今年のスタート順はローテーションだから、早いこともあれば遅いこともある。前回ポーランドでは早いスタート順を生かして、ライバルの動向を気にしないままに試合を進めた藤波だが、遅いスタート順ではどうするのか。

試合そうそう、難度の高い第3セクションで、ランプキンとラガが5点。藤波が1点、カベスタニーがクリーンして、この日の好調組、不調組の色分けがされたように見えた。第8セクションでも、藤波はただひとりここをクリーンしている。この調子だと、イタリア以外の連勝をさらに伸ばせるかもしれない。

しかしほぼ全員が第9セクションを終えたところで、スコールのような雨に見舞われた。さすがイギリス。しかしこの雨も、長くは続かない。30分ほど降り続いたと思ったら、今度は太陽が顔を出して、濡れていたすべてのものが見る見る乾いていく。ライダーは、刻々と変化するコンディションに対応するのに忙しい。

藤波は10セクションでカベスタニーにトップを奪われるが、その直後の11セクション、今度はカベスタニーが5点となって、ふたたび藤波がトップに出た。藤波とカベスタニーの、僅差の戦いが続いていく。

藤波とカベスタニーの差が決定的になったのは、1ラップ目の最終セクションだった。インドアスタイルのこのセクションで、カベスタニーは5点、藤波がクリーンして、運命が分かれた。これで両者の点差は5点に広がった。藤波のリードが確固たるものになっていく。

しかし今回、藤波はライバルの点数を完璧に把握できるスタート順にいながら、ライバルの動向をまったく関知していなかった。自分のトライに集中して、他人のことには気を取られない。前回はスタート順が早いゆえの作戦でもあったが、これが藤波のスタイルになってきたようだ。1ラップ目、藤波14点、カベスタニー19点、ラガ21点、ボウが26点でランプキンは30点。優勝争いは上位3人に絞られた感じがあり、さらに藤波が一歩リードだ。

しかし2ラップ目、藤波が調子を落とした。1ラップ目のリードの要因となった第3セクションと第8セクションで5点。第8セクションではここをクリーンしたカベスタニーに、またも同点に並ばれている。そしてこのとき、同時に同ポイントで同点となったライダーがいた。ラガだ。チャンピオンの意地は、2ラップ目になって威力を発揮し始めているようだ。

5点が頻発するようになった2ラップ目の藤波は、ちょっと不安になったか、シレラ監督に戦況を尋ねている。すると監督は「点数のことは気にするな、フジはこのセクションをクリーンすることだけを考えたらいい」といわれ、自分の戦い方を取りもどすことができた。実際、ランプキンやボウは失敗がそれなりにあったのを知っているから、藤波の勝利を脅かすのはカベスタニーとラガだったのだが、クリーンを続けている限り、負けるわけはない。

11セクションを1ラップ目と同様に2点で通過した藤波は、残る4セクションをすべてクリーンした。カベスタニーはこの間でも1点を通過して、トータル34点で藤波とは2点差。ラガは、あと一歩のところで藤波をとらえきれず、減点33点で2位となった。

藤波は、結局最後の最後まで戦況を知らないままに走りきった。優勝の事実を知った藤波は大喜びだった。

ラガが2位に入ったことで、藤波とラガの選手権ポイントは3点縮まり、両者の間には12点の差がある。残り2戦。この差をひっくり返すには、藤波には勝利を伸ばす以外に手はない。そして勝つだけではなく、ラガにはできるだけ低位に沈んでいただかないといけないのだかが、とにかく勝ち続けることが終盤戦に向けての唯一無二の目標となっている藤波貴久である。

○藤波貴久のコメント

「今日は、2ラップ目にミスをしてしまって、勝てるとは思っていませんでした。勝てると思っていなくて、状況を知らないままにゴールしたので、優勝できて、今までに感じたことがないくらいのうれしさを感じています。チャンピオン争いのことは、考えていないといったらうそになりますが、考えてもしかたがないし、とにかく勝って、なるべくラガにプレッシャーを与えるというのがぼくの仕事です。それでチャンピオンに届かなければしかたがないし、チャンピオンになれたらラッキーかなと、淡々と考えています。今シーズンはいろんなことがありましたが、それでも今連勝できているので、悪いシーズンではないのだと考えています。序盤のいろいろなアクシデントがあったから、今のぼくがあるのかもしれないし。残り2戦、もっといいシーズンとして締めくくれるように、がんばります」

フジガスに応援メッセージを!

World Championship 2006
 第10戦/日曜日/Sunday
順位 ライダー マシン L1+L2+TO Pts CL
1位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 14+18+0 32 18
2位 アダム・ラガ ガスガス 21+12+0 33 18
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 19+15+0 34 17
4位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 30+19+0 49 12
5位 トニー・ボウ ベータ 26+25+0 51 12
6位 マルク・フレイシャ ベータ 30+31+1 62 10
ジェロニ・ファハルド ガスガス 32+33+0 65 12
8位 タデウス・ブラズシアク スコルパ 41+46+0 87 6
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
ランキング
1位 アダム・ラガ ガスガス 166
2位 藤波 貴久 モンテッサ 154
3位 ドギー・ランプキン モンテッサ 146
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 140
5位 トニー・ボウ ベータ 135
6位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 109

Pix: Mario Candellone 公式リザルト(PDF)はこちら
※PDFファイルをご利用になるためには、Adobe Reader (無料)が必要です。
右のバナーをクリックして下さい。
Acrobat Readerのダウンロード