2006年 世界選手権第9戦ポーランドGP

2006年7月9日/Polski Zwiazek Motorowy/観客数:3000人

絶好調。強い藤波、2連勝

これが、本物のフジガスだ。3週連続でおこなわれたヨーロッパシリーズは、藤波にとって起死回生の舞台となった。本来、序盤のつまずきをリカバーし、ライバルを突き放す予定だったアメリカ・日本ラウンドで不運な体調異変に襲われた藤波だったが、左手人さし指の骨折さえも克服してきた強い藤波は、このハンディもまた、見事に克服してきた。

ポーランド大会は、1995年以来の開催となる。藤波が世界選手権に挑戦を始めたのは1996年だから、ポーランドでトライアルをするのは初めての経験となる。藤波だけでなく、今の世界選手権で、1995年当時にすでに走っていたのは、ドギー・ランプキンくらいのものだ。

セクションは、とてもむずかしいものだった。金曜日にライダーみんなで下見をした時には、不可能の連続が並んでいた。これではあまりにあぶないしトライアルにならないぞと、ライダーみんなで主催者に要望を出して土曜日のヨーロッパ選手権が開催された。ところがヨーロッパ選手権のあと、もう一度セクションを見て回ったら、まだセクションの手直しはされていない。もう一度主催者にお願いするライダーたち。そしてようやく日曜日の朝になって、いくつかのセクションのいくつかのカードがはずされたり、ところどころのテープが広げられた。セクションは、第1セクションから14セクションまでが、川に沿って作られていた。川の石は、つるつる滑って、それだけでもむずかしい。

藤波のスタートは、トップ5の中ではもっとも早いスタートだった。今年からの規則変更で、ローテーションによるスタート順だから、これはしょうがない。残り4戦、チャンピオンシップのことを考えると、藤波にできることは優勝しかない。しかし、そういうことを考えると、走りにぎくしゃくした感じがでてしまう。実際、ウォーミングアップで走ったときには「勝たなければいけない」「ラガに追いつかなければいけない」という思いが強くあって、それが走りにも出てしまっていた。そんなとき、シレラ監督が与えてくれる適確なアドバイスが、藤波の力になっている。

そして試合は、ランキングのことも、勝負のことも、頭からぬぐいさって、目の前のセクションに集中することができた。このところ、試合へのこういう取り組みは、かなりうまい具合にできるようになっている。それが、ヨーロッパに帰ってきてからの試合の好成績につながっている。その点では、序盤から先週のイタリア大会と同じような戦いができていたといっていい。

ただし、先週は序盤からラガが調子を落としているのが見てとれた。今回はみんながみんな、そこそこの点数で回っていたから、接戦が予想されていた。先週のようにうまくいくとは限らない。

藤波は、カベスタニーの調子がよいと思っていた。カベスタニーはスタートが遅く、藤波は真っ先にトライしていたから、藤波はカベスタニーの走りを見ていないのだが、使え聞く情報は、この日のライバルはまずカベスタニーで、そしてラガではないかとなっていたのだ。実際、誰もが走破できなかった第3セクションで、ただひとりクリーンを出すなど、光るところを見せていたのも、カベスタニーだった。セクション成績表を検証すると、序盤はカベスタニーがトップを守っていたのは事実だった。

この日の藤波は、ひどく痛い目にあっている。1ラップ目の第6セクションでのことだ。どろどろの斜面から川に降りるポイントで転倒、全身をたたきつけられたあげくに、気がついたら頭から足の先まで、すべて川の中だった。打ち身の被害は大きく、太もも、手首、あばらとあちこちが痛い。しばらくそこから動けず、10分ほどうずくまってうなり続ける羽目となった。

これを見たライバルは「今日の藤波は終わった」とみんなが思った。終わってもおかしくないダメージではあった。特に被害が大きかったのが手首だ。痛いうえに、手首が自由に曲がらない。突然動かなくなった手首を使いこなして、残りの24セクションを走らなければいけなくなった。もちろん痛みにも戦いながらだ。

しかし、ただでは転ばなかったこともある。うずくまってうなりながら、藤波はすぐ隣の第7セクションの様子をうかがっていた。このセクションも、またむずかしかった。ボウやランプキンが落ちている(藤波は見ていなかったが、カベスタニーも5点だった)。これを見て、藤波は少し安心をとることができた。負傷を引きずってのカムバックセクションは、全身全霊をかけたクリーンセクションではなく、ばたばたと足をついて抜ければよい設定だった。これで、藤波はすっと試合のコンセントレーションを取りもどした。

その後藤波は、スタートが早かったこともあって、自分のペースを守ってどんどん先へ進んだ。ライバルの動向をじっくり見きわめるのも戦い方のひとつだが、自分のペースを守るのも戦い方の重要なポイントだ。後半は、ほとんどライバルの姿を見ることなく、藤波のポーランド大会は終わった。あとは、続々ゴールしてくるライバルの点数を見ながら、自分のポジションを確かめるだけだ。

試合終盤、戦況を伝えるチームの情報は混とんとしていた。トップ3は藤波とラガとカベスタニーであることははっきりしているのだが、藤波とラガが同点という情報がはいったり、はたまた3人が同点という情報がはいったり、なかなか確定情報がこない。いずれにしても、すでにゴールしている藤波には、できることはない。

ラガがゴールし、カベスタニーがゴールし、藤波が1点差で勝利していた。ところがこの日の優勝争いは、これでは終わらなかった。ラガが、藤波の点数について抗議を出しているという。

2ラップ目の第9セクションで、藤波は2点をマークした。実はこの2点は、当初3点と採点されたが、オブザーバーがまちがいに気がついて2点と修正してパンチしたものだった。セクションの出口で観客向けの看板に点数をかいているポーランドのお兄さんは、この修正に気がつかず、藤波の点数を3点と記した。これを見たラガ陣営は、藤波の第9セクションは3点であるはずだと抗議したらしい。

藤波本人は、ラガの抗議については、まったく知るところなく、なかなかでない結果をどきどきしながら待っていた。ラガにすれば、抗議が通ると藤波の減点数は45点となり、トップ3人が同点となる。そしてこの中では、ラガのクリーン数がもっとも多く、藤波のクリーン数がもっとも少ない。順位はラガ、カベスタニー、藤波となる。ラガにとっては、藤波の第9セクションが2点か3点かは、大きな大きな一点となるのだった。しかしこれは、観客向けの看板に記入された数字がまちがっているだけで、ラガの抗議が通る道理などないのだが、FIMは仕事を終えたオブザーバーに事情聴取をし、事態の全容を解明したうえで、藤波の優勝を宣告した。試合のあとが、長かった。

ラガが2位となったので、ランキングポイント的にはたった3点しかつめられなかった。しかし気がつけば、この勝利でランキングは一気に2位に浮上していた。ボウとランプキンを抜きさったのだ。これで目指すは、ランキングトップのラガただひとりとなった。藤波との点数差は15点。残り3戦だから、毎戦5点ずつ点差をつめなければいけない。そのためには、まず藤波は3戦を全勝しなければいけない。そのうえで、ラガには3位以下に落ちていただかなければいけないのだから、藤波とすれば、ラガのことは考えずに、まず一戦一戦を勝利すること、セクションのひとつひとつをきちんと走ることに全神経を集中させるしかない。

今回の勝利で、藤波は波乱の2006年シーズンの最多勝利選手にもなった。藤波3勝、ラガとボウが2勝、カベスタニーとランプキンが1勝ずつというのが、今シーズンの勝利者だ。

残り3戦。次は2週間後のイギリスGPだ。藤波の仕事は、試合が終わって急に痛くなってきた手首をきちんとなおすために、まず病院へ出かけることだ。おそらく、たいした問題ではないはずだ。藤波のコンディションは、体調を含めて、絶好調に還りつつある。

○藤波貴久のコメント

「このヨーロッパ3連戦はいい戦いができました。最近は、緊張してからだが堅くなるということもなくなったし、いい状態でトライアルができています。体調のことも、まだ医者には通っていますが、試合の最中にはまったく忘れて走っています。もう問題ないといっていいです。あと3戦、チャンピオン争いとかポイントのことを、ときどき考えないではないですが、ぼくにできることはとにかくひとつひとつを大事に走ることだけなので、それに集中していきたいと思います。監督も、そういう面でのフォローに全力を尽くしてくれるので、ぼくにはたいへんありがたいです。今日は試合が終わってから、ライバル連中に“第6セクションで藤波は終わった、とみんな言っていたのに、終わったはずの藤波がなんで優勝するんだ?”と聞かれました。それほどの大クラッシュなんですが、藤波貴久は終わりませんよ。ポーランド大会も、2006年シーズンも」

フジガスに応援メッセージを!

World Championship 2006
 第9戦/日曜日/Sunday
順位 ライダー マシン L1+L2+TO Pts CL
1位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 27+16+1 44 14
2位 アダム・ラガ ガスガス 31+14+0 45 16
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 27+18+0 45 15
4位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 36+23+0 59 13
5位 マルク・フレイシャ ベータ 38+28+2 68 11
6位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 43+25+1 69 10
7位 トニー・ボウ ベータ 38+32+0 70 9
8位 タデウス・ブラズシアク スコルパ 38+36+0 74 5
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
ランキング
1位 アダム・ラガ ガスガス 149
2位 藤波 貴久 モンテッサ 134
3位 ドギー・ランプキン モンテッサ 133
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 125
5位 トニー・ボウ ベータ 124
6位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 100

Pix: Mario Candellone 公式リザルト(PDF)はこちら
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