2006年 世界選手権第8戦イタリアGP

2006年7月2日/Darfo Boario Terme/観客数:9000人

復調藤波貴久。見事勝利

強い藤波が、完全に帰ってきた。

暑く、体力的にもタフなイタリア大会で、藤波は序盤からトップを守って勝利した。

会場はイタリア北部のベルガモ地方。近年のイタリア大会は、イタリア北部で開催されることが多い。アルプスの麓といってもいいこのエリアは、トライアル大会には最適なフィールドが広がっている。

セクションは完全なドライ。水のあるところはひとつもなかった。人工セクションでこそなかったが、この乾き具合ではスペイン人の強さがまた光るのではないか。下見をしながら、藤波は先週のフランス大会と同じことを考えてしまった。フランス大会では雨が降ったおかげでスペイン人に一屋を報いることができたモンテッサ陣営だったが、さて今回はどうなるだろうか。日差しは強く、雨も降る気配はなかった。

明けて大会本番。暑い。しかも乾いていて、ホコリだらけだ。アメリカ以来体調を崩してしまった藤波は、正直なところ体力に不安がある。雨で気温が落ちたフランス大会はなんとか優勝争いができたが、このコンディションではどうなってしまうものか、不安の大きいままのスタートとなった。

序盤は、そんなに悪い感触ではない。第2、第5、第7とぽつぽつ足をついてしまったのが、本人としてはちょっと気になった。ところが第7セクションでみんなのスコアを見ると、意外な戦況が見えてきた。

藤波は3点。自分が3点なら、オールクリーンも何人かいるだろうと考えた藤波に知らされたのは、ラガが9点、ボウが13点、ランプキンが16点という大量減点だった。ここまでを藤波と同じ3点で回ってきているのはファハルドだけで、カベスタニーが7点で続くという状況だ。

「これはいけるかもしれない」

と、藤波に展望ができた。みんな、いったいなにをしているんだろうと思ったりもした。事実としては、藤波が思っているより、藤波の走りがよかったということだ。

さらにライバルに差をつけたのは、第9セクションだった。前日に下見をしたときには、このセクションの走破は不可能だから5点もやむなしという計画を立てていた。事実、ファハルド、カベスタニー、ラガ、ランプキンと、トップグループが軒並み5点になっている。ここを走破できたのは、結局藤波とボウの二人だけだった。「あれよあれよといけてしまって」とこのセクションの華麗な1点を振り返る藤波。ライバルが5点のところを1点だから、これは大きなアドバンテージとなった。

1ラップ目、藤波の減点は15点。2位はカベスタニーの20点だったから、ここでももう一度「いける」と確信した。あとは、大きな取りこぼしをなく試合をまとめていけばいい。

ところがこのとき、藤波は実は5分のタイムオーバーをもらっていた。藤波はこの事実を、試合が終わってもまだ気がついていなかった。最終セクションに到着したとき、サポートに「2分すぎている」と報告を受けた。藤波はこれを聞きまちがえて「残り時間2分」と思ってしまった。だから難攻不落の最終セクションにきちんとトライして5点となった。時間を正確に把握していたら、ここはエスケープして5点をもらい、タイムオーバー減点を0におさえていたところだったのだが、それは結果論だ。

2ラップ目、藤波は1ラップ目より減点をわずかに増やしている。といっても、走破できたのが不思議な第9セクションを5点になったというのが減点増の主な理由だから、調子は落ちていない。問題は、暑さによる体力負けだ。

乾いた暑さは、スタミナをどんどん奪っていく。日本GPでも後半になってスタミナ切れから集中力を失っていった覚えがあるから、これはあぶない兆候だった。しかしまわりを見渡した藤波は安堵する。まわりのライバルたちも、藤波と同じくらいスタミナを消耗させて苦しんでいたからだ。

「つらいのはぼくだけじゃない」

この思いが、苦しいながらも藤波に余裕を与えた。体力的にも、だいぶもとに戻ってきたといっていい。

次には、時間がなくなった。5時間半の試合トータルの持ち時間にぎりぎりとなり、14セクションと15セクションは突っ走った。15セクションはほぼ全員が5点だが、14セクションはランプキンやボウが1点で抜けている。しかし藤波は先を急いで、まだマインダーが到着する前にこのセクションをトライして、甘んじて5点となった。

藤波の計算では、これで5点差でカベスタニーに勝利している。ところがモンテッサ陣営では、なんだかみんなが右往左往している。誰もおめでとうといってくれない。勝ったんじゃないのか?

そこで藤波は初めて、1ラップ目のタイムオーバーの存在を知った。となると最後の問題は、カベスタニーと同点となってしまったということだ。前回ランプキンと同点の末、クリーン数の差で2位に甘んじた藤波としては、2戦続けてつらい勝負である。

結果は、カベスタニーがクリーン17、藤波のクリーンは、18だった。クリーン数1個の差で、藤波はポルトガルGP以来の優勝を勝ち取ったのだった。同点クリーン数の差でつく勝負も、実力ははっきり出る。あるいは運も実力のうちという。前回フランス大会では、藤波の復調はまだ完全ではなく、あと一歩でランプキンに破れた。今回は追いすがるカベスタニーを振りきってのクリーン1個の差での勝利。これは、藤波の完全復調の現れだ。

暑いイタリアは、熱い藤波の復活の舞台となった。

○藤波貴久のコメント

「勝ててよかった。ほんとうによかったです。アダムとドギーがポジションを落としてくれたので、さらにうれしい結果となりました。でも今は、ランキングのことは気にしないで、ひとつひとつをきちんと勝っていけるように走っていきたいと思います。体調も、ずいぶんよくなりました。もっとよくなる予定なのですが、今回のようなハードな大会で優勝できたことですし、体調のことは試合中には気にしないようにしています。今回の勝利は、そういう意味でも大きな意義を持つものとなりました。このところ、シレラ監督がずっとぼくについて回ってくれるんです。監督がいると心強いし、適確なアドバイスも与えてくれる。そんなことも結果につながったかなと思います。次のポーランドも、がんばりますよ!」

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World Championship 2006
 第8戦/日曜日/Sunday
順位 ライダー マシン L1+L2+TO Pts CL
1位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 15+19+5 39 18
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 20+19+0 39 17
3位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 23+24+0 47 15
4位 トニー・ボウ ベータ 23+19+6 48 16
5位 アダム・ラガ ガスガス 31+21+0 52 16
6位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 40+27+3 70 11
7位 マルク・フレイシャ ベータ 39+32+0 71 10
8位 ジェームス・ダビル ベータ 49+43+0 92 7
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
ランキング
1位 アダム・ラガ ガスガス 132
2位 ドギー・ランプキン モンテッサ 120
3位 トニー・ボウ ベータ 115
4位 藤波 貴久 モンテッサ 114
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 110
6位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 90

Pix: Chili JC Vazquez 公式リザルト(PDF)はこちら
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