2006年 世界選手権第7戦フランスGP

2006年6月25日/La Chatre/観客数:4000人

復調、勝利にあと一歩……

フランス中央部の小さな街、La Chatreでの世界選手権。土曜日までは、強烈にいい天気。日中は気温35度もあって、トライアル大会はなかなかし烈なものとなる予感があった。セクションは大量の岩を運び入れて作られたもので、ほとんど人工のものといっていい。セクションセッターは例によってブルーノ・カモッジだったが、カモッジによると、6000トンの岩を運び込んで作られたという。これには藤波もびっくり。

セクションが人工もの、そしてフランス大会となると、つい1年前の悪夢を思い出してしまう。同じく、岩登りから墜落して負傷したドギー・ランプキンと下見をしていた藤波も、思い出したくない去年の試合のことと、苦しい戦いになるであろう翌日のことを考えていた。こういう大会は、やはりラガの得意パターンなのはいうまでもない。

ところが、ライダーが土曜日の下見作業を終えてパドックに戻り、マシンの整備などをはじめた頃に、突然激しい雨が降り出した。雨が降るとなると、事態は変わってくる。藤波とランプキンは、下見中のいやな思考パターンを雨とともに洗い流すことができた。しかしもちろん、最近のラガは、雨が降ったからいきなりだめになるわけではない。事実、雨でぬたぬたのアメリカ大会で2勝をあげている。けっして油断はできない。それでも雨が降って、思わずにっこりしてしまった藤波とランプキンだった。

そして試合が始まった。藤波の序盤戦は、まったく乗れていなかった。自分が自分でないような感覚で、すぐにばたばたと足をついてしまう。なさけないパターンでセクションを消化していく。しかしこの序盤のセクション、第6までは人工的に岩を配置したものだったが、雨が降ったのもあって、難易度はきわめて高かった。藤波は不本意ながらばたばたと足を出してマシンを進めていたのだが、ライバルはクリーンや最小減点をねらってトライし、5点となる者が多かった。結果的に、藤波は悪くない減点数でこのなんセクション群を通過していたのだ。

その後、第9、第10セクションで続けて5点をとってしまい、いよいよ気分は絶望的。しかしここでシレラ監督が藤波に戦況を伝えてくれた。第9を前にした段階では、藤波はトップにいた。そして5点を連発してしまった今でも、まだまだ僅差で接戦が続いている。

「今日は勝てる試合だから、しっかり走れ」

監督のメッセージは、藤波を力づけた。そしてここで、藤波にスイッチが入った。15セクションまで走り終えた藤波は、珍しくいったんパドックに帰った。いつもは、1ラップを終えたらそのまま第1セクションに向かうことが多いのだが、この日はパドックでつかの間の休息をとっている。ペースを整えた藤波は、ランプキンとともに2ラップ目に向かった。

2ラップ目、トップのラガは序盤の難セクションで5点を連発して苦戦をはじめた。対して藤波とランプキンは、2ラップ目に入って調子を上げている。ランプキンは1ラップ目に6位だったが、2ラップ目の好調ぶりで、いまや藤波とともに優勝候補の一角にあった。藤波は、ランプキンの走りをしっかりマークすることで、勝利を手中におさめようとしていた。

ランプキンは12セクションで2点、そして13セクションでまくれかけたマシンを押さえ込んだが、これが5点と判定された。これを見た藤波は勝ったと思った。オブザーバーに抗議をしているランプキンは尻目に、残るセクションをしっかりクリーンして、半ば勝利を確信してパドックに戻った。

シーズン中、もっとも重要でラッキーを呼ぶアメリカと日本の4試合を落とした藤波だったが、ここで再び勝利することができる。にこにこ顔の藤波に、しかし試合のニュースが届いた。ランプキンの抗議がきいて、5点が2点になったという。これで、ランプキンと藤波は同点になってしまった。そして、クリーン数にしてふたつ、ランプキンのほうが上回っていた。残念。藤波は勝てなかった。

しかし藤波は、いるべきポジションにようやく戻ってきた。チームも、優勝したランプキンと藤波、ふたりを等しくあたたかい拍手で祝福してくれた。その拍手は、いつにもまして大きかった。ランプキンもここまで勝利がないままのシーズンを送っていたし、藤波はご存知の通りに苦しんでいる。ここでのワンツーフィニッシュは、ライダーのみならず、チームとしてもとてもうれしい出来事だった。とまれ藤波は、まだ体調は完璧ではないが、アメリカ大会の頃の悲惨な状況を考えれば、圧倒的によくなってきている。藤波の完全復活も、もう間もなくにちがいない。

○藤波貴久のコメント

「このところの成績を考えれば、今回の2位はたいへん上出来の結果で、うれしいところなのですが、クリーン数で負けたというのはなんともくやしい結果で、とってもくやしいという気持ちでいっぱいです。でも、これだけ厳しいセクションで、1分半のトライの間、しっかり集中するだけのコンディションは維持できるようになったので、今回はちゃんと勝負ができた、自分のポジションに戻ってこれたという点で、収穫も多かったし、やはりうれしい大会でした。今回はランプキンとワンツーもよかったし、ラガを表彰台から引きずり下ろすことができたのもラッキーでした。これからヨーロッパは暑くなってきつい大会が続きますが、さらにコンディションを整えて、終盤戦を大事に戦います。」

フジガスに応援メッセージを!

World Championship 2006
 第7戦/日曜日/Sunday
順位 ライダー マシン L1+L2+TO Pts CL
1位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 41+11+0 52 14
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 38+14+0 52 12
3位 トニー・ボウ ベータ 39+19+0 54 14
4位 アダム・ラガ ガスガス 32+25+0 57 11
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 39+23+0 62 13
6位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 40+26+0 66 11
7位 マルク・フレイシャ ベータ 49+35+0 84 6
8位 ジェームス・ダビル ベータ 54+42+0 96 6
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
ランキング
1位 アダム・ラガ ガスガス 121
2位 ドギー・ランプキン モンテッサ 110
3位 トニー・ボウ ベータ 102
4位 藤波 貴久 モンテッサ 94
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 93
6位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 75

Pix: Mario Candellone 公式リザルト(PDF)はこちら
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