2006年 世界選手権第2戦ポルトガルGP

2006年4月9日/Mortagua /観客数:3000人

黄金の人さし指、復活

してやったり。これが藤波貴久の実力だ。

世界選手権第2戦ポルトガル大会で、藤波貴久は1ラップ目の第6セクションでトップに出ると、そのまま試合をリードし続けて勝利を得た。なんとも鮮やかな勝利だった。鮮やかなだけでない。指の負傷やくやしかった昨シーズンの展開など、いろいろな逆境を、一気に吹き飛ばしたかのような会心の勝利だった。

指は、けっして完調ではない。痛みと動きの悪さに苦しんだ開幕戦から、まだ1週間しかたっていないのだ。骨折から、いまだ3週間とたっていない。

開幕戦スペイン大会のあと、当初は現地にそのまま残ってチームとともにテストや練習を繰りかえしてポルトガルの会場入りをする予定だったが、この指では残ってもすることがないと判断した藤波は、月曜日に急きょバルセロナに戻り、いつでも病院に駆け込める体制をとりながら、ライディング以外のトレーニングに専念した。

ポルトガルの会場に入ったのは金曜日。チームの見守る中、5日ぶりにマシンに乗った藤波だが、しかし思ったほどに指は回復していない。それどころか、日曜日の試合中より状況は悪いほどだったという。

暗雲立ちこめる藤波陣営。しかし藤波は、今回の大会に向けて、前回の6位というようなことはない。優勝戦線に加われるはずと予感していた。指が動かないと訴える藤波と、同一人物の発言とは思えない。

ポルトガル大会のセクションは、泥に覆われた岩盤を上り下りするもので、スペイン大会に比べると泥の度合いが増えて、そのかわり高さが減っている印象。全体にセクションは簡単で、スペイン大会とは一変して神経戦になりそうだ。

序盤、第2セクションで藤波が1点。激しい壁登りのセクションだったが、ラガ、ランプキン、ボウはいずれもクリーンして、藤波はスコア的には追い上げで試合を始めることになった。

しかし第4、第5、第6と、セクションは簡単ながらも意地悪な設定で、いくらでも減点が可能だ。はたして第4ではラガとランプキンが減点1。ここは小川毅士がはじめて走破したセクションだったが、クリーンをするとなるとさらに難度は飛躍的に増してくる。そこを、藤波は見事にクリーンしてみせた。結局このセクションでクリーンをたたき出したのは、2ラップを通じても藤波とランプキンだけだったのだ。さらに第5ではラガが1点、第6でランプキンが1点。ボウは第4で2点、第5で5点と失点を重ね、2連勝は速くも夢と消えた感じ。第2の1点以来クリーンを続けている藤波は、この時点で試合のリーダーとなった。

前回スペイン大会ではセクションを走るごとに痛みに耐え、動かない指を必死になだめながらライディングするのが見てとれた藤波だが、1週間たって、藤波のライディングはまったく見ちがえるようだ。指が折れているなんて、知らなければまったく気がつかない。よくよく見れば、クラッチを四本指で操作するシーンも多いのだが、ここぞというところでは人さし指一本で操作している。いつもの藤波のスタイルと、まったく変わらない。

セクションが簡単で、追い上げのチャンスも少ない変わりに、ひとつの失敗が大きなダメージとなる神経戦のセクション。圧巻だったのは第8セクションだった。登りもきつく、流れる水で滑りやすく、さらにセクションが長く時間もいっぱい。ボウが1点、ラガが3点、ランプキンにいたってはちょっとした段差につかまって5点となってしまった。

ここで藤波の真骨頂。見事なクリーンだ。ラガには4点のアドバンテージ、カベスタニーにも6点の点差をとって、トップ独走の形ができてきた。

しかし藤波の指が折れていることには替わりがない。スペイン大会でも、終盤に向けて指が動かなくなってしまった。今回も、けっして油断できるものではない。1ラップ目は最終セクションで1点をついて、合計2点でまとめている。2位のラガとは3点差だ。

2ラップ目、藤波はわずかなミスから、第4セクションで3点減点をとってしまった。しかしそれでも、5点を回避したという点では悪くない結果。ラガは第2で1点、第4で1点をとっているから、ここでその差は2点となった。

勝負は、1ラップ目でも多くのライダーの鬼門となった第8セクション如何となってきた。この頃、雨が強くなり、コンディションの変化も心配されてきた。

ここまで2ラップ目をオールクリーンしてきたランプキンが、第8セクションの最後の2メートルで足を出す。ラガも1点。藤波は、またしても見事なクリーンを叩きだした。足を出したランプキンは、よほどくやしかったかマシンを放り投げて絶叫したが、今度は藤波が歓喜の叫びをあげる番だった。気合いの入った自分の走りに、藤波の表情にはますます気合いがみなぎってくる。

藤波貴久のクラッチワークは、兼ねてから定評がある。そのクラッチワークを生み出していたのが、左手の人さし指。この指が機能を停止してしまっては、藤波のクラッチワークにも、輝きは出ない。されども、指さえ動くようになれば、藤波の黄金のクラッチワークは復活する。藤波貴久、本来の実力を、世界のトライアルにまざまざと見せつけながら、クリーンの山を築いていく。

その後、すべる足下にてこずって9セクションで2点を献上した藤波だったが、ラガも12セクションで1点をとってしまっていたから、その差は縮まらず。2点のリードを奪ったまま、藤波は2006年第2戦をゴールした。

前回の6位は、走れるだけで奇跡のような大会だったが、その6位がうそのような美しい勝利だった。これでも、まだ指の骨は完全にはついていない。試合中には、痛み止めの処置をしたりクリームを塗ったり、さまざまなケアをしながら、それでも痛みを我慢しながらトライを続けているのだ。

次回アメリカ大会からは、もう指のハンディはない。開幕戦は出遅れた藤波だが、数えればすでにランキングトップのラガとはたったの4点差に迫っている。今シーズンの藤波貴久は、2005年の藤波とはちょっとちがう。もしかすると、2004年の藤波貴久よりも強くなっているかもしれない。2006年の大活躍のプロローグが、今回のスペイン大会となるにちがいない。

○藤波貴久のコメント

「今回は、まだ痛いのは痛いんですが、がまんができる痛みでもあり、状況によっては、痛みを忘れている瞬間もあった。そんな感じになっていました。金曜日に動かなかった指は、土曜日にはだいぶ動くようになって、日曜日は動き的には問題なかった。今回は、指の不具合によるライディングの失敗はありませんでした。指の復活もさることながら、試合の流れが見えていたというのが大きな収穫でした。前回は緊張しないで試合運びができました。それは指の痛みがあって試合どころではなかったのですが、それがきっかけだったのかどうか、ひとつ先へ進めたのかもしれません。2004年にはまわりが見えていたのですが、今年はそれともちがいます。これでアメリカ、日本とよいパターンをつくっていきますよ」

フジガスに応援メッセージを!

World Championship 2006
Mortagua
 日曜日/Sunday
順位 ライダー マシン L1+L2+TO Pts CL
1位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 2+5+0 7 26
2位 アダム・ラガ ガスガス 5+4+0 9 23
3位 ドギー・ランプキン レプソル・モンテッサ・HRC 12+6+0 18 24
4位 トニー・ボウ ベータ 9+11+0 20 23
5位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 18+5+0 23 20
6位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 7+22+0 29 20
7位 ジェームス・ダビル ベータ 21+16+0 37 17
8位 ジョルディ・パスケット ガスガス 23+14+0 37 16
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
ランキング
1位 アダム・ラガ ガスガス 34
2位 トニー・ボウ ベータ 33
3位 藤波貴久 モンテッサ 30
4位 ドギー・ランプキン モンテッサ 30
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 23
6位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 22
Pix: Hiroshi Nishimaki 公式リザルト(PDF)はこちら
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