2005年 世界選手権第9戦ドイツ

2005年9月3-4日/Gefrees

8位と3位。思い切りよく敗北しチャンピオンを逃す

夏休みのインターバルをおいて、いよいよ世界選手権も終盤戦。ドイツ大会は、ミュンヘンの北方、ドイツのほぼ中央、ニューレンブルグから約100kmのゲフリーで開催された。大岩が多く配置されたセクション設定だったが、自然の中のロケーションで、バリエーションも豊富。トライアルらしい設定といってよかった。

今回を含めて、残りは3試合(ドイツが2試合、最終戦ベルギーは1試合)、ランキングトップのアダム・ラガと藤波貴久のポイント差は13点。世界タイトル2連覇を達成するには、藤波は残る3戦を全勝し、かつライバルのラガが、なるべく崩れてくれるという戦況が必要となっていた。

試合を前に、藤波は絶好調だった。練習エリアでも、藤波の練習ラインには他のライダーはなかなか近寄れない。藤波だけが練習できるラインを、藤波だけが走破する。その光景を見た者はだれしも、週末の2連戦の戦況について、藤波に希望的な観測をしたはずだ。しかし結果は、そのまったく逆となって現れた。

【土曜日】

「最低でも優勝しなければいけない」

藤波に与えられたチャンピオンへの方程式は、やはり容易なものではない。しかしこのインターバル、藤波の調子は悪くなかったし、レースウィークに入ってなお、藤波の調子は上がり続けていた。この2連戦で勝利し、ラガのチャンピオンシップ獲得にストップをかけられる可能性は、けっして小さくなかった。

今年の藤波は、特にインドア風のセクション設定が得意ではないが(今年初頭、インドア世界選手権の時点で、藤波らの乗るワークスマシンは、まだ形がなかった。インドアセクションについては、人車ともに実績が少ない)、今回のドイツ大会は自然の中のセクションが多く、藤波もきらいではないと語るセクションスタイルだった。

スタートのくじは、ラガが最後をひいた。最後から2番目が最近好調の新鋭、トニー・ボウ。そして最後から3番目が藤波だ。

試合が始まり、しかし藤波は、5点を連発してしまった。確かに、序盤のセクション群は難易度が高かったのだが、それでもこの日試合をリードしたのはチームメイトのマルク・フレイシャだし、藤波がここを攻略できない道理はなかった。それが、フレイシャが7セクションまでを13点でまとめたのに対し、藤波は23点。かんばしくない。

「勝たなければいけない」というプレッシャーは、もちろんあった。しかしそんなプレッシャーには、ここまで何回も出会いそして克服してきた藤波である。一方ラガにも、人生の中で初めて、世界チャンピオンを獲得するための最後の仕上げという大仕事に向けての緊張もあった。藤波もラガも、プレッシャーに関しての条件は大きな差はない。事実、7セクションまでの藤波が23点に対して、ラガは20点を積み上げている。ラガもまた、けっして絶好調とはいえなかった。

しかしラガのスタート順は、藤波より後ろだった。藤波の失敗を、ラガは自分の目で確認することができる。これが、ラガに安心感を与えることになったのではないか。藤波は、なんとかこの流れを断ち切りたいが、うまくことが進まない。

実はこの日、藤波のマシンはややご機嫌斜めだった。それが明らかなトラブルなら、即座に修復作業にかかるのだが、前日にパーツを新品にし、やるべき作業をすべてこなしていたから、トラブルという確証もなく、ライディングにも影響があると思えないまま、試合は進んでいった。しかし、その影響は、どうやら確実にあったようだった。極限状態のコントロールの中、ほんのちょっとマシンが遅れてついてきたりすれば、それが減点の上では致命的になる。今回のセクションは、クリーンも出るけれども、失敗すれば5点になりやすいという傾向があった。そして藤波は、その5点になりやすいところで、失敗を続けてしまった。

1ラップ目の順位はなんと8位。1ラップトップのフレイシャが18点なのに対して、倍以上の37点が藤波のスコアだ。しかし藤波は、途中の経過を聞こうともしなかった。状況がよくないのはわかっている。点数を知っても、状況の劣勢を知って自分に過度のプレッシャーをかけるだけだから、ここはとにかくがんばるしかない。

2ラップ目に入って、第1第2と、藤波はやや調子を取りもどしたかに見えた。しかし3セクション以降、藤波はまたしても大量の5点をマークしてしまう。まったく歯が立たない5点ではなく、ちょっとの失敗が結果的に5点となってしまう。結局藤波は2ラップ目でも挽回ならず。8位のまま、大事な1戦を終えることになった。ラガは藤波の乱調を見て自信を持ってしまったか、フレイシャを逆転して勝利をとげた。ふたりのポイント差は、25点と広がった。今シーズン、もっとも広がったのがフランス大会の後の24点だったから、今年最大のピンチが、残り2戦にして訪れてしまった。藤波貴久、万事休す。

【日曜日】

チャンピオン争いという点では、すでに藤波が勝利し、ラガが1戦リタイヤでもしないと、なかなか可能性が見えない状況になっていた。もちろん藤波は、最後の最後まで、可能性を信じて試合にのぞむ。最後の最後まで、なにがあるかわからないのも、トライアルだ。

前日、症状を把握できなかったマシンに対しての違和感は、結局微細なトラブルが発生していたことが判明。その周辺を含めて、完全なリビルトができた。マシンが完全になってみれば、前日の失敗の多くは、この違和感によるものだったのかもしれないと思えたのだが、それもあとの祭りだ。

土曜日の成績が8位だから、この日の藤波のスタート順はごく早い。トップのラガとは、20分もの時間差がある。事実、ラガが第1セクションに到着したのは、藤波が第1セクションにトライしようという、その頃だった。以後、藤波はラガとは一度も会っていない。周囲には、前日9位の黒山健一や、ジョルディ・パスケット、タデウス・ブラズシアクなどがいた。ところが黒山は、第1セクションで失敗してマシンにダメージを受け、その修復で遅れをとった。ブラズシアクも間もなく、大きなクラッシュをして首を傷めて遅れていった。気がつけば藤波の周囲には、先日ジュニアカップのチャンピオンになったばかりの、イギリス人のジェームス・ダビルがいるだけになった。優勝戦線を争う選手らしからぬポジションで戦いを進めることになった藤波だが、この日は特に終盤スタートのトップライダーを待とうとは思わなかった。自分の走りと、自分のペースができあがっていたからだ。

1ラップ目、藤波の調子は悪くなかった。ただし唯一、第9セクションで5点をとってしまっている。ここにはラインが2本あり、クリーンを狙うのはごろごろ石から大岩に飛びつく左のライン。ただし落ちれば5点だ。右から行けば5点にはならないが細かい足つきを覚悟する必要がある。藤波は左を選び、失敗した。しかしこの日、藤波よりずっと後にトライしたトップライダーは、右のラインからトライして、クリーンも叩き出している。土曜日と日曜日ではコンディションもちがう。トップライダーがこぞって下見をすれば、また新たな発見も生まれてくる。ひとりで試合を進めている藤波は、その輪に加われない弱みがあった。しかしそれも、土曜日の8位が招いた結果である。

2ラップ目に入って、藤波はスコア情報を聞いて、自分のポジションをなんとなく把握している。ライバルを見ないまま、走った感触で3位くらいにはなれるのかなとは思っていたから、そのとおりにことが運んでいたわけだ。ただし2ラップ目序盤、藤波にはミスがあった。2ラップ目中盤以降は、そのミスを取りもどすべく、じっとがまんのトライを続けた。その甲斐あって、8セクション以降はすべてクリーンを続けている。

この日、勝利をしたのはまたしてもラガだった。藤波は前日の絶望的な結果から、3位表彰台を獲得したが、もちろん喜びにはほど遠い。ランキングポイントはここで5点広がって、30点となった。残り1戦だから、最終戦をラガが欠席しても、ラガのトップは揺るがない。これで、ラガの今シーズンの世界チャンピオンが決まった。優勝でチャンピオンを決める。ライバルがその快挙を達成した姿を目の当たりにすることが、藤波にはなにより苦しい。

残る1戦。今度こそ、勝利しかないという状況の中、勝利を勝ち取って、シーズンの締めくくりとしたいところである。

○藤波貴久のコメント

「いろいろな問題がありました。優勝しなければあとがないというプレッシャーもありました。すべての原因がからみあって、土曜日の結果になってしまいました。もちろんあきらめてはいませんでしたが、結果論として、土曜日はこれ以上の結果は出なかったような気がします。プレッシャーだけではない、いろいろな問題がありました。日曜日は、なんとか表彰台に上がれて、それはよかったです。3位になったということより、チャンピオンをとって大喜びして騒いでいるラガを、すぐ隣の表彰台で苦虫をかみつぶして眺められたというのがよかったです。このくやしさは忘れません。これがまた、ぼくにファイトをくれたような気がします。チャンピオン争いのドラマを、最後まで引っ張れなくてごめんなさい。今回は、勝とうという意識が強すぎてうまくいかなかった気がしますが、最終戦は、勝とうという意識を持って勝ちたいと思います」

フジガスに応援メッセージを!

World Championship 2005
Gefrees
土曜日/Saturday
順位 ライダー   L1 L2 TO Pts CL
1位 アダム・ラガ ガスガス 22 15 0 37 13
2位 マルク・フレイシャ モンテッサ 18 20 0 38 12
3位 ドギー・ランプキン モンテッサ 29 22 0 51 14
4位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 28 26 0 54 12
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 28 30 0 58 12
6位 グラハム・ジャービス シェルコ 32 31 3 66 6
7位 トニー・ボウ ベータ 37 31 0 68 10
8位 藤波貴久 ホンダ 37 31 0 68 9
9位 黒山健一 ベータ 49 33 0 82 5
10位 タデウス・ブラズシアク ガスガス 50 45 0 95 0
11位 ジョルディ・パスケット ガスガス 56 45 0 101 1
12位 野崎史高 スコルパ 61 42 0 103 7
13位 シャウン・モリス ガスガス 54 50 0 104 3
14位 ジェームス・ダビル ベータ 55 52 0 107 4
15位 サム・コナー シェルコ 59 52 0 112 1
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
日曜日/Sunday
順位 ライダー   L1 L2 TO Pts CL
1位 アダム・ラガ ガスガス 8 9 0 17 21
2位 トニー・ボウ ベータ 15 11 0 26 19
3位 藤波貴久 ホンダ 14 17 0 31 17
4位 ドギー・ランプキン モンテッサ 27 10 0 37 16
5位 グラハム・ジャービス シェルコ 24 13 0 37 15
6位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 11 26 0 37 13
7位 マルク・フレイシャ モンテッサ 26 20 0 46 14
8位 黒山健一 ベータ 24 25 0 49 10
9位 ジェロニ・ファハルド ガスガス 18 36 0 54 16
10位 野崎史高 スコルパ 39 33 0 72 7
11位 ジョルディ・パスケット ガスガス 35 39 0 74 7
12位 ジェームス・ダビル ベータ 37 40 0 77 6
13位 シャウン・モリス ガスガス 39 46 0 85 7
14位 タデウス・ブラズシアク ガスガス 48 41 0 89 2
15位 マルチン・クロウステック ベータ 55 54 0 109 3
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
ランキング
1位 アダム・ラガ 235
2位 藤波 貴久 205
3位 ドギー・ランプキン 201
4位 アルベルト・カベスタニー 199
5位 トニー・ボウ 162
6位 マルク・フレイシャ 157

Pix:Mario Candellone 公式リザルト(土曜日)(PDF)はこちら
公式リザルト(日曜日)(PDF)はこちら
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