2005年 世界選手権第4戦アメリカ

2005年6月5日/Duluth

総合優勝を獲得しでランキングトップに

2日間のパーフェクト勝利こそならなかったが、初勝利を挙げて、ランキングトップにたったカベスタニーを射程距離に置いた藤波貴久は、2週間おいたアメリカ大会で2位と1位の総合優勝。ついに、今シーズンはじめてのランキングトップに躍り出た。試合は、壮絶な戦いとなり、藤波も疲労困ぱいの末に獲得したランキングトップとなった。

アメリカ北部のミネソタ州ダルースは、広大なエリアのリゾート地に会場が設けられている。沢も多く、しかし昨年は悪天候で多量の水に悩まされながらの戦いとなった。そして今年も、状況は変わっておらず、よりコンディションは悪化していた。土曜日は1日中雨、日曜日も晴れてはいたものの、突如大雨に見舞われるなど、アメリカ大会は雨との戦いともなった。そんな中、雨と戦いながら、自らに勝利した藤波が、アメリカでの真の勝者となったわけだ。

2位となった土曜日も、藤波のフィーリングは悪くなかった。セクションはハードで、難セクションがそろっていた。1ラップ目に調子がよかったのはランプキンで、結果的には藤波はランプキンに9点の差をつけられている。しかしこの差は、藤波にとってはくやしい減点の積み重ねのものだった。あるときは、セクションの最後までクリーンしながら、最後の最後で5点となった。またあるときは、ぎりぎりまで粘った末に、3回の足つきで3点をとってしまった。3回以上は何回足をついても3点だから、3回ちょうどの足つきで3点というのは、ライダーにはとても悔いが残る、もったいない減点なのだ。

今回、ランプキンはすべてのライダーを先行させて、最後にトライする作戦をとった。これでランプキンは、ライバルの失敗をつぶさに観察して、すべての総仕上げをおこなう感覚でトライができていた。ランプキンのスタートは一番最後ではなかったので、最後に持ち時間は厳しくなり、1ラップ目には1分のタイムオーバー減点をとっている。しかし結果論では、それでも最後にトライする作戦は成功だったといえる。

2ラップ目の藤波は、ベストスコアの38点をマークした(この日のベストスコアは1ラップのランプキンで29点だった)。追い上げパターンが、藤波の勝利パターンだから、この日の藤波は、自信の勝利パターンにばっちりのって、ランプキンを追いつめた。

しかし終盤の14セクション、藤波は、藤波にとっては比較的イージーなところで落ちてしまい、5点。1ラップ目の藤波は2点で、クリーンも出ているから、この5点がなければ、あるいは勝利も夢ではなかったのだが、残念ながらこの日の追い上げはここまで、ランプキンと4点差で2位獲得となった。

モンテッサとすれば日本大会に続く今年2度目ワンツーフィニッシュだが、ポイント争いでは、日本で同点に追いついたランプキンに、藤波は再び3点リードを許すことになった。しかし今回の2位で、藤波はアダム・ラガと同点ながらランキング3位、2位のカベスタニーとはわずか1点差と追いつめた。土曜日、ラガは日本以降3戦連続の4位で、開幕戦以来常に表彰台にのっていたカベスタニーがついに表彰台から滑り落ち、6位まで転落。トップの4人は、わずかポイント3点の間でしのぎを削るという、近年まれに見るチャンピオン争いとなっている。

そして日曜日。太陽が顔を出し、いいお天気のもと、試合はスタートする。今度は、藤波は最初から好調をキープした。1ラップ目を終えて、2位カベスタニーに3点差。しかしラガ、ランプキン、ジャービスが藤波から7点の中におさまって熾烈な戦いを続けている。

そして異変は起こった。それは、藤波が第5セクションに到着した頃のことだった。雲行きが怪しくなり、これは雨が降るなと思ったとたんに、まるで滝のような雨が降ってきた。すべてが、濡れネズミだ。

今回のセクションは、第3から11セクションまでが、すべて川の中に設定されていた。川は、もともと水量が多いものだったが、なんと、雨が降った瞬間に、水量が見る見る増えて、たいへんな大河になってしまった。水との戦いに苦戦しながら、なんとか第9セクションにたどりついた藤波だったが、目の前ではボウが川の中を泳ぐようにマシンを運び、5点となっていた。それに続いてセクションインした藤波だったが。

なんと、セクション途中の川渡りポイントに達し、マシンを水の中に入れたとたん、藤波はあまりの激流になすべなく流されてしまった。マシンも、ライダーも、まるごとである。5点になってしまった悔いはさておき、まずはマシンを無事に引き上げなければいけない。いや、それ以前に、激流にのまれて命を落とさないようにしなければいけない。トライアルとは少し次元のちがうところで、藤波は格闘した。

おぼれながら、水にのまれながら、藤波はとにかくエンジンをストップさせた。エンジンを止めたはいいが、あとは流れにまかせて、マシンと離れずに流されるだけだ。ただならぬアクシデントに、藤波のマインダーのみならず、後に控えたランプキンのマインダーなど、近くにいた者総動員で藤波の救助にあたった。全員が川の中にはいり、ずぶぬれだ。

マシンはハンドルまで水に浸かったものの、藤波がとっさにエンジンを止めたので、エンジン内部に致命的に浸水することは避けられた。しかし完全な水没だから、マシンの復旧はただ事ではない。藤波チームのメカニックのアレックス、メインマインダーのジョセップ、サブのサンティ、さらに監督のシレラさん、ジローさん、ジョルディさん、モンテッサチームの中でも、特定のライダーに属さないスタッフが、藤波のところに集結して、事態を見守り、バックアップした。

このチーム総動員体制を見て、藤波は水難から完全にたちおなった。藤波が復帰したとき、第9セクションから第11セクションまでは、キャンセルが決定していた。12セクション以降は水のセクションではないので、そのまま試合が続けられる。

12セクションは、1ラップ目にはランプキンとジャービスしか抜け出たものがいないとてもむずかしいセクションだった。マシンの復旧を終えて藤波がここに到着したときには、すでに先行するライダーは誰もいなかった。残された成績表から、ランプキンやらががクリーンしたという情報があっただけだ。あるいは、大雨で岩の表面の泥が流された結果だったのかもしれないが、しかし超難セクションであることには変わりがなかった。

藤波は、ここを見事にクリーン。続く13、14もクリーンを続けた。最終セクションでこそ1点の減点を献上したが、水没以降、わずか1点。カベスタニーに4点差で、今シーズン2勝目を得た。

試合中は、トップとの点数差などは把握できていなかった藤波だが、結果表を見れば、後半の12セクションからの快進撃がなければ、勝利はカベスタニーにわたっていたはずだった。水没にめげず、果敢に勝負にまい進した結果が、この勝利につながった。

これでランキングははじめて藤波がトップに立った。ランプキンとカベスタニーにはたったの2点差、ラガにも7点差という非常に僅差ではあるが、世界チャンピオン藤波貴久は、いまようやくチャンピオンとしてあるべきポジションに復帰したことになる。今後、さらに過酷なヨーロッパ戦線が、藤波以下、チャンピオンを争う面々を待ち受けている。

○藤波貴久のコメント

「たいへんな戦いでした。本当に疲れました。けれど結果は、ようやく去年のペースに戻せたという感じです。でも、まったく安心できる状況ではないので、これで落ちつくことなく、がんばります。アメリカ大会には、歴代勝利者の名を刻んだ、主催者が保管しているトロフィーがあるのですが、総合成績(1日目と2日目の成績をトータルした成績。藤波が優勝、2位ランプキン、3位カベスタニー)の表彰台でそのトロフィーに刻まれた名前を見たら、3年連続でぼくなんです。やはりアメリカは、ぼくと相性のいい大会なのだなぁと、あらためて思いました。これで、ようやくイーブンです。今考えてみると、シーズン当初のぼくは、去年のような自信を感じることができなかった。今思えば、それはマシンとライダーのマッチングの問題なのですね。マシンの性能は当初からある程度のものはあったし、どんどんポテンシャルも上がっているけど、ライダーとのマッチングを煮詰める時間はありませんでした。日本でその時間をつくってもらって、今回は去年のような自信を取りもどせた気がします。これから先、ランプキンはもちろん強敵ですし、カベスタ
ニーもラガも今年はあなどれない。おそらく、この4人は最終戦までタイトル争いを続けていくことになると思います。その差はまったく僅差なので、ほんの少しのことで、土曜日のカベスタニーのように6位に転落することも起こってしまう。油断なく、今後の戦いに挑んでいきたいと思います」

World Championship 2005
Duluth
土曜日/Saturday
順位 ライダー   L1 L2 TO Pts CL
1位 ドギー・ランプキン モンテッサ 29 42 1 72 8
2位 藤波貴久 ホンダ 38 38 0 76 5
3位 トニー・ボウ ベータ 41 47 0 88 6
4位 アダム・ラガ ガスガス 43 45 0 88 3
5位 グラハム・ジャービス シェルコ 41 52 0 93 1
6位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 41 53 3 97 4
7位 マルク・フレイシャ モンテッサ 47 53 3 103 1
8位 黒山健一 ベータ 52 60 0 112 1
9位 タデウス・ブラズシアク ガスガス 60 57 0 117 2
10位 ジョルディ・パスケット ガスガス 57 65 0 122 0
11位 サム・コナー シェルコ 61 64 0 125 1
12位 野崎史高 スコルパ 63 69 0 132 0
13位 ジョセ・マリア・ジュアン モンテッサ 75 69 0 144 0
14位 クリス・フローリン モンテッサ 73 73 0 146 0
15位 ブルース・レリチェ シェルコ 75 73 1 149 0
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
日曜日/Sunday
順位 ライダー   L1 L2 TO Pts CL
1位 藤波貴久 ホンダ 26 18 0 44 11
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 29 20 0 49 8
3位 ドギー・ランプキン モンテッサ 33 15 5 53 11
4位 アダム・ラガ ガスガス 32 21 0 53 6
5位 グラハム・ジャービス シェルコ 33 27 0 60 3
6位 マルク・フレイシャ モンテッサ 41 30 3 74 5
7位 黒山健一 ベータ 39 32 3 74 5
8位 トニー・ボウ ベータ 48 27 0 75 4
9位 タデウス・ブラズシアク ガスガス 61 34 0 95 1
10位 ジョルディ・パスケット ガスガス 54 43 1 98 1
11位 サム・コナー シェルコ 54 49 0 103 2
12位 野崎史高 スコルパ 60 49 0 109 0
13位 ジョセ・マリア・ジュアン モンテッサ 63 48 0 111 0
14位 ブルース・レリチェ シェルコ 71 54 0 125 0
15位 クリス・フローリン モンテッサ 73 58 0 131 0
L1=1ラップ、 L2=2ラップ、 TO=タイムオーバー、Pts=減点、CL=クリーン
ランキング
1位 藤波 貴久 96
2位 ドギー・ランプキン 94
3位 アルベルト・カベスタニー 94
4位 アダム・ラガ 89
5位 マルク・フレイシャ 70
6位 トニー・ボウ 66
7位 グラハム・ジャービス 54

Pix:Mario Candellone 公式リザルト(土曜日)(PDF)はこちら
公式リザルト(日曜日)(PDF)はこちら
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